男の会話と女の会話
刻んだサザエを玉子と玉ねぎでとじた江ノ島丼と、生シラスと釜揚げシラスを半分ずつ盛ったシラス丼を完食し、僕らは店を出た。
石段を下り、広大な海原が広がる磯に出てしゃがみ込み水中の小さなカニを見つけるなど、童心に返って生物観察を楽しんだ。
「やばい、なんかきょう、めっちゃ楽しい!」
少々の波しぶきを浴びつつ、青山さんを中心にはしゃぐ群衆に溶け込む僕ら。
高校時代に体験しなかった青春が、現在になって訪れた感覚だ。
「いいなあ、夢叶と猫島くんはこれが日常なんだよね」
「うーん、身近だとあまり来ないと申しましょうか。猫島くんはいかがでしょう」
人差し指を頬に押し当て、広い空を仰ぐ森崎さん。高所でトンビがピーヒョロロと弧を描いている。
「江ノ島だと、普段はさっき食事したお店の手前にあった甘味処に寄って引き返しちゃうので磯遊びはいつ以来かな……」
「そっかぁ、そう言われてみると私たちも、赤レンガ倉庫とかそんなに頻繁には行かないね」
青山さんが御城さんに話を振った。
「そうだね。私たちの住んでるところは徒歩圏だと観光スポットはあまりないから、比較にはならないかもしれないけど」
御城さんはたおやかに苦笑した。
磯を後にして、僕らは甘味処に入った。木造で、テーブルや椅子も木そのものである。2012年に放送されたアニメのモデルにもなった店で、店内にはそのグッズがいくらか展示されている。
四人揃ってあんみつを注文。観光地の喧騒から壁を隔て、甘美な黒蜜の味を舌で転がしながらゆったりとした時間を満喫している。
まだ三人の輪に交じるのはぎこちないが、少しずつ慣れてきた。モテようと意識しなければ、僕は男よりも女といたほうが気楽な質だ。
男の会話は知識合戦や社会通念をベースにした内容になりがちだが、女の会話は中身のない雑談が多い。女も何気ない会話のなかに探りを入れてきたりするが、大概しなやかに交わせる応酬である。
ただ、気楽だからと安堵しきるわけにもいかない。
何しろ彼女たち、鉄道員なのに僕と出会ってからは自己紹介時を除いて鉄道の話を一切していない。専門用語も多い職種だろうから、僕に配慮して話題に出さないようにしているのかもしれない。気遣ってもらっているとしたら恐縮だ。
もう一説。鉄道は就活中に数ある業種のなかから選んだ職で、イラストレーターのようにほぼ全員が強い志を持って就いたとは限らない。
休日に仕事なんか思い出したくない。
それは人間として普通の心理だ。
好きを仕事にした僕だって、それを忘れたいときもある。いま江ノ島にいるのも運動して血行を良くしアイディアを出しやすくするためなので仕事の一貫ではあるが、行き詰まったり作品を批判されたり、良いことずくめではない。
好きなことをやりがいを感じながら、しかも満足な報酬まで得ながら生きている僕でさえこうなのだから、仮にそのすべてが満たされていない職として、そこに人生の多くの時間を割かなければならないとしたら、それは絶望である。
会社員に仕事の話題を振るときは、度合いを推し測りながらにしよう。
あぁ、あんみつうまい……。




