第7話 あたたかい迎賓館
ノーチェが眠ったことを確認したアルバは、彼女をそっと抱える。そして、正妃に冷たい視線を向けて、静かに圧をかけながら口を開いた。
「これよりノーチェ・ポラールは、ディーア王国第三王子、アルバ・ディーアの婚約者となる」
一瞬の静寂。アルバ以外、誰も物音一つ立てなかった。
「すなわち――ディーア王国の準王族だ」
それは、もし彼女に手を出せば、ディーア王国への敵対行為とみなす、という宣言だった。正妃の表情がわずかに凍りつく。アルバは彼女を尻目に、出口に向かって歩き出した。その腕に、ノーチェを抱えたまま。
◇
アルバが戻ってきたのは迎賓館だ。ここでは身の回りの世話をする侍女や侍従、料理人、護衛の騎士たちに至るまで、すべてディーア王国の人材で取り揃えられている。正妃の息が掛かった人材が入り込むのを防ぐため、女中などの下級使用人を主要区画には入らせない、という徹底ぶりだ。
「アルバ坊ちゃま、おかえりなさいませ。……ノーチェさまをお連れくださったのですね」
「ノーチェ様、ついでにアルバ様も、おかえりなさい」
ノーチェを迎えるために整えさせた部屋に入ったアルバを出迎えたのは、ノーチェの乳母であるアベリャーナと乳姉妹のカカウェテだった。十年前、正妃に追い出されて以降、親戚である男爵の領地でひっそり暮らしていた二人を探し出し、雇ったのはアルバだ。
アルバはカカウェテに対し、「……ぼく、君の雇い主なんだけど」と苦笑した。
「でも、私の主はノーチェ様ですから」
「忠誠心があって何よりだよ」
彼は軽く笑いつつ、ノーチェをベッドに寝かせる。その時に、ノーチェはうっすらと目を開けた。
「……アベリャーナ? ……カカウェテ?」
「はい、おひさしゅうございます」
「ノーチェ様、久しぶり」
アベリャーナはそっとノーチェの頭を撫でる。彼女は安心したように目を閉じた。
「ゆっくりお休みくださいませ」
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