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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
3月、江ノ島お出かけ

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僕は会社員に向いていない

 イルカショーの観覧席を立ち、水族館の薄暗い通路を歩きながら、僕らは自己紹介をした。二人とも森崎さんの同期入社で大卒、4歳上の鉄道職員。電車の運転士だそう。


 電車の運転士ではあるが、車掌として乗務する日もあれば、オフィスワーカーや駅員として働く日もあるという。僕には到底勤まりそうにない。


 まず勤務体系が不規則。昼夜問わず走る列車を居眠りせず運転しなければならない。そのうえオフィスワーカーや駅員もやるマルチタスク。これは厳しい。


 では森崎さんのように電車を整備する人ならどうか。


 作業時間は常時計測されており、制限時間内で正確な整備をしなければならない。1センチに満たない部品もあれば、とても手では持ち上げられない大きな部品もあるという。その双方を正確に分解、検索、組立をしなければならない。芸術家肌の僕には到底不向きだ。物書きである森崎さんがそれをこなしていると思うと幾らかの劣等感を覚える。


 兎にも角にも、僕はことごとく会社員に向いていない。


 僕も自己紹介をしたところ、なんと御城さんもイラストレーターだという。会社員兼イラストレーター。更に過酷だ。組織の駒である会社員と創造性必須のイラストレーターは真逆の性質だ。


 イラストレーター兼会社員となると、僕の完全敗北だ。少なくとも体力勝負では負ける。女優レベルの綺麗なお姉さんが僕よりも屈強だなんて。


 いや、逆か。俳優も体力勝負。綺麗な人は体力もあるということか。


 兼業クリエイターはある程度の資金を稼いで会社を辞める場合もあるそうだが、御城さんと森崎さんもそのつもりだろうか。


 順路通りコツメカワウソを観察し、館内の土産物店を見て回った。四人揃ってチェーンがついたイルカの小さなぬいぐるみを購入。


 水族館を出て、国道134号線の歩道を江ノ島方面へ2列ずつになって進む。僕と森崎さんが前方という、人生上大変珍しい陣形。僕らは集団行動の際、会話に交ざらず独りで後ろを歩くタイプだ。


 歩行者が多い江ノ島から鵠沼海岸くげぬまかいがんまでの歩道はやや広く取られていて、軽自動車なら擦れ違えそう。


 静かな茅ヶ崎と相反してガヤガヤと無数の人が行き交う江ノ島周辺。関西弁や外国語も聴こえる。


「わたしたちが前を歩くって、不思議だね」


「僕も同じこと思ってた」


「私たちは二人の保護者だからねー。パパ役どっちがやる?」


「美奈ちゃんがいいんじゃない?」


「でも同性婚もできる時代だし、二人ともママで良くない?」


「それもいいね、じゃあ二人でママね」


 後ろの二人が勝手に話を進めている。


 僕と森崎さんは、いつの間に彼女らの子どもになっていたようだ。

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