学園回想 ミレイユ編Ⅱ-2
そんなことがあった日の放課後、俺はいつものようにミレイユに会いに談話室に向かっていた。一緒に勉強して小テストでいい点をとっていた彼女と話すのが楽しみで自然と足取りが軽くなる。
が、談話室に入っても彼女の姿はない。まあ彼女は彼女で友達付き合いがあるのだろうし、と俺が適当な席に座って彼女を待っていると、やがて一人の女子生徒が気まずそうな顔をして俺の元にやってくる。確か彼女はミレイユの友達の一人だった。
一体何だろうかと思っていると、
「あの、ミレイユさんからこれを渡して欲しいって。じ、じゃあ」
「お、おい、これは何だ!?」
彼女は俺に折ったメモ用紙を渡すと、俺が止めるのも聞かずに逃げるように去っていく。
その姿に何となく嫌な予感を怯えつつも俺はメモを開いた。そこにはミレイユのきれいな筆跡で短い文章が書かれている。
『まずは今まで勉強を教えてくれてありがとう。おかげで今まで苦手だった戦史でいい点数がとれたわ。それなのに私のせいで迷惑をかけてしまってごめんなさい。今後はもう会わないようにしましょう』
読んだ瞬間、俺は思わずメモを握りつぶす。
くそ、あのドラ息子のせいでこんなことになるなんて。恐らく彼女は俺が連れていかれた話を人づてに聞いて、俺が酷いことをされたと思ったのだろう。本当はあいつらがアンナにのされただけだっていうのに、いや実際にボコボコにされたのが俺だったとしても俺はミレイユとの関係を切りたくないというのに。
俺は立ち上がると、急いで教室に戻る。すでにそこにミレイユの姿はなかった。どうする? もしすでに女子寮に帰ってしまっていたら会うことは出来ない。それ以外で彼女と会えそうな場所はどこだ? 女子生徒は学園内のカフェでよく友達とお茶をしているが、こんな手紙を出してそんなことをしているとは思えない。
となると……
俺は図書館に向かって走る。
学園の図書館は皇宮の図書館に次いで帝国内第二の規模を誇ると言われており、図書館だけで独立した一つの建物として建っている。
俺はその中に入ると、司書に白い目で見られながらも駆け回って彼女を探した。ミレイユが読みそうな本というと、政治や経済関連だろうか、と思ってみるがいない。魔術や文化関連のコーナーを探してみても見つからない。基本的に俺は図書館が大好きだし、入学当初はこの図書館の広さと蔵書の多さに感謝したものだが、今はその広さが恨めしい。
やっぱりもう寮に帰ってしまったのだろうか?
そう思いながらも俺は諦めきれずに図書館内をしらみつぶしに探し回る。普段あまり運動してない俺は早くも息が上がってしまうがそれでも懸命に探し続ける。
冷静に考えれば明日また学園で会えるのでそれでいいのかもしれないが、その時の俺はそれを待てないぐらいに動揺していた。彼女とのあの楽しい時間を、答案が返却された時の彼女のあの笑顔を、こんなくだらないことで失っていい訳がない。
そして。
息が切れ、足が痛くなってきたところで、俺はようやく探し求めた彼女の姿を見かける。
「はぁ、はぁ、ミレイユさん……」
「っ!?」
本棚に向かって沈痛な面持ちで立っていた彼女は俺の声を聞いてはっとしたように振り返る。その顔に一瞬喜びが浮かんだが、すぐに元の表情に戻ってしまう。
「だめよ。私と一緒にいるとまたあなたに迷惑がかかってしまうわ」
「迷惑なんかじゃない! 別にあいつが絡んでくることぐらいどうとでもなる!」
図書館の中だというのについ俺は大声で叫んでしまう。
が、彼女は目を伏せながら答えた。
「どうとでもなるって、でも相手は大貴族でしょう? お昼にも呼び出されてたじゃない」
「それは……」
何となくミレイユの前でアンナの名前を出すのは気が引けたが、言わない訳にもいかないので俺は昼の出来事を話す。
それを聞いたミレイユはひとまずほっとしたようだった。
「そ、それは良かったわ。もう、心配したんだから……こほん、でも今後はもっと陰湿な嫌がらせをしてくるかもしれないわ」
「そんなことはどうでもいい! 今更変な噂を流されたって減るものじゃないし、盗まれて困るような高いものも持ってないからな。それに、俺にとってはミレイユとの時間が奪われるのが何よりもの嫌がらせだ!」
「ち、ちょっと、何を言ってるの!?」
さすがのミレイユも少し驚いたらしく、ほのかに頬を赤く染める。
そして俺も、無意識のうちに自分がミレイユを呼び捨てにしてしまっていることに気づく。やはり俺は俺で相当動揺してしまっていたらしい。
「俺は男の友達があんまりいないから、趣味の戦史の話を出来る相手なんていなかったから楽しかったんだ。いや、最初はそうだったけど途中からミレイユと一緒に話せること自体が楽しくなった。だからこんな形で関係を終わらせるなんて嫌だ。せめて学園を出るまでは俺と仲良くして欲しい」
「でも……」
彼女はそう言ってしばらく何かを考えているようだった。
実際、大貴族に恨まれたばかりに不利益を被ったという事例はいくつもある。あいつの言うことをボーゲン公が聞くとも思えないが、最悪ボーゲン公経由で俺の実家に何かが起こるかもしれない。ミレイユはそのことを心配してくれているのだろうが……俺はそんな彼女に畳みかけるように言う。
「それに勉強を教えたお礼をしてもらうって話もまだだろ? いずれ軍用魔術について教えてもらいたいと思ってたんだが」
それを聞いてさらに思い悩むミレイユ。
が、やがて意を決したようにはあっと息を吐く。
「本当にいいの?」
「もちろん」
「うん、それなら私もまたカミル君と仲良くしたいわ」
「ミレイユ……」
俺たちはどちらからともなく歩み寄ると、ひしと抱き合う。
普段ならこういう時は邪なことを考えてしまう俺だが、今日ばかりは純粋に彼女と仲直り(?)出来たことを喜んだのだった。
どれぐらいそうしていただろうか、離れた後俺はふと思ったことを尋ねる。
「そう言えば、何の本を読んでいたんだ?」
「……これ」
そう言ってミレイユは近くの本棚を指さす。そこには各国の戦史が並んでいた。
それを見て俺は無性に嬉しくなるのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
おもしろい・続きが気になるなど思っていただけたらブクマ・☆評価お願いします!




