有料エスカレーター
海風吹き荒ぶ弁天橋を渡り、江ノ島に上陸した。もうじき5月ころになると潮が引き、橋を使わなくても島に上陸できるタイミングが高確率で発生する。これをトンボロ現象と呼ぶ。
江ノ島の玄関口から続く土産物店街。やや傾斜のある上り坂になっていて、観光客が密集している。
「わ〜あ、人がいっぱいだあ」
元気系女子、青山さんがリアクションした。
「これね、平日に来てもこうなんだよ。茅ヶ崎の隣町とは思えない混雑ぶり」
人の渋滞を煩わしそうに見回す森崎さん。
「茅ヶ崎の観光スポットはサザンビーチだよね」
御城さんが言った。
「ここと比べたら人の数は何万分の1くらいかな」
「静かな街もいいよね! 美味しいものが食べられればそれでオーケー!」
「食に生きるオンナ、青山美奈だね」
「こんど茅ヶ崎でも遊ぼうね!」
人混みに紛れ、有料エスカレーター『エスカー』の前に辿り着いた。この先、石段や勾配を上がって行くルートもあるが、エスカレーターに乗れば灯台のあるサムエル・コッキング苑まで楽に行ける。
「エスカー乗る?」
青山さんが三人に問いかけた。
「私は、乗りたいかも」
控えめに手を挙げたのは、意外にも体力おばけであろう御城さんだった。森崎さんにとっても意外なのか、表情こそ変わらなかったが、頭部が若干ピクリとした。
「わたしも」
「僕も」
「よーし、じゃあ乗ろう!」
アクアリウムを模した壁面と屋根に覆われ、雨天時でも安心のエスカレーターは、一般的なそれと同じ速度でカタカタとろとろと上がってゆく。昔はスナック菓子などの広告が占拠する昭和レトロの雰囲気だったが、時代の変遷だろう。湘南は徐々にお洒落化、エモーショナル化している。
エスカーを2回乗り継ぎ、メインスポットといえる神社やサムエル・コッキング苑を後回しにして入ったのは、島の奥にある断崖絶壁の飲食店。どの飲食店も混雑する江ノ島だが、この店は立地と面積の広さもあり、比較的入りやすいし高所から相模湾を見渡せて景色も良い。
「ごめんねー、私、おなか空いちゃって」
えへへーと頭を掻きながら苦笑いしたのは青山さん。地元住民である僕と森崎さんは窓を背にして座布団に腰を下ろした。
「僕もだいぶ空腹で……」
朝食は9時ころ、行きがけに買ったコンビニのおにぎり2個。紀州南高梅とツナマヨ。それを食べて茅ヶ崎からここまで歩いてきた。現在14時。
「そうなんだ、仲間がいて良かった!」
ふふっ、と微笑む青山さんに、女性慣れしていない僕はほんのりときめいた。
心なしか御城さんも、麗しく笑んでいる。
二人とも、ほんとうに綺麗な女性だ。
森崎さんは血眼でメニュー表をめくっては凝視している。最も空腹なのは彼女かもしれない。




