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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第63話 上層を、抜けた。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 下、と思った手は、もう動いていた



 下、と思った。思った時には、もう刃を振っていた。


 下へ行くには、まず目の前を片付けるしかない。それだけのことだった。岩床に鼻をつけたフィンの唸りも、足元から昇ってくる冷たいものも、いったん背中へ回す。ヨーヘイは《瞬歩》で間合いを詰め、湧き出てきたモグラの首の付け根を、二刀の片方で裂いた。


ヨーヘイ:「リリア、左の列が厚い!」


リリア:「はい――面で止めます」


 リリアの掌から淡い光が横へ広がり、押し寄せる影の勢いが、見えない壁でたわんだ。その一瞬を、ヨーヘイは縫った。


ルカ:「ヨーヘイ、下まで行かな終わらへんのやろ? なら、上で詰まっとる場合ちゃうで!」


ヨーヘイ:「分かってる! だから抜ける!」


 ルカの炎が坑道の壁を舐めて横に走り、湧きの列の側面を炙った。怯んだ列の隙間へ、ザイドたち先発隊の槍が横から突き刺さる。昨日まで入口で受け止めるだけだった寄り合いが、今日は前へ出ていた。タン一切れの貸し借りが、背中を預ける距離を、たしかに縮めていた。


 その列の後ろから、見慣れない影が、跳ねるように出てきた。


 鳥だった。飛べない鳥だ。膝から腰ほどの背丈で、翼は小さく退化し、羽毛は鉱物の粉をかぶって鉄灰色に鈍く光っている。太く硬い嘴を、まっすぐヨーヘイへ突き出してきた。


ザイド:「鉱山の鳥だ、イワドリ。肉も羽も石まじりで使いもんにならねえ。蹴り倒して進め!」


 ヨーヘイは横へ抜けながら、その嘴の軌道を見た。速くはない。けれど重い。岩を突くための嘴だ。



◆ 抜けられる、という手応え



 イワドリは、群れで来た。


 数羽が前後して跳ね、太い脚で蹴り、硬い嘴で正面から突いてくる。飛べない代わりに、地を蹴る踏み込みが鋭い。ヨーヘイは一羽の嘴を二刀で受け流し、衝撃で手首が痺れた。岩を割る嘴だ、まともに受ければ骨に来る。


解析:「……イワドリ。弱点は首の付け根、嘴を支える筋の下です。正面は避けてください」


ヨーヘイ内心:(正面が硬い相手は、横から入る。いつもどおりだ)


 ヨーヘイは半歩だけ横へずれ、嘴が空を突いた刹那に、首の付け根へ刃を滑らせた。手応えは、鳥にしては重い。フィンが匂いで次の一羽の位置を取り、「キュッ」と短く鳴いて死角を埋める。リリアの面が群れの勢いを止め、ルカの炎が逃げ場を塞ぐ。


ルカ:「うわ、こいつら硬いな! 石食うとるからか!?」


ヨーヘイ:「だろうな。けど、抜けられる!」


 倒した先から、また湧く。それは62と同じだった。違うのは、捌いた数のぶんだけ、確かに前へ進めていることだった。止まらない湧きは、止まらないまま、けれど道は開いていく。ヨーヘイは二羽目のイワドリを倒し、解体用に二体、収納へ落とした。


 ただ、進むほどに、解析の声から、軽口が消えていった。


解析:「……下層の方向に、感知が反応しています。……断続的に」


ヨーヘイ内心:(漫才の余白が、また減ってきたな)


 フィンは、目の前の鳥より、足の下を気にし続けていた。



◆ 鉄の、味がした



 横坑の窪みに退いて、ようやく息がついた。


 ヨーヘイは収納からイワドリを一体出し、平らな岩の上に置いた。せっかく倒した鉱山固有の獣だ。捨てると言われたものほど、確かめてみたくなる。


 まず、皮と羽を剥ぐ。これが、思った以上に厄介だった。羽毛の根元に鉱物の粉が固まり、薄い殻のようになって皮へ張りついている。刃を入れるたびに、砕けた石が刃先を鈍らせ、ざりっと嫌な感触が手に返ってきた。料理人の手より、石工の手に近い作業だった。それでも、殻を割るように剥いでいくと、下から現れた肉は、意外なほど赤かった。


 血抜きをする。出てきた血は、赤黒く、濃かった。鼻を近づけると、鉄の匂いがした。獣脂の甘い匂いではなく、舐めた釘のような、土と金気の混じった匂いだ。


ヨーヘイ内心:(脂は、少ないな。けど、この赤身は――)


