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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
3月、江ノ島お出かけ

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癒しと毒は紙一重

「いやーあ、久しぶりだなあ、江ノ島!」


 ホームの屋根がないゾーン。美奈ちゃんが空を見上げ、左手で二の腕を掴みながら右手を掲げる。


 ガヤガヤとミーハーオーラ漂う遊び気分の群衆に紛れて改札口へ向かう。終端駅なのでこの先に線路は続いていない。


「私も。みんなと会うときは大体横浜だもんね」


 舞ちゃんは手を後ろに組んで下へ伸ばす。美人は一挙手一投足がセクシーである。


「近場でありがたい」


 その様子を後ろから見守るわたし。三人並んで歩いたら邪魔だもの。


「夢叶は地元だもんね」


「さようでございます」


 江ノ島へ渡る前に、わたしたちは国道沿いの水族館へ向かった。青を基調とした薄暗い空間は、まるで夢幻。


 大きなサメやエイ、群れるイワシなど、多種多様な生物が織り成す巨大水槽は特に人気。


 相模湾の生態調査も精力的に行なっているこの水族館では、湘南名物シラスを小さな水槽で展示している。ところ狭しと泳ぎ回る無数のシラスも、これはこれで見応えがある。塩茹でしたら美味しそうなどとは決して思っていない。生で生姜醤油に付けたら美味しそうだとも思っていない。


 思い出したのは5歳のころ、ろくに監視もしていない母親と離れ一人、茅ヶ崎海岸ヘッドランドの西側で水深70センチほどの瀬で海水浴をしていたら、眼下に泳いでいる一匹のシラスを見つけた。直後、百メートルほど沖合でイルカが跳ねた真夏の午後。


 クラゲ専門のコーナーも広々と取られていて、ほわんほわんと傘や毒を孕んだ触手が浮遊している。どこのコーナーにもスマホで撮影する人々が集っている。


「癒しと毒って、紙一重だね」


 クラゲの群れを眺めながら、わたしはそう思った。


「綺麗な薔薇には棘がある、みたいな?」


 美奈ちゃんが何体ものクラゲを目で追いながら言った。


「富士山は綺麗だけど噴火する、広大な海はときに荒れる」


「夢叶は詩人だねぇ」


「えっへん」


 胸を張りつつ、特に叙情的なことは言っていない自分に気付く。


 屋外に出て、イルカショーが披露されるステージの前に来た。客席後ろの通路から空席を探す。海岸と江ノ島を背景にしたプールと、それに沿い曲線形に配置された客席。前方の席は混雑するうえイルカがざぶーんしたら水がかかりそうなので、わたしたちは後方の席を探す。


「さすがえのすい、後ろのほうまで混んでるね」


「いいなぁ夢叶ちゃん、こんないいところが近所にあって」


「土地だけは、恵まれたと思っております」


 ペコリ。


 空席が少ない。一人か二人分ならちらほら、しかし三人並んではなかなかない。


「あっ、あそこならどう?」


 見切れはしないものの右端に近い最後部の席は、通路側の端に男性が一人で座っていて、その左側は五人分ほどのスペースがある。あそこなら一人分空けて座れば良いかな。


 二人の同意を得て端に座る男性の横へ。


「あ、猫島くん」


 こんなところで会おうとは。でも、一人で水族館とは猫島くんらしい。


 心なしか表情筋がゆるんで、胸がほんのり、温かくなる。


「森崎さん」


 猫島くんは「二人は誰だろう?」とこちらを見上げた。

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