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アストレア戦記 ~貞操逆転世界の弱小辺境貴族に転生した俺は美少女たちに迫られながら帝国で成り上がる~  作者: 白澤光政


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美女密偵ノーラと貞操逆転世界

 それから俺は朝食兼昼食を悠々と食べて自室に戻る。

 伯爵貴族の食事と聞いて期待していたが、微妙に硬くなったパンやら少し古い肉や野菜ばかりで、完全に財政難の煽りを受けていた。まあカミルがこういう時に自分だけ美食を嗜むタイプでなかったのはいいことなのかもしれないが……。


 自室に戻った俺はとりあえず本棚を見る。本に使われている言語は全く俺の知らない言語だったが、俺は日本語のようにすらすらと読むことが出来た。

 本の内容としては史書や軍記物などが多く、カミルの好みを感じさせる。また、中には数こそ少ないが魔法に関する物もあった。

 次に机を見てみると、そこには留学時代の教科書やノートがあった。この世界の知識を思い出すなら本、カミル個人について思い出すならノートだろうが、どちらを先にするか。悩んだ末にノートをパラパラとめくっていると、コンコンとドアがノックされる。


「誰だ?」

「私、ノーラよ」


 今朝のアンナと違って、吐息多めのいかにも妖艶な美女といった感じの声。

 その声とノーラという名前を聞いて、俺は彼女のことを思い出す。

 ノーラはいわゆる密偵で、そして数少ない俺の直属の家臣らしい。伯爵家の次男と言えばそれくらいたくさんいそうなものだが、家が貧しい上に、ライナーを始めとする屋敷の者たちは大体は当主である父ハーゲンに仕えているためだ。そのため、俺個人に仕えている者はアンナの他数名しかいないらしい。


「入ってくれ」


 ガチャリとドアが開いて入ってきたノーラを見て俺は息を飲む。

 藍色の長い髪はストレートに伸ばされており、その顔立ちは俺の一つしか上でないにも関わらず、妖艶な大人の美女といった感じで色気がすごい。アンナとは対照的に背が高く、何より服の上からでも分かるほど胸が大きい。ブラウスにハイウェストのロングスカートという一見すると清楚な装いも、ブラウスを内側から持ち上げてこれでもかと自己主張する胸のせいで台無しだった。

 そんな彼女だが、部屋に入ると俺のすぐ隣に椅子を置き、腰を下ろす。いや、そんな近くに座られるとその大きな胸に触れそうなんだが……。


「数日振りね、カミル」

「あ、ああ」


 そんな耳元で囁くように話しかけるのはやめて欲しいんだが……。

 どうやら彼女は密偵として、ここ数日は付近の情勢を探りに出かけていたらしい。

 そして先ほどノイマンを追い返す時に役立った、帝都の流行を教えてくれたのも彼女だった。


「それよりもこの間はありがとうな。ノーラのおかげでうちは破産を免れた」

「え? 何かしたかしら?」

「ノーラが教えてくれた銀細工の流行のおかげで、どうにか徴税吏に帰ってもらえたんだ」


 そう言って俺は先ほどあったことをかいつまんで話す。


「あら、そんなことがあったの。ふふっ、カミルの役に立てて良かったわ。にしてもあなた、数日会わないうちに何だか少し変わったみたい」

「そ、そうか?」


 まずい、お礼を言うためとはいえさっきの件はカミルにとって出来過ぎなのを忘れていた。家が危機に陥っているのに真面目にやると怪しまれるの、難しすぎる。

 しかも喜んでくれるのは嬉しいんだが、さらに距離を詰めてこられると目のやり場とか諸々に困るんだが。


「そ、それより今日は偵察の報告のために来てくれたんだよな?」


 困った俺は話題を逸らす。

 するとノーラは少しだけ真面目な表情になり、距離が離れる。離れると言っても接触しそうになっていた身体が、ぎりぎり接触しないぐらいになっただけだが。


「そう、あなたが前から気になっていた私の胸の大きさ、調べてきたわ」

「ああ、確かにずっと気になってた……って違うだろ!」


 何だこの人、妖艶な美女かと思ったらとんでもないボケを挟んできたんだが!?

 俺の渾身の突っ込みに彼女はふふっと笑う。


「あら、残念。気になっていると思っていたのに」

「い、いいから偵察の報告をしてくれ」


 そう言いつつも俺はつい彼女の膨らんだブラウスの胸元を見てしまう。

 サイズぐらい聞いてから突っ込めば良かったか? いや、もうそのことは忘れよう。


「こほん、そうだったわね。相変わらずこの辺りの領主は皆遠征で疲弊しているけど、一つ気になることがあったわ。ドムラー公のデイビスが周辺諸侯を招いてパーティーを開こうとしているらしいの」

「パーティー?」


 ドムラー公というのは王国南部、つまりこの辺りの有力貴族で、エクハルト領とも領地を接している。とはいえ彼は遠征に無理矢理動員されたり、戦費を徴発されたりして苦しむだけの俺たち貧乏貴族とは(悪い意味で)一味違った。

 彼は逆に皇帝の遠征のたびにせっせと領地から兵士や税金を集めては惜しみなく献上し、皇帝の寵愛を受けているようだった。その証拠に、諸侯は基本的に当主が兵を率いて従軍しているが、彼はそのまま領地にいて、しかもパーティーまで開こうとしているらしい。


