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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
3月、江ノ島お出かけ

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もうちょっと、呑んでかない?

 21時前、横浜寄りに垂れ幕の架かったフジサワ名店ビルが聳える藤沢駅東海道線ホームの13号車停止位置付近。また遊びましょうと互いに言葉を交わし、青山さんと御城さんを見送った。


 夢叶と猫島くんは付き合ってるの? という問いはなかった。


「猫島くん、きょうはおつかれさまでした。ほんとうならいまごろ帰ってお絵描きできてたのにね」


 笑んで労う森崎さんの頬が、ほんのり紅い。酔っている折、誤って線路に転落しないよう僕らはホーム中央部の柱に寄って電車を待っている。ベンチに座りたいが空いていない。


 人口44万人超、神奈川県では横浜市、川崎市、相模原市に続いて4番目の数だが、多くの県ではトップレベルに匹敵する情勢の街。故に駅は常に混雑している。なお僕らが住む茅ヶ崎市の人口は24万人超で、県内7番目である。


「どうかな。あのまま一人で散歩してても疲れて寝てたかも」


「歩くと寝たくなっちゃうよね。わたしも体力つけなきゃ」


「電車の整備してて、体力あるんじゃないの?」


「いやいや、仕事とプライベートは別物なのか、なんか違うんだよね。電車を整備してるときもクタクタになるし、体力があるとは言い難い気がする」


 そう言って、彼女は自らを憂う。


 少し待って、電車が到着した。彼女らはこの大きなものに触れているのか。整備したり、運転したり。現代の電車はコンピュータとカラクリ仕掛けのハイブリッドだといつしかテレビで見たが、よく考えてみると面白い代物だ。


 乗って車内をざっと見回すと座席は一人分ずつぽつぽつと空いていたが、開扉しない進行方向左側に寄ってドア横のステンレスの握り棒を後ろ手で掴んで向き合うかたちになった。僕が進行方向反対側。


 普段電車をあまり意識しなかったが、靴が人間の体型に沿って車体が丸みを帯びている。座席が尻にフィットするのは実感していたが、車体までとは。


 車内という閉じられた空間で森崎さんに鉄道、つまり仕事に関する話題を振るべきではないと思い、茅ケ崎駅までの7分間を静かに過ごした。


 茅ケ崎駅のホームに降り立った。『希望の轍』のサビが流れ、降りた男どもの騒音に押し入るようにガチャン、グオオオと大きな音を立てて電車は視界から消えていった。


 楽しかった時間は、刹那に過ぎるもの。森崎さんともう少し過ごしたいが、ネコや原稿が待っているだろう。


「ねえ猫島くん?」


 線路側を歩く森崎さんが伏し目がちに言う。立ち位置を交換すべきかと思案したが、間もなく階段だ。奥には混んでいるエスカレーターもあるが、森崎さんの足は空いている階段へ向かっている。


 僕は「ん?」と続きを促した。


「もうちょっと、呑んでかない?」


 口ごもりながら、彼女は僕を誘った。

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