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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
5章 「治してもらう、はずだった。」

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第74話 調合師を、探した。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 貼り紙の、前で



 朝。


 王都で迎える、二度目の朝だった。ヨーヘイは、宿の主人に役所の場所を訊いて、人の流れに乗って、そこへ向かった。訴訟中、という言葉が、ひと晩、頭の隅に引っかかっていた。会いたい相手が、面倒の真ん中にいる。それが、どういう面倒なのか。まずは、その輪郭を、知りたかった。


 役所の前には、大きな掲示の板があった。


 白木の板に、何枚もの紙が、糊で貼り重ねられている。布告。触れ。人探し。そして、その一角に、係争中の案件を知らせる紙が、並んでいた。墨で書かれた文字は、お役所らしく、まわりくどい。ヨーヘイには、半分も、読み解けなかった。


 けれど、紙の前には、人だかりができていた。


野次馬の男:「ああ、これだろ。あの、調合師のやつ」


野次馬の女:「相手が悪いよねえ。あんな大きな後ろ盾を敵に回しちゃ」


 ヨーヘイは、人の肩越しに、その紙を見た。難しい言い回しの中に、いくつか、拾える言葉があった。調合。契約。不履行。そして、相手方として記された家の名は、ヨーヘイの知らない名だったが、まわりの口ぶりから、相当の力を持つ家らしい、というのは、伝わってきた。


ヨーヘイ:(解析さん。この貼り紙、読めますか)


解析:「……照合しました。係争の一方が、例の調合師です。もう一方は……かなりの後ろ盾を持つ家です。詳細は、ここには書かれていません」


 それ以上は、板の上には、なかった。


 ヨーヘイは、人だかりから、一歩、引いた。隣で、リリアが、フードを目深にかぶり直している。人の多い大通りを、彼女は、いつも、半歩外して歩く。役所の前の、役人の目の多い場所では、なおさらだった。ヨーヘイは、それに気づいていたが、やはり、何も言わなかった。


ルカ:「なあ。難しい話やったら、うち、頭痛なるわ。……で、どうすんの」


 ルカが、退屈そうに、爪先で石畳を蹴っていた。


ヨーヘイ:「正面から役所に訊いても、面倒なやつだと思われるだけだ。……おれのやり方で、いく」


ルカ:「ヨーヘイのやり方?」


 ヨーヘイは、もう、通りの先を見ていた。煙の上がっている方角を。



◆ 煙の、立つほう



 人の集まる広場の、隅を借りた。


 ヨーヘイのやり方は、決まっていた。役人に訊くより、弁の立つ者に訊くより、まず、火を熾す。腹を空かせた者、噂好きの者、暇を持て余した者。そういう連中は、煙の立つほうへ、勝手に集まってくる。そして、串をかじりながら、勝手に、喋りはじめる。


 手持ちの肉を、出した。羊の肩と、オークのロース。それを、ひと口大に切り、串へ打つ。味付けは、昨日、市場で目をつけた、王都の香辛料だ。赤い粉、黒い粒、乾かした葉。地方では、ひと月かけても集まらない種類が、ここでは、銅貨数枚で手に入る。


 指の腹で、赤い粉を、少しだけ、肉にすり込む。鼻を近づけると、つんと尖った辛みの奥に、果実のような甘い香りが、隠れていた。羊の癖のある脂には、これくらい押しの強い香りが、ちょうどいい。脂の臭みを、消すのではなく、香りで、うまいほうへ、ねじ伏せる。村では、塩と、せいぜい数種の乾かした草だけで、戦っていた。それが、ここでは、こんなにも手数が増える。料理人の指が、勝手に、踊りはじめていた。


 炭を、足す。火加減を、見る。羊は、強い火で、表面だけを、一気に。オークは、少し離して、じっくりと。同じ串でも、肉が違えば、火の入れ方も、変える。村では出せなかった一串が、炭の上で、焼けはじめた。脂が、したたる。炭が、じゅう、と鳴いて、白い煙を、まっすぐに、立ちのぼらせた。


