朝5時台でも混む東海道線
女性陣がひとしきりじゃれ合った後、歌唱を再開した。カラオケ店にいる以上、歌うか飲食物を頼むかして著作者や店舗の成績に貢献すべきという社会人としての考えに基づくものである。駄弁るだけなら防音性の高いホテルにでも行ったほうが倫理的に正しい。
Kalafina の後もアニソンを中心に3人ユニットで何曲か歌っていたが、印象的だったのはとびきり元気でポップな曲調の『adrenaline!!』(原曲∶TrySail)だった。
一方僕は『千の風になって』(原曲∶秋川雅史)、『藤沢ルーザー』(原曲∶ASIAN KUNG-FU GENERATION)、『READY STEADY GO』(原曲∶L'Arc~en~Ciel)などを歌った。
カラオケ店を出たのは翌朝5時半。VTuber という特殊性に興味津々の僕ら3人は美奈さんの自宅へお邪魔するため宇都宮行きの快速ラビットに乗車。早朝とはいえ混雑する東海道線。普通車に乗って着席や立ちスペースを取るのは通勤客のために遠慮。鉄道員3人衆曰くグリーン車ならまだ満席にならない時間帯だそうなのでそちらに乗った。遠慮したが、僕のグリーン券は美奈さんが買ってくれた。
記憶に新しい赤いリクライニングシートが配置された階下席。視界は線路スレスレ。海側最前列とその後ろの席を確保。ここなら座席を回転させてもほかの乗客のリクライニングを妨げない。彼女らは当然だが、鉄道ファンではない僕でもそれくらいは思い至る。
座席は回転したが、会話はしない。さすがに疲れ切って眠る。ましてや通勤時間帯、車内での会話は望ましくない。
『まもなく、横浜、よこはま、お出口は、左側です。The next station is Yokohama JT05 The doors on the left side will open』
麻酔が切れたときのように、気が付けばまもなく横浜駅に到着するところだった。ポイントがあるのか、電車がガタガタ音を立てている。
電車を降りると、茅ヶ崎より淀んだ空気が身を包んだ。陽射しが眩しい。各ドアから何人もが降り、何人もが乗り込んでゆく。まだ6時台前半なのに、街はもう活発に動いている。
朝の街に馴染む軽やかな発車メロディーが流れ、15両編成の電車は全てのドアを同時に閉じた。上部側面の赤いランプも同時に消えた。
「そういえば、発車メロディーって曲名はあるんですか」
「あるよ。このホームは『2ー1』」
誰か答えてくれればと思い投げた僕の問いに、美奈さんが答えてくれた。
「番号なんだ」
「このホームはね。『Cielo Estllado』とか、番号じゃない曲もあるよ」
スペイン語で星空か。お洒落なタイトルだ。
雑踏に交じり、コンコースを歩いて京浜東北線ホームへ向かう。
電車を乗り継ぎ降り立ったのは、横浜線の小机駅。新幹線が停まる新横浜駅の隣、閑静な住宅地に構える小さな駅だ。横浜スタジアムでのライブを観るときに何度か利用した。
駅前のコンビニに寄っておにぎりやサンドイッチを買い込み、駅へ向かう無数の人々と擦れ違いながら辿り着いたのは、小さな平屋の住宅だった。




