第12話 ディーア王国へ
船は順調に航路を進み、明日にはディーア王国に着くという頃合いになった。アルバは明日からの段取りをノーチェに伝える。
「ディーアに着いたら、シエロ公爵邸に行くよ」
「シエロ公爵邸? 王宮じゃなくて?」
「うん。ぼくがシエロ公爵になるから」
「シエロ公爵は父さんのいとこでね、小さい頃からかわいがってもらったんだ。跡取りがいない、って困ってたから立候補しちゃった」と、アルバは軽く笑う。
「公爵邸で書類にサインしたら、ノーチェは晴れて公爵夫人だ」
「……社交とか……できるかな……」
「最初は無理しなくていいよ。まずは生活に慣れるところからだね」
「……分かった。がんばるね」
「……それで、相談なんだけどさ」
アルバは恥ずかしそうに手を組み直す。
「寝室、どうする?」
「……どうするって?」
「一緒にしてもいいし、分けてもいいよ。あ! もちろんノーチェがいいって言うまで手は出さないから!」
ノーチェはクッションを抱きしめたままじっと考える。
「……分かんない」
「分かった。じゃあ、ベッドを二つ準備しておくね」
彼はそう言ってにこっと笑った。
「二つ?」
「うん。ノーチェの部屋に一つ、寝室に一つ。好きな方を使っていいよ」
「……いいの?」
「うん」
ノーチェはにこにこと笑うアルバを見る。そのまま目を伏せて小さくつぶやいた。
「……いいのかな」
「どうしたの?」
アルバは彼女の顔をじっと覗き込む。
「……こんなふうに、特別扱いばっかり受けて。アルバに甘えてばっかりで」
「いいんだよ」
彼はにこにことした笑顔を浮かべながら、ノーチェの髪を撫でた。
「ノーチェはぼくの大事な人なんだから」
「……だいじ……」
彼女はクッションに視線を落とす。アルバは何も言わず、ノーチェの頭を撫で続けた。
◇
ディーア王国のシエロ公爵家に到着したノーチェは、現シエロ公爵夫妻に出迎えられた。二人はノーチェの姿を見ると、目尻に刻まれた皺を深くする。
「はじめまして。ヌーベ・シエロだよ。アルバの話通り、落ち着いている子だね」
「ブリッサよ。ノーチェちゃんって呼んでいいかしら?」
「あ……えっと……」
ノーチェが困惑していると、アルバは腰に手を当てて頬を膨らませた。
「ヌーベおじさん、ブリッサおばさん! いきなり詰め寄ったら、ノーチェがびっくりしちゃうでしょ!?」
ぷりぷりと怒ってみせるアルバに、二人は「ごめんごめん」と笑う。
「長旅で疲れたかな? 果実水でも飲むかい?」
「パルメラもあるよ」
ヌーベが果実水を、ブリッサがパイ菓子を差し出す。ノーチェは迷うように視線を彷徨わせた。アルバが横から「やった!」とパイ菓子に手を伸ばす。
「ノーチェも食べよう? おばさんの焼くパルメラは美味しいんだよ」
三人は暖かい空のような笑顔を浮かべる。ノーチェは恐る恐るパイ菓子に手を伸ばし、そっと一口かじった。パイ菓子は口の中でほろほろと崩れる。
「……美味しい……」
「お口にあってよかったわ」
ノーチェの肩からほんの少しだけ力が抜ける。アルバはその様子を見て、にこにこと笑った。
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