夢叶オリジナル牛丼セット
進んでは行き詰まり、それを何度も繰り返しながら、1つの物語を紡いでゆく。
『Five Lives!』の執筆が峠を越えた。1日5千字とまでは行かずとも、着実に完成へ近付いている。
そんな3月下旬のある日の出来事。
『ただいま東海道線は、〇〇〜△△間での人身事故の影響で運転を見合わせております』
大船駅の改札口前で飛び込んできたアナウンス。近場で人身事故だ。
台車、つまるところ電車の足回りを組み立てる作業の手伝いをして3時間残業。退勤が20時近くなった。それだけでも執筆に2千字くらいは影響するのに加えて人身事故である。
明日の仕事はそれの処理からだろうかと内心そわそわしている。
フラッシュバックする、女子学生の姿。誰が轢かれるのも悲劇だけど、あの子であって欲しくない。
通常、人身事故が発生した場合、運転再開まで1時間前後かかる。舞ちゃんと美奈ちゃん、出勤だったら大変だろうなぁ。
いつしか夕方のニュース番組で紹介していたおろしポン酢と納豆を混ぜてトッピングした並サイズの牛丼に加え、しじみ汁とグラスビールをプラス。夢叶オリジナル牛丼セットである。
「ふは〜」
暖色照明が照らすお洒落志向な牛丼店でビールを流し込む三十路女、森崎夢叶。これが大人の嗜みよ。周りはオヤジだらけ。席はほとんど埋まっている。
おろしポン酢と納豆でさっぱりしつつ、サラッ、ふわっとした牛丼と、肝に染み入るしじみ汁……。これぞ小さな幸せである……。
牛丼店まで歩き、タブレットで注文して飲食、会計までして40分経過。牛丼店を出た。
隣は大衆酒場で、ワイワイガヤガヤしている。鎌倉市と横浜市の境にあるディープタウン、大船。横浜市境にある横断歩道を渡り、先ほどとは別の改札口へ。電車は間もなく運転再開のようだ。
改札内に入り、コンビニでマシン抽出のホットカフェラテを購入。通路の真ん中に設置されたエレベーターのガラス窓に身を寄せ、それをちびちび啜る。ホーム上は人がいっぱいで、入場規制がかかっている。
平常運転している横須賀線の下りホームから、人がぞろぞろ上がってきた。左のトイレ横にエスカレーター、右の駅そば店の横は階段で、その両方から推定2千人が湧き出て来るのだ。普段は比較的空いている横須賀線だが、東海道線の人身事故で倍以上混雑している。
「あ! 出たなもりさきゆめか!」
人の流れが切れそうになったとき、左のエスカレーターから上がってきた若い男に指を差された。失礼なヤツだ。
覚えはあるが、しかし名前が思い出せない。書籍化作家の、えーと、誰だっけ?




