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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
5章 「治してもらう、はずだった。」

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第73話 王都に、着いた。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 門が、立っていた



 街道を、何日も歩いた。


 ベルネを発ってからの道のりは、長かった。野営を重ね、川を渡り、丘をいくつも越えた。追っ手の夜のことは、誰も口に出さなかったが、忘れてもいなかった。それでも日が昇るたび、一行は西へ、西へと進んだ。


 そして、その朝。


 なだらかな丘を登りきった一行の目の前に、それは、あった。


 城壁だった。地平の端から端まで、灰白色の壁が、横たわっている。いや、横たわるという言葉は、正しくない。それは、空へ向かって、立っていた。今まで見てきたどんな砦よりも高く、どんな街の塀よりも分厚い。壁の向こうには、無数の屋根が幾重にも連なり、その奥に、塔がいくつも突き出している。鐘楼。尖塔。旗。朝靄の中で、街そのものが、ひとつの生き物のように、息づいて見えた。


 そして、街道の正面に、口を開けるように、巨大な門があった。


ルカ:「……うそやん」


 ルカが、馬車の幌から身を乗り出して、ぽかんと口を開けていた。


ルカ:「うそやん。これが……王都……?」


 声が、かすれていた。からかうでもなく、はしゃぐでもなく、ただ、圧倒されていた。ファスト村も、ベルネも、ルカにとっては十分に「街」だった。けれど、目の前にあるものは、それらとは、桁が違った。


ヨーヘイ:「……でかいな」


 ヨーヘイも、それしか言えなかった。


 門へ近づくにつれて、人の流れが、太くなっていく。荷馬車の列。歩く商人。荷を担ぐ人足。隊商らしき一団。みな、この一つの口へ、吸い込まれていく。門のそばには、槍を持った衛兵が並び、出入りする者をさばいていた。


 順番が来て、ヨーヘイは御者台から、ギルドカードを差し出した。衛兵がそれを一瞥し、面倒そうに顎をしゃくる。


衛兵:「冒険者か。通れ。荷の検めは、奥でやる」


 入場の銭は、求められなかった。カード一枚が、ここでも、働いた。村の門で銭がなくて足止めされたのが、ずいぶん昔のことのように思えた。


 リリアは、馬車の上から、門を見上げていた。


 その横顔が、いつもより硬い。あの夜、彼女が口にした名前を、ヨーヘイは覚えていた。この街と、関係がある場所。リリアにとって、ここは、ただの大きな街では、ないのだろう。けれど、彼女は何も言わなかった。ヨーヘイも、訊かなかった。


 門の影が、馬車の上を、ゆっくりと滑っていった。


ヨーヘイ内心:(……蓮なら、この門を見上げて、口を開けたまま固まっているだろうな)


 そう思うと、少しだけ、肩の力が抜けた。



◆ 人の、海



 門をくぐると、世界が、変わった。


 目抜き通りは、馬車が三台、横に並んでも余るほど広く、それが人で、埋まっていた。肌の色も、背丈も、装いも、ばらばらだった。仕立てのいい外套を翻す者。袖をまくった職人。頭巾を目深にかぶった旅人。背の低い、髭の濃い一団――ドワーフだろうか。とがった耳をのぞかせた者の姿も、人混みに紛れていた。種族も、身分も、何もかもが、一つの通りに、混ざり合っている。


 声。荷車の軋み。鐘。蹄。物売りの呼び声。匂い。すべてが、洪水のように押し寄せてきた。


 フィンが、荷台の上で、ぴたりと足を止めた。


 いつもは真っ先に飛び降りるのに、今日は、動かない。耳を伏せ、尻尾を体に巻きつけて、人の波を、じっと見ている。


フィン:「キュウ……」


 心細げな声を漏らすと、フィンは、とっとっと荷台を駆けて、ヨーヘイの肩へ、よじ登ってきた。首元に、小さな体を、ぴったりと押しつけてくる。


ヨーヘイ:「なんだ、お前。あんな魔物が相手でも平気なのに、人混みは怖いのか」


 苦笑して、ヨーヘイは首をすくめた。フィンの鼻先が、耳のうしろを、くすぐった。


 ところが、しばらく行くと、フィンの鼻が、ひくり、と動いた。


 通りの脇から、香ばしい匂いが流れてくる。串に刺した肉を、炭火であぶる、あの匂いだ。フィンの耳が、ぴんと立った。さっきまでの心細さは、どこへやら、肩の上から身を乗り出して、屋台のほうへ、ぐいぐいと首を伸ばしはじめる。