 香りが、立った。


 フィンが、台の上で、鼻を、ひくつかせた。


フィン:「キュッ。キュッ」


 短く弾むように鳴いて、フィンは、通りの人に向かって、小さく胸を張る。昨日、人混みを怖がって肩によじ登っていた相棒は、煙と匂いの土俵では、まるで別人だった。その仕草に、足を止める者が、出はじめる。子どもが、指をさす。連れの大人が、つられて、屋台を覗く。


ルカ:「うわ。なんやこれ、止まらへんやんこれ」


 味見のひと串を頬張ったルカが、目を丸くして、二串目に手を伸ばしていた。代金を受け取る役を任せたはずが、いちばんの常連になりかけている。


ヨーヘイ:「お前は売るほうだろう」


 軽口を交わすうちにも、客は、増えた。リリアは、屋台の裏手で、炭を足し、串を並べる。その手つきは、確かだった。人前には出たがらないが、手は、よく動く。


 ひとり、ふたりと、串を手にした者が、その場で、立ち話をはじめる。


 旅装の男が、串をかじりながら、ヨーヘイを、しげしげと見た。


旅人:「……あんた。西の街道に、うまい羊を焼く屋台が出るって、聞いたんだがね。まさか、あんたか」


ヨーヘイ:「さあ。どうでしょうね」


 ヨーヘイは、笑って、はぐらかした。けれど、内心では、少し、驚いていた。野営地で焼いた、あの一串の話が、人の口を伝って、こんな王都まで、先回りして届いている。旅の煙は、思っていたより、遠くまで流れていたらしい。


 常連になりかけた、近くの店の手代らしい男が、ふと、手を止めて、言った。


手代:「……あんた、もしかして、人の噂を集めるために、焼いてるのか?」


ヨーヘイ:「どうして、そう思うんです」


手代:「いや。さっきから、客の話に、やけに、相槌が上手いからさ。……変なやり方だな。でも、つい、喋っちまう」


 男は、自分で言って、苦笑した。


 ヨーヘイは、否定も肯定もせず、串を、ひっくり返した。脂が、炭に落ちて、爆ぜる。その音に紛らせるように、内心で、ひとつ、頷いた。


ヨーヘイ内心:(……知らん顔が、同じ煙の前で笑ってる。おれが出したいのは、たぶん、こういう場所だ)



◆ 腹の虫



 その娘が、屋台の隅に、いつから立っていたのか。


 気づいたときには、もう、そこにいた。十そこそこの、痩せた娘だった。すり切れた上着の袖から、細い手首が、のぞいている。買う銭は、ないのだろう。ただ、串の焼ける匂いの届くぎりぎりのところに立って、じっと、炭の上を、見ていた。


 ぐう、と。


 大きな音が、鳴った。娘の、腹だった。


 娘の顔が、かっと赤くなって、うつむく。逃げようと、半歩、後ずさった。


 その足を、止めたのは、フィンだった。


 ぴょん、と台から飛び降りたフィンが、焼き上がったばかりの串を、ひとつ、鼻先で、そっと、娘の足元のほうへ、押しやった。


フィン:「キュウ」


 娘が、目を丸くして、フィンを見た。フィンは、串と娘を、見比べて、もう一度、鼻で押す。早く食え、とでも言うように。


 娘は、面食らった顔で、固まっていた。


ヨーヘイ:「……ほら」


 ヨーヘイは、新しい一本を炭から上げて、娘に、差し出した。値も、訊かなかった。


ヨーヘイ:「焼きたてだ。冷めると、もったいない」


 娘は、串と、ヨーヘイの顔を、何度も、見比べた。警戒した、痩せた猫のような目だった。ただで、ものをくれる大人を、信じていい理由が、この子には、ないのだろう。それでも、腹の虫には、勝てなかった。やがて、おそるおそる手を伸ばし、串を受け取ると――ひと口、かじった。


