第15話 翌朝のこと
ちゅんちゅんと小鳥が鳴く声で、ノーチェは目を覚ました。
「……ん、朝……?」
ほんのちょっと喉が渇いている。眩しさに目を細めていると、ふと、自分のものではない温もりが手にあることに気づいた。驚いた彼女はベッドサイドを覗き込む。
「……え? ……アルバ……?」
「……ん……。ノーチェ、起きたの……?」
困惑するノーチェをよそに、アルバは目をこすりながら彼女を見た。
「……ノーチェ、大丈夫……?」
「ええと、何、が?」
「昨日……」
「昨日?」
アルバはノーチェと視線を合わせる。そのアメジストに困惑しか映っていないことを確認したアルバは「……なるほどね」と微笑んだ。
「ごめん、寝ぼけてたみたい」
「……なら……いいんだけど……。どうしてここに?」
「……あー」
アルバは視線を上に向けたあと、にっこり笑って口を開いた。
「昨日ね、トイレに起きちゃったんだ」
「……トイレに……」
「うん。寝ぼけてたのかな? ここで力尽きちゃったみたい」
彼はにこにこと笑う。怪訝な表情を浮かべるノーチェに手を振って、「着替えてくるね」と自室へと向かった。
◇
ノーチェがデイドレスに着替えて食堂に行くと、既にヌーベとブリッサが席についていた。
「おはよう、ノーチェちゃん」
「よく眠れた?」
「おはようございます。えっと、よく眠れました」
その答えを聞いた二人は顔を見合わせる。ノーチェはさっきから変だな、と首をかしげた。
「……あ、そうだ。クローゼットのドレス、気に入ってくれた?」
空気を変えるようにブリッサがそう口にする。ノーチェは「どれも素敵でした」と微笑んだ。
「そう、気に入ってくれてよかったわ。でも、せっかくだから好みのものがいいわよね? 今日、買いに行きましょう?」
「ええと、いや……あれで……」
ノーチェは遠慮するように首を振る。だけどもブリッサは止まらない。
「娘とドレスを選ぶの、夢だったのよ」
「おばさん、ノーチェが困ってるでしょ」
食堂にやってきたアルバがすぐに助けに入る。ブリッサはアルバを見て笑った。
「でも、かわいい格好をしたノーチェちゃんも見たいでしょ?」
「それはそう。でも、無理しなくていいよ」
「……呪われた姫には……似合わないよ」
ノーチェがそう呟いた瞬間、三人は一瞬動きを止めた。息を呑む音が聞こえる。だが、彼らはすぐに笑顔を浮かべた。
「ノーチェは呪われてなんかいないよ」
「そうよ。そんなひどいこと言う人たちのことなんて、忘れちゃいなさい」
「ここにはもう、そんなことを言う人なんていないよ」
三人は優しく微笑む。ノーチェは三人の顔を見て、おそるおそる口を開いた。
「……その、ありがとう……」
「どういたしまして」
ノーチェはぎこちなく笑う。まだ胸の奥に残る言葉は消えない。けれど、それでもほんの少しだけ、軽くなった気がした。
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