フィン:「キュッ! キュッ!」


ルカ:「……あ、ずるい。うちも、あれ食べたい」


 我に返ったルカが、フィンにつられて、屋台のほうを見ていた。圧倒されて口を開けていた顔は、もう、いつものルカに戻っていた。


ヨーヘイ:「現金なやつらだな、二人とも」


 ヨーヘイは、笑いながら、けれど、その目は、料理人の目に戻っていた。


 通りに並ぶ屋台の品を、ひとつずつ、見ていく。串焼き。揚げ物。汁物。見たことのある肉もあれば、見たことのない肉もある。香辛料を売る店先には、赤や黄や茶の粉が、山のように積まれていた。あれだけの種類の香辛料が、当たり前のように並んでいる。それだけで、この街が、どれほどの物と人を呑み込んでいるかが、知れた。


 市場の一角では、見たこともない、青みがかった大きな魚が、氷の上に寝かされていた。海のものだ。海から、これだけのものを、傷ませずに運んでくる流通が、ここにはある。ヨーヘイの指が、無意識に、その魚の身の厚みを、測っていた。脂の乗り方。皮の張り。鮮度。塩を当てて、皮目だけ強火で炙ったら、どんな香りが立つだろう。隣の籠には、丸々と太った鶏らしき鳥が吊られ、その奥では、見覚えのある赤身の肉が、塊のまま、鉤に掛かっていた。村の市場なら、ひと月かけて集まるだけの種類が、この一角だけで、無造作に積まれている。


 値を読み、品を読み、人の財布の太さを読む。料理人の頭が、勝手に、そろばんを弾きはじめていた。城の高さでも、塔の数でもない。市場の品揃えと、人の食う速さこそが、ヨーヘイには、この街の大きさを、いちばん正直に教えてくれた。


ヨーヘイ内心:(これだけ腹を空かせた人間がいる街だ。……ここで一軒、煙を上げられたら、どんな顔をして食うんだろうな)


 そんなことを考えて、ヨーヘイは、小さく頭を振った。今は、それどころではない。


 ふいに、どこか高いところで、鐘が鳴った。


 澄んだ、長く尾を引く音だった。教会の鐘だ。


 リリアが、足を止めた。


 胸元へ、そっと手をやる。いつも身につけている、小さな聖印に触れ、それを、握り込むように、外套の内へ隠した。鐘の音が消えるまで、彼女は、動かなかった。


 ヨーヘイは、それを、見ていた。けれど、やはり、何も言わなかった。


 人の海の中では、あの夜の気配も、もう、たどれなかった。これだけの人がいれば、誰が誰を見ていても、わからない。追われているのか、いないのか。それすら、この雑踏は、覆い隠してしまう。安心していいのか、警戒すべきなのか。ヨーヘイには、判断がつかなかった。



◆ 飯の、匂いから



 まず、宿を取った。


 通りから一本入った、中堅どころの宿だった。王都の宿は、地方の倍は取った。三人で一泊、それなりの銭が飛んでいく。けれど、ここを拠点に動くなら、けちっても仕方がない。フィンとカゼは、宿の裏手の厩に、落ち着けてもらった。


 荷を置くと、ヨーヘイは、さっそく街へ出た。


 訊きたいことは、決まっていた。腕のいい調合師。それも、相当に腕の立つ、特別な調合ができる者。けれど、それを、どう探すか。役所に行って、「すごい調合師はいませんか」と訊いて回るわけにも、いかない。


 ヨーヘイのやり方は、決まっていた。飯の匂いから、たどる。


 屋台のおやじに、串を二本買いながら、世間話のついでに訊く。市場の女将に、香辛料を見繕いながら、訊く。宿に戻れば、賄いを作る婆さんと、鍋の話をしながら、訊く。料理人どうしの話は、どこでも、転がりが早い。そして、街の噂は、たいてい、台所と屋台に、いちばん早く、流れ着く。


屋台のおやじ:「調合師ねえ。そりゃ、掃いて捨てるほどいるさ。傷薬を煮てる程度のなら、そこらじゅうに」


ヨーヘイ:「いや、そういうのとは違うんです。……こう、誰にもできないような物を、作れる人を、探していて」


 おやじは、串をひっくり返しながら、少し考えた。


屋台のおやじ:「……ああ。そういう、変わったのが、一人、いるにはいるな。腕は、本物だって聞くよ。ただ……まあ、今は、いろいろあるみたいでね」


ヨーヘイ:「いろいろ?」


屋台のおやじ:「さあ。あたしも、又聞きさ。詳しくは知らないよ」


 それ以上は、出てこなかった。けれど、糸口は、つかめた。変わった、腕は本物の調合師。それは、ベルネで、ギルダの口からも聞いた言葉と、同じだった。同じ人物を、指しているのだろう。


 ヨーヘイは、串をかじりながら、宿への道を、ゆっくりと歩いた。


ヨーヘイ内心:(……近づいてる)


 ルカの病に、初めて、治る道筋がついた。その道の先に、この街の、その調合師がいる。まだ、名前も、顔も知らない。それでも、ここまで来た。村を出て、いくつもの街を巡って、やっと、その入口の前に立った。


