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UR農具で極める最強村のスローライフ〜至高の漬物と月見酒で訳あり達の胃袋を掴んだら、俺の畑の絶対防衛線が完成していた件〜  作者: 月神世一


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EP 4

スキル『ワークショップ』と究極の漬物

「ふぅ……食った食った。まさか私が、見ず知らずの男の握った米で腹パンパンになるなんてね」

大きく膨らんだお腹をさすりながら、キャルルは満足そうに地面に寝転がっていた。その隣では、リーザがまだおひつにへばりついた米粒を指で集めて舐めている。

「お粗末さま。……で、ここはどういう村なんだ」

「あー、ここはポポロ村。ルナミス帝国とか三大国の緩衝地帯になってる、平和で無害な農村だよ。私はここの村長」

「村長? お前みたいな若い娘が?」

「うん。まあ、色々あってね」

キャルルは兎耳をピクッと動かし、ハジメを見上げた。

「あんた、ただの農家じゃないでしょ。その米の美味さも異常だけど……さっき私の『月影流』を、瞬き一つせずに躱したよね?」

「……ただの百姓だ。少しばかり、土の呼吸に合わせるのが得意なだけさ」

ハジメは表情一つ変えず、真顔で答えた。事実、彼にとっては合気も農業も「天地の理と調和する」という一点において同義である。

25歳という若さでありながら、その瞳には老僧のような静かな凪が広がっていた。

「ふーん。まあ、美味い飯食わせてくれたから不問にしてあげる。行くあてがないなら、村の空き地を使っていいよ。ちょうど腕の良い農民が欲しかったところだし」

キャルルの案内で村の端の土地をあてがわれたハジメは、周囲を見渡した。近くには切り倒されたまま放置された丸太の山と、大きめの石材が転がっている。

「家はどうするの? 村の大工に頼むなら、少し時間がかかるけど」

「いや、自分でやる。材料は、そこにある木と石でいいか?」

「うん、それは村の備品だから自由に使っていいよ。でも、自分でやるって……」

ハジメは丸太の山に手を触れ、目を閉じた。

ルチアナから与えられたスキル『ワークショップ』。それは無から有を生み出す魔法ではない。『存在する素材を、術者の思い描く究極の形へ一瞬で加工・再構築する』という、モノづくりに特化したチート能力だ。

ハジメの脳裏に、地球で思い描いていた「理想の住まいと工房」の設計図が組み上がっていく。太い梁、風通しの良い縁側、そして使い勝手の良い土間と水回り。

「スキル発動……『ワークショップ』」

――カァァァンッ!!

甲高い大工道具の音が鳴り響いたかと思うと、光の粒子が丸太と石材を包み込んだ。

次の瞬間、木材は寸分違わぬ精度で切り出されて組み上がり、石材は強固な基礎とかまどへと変貌する。

わずか数秒。そこに現れたのは、質実剛健でありながら、どこか温かみを感じさせる渋い平屋の和風建築だった。

「…………は?」

「…………え?」

キャルルとリーザは、ポカンと口を開けて石像のように固まった。

「……悪くない出来だ。建付けも完璧だな」

ハジメは縁側をスリッパで軽く踏み鳴らし、満足げに頷いた。

「いやいやいや!! おかしいでしょ! 何今の魔法!? 丸太が一瞬で家になったんだけど!?」

「素材を加工しただけだ。大したことじゃない」

「大したことありすぎるわ!!」

キャルルの激しいツッコミを涼しい顔でスルーし、ハジメは縁側に腰を下ろした。

「家賃代わりと言っちゃなんだが……美味い漬物を仕込みたい。何かいい野菜はないか?」

「つ、漬物? ……う、うん。ちょうどそこに、収穫したばかりの『月見大根』があるよ。ポポロ村の特産品なんだけど」

キャルルが指差した先には、満月のように丸々と太った巨大な大根が木箱に積まれていた。

「いいツヤだ。これを使わせてもらおう」

ハジメは月見大根を手に取ると、再び『ワークショップ』を発動させた。

空中に浮かび上がった大根が、不可視の刃で神速の千切り・銀杏切りにされていく。同時に、ハジメが懐から取り出した岩塩(ルチアナからの初期アイテム)と、村の端に生えていた香りの良い野草が、絶妙な配合で混ざり合っていく。

「漬物は時間が命だが……俺のスキルなら、発酵すらも思いのままだ」

木樽の中に敷き詰められた大根に、ハジメの気が注ぎ込まれる。

通常なら数日から数ヶ月かかる乳酸発酵のプロセスが、『ワークショップ』による極限の環境制御によって瞬時に最適化されていく。

ポンッ。

小気味良い音とともに、樽の蓋が完成を告げた。

「完成だ。……さて、味見といくか」

ハジメが木樽の蓋を開けた、その瞬間だった。

――フワァァァァン……。

芳醇な醤油のような香ばしさと、大根の鮮烈な甘み、そして鼻腔をくすぐる完璧な発酵の匂いが、爆発的に周囲へと広がったのだ。

「っ……!! な、なにこの匂い……!? 唾液が、勝手に……っ!」

キャルルが喉を鳴らし、リーザに至っては匂いだけで白目を剥きかけている。

だが、その香りは彼女たちだけに留まらなかった。

風に乗った「究極の漬物」の匂いは、ポポロ村全域へと静かに、しかし確実に広がっていったのである。

――村の中心部、小料理屋『鬼龍』。

カウンターで黙々と出汁巻き卵を焼いていた龍魔呂は、ふと手を止めた。

「……なんだ、この香りは。塩と発酵の……極致か?」

「おおっ!? 龍魔呂はん、この匂い、どえらい商機ビジネスの匂いがしまっせ!!」

カウンターで酒を飲んでいた猫耳のニャングルが、算盤を弾きながら鼻をヒクつかせる。

――村の広場。

「あら? 凄く懐かしくて、心安らぐ匂いがしますわ」

ルナ・シンフォニアが不思議そうに風を嗅ぎ、

「なんだ!? 帝国軍の新手の化学兵器か!?」

テント生活中のダイヤが、慌てて魔導ライフルを構えてテントから飛び出してきた。

ポポロ村の最強(にして最狂)の面々が、ただの『漬物の匂い』によって一斉にざわつき始めていた。

だが、そんな騒ぎの中心にいるハジメはといえば。

「……うん。大根の甘みが引き立っている。上出来だ」

自作の漬物をぽりぽりと齧り、満足そうに頷く。

そして、胸ポケットからブックマッチを取り出すと、シュッとキャスターに火をつけた。

紫煙を吐き出しながら、どこまでも続く青空と、うっすらと浮かぶ月を見上げる。

(朝起きて働き、美味い飯を食って、夜は月を見る。……やっぱり、農業はいいな)

25歳にして完全に老成したオールドソウルの男は、自分の作った漬物が村のバケモノたちを呼び寄せていることなど露知らず、一人静かに極上のスローライフを満喫し始めていた。

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