表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UR農具で極める最強村のスローライフ〜至高の漬物と月見酒で訳あり達の胃袋を掴んだら、俺の畑の絶対防衛線が完成していた件〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

EP 9

月見酒の宴とPRO型弁当の萌芽

「リバロン。この『泥酔したサバゲーマー』たち、あとで適当に処理しといて。身ぐるみ剥いで、国に賠償請求ブラックメール送りつけておくから」

「畏まりました、キャルル様。彼らの口座残高をタロウ・ペイの末端まで搾り取る、完璧な書類を作成いたしましょう」

ハジメが亀甲縛りにしたザルツ大尉たちは、いつの間にか現れた人狼族の宰相・リバロンによって、まるで粗大ゴミのようにズルズルと暗闇へ引きずられていった。

ハジメはそれを見送りながら、「やはり、酔っ払いの介抱は専門家に任せるに限るな」と、最後まで的はずれな感心をしている。

「さぁ、冷めないうちに……いや、酒だから温くならないうちに、か。飲もう」

ハジメは新築の縁側に腰を下ろし、月明かりの下で自作の備前焼のぐい呑みを並べた。

トクトクトク……。

『ワークショップ』で極限まで洗練された太陽芋の焼酎が、心地よい音を立てて注がれる。それだけで、芳醇でフルーティな香りが夜風に乗り、周囲の空気を甘く満たした。

「じゃあ、遠慮なく……いただきます」

ダイヤが恐る恐るぐい呑みに口をつける。

瞬間、彼女の瞳が見開かれた。

「――っ! なにこれ、すっごく滑らか……! それでいて、太陽芋の甘みが喉の奥でカッと熱くなる! 私の生家(侯爵家)の地下セラーにあったヴィンテージワインより、ずっと美味いじゃないの!」

「ん〜っ! この漬物もヤバい! パリッパリで、噛むたびに大根の甘みと旨味がジュワァって……お酒が無限に進むやつだぁ……っ♡」

キャルルは兎耳をピョコピョコと跳ねさせながら、ハジメの『究極の月見大根の漬物』を齧り、芋酒をグイッと煽る。すっかりただの呑兵衛のウサギである。

「……ハジメ。お前、農民の皮を被った酒神か何かか」

隣に座った龍魔呂が、静かにぐい呑みを傾けながら低く唸った。

裏社会で数多の極上の酒を味わってきた彼でさえ、この純度100%の「大地の恵み」には舌を巻くしかない。

「ただの百姓さ。芋の出来が良かっただけだ」

ハジメは謙遜でも何でもなく、真顔でそう答えた。

そして、胸ポケットからブックマッチを取り出し、シュッとキャスターに火をつける。龍魔呂も愛用の真鍮ライターを『カチッ』と鳴らし、マルボロ赤に火を点けた。

「……美味い酒と、静かな夜だ。余計な騒音(さっきの帝国軍)が消えて、ようやく落ち着いて飲める」

龍魔呂が紫煙を細く吐き出す。

「ああ。若い奴らが元気に駆け回るのもいいが、俺たちは縁側でこうしているのが一番性に合っている」

縁側で並んで煙草を吹かし、茶をすするように酒を飲む二人。

その背中から漂う哀愁と枯れ果てた渋さは、どう見ても『酸いも甘いも噛み分けた初老の親友同士』のそれであったが、二人の年齢は共に25歳である。

「ちょい待ちや! 自分らだけで、こないな美味いもん独占するたぁ、ええ度胸してんな!」

そこへ、算盤を片手に猛ダッシュで現れたのは、猫耳族の財務担当・ニャングルだった。

彼はハジメの前に置かれた漬物をヒョイとつまみ、パクリと口に入れる。

「――ッ!? なんやこれ……! 塩分、ミネラル、そしてこの異常なまでの旨味! ハジメはん、これ日持ちはどのくらいしまっか!?」

「ん? ああ、俺の『ワークショップ』で発酵を安定させてある。冷暗所なら数ヶ月は味が落ちないはずだが」

「それや!!」

ニャングルはガタッ!と立ち上がり、バチバチバチッ!と猛烈な勢いで算盤を弾き始めた。

「ハジメはんの握った『サンライスの塩むすび』に、この『究極の漬物』、そして『太陽芋酒の小瓶』! これをセットにして魔導重箱に詰めれば、常温保存可能・超回復・超士気向上のバケモノみたいな弁当が完成しまっせ!!」

ニャングルの猫耳が、興奮でピンと立っている。

「名付けて『PRO型ポポロ・レストラン・オペレーション戦闘糧食』! これを帝国や獣人王国の軍隊に『金貨3枚』で売りつければ、ポポロ村は莫大な利益ゴールドで潤いまっせぇぇ!」

「戦闘糧食……?」

ハジメは小首を傾げた。

(……ああ。ハイキングや、さっきのサバゲーマーの若者たち向けの『仕出し弁当』のことか。確かに、外で動いたあとの塩分補給にはうってつけだろう)

ハジメはまたしても致命的な勘違いをしたまま、フッと優しく微笑んだ。

「農家としては、自分の作ったものが美味く食われるなら本望だ。売り方はお前に任せるよ、ニャングル。……だが、食う奴らには伝えておいてくれ。『よく噛んで、味わって食え』とな」

「お、おおきにハジメはん! アンタ、ほんまに太っ腹な御仁やで!」

ニャングルが拝むように手を合わせる。

こうして、後に三大国の兵士たちが「これ食ったら自国のメシ(L缶)が残飯に思える」と涙を流し、ポポロ村への経済的依存を深めさせる最凶の兵器『PRO型弁当』は、ハジメの無自覚な許可によって誕生したのである。

「はむっ! もごもご……ふぇぇ、おいひぃ……っ!」

「あらあら、リーザさん。喉に詰まりますわよ。私が『自然魔法』で出した採れたてトマトもどうぞ」

「みんなズルい! 私も配信のカメラ止めて食べるー!」

気づけば、いつの間にか起きてきたリーザ、ルナ、キュララの三人も縁側に集まり、ハジメの作った料理を奪い合うように頬張っていた。

パンの耳ばかり齧っていた地下アイドルのリーザなどは、美味さのあまり大号泣しながら塩むすびを両手に握りしめている。

「……賑やかになったな」

龍魔呂が、やれやれというように目を細める。

「悪くないだろう? 一人で飲む酒より、ずっと味が良くなる」

ハジメは静かに笑い、ぐい呑みを傾けた。

夜空を見上げれば、二つの大きな月が、ポポロ村の変わり者たちを優しく照らし出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