「そう、何でも陛下の戦勝を祈願するパーティーらしいわ」


 正直、戦勝どころかさっさと負けて遠征を諦めて欲しいんだが。恐らくカミルもそう思っていたことだろう。


「あれだけ陛下に戦費を献上して今度はパーティーか。一体そのお金はどこから出ているんだ?」

「そんなの重税に決まってるじゃない」


 ノーラが顔をしかめる。

 それを聞いて俺も暗澹たる気持ちになった。うちのように最低限で済ませているところでもこんなに苦しいのに、余分な戦費を献上してパーティーまで開くとなれば一体どれだけ領民から搾り取っているのだろうか。


「はぁ、行きたくないな」

「悪いけど、そういう訳にはいかないわ。これはただのパーティーじゃないの」

「え?」

「さすがの彼も従軍せずにこれ以上陛下の点数を稼ぐのは難しくなってきたわ。お金だって無限に出てくる訳でもない」

「だからって遠征中の陛下はパーティーで戦勝を祈願されても嬉しくないだろう」


 戦争好きで逆らう者に容赦のない皇帝ディートハルトだが、戦争以外では特に贅沢を好む訳ではないらしい。


「戦勝祈願はただの建前よ。真の目的は“遠征に不満を抱き、陛下の留守中に不穏なことを企てる輩“を発見して報告することよ」

「まじかよ」


 それを聞いて俺はさらにげんなりした。

 皇帝ディートハルトの東異遠征には、正確にはその軍役と重税には恐らく全ての貴族が不満を抱いているようだ。その中でも特に不満がありそうな者を見繕って「謀反の意志」ありと讒言すれば、今の帝国の現状ではそれが通ってしまいそうであった。

 度重なる遠征により国力は疲弊していたが、より深刻なのは遠征の留守にドムラー公やノイマンのようなろくでもない輩が次々生み出され、力を持ってしまったことだろう。


「ええ、大まじよ」

「それは行かなきゃいけないか……」


 もしパーティーに出席しなければそれだけで彼の矛先がこちらに向く確率が上がってしまう。


「せいぜい彼に気に入られるか、目立たないように過ごすことね」

「はぁ……」


 そう言って俺はため息をつく。貪欲徴税吏の機嫌をとったと思ったら、今度は重税貴族の機嫌をとらなければならないのか。

 現代にいたころはサラリーマンなんて上司やら取引先やらの機嫌を取るばかりだと思っていたが、まさか貴族に転生したらもっと酷くなるとは思わなかった。

 が、そんな陰鬱な空気を変えるようにノーラが口を開く。


「あ、そうそう、ブリュメール伯爵家からはミレイユさんが来るそうよ」

「ミレイユが?」


 それを聞いた瞬間、カミルの中にあった留学時代の記憶が蘇る。

 ミレイユというのは俺がアストレア帝国学園に留学していた時の学友であり、同じく帝国南部にあるブリュメール侯爵家の長女であった。学園時代はそれなりに仲が良かったが、卒業後は互いに(主に向こうが)家のことで忙しく、一度も会えていなかった。

 それはさておき、記憶の中のミレイユは清楚でおしとやかな銀髪美少女だ。それでテンションが上がってしまったのが表情に出たのか、ノーラは呆れたようにため息をつく。


「はぁ、変わったかと思ったけどそういうところは本当に変わらないわね」


 そう言えばノーラやアンナもかなり見た目がいいし、元のカミルという男はとんでもない女たらしだったのだろうか?


「自分で言うのもなんだけど、こんな美人が目の前にいるというのに」

「え?」


 何か突然ノーラの雰囲気が変わったんだが。

 再び俺に距離を近づけて身体を密着させたかと思うと、全身からさらに妖艶な色気が溢れ出す。

 俺のことを変わったとか言ってたが、多分今のノーラの変わりようの方がすごいと思うんだが。


「それならかつてのクラスメイトにうつつを抜かさないように、こうしてあげる」


 そう言ってノーラはいきなり俺のことを抱き寄せる。


「うわっ!?」


 気が付くと俺の頭は二つの柔らかい塊に埋もれてしまった。

 ああ、さっきまで難しい話をしていたのにいきなり頭がふわふわに包まれて天国に昇るみたいだ。ていうか一体どうして、と思ったところで俺はこの世界の”常識”を思い出す。いや、カミルにとっては当たり前のこと過ぎていちいち考えるほどのこともなかっただろうから、”思い出す”というよりは”再確認した”と言うべきか。


 どうやらこの世界では元の世界と違い、男性よりも女性の方が性に積極的な、いわゆる貞操が逆転した世界らしい。そしてカミルの方は彼女らに特にそういう感情は抱いておらず、そのためこうして一方的に迫られているようだった。

 思えば今朝のアンナの突飛な行動も、そういう世界であれば納得がいく(いや、貞操が逆転してたとしてもおかしい気はするが)。


「パーティーで仲の良かった美少女同級生との久しぶりの再会。これは過ちが起こるかもしれないわ。しかもあなたは異性に対してかなりガードが甘いところがあるし、これは絶対起こると言っても過言ではないわね。それならいっそのこと今あなたの初めてを……」


 まずい、ノーラから色気とは違う何かまで溢れ出してきた。

 本能的に危機を察知した俺は、どうにかおっぱいの誘惑を振り払って立ち上がる。


「きゃっ、ちょっと、いきなりどうしたの?」

「そもそも明日のパーティーがドムラー公の機嫌を損ねたら家が潰れるかもしれない恐ろしいパーティーだって教えてくれたのはノーラだろうが! そんな変な空気になる訳ないだろ!」

「はっ、言われてみれば……」


 それを聞いてノーラは正気に戻った。


「と言う訳で俺は対策を練るから一人にしてくれ」

「わ、分かったわ」


 そう言いつつも、どこか名残惜しそうにノーラは去っていくのだった。

ご覧いただきありがとうございます。


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