解析:「……もも、むね、ともに食用可能。鉱物まじりの餌のせいで、血と鉄分が濃く出ています」


 部位を分ける。もも、むね、骨、そして――腹を開いて、ヨーヘイの手が止まった。


 砂袋だ。鳥の砂袋。握ると、中でじゃりっと音がする。石が、詰まっている。


ヨーヘイ内心:(これは、さすがに捨てだろう。石が入ってる袋だぞ)


解析:「……いいえ。中身を出して洗えば、可食です。むしろ、鉱山の鳥の砂袋は、こりこりして良いかと」


ヨーヘイ内心:(石を食う鳥の、石の入った袋を、洗って食え、と)


 ヨーヘイは少し笑って、砂袋を裂いた。詰まった砕石を出し、内側の硬い銀皮を外し、水で洗うと、手のひらに残ったのは、ぷりっとした濃い赤茶の身だった。鶏の砂肝と、同じ顔をしていた。


 七輪に炭を熾し、まずもも肉を岩塩で焼いた。脂が少ないぶん、煙は控えめだ。けれど、焼けた表面から立った匂いは、強かった。噛むと、肉汁ではなく、血と鉄の濃い旨みが、後から後から出てくる。


ヨーヘイ内心:(これは……鴨だ。鴨の、血の濃いやつだ。脂で食わせるんじゃなくて、鉄の味で食わせる肉だ)


 続けて砂肝を串に刺し、塩を振って炭に近づけた。表面が乾いて、縁がきゅっと締まる。口に入れると、こりっ、こりっと、歯が小気味よく弾かれた。鉄気の赤身と、こりこりの砂肝。これは、鉱山でしか出ない味だった。


ザイド:「……」


 ザイドが、串の一本に手を伸ばしていた。砂肝を一口噛んで、眉間に皺を寄せ、それから、その皺が途中でほどけた。


ザイド:「……石、洗えば食えんのか、これ。何年も、屑だと思って蹴ってたぞ」


ヨーヘイ:「屑じゃないです。鉄の味のする、いい鳥です」


ヨーヘイ内心:(砂肝も、品書きに要るな。鉄気の赤身と、こりこりの砂袋。鉱山でしか出ない一皿だ。いつか、椅子のある店で出す)


 フィンが、鉄の匂いに鼻をひくつかせて、「キュッ」と鳴いた。食欲の方向の鳴き方だ。ヨーヘイは赤身を少し裂いて、フィンの前に置いた。


ヨーヘイ内心:(蓮は、血の味のする肉を嫌がったな。これは、好きになるか、泣くか、どっちかだ)


 ルカが、もも肉を噛みながら、坑道の奥を見た。


ルカ:「……こんな旨いもんが、屑扱いで湧いとる場所が、こんな不穏でええんかな」


 誰も、答えなかった。



◆ 底が、見えない



 力を入れ直して、上層の奥へ進んだ。


 不思議なもので、湧きが目に見えて減っていた。捌いた数が、ようやく湧く数を追い越したのだ。ザイドが、槍を担ぎ直して、低く言った。


ザイド:「……昨日まで、一歩も進めなかった坑道だぞ。それを半日で抜けちまった。あんたら、何者だ」


ヨーヘイ:「ただの、流れの料理人です」


ザイド:「料理人が、Dグレードの鳥の砂袋を品書きにするか」


 ヨーヘイは答えず、奥を見た。抜けた。上層は、抜けた。けれど、抜けたという手応えと裏腹に、解析の声は、さらに口数を減らしていた。


解析:「……下層の反応、強くなっています。……ですが、輪郭が、出ません」


 リリアが、聖属性の淡い光を、進む先の闇へ翳した。光は、数歩で吸われた。壁にも、床にも、届くべきものに届いて返ってくるのに、その先だけが、底を見せなかった。


ヨーヘイ内心:(光が、戻ってこない。あの闇だけ)


 フィンの鼻先と耳は、もう完全に、足の下と、その奥へ向いていた。


 逃げようと思えば、ここで引き返せた。上層は抜けた。依頼の体裁としては、もう十分だ。けれど、湧きの元は、まだ下にある。元を断たなければ、何度でも同じことが起きる。ヨーヘイは、引き返さなかった。見えないほうへ、自分の足で進んだ。



◆ 返って、こない



 上層を抜けた先、岩の割れ目の奥に、それはあった。


 下層へ落ちていく、縦坑だった。人ひとりがやっと通れる幅で、底は見えない。冷たいものが、そこから、ゆっくり昇ってきていた。


 フィンが、真っ先にその縁へ寄り、底へ鼻を向けた。


ヨーヘイ:(解析さん。下、見えますか)


解析:「……下層への通路があります。ただし――業務の範囲内で申し上げますと、この先は、“見えなくなる”のではありません。測りに行った値が、“返ってこない”状態です」


ヨーