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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
30歳の春

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ガタンゴトンいわない電車

 東海岸ひがしかいがん循環のバスを降り、茅ケ崎駅から電車で藤沢駅へ移動する。15両編成の中で比較的空いている13号車に乗って、途中駅で開扉しない山側のドア脇に立った。着席している人を圧迫しないよう袖仕切りに背を接触させないようにする。


 朝11時台の運転間隔は約10分、比較的空いているこの車両でも満席なので、階段やエスカレーターに近い6号車から11号車は身体が触れ合うくらい混雑しているだろう。


 世に言う田舎町湘南というのは、あくまでも東京都心と比較してである。東京駅から約60キロ離れ、且つこの運行本数でありながら恒常的に混雑している路線はほかにない。


『希望の轍』のイントロバージョンが流れてドアが閉まり、電車は走り出した。昔の電車みたいに「プシュー」という空気音は当然なく、リニアエンジンでガラガラと動く扉に連動してドアチャイムが鳴り、ガチャンと閉まる。


 レールの状態が良く、電車自体の制震性能も高いためあまり揺れない。故に「電車に揺られる」という表現は使いにくい。レールの継ぎ目の間隔が昔より長く、電車は従来車の6割ほどまで軽量化され、ポイント上などレールの継ぎ目が大きな地点以外ではガタンゴトンとも言わない。とりあえず電車は走っているという事実だけを述べておこう。


 昔から使われていた鉄道まわりの表現は、いまや現実とは大きく乖離するものとなった。30歳であるわたしの幼少期でさえ、京浜東北けいひんとうほく線や横須賀線、総武線(とう)には現在の電車とあまり変わらない仕様の車両(新系列電車という)が既に存在していた。


 貨物線が2本並ぶ車窓をぼんやり眺め、ときにスマホを見て文字を打ち込む。いま紡いでいるのは『Five Lives!』の劇中歌。歌って踊るアイドルなので、小説とはいえ音楽が必要になる。楽譜を用意していない段階ではメロディーを読者に委ねることとなるが、わたしが浮かべたものと近いものを想像しやすいように文字の置き方や呼吸の取り方に配慮して言葉を並べる。


 リズムを意識しつつもメッセージは込めておきたい。これは作者のメッセージよりはキャラクターのメッセージとなる。5人いればそれぞれ違うことを考えていたり、同じようなことを考えていたりもする。


 湘南の街を颯爽と駆け抜ける電車に運ばれ6分、文字を打ち込んでいたらあっという間、藤沢駅に到着。発車メロディーはいつしか『藤沢市歌』に変わった。


 人混みに混じって階段を上がり、改札口から出る。舞ちゃんと美奈ちゃんは通行の妨げにならないよう北口のペデストリアンデッキにいるらしいので、そちらへ向かう。


 家電量販店の前、大きなクスノキがデッキを貫き、その外周に設置されたベンチに二人が座って談笑していた。ここまで30分以上かかる二人より後に着いた近所に住むわたし。


「お待たせして申し訳ない」


「やっほー夢叶!」


「おはよう夢叶ちゃん」


「本日はわたしのためにありがとうございます」


「そんなことないって! 遊びたいだけ」


「きょうは思いっきり遊ぼうね」


 けたけたと笑う美奈ちゃんと、聖母のように微笑む舞ちゃん。


 現在、藤沢駅は改良工事中。小田急おだきゅうの新しい改札口を通り、わたしたちは6両編成の電車に乗って片瀬江ノ島(かたせえのしま)駅のホームに降り立った。

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