同伴出勤
「ふわ〜あ……」
睡眠の質が悪い。
新年度を迎え数日経った森崎夢叶。日常にこれといった変化はなし。
日付が変わるころまで原稿を書き進め、毎日の睡眠は5時間弱。正直、ものすご〜く疲れている。
乗務に従事しながらイラストレーターを営む舞ちゃんや、水抜きや食事を殆ど摂らずライブに挑むアイドルもいる中で、わたしはこうである。
春になり、明るくなった5時半の部屋。目覚めると目の前にポチの寝顔。ぶふっ、ふふ、ふっふふふーと不規則ないびきをかいて眠っている。
ふわふわなポチの頭を、わたしはそっと撫でた。
身支度を整えねむねむ出勤。満員のバスに中ドアから乗り込むと、目の前に骸骨柄のシャツを着た若い男がいた。相変わらず名を知らない。満員で前にも後ろにも行けない。こんなところで「出たなもりさきゆめか!」なんて大声を出されたら迷惑極まりない。
「うっす……」
さすがに空気を読んだか。控えめに会釈してくるだけだった。
「どうも」
無視するのは道義に反するので会釈はしておいた。
「こっ、これから出勤すか……」
おや? あれほど傲岸不遜な態度を取っていたこの男が、なぜかキョドっているぞ?
「うん」
そうか、鉄道職員であるわたしに鉄道の知識をひけらかしたのが恥ずかしくて萎縮してるんだ。
そういう失敗はあるあるだから気にしなくていいと思うけど、面白いからフォローしないでおこう。
次のバス停でも人が乗ってきて、旅客一同のからだが密着。バスは低速ではあるもののほぼ直角に曲がるから遠心力が凄まじい。
密着に伴う骸骨男(仮)の生理反応には気付かなかったことにしておこう。
男子って、わかりやすい。
押しくら饅頭されること7分、後払いのバスなので前ドアしか開かず降車に時間を要している。せめて立っている人が先に降りて早く解放されれば良いけれど、座っていた者がそこに割り込んで当然の如く我先にと行く。すると余計に流れが悪化する。程度の低い者どもめ。しかもバスが停車する前に席を立つ者もいるから更に質が悪い。
電車と違って、バスは停車してから席を立つ乗り物である。
自然な流れで骸骨男を同伴しながらエスカレーターに乗り、コンコースから改札口へ。
カードをタッチして入場。ちょうど下りの沼津行きが到着した直後で、対向の人がぞろぞろと続いている。
その中にわたしは、猫島くんを姿を見た。
瞳孔が開く。
彼はわたしに気付いているだろうか。気付いていたとしたらこの場面はあらぬ誤解を生むのではなかろうか。