ヨーヘイ内心:(蓮。おれは、まだ、こっちにいる。……やることが、できてしまったからな)


 宿の窓から、ルカの笑い声が、聞こえた。リリアの、低い相槌も。ヨーヘイは、その声のするほうへ、足を速めた。



◆ 名前



 その夜。


 ルカもリリアも寝静まったあと、ヨーヘイは、一人、宿の窓辺に座っていた。


 今日一日で、耳に入れた言葉を、頭の中で並べてみる。屋台のおやじ。市場の女将。賄いの婆さん。何人もが、ばらばらに口にした、断片。腕は本物。変わり者。今は、いろいろある。


 その断片が、頭の奥で、ひとつに、編まれていく感覚があった。


ヨーヘイ:(解析さん。……今日聞いた話、まとめられますか)


 しばらくの、沈黙。それから、いつもの、抑揚のない声が、応えた。


解析:「……照合しました。複数の証言が、同一の人物を指しています。……調合師の名前、聞きました」


 ヨーヘイの、背筋が、伸びた。


ヨーヘイ:「誰ですか」


 窓の外では、王都の灯が、まだ、いくつも揺れていた。眠らない街の、ざわめきが、遠く聞こえる。その向こうのどこかに、探している相手が、いる。


 解析は、一拍置いて、言った。


解析:「……現在、訴訟中です」



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【第73話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:31(戦闘なし・据え置き) HP:504/504 MP:244/244


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・変動なし(戦闘・解体・新しい料理の発見はなし。情報収集の一日)


▼ 本話の収支

・収入:なし(本話は屋台を出さず、聞き込み中心)

・支出:王都の宿(三人・一泊)=180枚(地方より割高)

・本話終了時手持ち:16,291枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・消費:屋台の串を数本(聞き込みの場で購入・少額のため手持ちの端数で処理)

・残:ツノヒツジのロース・モモ・肩・スネ・心臓・角・毛皮(羊毛・換金待ち)/イワキバのロース塊/イワドリの砂袋(砂肝)/岩牙の大牙・厚皮(換金待ち)/オーク各部位/粗皮・粗末な武器(換金待ち)/イワクイのC魔石(大)・装甲(換金待ち)/セーフゾーンの実

・変動なし:上記以外の持ち物

・※王都の買取所・競売場の利用は、まだ。換金は落ち着いてから


▼ 本話の出来事

・街道を抜け、丘の上からエルディア王都を初めて目にする。地平を覆う城壁と無数の塔。ルカ「うそやん、これが王都……」

・ギルドカードで入場(入場の銭は不要)。リリアが大門を見上げる横顔が、いつもより硬い

・目抜き通りの雑踏。多種族・多身分が一つの通りに混ざり合う。フィンが人混みに戸惑って肩へよじ登る→屋台の匂いで持ち直し、串焼きへぐいぐい首を伸ばす→ルカも我に返ってつられる

・ヨーヘイが料理人の目で王都を測る。香辛料の山、見たことのない海の魚=呑み込む物と人の桁違いさ

・教会の鐘が鳴る→リリアが足を止め、胸元の聖印を握って外套の内へ隠す(無言)

・人の海の中で、追っ手の気配はもう、たどれない

・宿を取り、ヨーヘイが屋台・市場・宿の賄いから「腕は本物の変わった調合師」「今はいろいろあるらしい」の噂を、飯の話の延長で拾う=ベルネでギルダが言った人物と一致する手応え

・ルカの治療への道が、初めて入口の前に立つ

・夜、解析が断片を照合→「調合師の名前、聞きました」→ヨーヘイ「誰ですか」→解析「現在、訴訟中です」


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 着きました。王都です。話には聞いていましたが、あんなものだとは、思っていませんでした。門の前で、ルカが口を開けたまま固まっていました。私も、人のことは言えません。あれだけの人と、物が、一つの街に流れ込んでいる。市場を見ただけで、めまいがしそうでした。


 フィンが、人混みを怖がっていました。あんなに頼りになるやつが、です。それが、串焼きの匂いひとつで、立ち直りました。あいつの、ああいうところが、私は、嫌いではありません。


 リリアさんが、鐘の音に、足を止めました。胸の印を、隠すようにして。あの夜のことと、関係があるんでしょう。訊きませんでした。話してくれるときが、来たら、聞きます。


 調合師の噂を、拾いました。腕は本物で、変わった人で、今は、何か面倒を抱えているらしい。ベルネで聞いた人物と、同じだと思います。ようやく、入口の前まで、来ました。ルカの病に、治る道がつきます。そう思った矢先に、解析さんが、妙なことを言いました。その調合師は、今、訴訟中だ、と。……どういうことなのか、明日、確かめます。記録、お願いします。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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