車輪を削ってみよう
コンクリートの床面にレールが敷かれ、そこに自動制御の小型ロボットがいそいそと輪軸を運んでくる。
青い塗装の重厚なドアに強化ガラスの覗き窓が嵌め込まれた研削機が2台横並びで設置。隣の台ではドッスン体型の強面で陰の者に絡む森本力也がパソコンに数値を入力している。
一見何の変哲もない普通のデスクトップPCを研削機と接続させ、その指示により稼働する。研削機自体にもコントロールパネルが付属していて、どちらでも同様の指示を出せる項目がいくつかある。
わたしが担当する研削機の前に待機しているのは、非常ブレーキをかけて滑走し、長さ75ミリメートル(以下『ミリ』)の疵が発生した車輪。
現在の直径は850ミリ。制輪子の摩擦熱により溶解して再凝固し、通常の車輪よりも組織が高密度なうえに形状が湾曲して歪。これを正常な円弧状の踏面に戻さなければならない。
この車輪の新品時の寸法は約860ミリ。既に10ミリ削られている。削って良い下限値(許容下限値)は774ミリなのでまだまだ使える。なお、当車両所出場時の下限値は、車庫での車輪削正を考慮して800ミリとしている。一部の車庫にも車輪を削る設備があるのだ。
在来線旅客車の多くの車輪直径はこれと同様である。例外として、ホームの嵩が低い路線を走り、尚且つドアの前に段差が設けられていない低床タイプの車両等はそれより小径になっている。
はて、どうしましょうか。
まずは車輪を削るカッターの選定。小さい小判型、丸っこい中くらいの、長方形に近い大判型が搭載されている。まずは研削機の扉を開いてその状態を確認する。
新品だと設定した寸法より100分の1ミリから100分の2ミリ程度余計に削れ、使い込むも反対に、そのくらい少なく削れてしまう。仕上げに使う小判は艷やかで交換したてのようなので、840ミリまで削る想定で、削正値を840.2ミリに設定する。
加えてこの車輪は状態が悪いので、最初から最後まで小判ではなく、序盤は強度の高い大判を使い、車輪をゆっくり回転させ凝固した部分を慎重に削り落としてゆく。速く回転させるとカッターや機械そのものが破損するので要注意。速度調整は操作盤のレバーで行う。
算段がついたので、実際に削ってみよう。




