■ 病院にヨーコ
病院にいる部下に電話をかけたが、誰一人出る者はいなかった。
警鐘が鳴る田ノ木の頭には最悪の事態が浮かんだ。
『田ノ木さん?』
何回もかけ直し、ようやく繋がった電話に出たのは女だ。
「誰だ」
田ノ木の声のトーンが変わり、全員が田ノ木の会話に耳を澄ますことになった。
「ヨーコ」
「ヨーコ?」
気付かれないように呼吸を止めた野本は、下に落としていた目線をゆっくりと上に上げた時、ミラー越しに運転手と視線がぶつかった。
「安西さんと今一緒なの」
「安西と一緒とはどういうことだ」
ぶつかっていた目線を外すように瞼をぎゅっと閉じ、鼻から深く深呼吸した。
「返してほしいでしょ。だったら野本さんをこっちに寄越して」
「なんだと」
「ヘリで貨物船に向かってるわよね?今こっちのレーダーに映ってる。そのまま船の上まで来てちょうだい。あ、その操縦士に言っといて。『撃つな』ってね」
電話はそこで切れた。
田ノ木はしばらく正面を向いて黙りこみ、光速で思考を巡らせた。
「・・・あたしを引き渡せってことでしょどうせ。で、トキは捕まったと」
野本は田ノ木の横顔をまっすぐに見ていた。
小さく頷き、そうだと小さく言った田ノ木はまだ正面を凝視し、何かを考えている。
「トキ?ヨーコ?何?誰?何の話?」
幸元は何がどうなっているのか分からない。二人を交互に見て答えを求めているが、二人とも口を開く気はなさそうだ。
「貨物船の上まで行ってくれ」
操縦士は無言で頷いた。
「お前は引き渡さないから安心しろ」
「何言ってんのよ。あたしが行かなきゃトキは殺される」
「お前が行っても、二人とも殺されるんだよ」
「・・・行ってみなきゃ分からないじゃない」
「確実だろうな」
野本は目を合わせない田ノ木に、これはもしかしたら本気で言ってるのかもしれないと感じた。
そして今ではもう、自分よりも田ノ木の方が必要な情報を多く持っているということも確信した。
バカにしていたけど、やはり警察はその道のプロ集団だ。
素人が何をしようと何を考えようと、結局は警察自体が一番的確だ。