 その瞬間、娘の、強張っていた表情が、ほどけた。


 熱い脂が、口の中で、はじける。羊の甘みと、香辛料の香りが、追いかけてくる。頬が、ふくらむ。目尻が、ゆっくりと、下がっていく。さっきまでの、身構えた顔は、もう、どこにもなかった。次の一口は、迷いがなかった。立ったまま、両手で串を握って、夢中で、かじりつく。喉が、鳴る音まで、聞こえそうだった。


ヨーヘイ:「うまいか」


娘:「……うん」


 口をいっぱいにしたまま、娘は、こくりと、頷いた。


ヨーヘイ内心:(……蓮なら、こういう腹ぺこを見つけるのが、おれより早かったな)


 串を食べ終えるころには、娘の警戒も、だいぶ、ゆるんでいた。ニナ、と名乗った。この近くで、薬草の使い走りを、しているという。


 そのとき、屋台の客のひとりが、世間話のついでのように、言った。


客の男:「使い走り? へえ。どこの薬屋だい。……まさか、あの、訴訟沙汰の調合師んとこじゃ、ないだろうな。あいつは、もう終わりだって、もっぱらの噂だぜ」


 ニナの手が、止まった。


ニナ:「……先生は、悪くない」


 うつむいたまま、けれど、はっきりと、ニナは言った。


ニナ:「先生は、ただ……作れって言われたものを、作らなかっただけ。良くないものを、良くないって言っただけだよ。それの、どこが悪いの」


 客の男は、ばつが悪そうに、肩をすくめて、離れていった。


 ヨーヘイは、炭を足しながら、さりげなく、訊いた。


ヨーヘイ:「……腕は、いいのか。その、先生は」


ニナ:「すごいよ。誰にも作れないものを、作れる。……ただ、変わってるから。お金持ちにも、偉い人にも、媚びないから。だから、目を、つけられた」


 それ以上は、ニナも、詳しくは知らないようだった。子どもの口から聞ける話は、そこまでだった。けれど、ヨーヘイには、輪郭が、見えてきた。腕は本物。変わり者。権力に屈せず、そのせいで、揉め事の真ん中にいる。ベルネで、ギルダが言っていた人物と、やはり、同じだ。


 ニナは、ぺこりと頭を下げて、人混みの中へ、駆けていった。串の礼の代わりのように、フィンの頭を、ひとつ、撫でて。



◆ 路地から



 日が、傾いた。


 売る肉も、尽きた。ヨーヘイは、屋台を畳み、火を落とした。客は散り、広場は、夕方の、別の顔に変わりはじめている。一日、火の前に立ちっぱなしだった足は、重かったが、収穫は、あった。調合師の輪郭。それを巡る、王都の、込み入った力関係。明日、どこを叩けば、本人にたどり着けるか。その道筋が、おぼろげに、見えてきていた。


 宿への帰り道。


 人通りの絶えた、細い通りに、入ったときだった。


 フィンが、ヨーヘイの肩の上で、ぴくり、と、耳を立てた。前の路地の、暗がりのほうへ、向けて。


フィン:「キュ……」


 低い、警告の声。ヨーヘイが、足を止めるのと。


 路地の角から、人影が、飛び出してくるのが。


 同時だった。


 その人影は、ヨーヘイの存在に気づくのが、遅れた。よけきれず、ヨーヘイの胸に、頭から、ぶつかってくる。


 もつれて、相手が、石畳に、倒れ込んだ。


 フードが、外れた。荒い息。肩が、大きく、上下している。ずいぶん、長く、走ってきたらしい。倒れたまま、その人物は、自分が飛び出してきた路地の奥を、ちらりと、振り返った。何か――誰かが、追ってくるのを、たしかめるように。


 まだ、追われている。今、この瞬間も。


 そして、顔を、上げた。


 ヨーヘイと、目が、合う。


 その一瞬。耳の奥で、いつもの、抑揚のない声が、告げた。


解析:「……調合師です」



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【第74話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:31(戦闘なし・据え置き) HP:504/504 MP:244/244


