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第22話 祝福の訓練

「では、さっそく訓練に移りましょうか」


 マニーアはそう言って、ノーチェとアルバを訓練室に案内する。訓練室はかなり広い空間で、的のようなものや温度計などのさまざまな道具が置いてある。マニーアは入室しようとしたアルバを見て口を開く。


「アルバ様。強化ガラスと強化壁で区切られた見学室もございますがどうされます?」

「ノーチェのそばにいるよ」

「怪我しても責任は問わないでくださいね」

「もちろん」


 アルバは笑顔を浮かべて訓練室に入った。ノーチェもそれに続く。


「さてと。まずは雷を的にぶつけてみましょうか」

「……はい」


 ノーチェは闇の雷を発生させ、的へとぶつける。雷に切り裂かれた的はポッキリと折れた。


「お上手です!」


 マニーアは大げさに拍手をする。ノーチェは困惑したように眉を下げた。


「そんなにすごくないはずですけど……」

「いいえ! 今、雷が真っすぐ的に向かいましたでしょう? それは、矛先の指定がお上手な証ですよ!」


 流石です! とひとしきり褒めたあと、マニーアは笑みを浮かべたまま問いかける。


「ちなみにですけど、今、闇をどんな形にしよう、とか考えました?」

「えっと……。何も考えずに使いました」


 ノーチェはおずおずと答えた。マニーアはこくりと頷いて続ける。


「不定形の祝福というのは、取りやすい形態というのがございます。ノーチェ様の場合は、雷のような形なのでしょう」

「取りやすい形態?」

「はい。意識せずとも使える形態、と言い換えてもいいですね。ノーチェ様は『取りやすい形態の制御』は問題なさそうですので、次は『別の形態』の練習を進めましょうか」

「……はい」


 ノーチェは緊張したように頷く。


「類似例から推測するに、ノーチェ様が制御可能なのはこちらの項目でしょう」


 マニーアはそう言いながらノーチェに手書きの紙を渡す。そこにはこう書かれていた。


『制御可能なもの

 ・闇が実体を持つか否か

 ・実体を持つ場合の質量

 ・闇の大きさ

 ・闇の性質(攻撃する、吸い込むなど)

 ・闇の形状』


「ちょっと見せて」


 アルバは背伸びをして、ノーチェの後ろから紙を覗き込む。


「やっぱり、何でもできる祝福なんだね」

「……何でも?」

「そう」

「……だから、制御が難しいんだ……」

「そういうこと。でも、ノーチェなら大丈夫だよ」


 アルバは力強く頷く。ノーチェは一度大きく深呼吸をした。


「マニーア。コツは?」

「想像力です。こんな形にしたい、具体的に思い浮かべることで、祝福をその通りのかたちに変えやすくなる、というのが定説ですね。……例えばですけど、身近に闇の祝福をお使いになる方は?」

「……闇の……」


 ノーチェの耳元で、イヤリングが小さく揺れる。


「……お母さん」

「なるほど。その方の祝福を見たことは?」

「……あります。闇が霧みたいにふわっと広がって……」

「素敵ですね。では、それを真似してやってみましょう」

「……できるかな」

「できるよ」


 アルバはノーチェの目を見て、しっかりと頷く。ノーチェは母の姿を思い浮かべながら、祝福を使ってみる。闇は確かに、霧のような形へと姿を変えた。だが。


「わわっ⁉︎」


 闇の霧の中に雷が混じる。その雷は軌道をぐちゃぐちゃに乱しながら、マニーアに向かった。ノーチェは慌てて闇を押さえ込もうとするが、うまくいかない。雷が彼女に当たってしまった。ノーチェは顔を真っ青にする。


「ご、ごめんなさい! 怪我は?」

「なるほど! 電圧のある雷ではなく! あくまで攻撃性の高い性質を持った闇とは! はぁ……これが闇の祝福! たまりません……!」


 マニーアは嬉しそうに呟く。ノーチェは目を丸くしながら、「……怪我してない、なら……いいのかな……?」と呟いた。


「初めてにしては上出来です。さあ、もう一度」

「……ええと、うん……」


 ノーチェは意識を集中する。「闇の霧……闇の霧……」と繰り返しながら、ゆっくりと祝福を広げてゆく。また霧の中に雷が混じる。慌てて祝福の発動を止めたノーチェに、マニーアが大きな拍手をした。


「さっきよりも長く霧を出せましたよ! ……お疲れではありませんか?」

「……ちょっと、だけ……」

「では、次で最後にいたしましょうか」


 ノーチェは一度頷いて手を伸ばす。その手から闇色の霧が広がる。その霧は雷に変わることはなく広がった。彼女は闇を消し、呟く。


「……で、できた……?」

「すごい……すごいよノーチェ!」


 アルバはノーチェの手を掴み、キラキラとした眼差しを浮かべた。胸の内に、じわじわと温かいものが広がってゆく。


「闇の霧、すっごく綺麗だった!」

「……ありがとう」


 ノーチェは目を丸くしながらも口角を上げる。イヤリングがきらりと光を反射し、小さく揺れた。まるで、遠くから見守られているようだった。


「ええ。初回としては非常に優秀です。……これは、伸びますね」


 マニーアはメガネを押し上げ、満足げに頷く。

 窓の外には一番星が輝いていた。

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