第16話 ドレス選び
ブリッサとアルバに連れられて、ノーチェはブティックに訪れた。
白を基調とした店内には、色とりどりのドレスが並んでいる。淡い花のような色合いのものから、夜空を切り取ったような深い色のものまで、どれもが美しく輝いていた。
「わぁ……」
こんなにたくさんの“きれいなもの”に囲まれるのは、いつ以来だろうか。そう考えたノーチェは無意識に一歩後ずさる。
「遠慮しなくていいのよ。今日は好きなだけ見てちょうだい」
ブリッサはそう言って、楽しそうに棚へと歩み寄った。
「ほら、これなんてどう? この淡いピンク、ノーチェちゃんに似合いそうじゃない?」
ふわりと広げられたドレスは、春に咲く花のような柔らかな色をしていた。
「……きれい、です……。でも……」
そう答えながらも、ノーチェの手は伸びない。アルバはそれを見て、ブリッサからドレスを受け取った。
「着てみよっか」
「え、あ、でも……」
慌てるノーチェをよそに、アルバは店員を呼んだ。
「大丈夫だよ。似合わなかったら、笑って終わりにすればいいだけだし」
軽い調子で言うその声に、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。結局、ノーチェは試着室へと押し込まれるように入った。
店員に手伝ってもらって、ドレスに腕を通す。鏡に映った自分を見て、彼女はぽつりとつぶやいた。
「……これが、わたし……?」
「ノーチェ、着れた? 入ってもいい?」
「……あ、うん……」
アルバが試着室のカーテンを開ける。彼はノーチェを一目見て、「すごくかわいい。よく似合ってるよ!」と笑った。
「……似合って……る……?」
「うん」
ノーチェは鏡をもう一度見る。そこにいたのは、呪われた姫ではなかった。見たこともないお姫さまだった。
「気に入った?」
「……よく、分からない……」
ノーチェは視線を落とす。アルバは笑って口を開いた。
「じゃあ、買っちゃおうか。気に入らなかったら着なかったらいいだけだ」
「え?」
ぽかんとするノーチェをよそに、アルバは店員に「これ、購入で。他のも持ってきて」とお願いした。
「ま、まって。もったいないよ」
「いいの。ノーチェ、次はどのドレス見る?」
「えっと……黒とか、紫とか?」
「黒か。確かにノーチェに似合いそう!」
「この紫なんてどう? かわいい色だから、気分も華やかになると思うわ」
ノーチェが混乱しているうちに、二人はどんどん購入するドレスを決めていく。明るい色のドレス、暗い色のドレス、オーガンジーがメインの軽いドレスや、しっかりした重厚な生地でできたドレス。ノーチェが少しでも良さそうな反応を示したドレスは、すぐに購入予定となる。
「ま、まって。そんなにいらない……」
「でも、その日の気分に合う着たいドレスがなかったらだめでしょ?」
ブリッサの言葉に、ノーチェは目をぱちくりとさせる。
「……その日の気分……?」
「そう。今日は気分を上げたいから明るい色、今日は強そうに見せたいからかっこいいドレス、みたいな」
「……そんなので、選んだことない……」
「選んでいいのよ。そういうので。ねえ、ノーチェちゃんが着たいのは、どんなドレス?」
ブリッサは微笑む。ノーチェはアルバとブリッサの顔を見た。二人は「大丈夫」とでも言いたげに頷く。
(……わたしの……着たいドレス……)
店内をぐるりと見渡したノーチェの視線は、一着のドレスに吸い寄せられる。それは夜明けのような落ち着いた水色と、柔らかな緑のグラデーションが美しいドレスだった。
「……これ、とか……?」
「まあ、素敵ね。試着してみましょう?」
ブリッサに促され、ノーチェは試着室へ向かう。ドレスに着替えて出てきたノーチェを見て、アルバは笑った。
「とってもよく似合ってるよ! ぼくもお揃いのやつ、買っちゃおうかな」
「……お揃い?」
「うん。同じような色の服でさ。ぼくはちょっと紫入れちゃおうかな」
アルバは楽しそうに話す。
「……わたしとお揃いで、いいの……?」
「うん。夫婦って分かりやすいでしょ? ……だめかな?」
……夫婦。……夫婦か。そっか。わたし、アルバと夫婦になったんだった……。
ノーチェは心のなかでそうつぶやく。
「……いいよ。……紫、似合うと思う」
「やった!」
アルバは楽しそうに笑う。それにつられて、ノーチェも少しだけ笑顔を浮かべた。
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