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《料理》96→97(王都の香辛料を手持ちの肉に合わせ、地方では出せない一串に仕立てた)


▼ 本話の収支

・収入:屋台の売上=370枚(王都の人出・羊/オークの串)

・支出:食材・香辛料の仕入れ=120枚/王都の宿(三人・もう一泊)=180枚

・本話終了時手持ち:16,361枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・消費:ツノヒツジの肩・オークのロース(屋台で串に。ほか部位は換金待ち継続)

・残:ツノヒツジのロース・モモ・スネ・心臓・角・毛皮(羊毛・換金待ち)/イワキバのロース塊/イワドリの砂袋(砂肝)/岩牙の大牙・厚皮(換金待ち)/オーク各部位/粗皮・粗末な武器(換金待ち)/イワクイのC魔石(大)・装甲(換金待ち)/セーフゾーンの実

・変動なし:上記以外の持ち物


▼ 本話の出来事

・王都で迎える二度目の朝。ヨーヘイが役所前の掲示で「訴訟中」の輪郭を確かめる。係争の一方が例の調合師、もう一方は相当の後ろ盾を持つ家。詳細は板には出ていない。リリアは役人の目を避け、フードを目深にする

・正面から役所に当たらず、ヨーヘイは「火を熾して人と噂を集める」自分のやり方を選ぶ

・人の集まる広場の隅で屋台を出す。手持ちの羊・オークの串に王都の香辛料を合わせた一串。フィンが客寄せになり、人だかりができる。ルカが味見にはまる

・旅人の客が「西の街道に、うまい羊を焼く屋台が出ると聞いた」=以前の野営地の口コミが王都まで届いていた。常連の手代が「噂を集めるために焼いてるのか」とヨーヘイのやり方を見抜く

・痩せた腹ぺこの娘が屋台の隅に。腹の虫が鳴く→フィンが串を鼻先で押しやる→ヨーヘイが値も訊かず一串差し出す→娘の警戒がほどける。娘はニナと名乗り、薬草の使い走りだと言う

・客が「あの訴訟沙汰の調合師は終わり」と噂する→ニナが「先生は悪くない。良くないものを良くないと言っただけ」と言い返す。ヨーヘイが飯の延長で調合師の輪郭を聞き出す=腕は本物・変わり者・権力に媚びず目をつけられた

・日が傾き、屋台を畳む。宿への帰り道、人通りの絶えた細い通りで、フィンが先に路地の暗がりへ耳を立てる

・路地の角から人影が飛び出し、ヨーヘイの胸にぶつかって倒れる。荒い息、追われてきた様子で、飛び出した路地の奥を振り返る。顔を上げた一瞬、解析「……調合師です」


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 調合師の、輪郭が、見えてきました。腕は本物で、変わり者で、偉い相手に媚びなかったせいで、揉め事の真ん中にいる。ベルネで聞いた人物と、やはり同じです。役所の貼り紙とにらめっこするより、火を熾したほうが、ずっと早く、話が集まりました。腹を空かせた人間のいるところには、必ず、誰かが、何かを喋りにきます。私のやり方は、たぶん、これで、合っています。


 ニナという、痩せた娘が、来ました。串を一本、出しただけです。それだけのことで、あんな顔をして、食う。あの顔を見られるなら、火の前に一日立つくらい、なんでもありません。私が出したい店は、たぶん、ああいう一皿を、当たり前に出せる場所なんだと思います。


 ルカは、相変わらず、売り物に手を出していました。あいつの病に、治る道がついた。その先にいる人に、もう少しで、手が届く。そう思っていた、まさにその帰り道に、向こうのほうから、転がり込んできました。捜していた、その本人が。


 ただ、様子が、おかしい。追われています。今、この瞬間も。……どういうことなのか、これから、確かめます。記録、お願いします。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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