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第19話 母の形見

 その日の夜。アルバはニコニコとした笑顔でノーチェの部屋にやってきた。


「ノーチェ、渡したいものがあるんだ」

「渡したいもの?」


 首をかしげるノーチェに、アルバは「ぼくからではないんだけど。でも、きっといいものだよ」と微笑んだ。


「ほら、これ」


 差し出されたのは小さな小箱。どうやらアクセサリーケースのようだった。


「……開けていい?」

「うん。いいよ」


 ノーチェはそっと箱を開ける。中に入っていたのは、アンティークゴールドのイヤリングだった。


「……これは……?」

「ノーチェのお母さんの、形見だって」


 彼女はまじまじとイヤリングを見つめる。そうして、ゆっくりと口を開いた。


「……お母さんが亡くなる前。一度だけ、結婚前の肖像画を見たの。……お母さん、これ、つけてた……」


 母の形見はすべて正妃に奪われたと思っていた。だが、違った。


「……残ってたんだ……」


 ノーチェは指先でそっとイヤリングに触れる。


「つけてみる?」

「……うん」


 彼女はおずおずと頷く。アルバはイヤリングを手に取り、ノーチェの耳にそっとつけた。アンティークゴールドが、小さく耳たぶで揺れる。


「うん。よく似合ってる」

「……ほんとに?」

「ぼくが信じられない?」


 アルバは冗談めかして笑う。ノーチェはためらいながらも、首を横に振った。


「……これ、誰から?」


 ノーチェがそう問いかけると、アルバは小さな紙切れを差し出す。


『これは側妃の生家より託された側妃の形見である。本人に渡すこと。クラロ・ポラール』


 几帳面なクラロの文字だ。ノーチェは小さく「えっ」と呟いた。


「クラロが?」

「たぶんルナリアも関わってるんじゃないかな。これをクラロに託したの、カントだって噂だよ」


 ノーチェはイヤリングを見つめる。思い出すのは、地獄に置いてきてしまった妹弟(きょうだい)の顔。


「……届けて……くれたんだ……」


 ノーチェは顔を上げ、窓の外を見る。視線を向けるのは、故郷がある方角。


(……ルナリア……。クラロ……)


 彼女は静かに願う。二人が地獄を抜け、幸せになるように。

 北の空で、北極星がきらりと瞬いた。

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