自分を信じて
「なれる、涼子ちゃんならなれるよ!」
とはいえわたし自身、涼子ちゃんの音楽を聴いたことがないから確信を持った激励ではない。けれど、現実を見ろとか、音楽で食べてゆけるなんて一握り以下だよと言って足を引っ張るよりは余程良いと、兼業作家のわたしは思う。
「頑張ります! 頑張ってます!」
「いいね、その意気だよ! 涼子ちゃんは作曲できるの?」
「ギターで弾いたり、ソフト使ったりしてどうにかこうにかって感じです! メロディーは浮かぶんですけど」
「しゅ、しゅごい、わたしなんか小説で新曲回になると筆が止まるというのに」
「いやいや、それはそうですよ! 私だって1曲つくるのに何日もかかるんですから。それを1日数千字書き進める小説の中に入れ込むのは大変ですって」
「そう言われてみると確かに。うん、これはわたし、劣等じゃないかも」
野球場沿いの白砂色の歩道を進み、白い歩道橋を上がると、後ろにグラウンド、前に松の砂防林と、ゆらゆらきらめく相模湾が広がっている。
「夢叶さん全然劣等じゃないですよ! もっと自身持って!」
「ううう、ありがとう、ありがとう……!」
JKの励ましに感涙する三十路、森崎夢叶。
「ふふふ、夢叶さん可愛い」
歩道橋を下り、砂防林の間を抜けて、一面に広がる海原。江ノ島へ続くサイクリングロードを東へ、ゆっくりと。
潮風を浴びながら並んで歩く、よもやどちらが年長者か判然としないふたり。
涼子ちゃんに食物アレルギーの有無を確認して、飲食店へ向かった。




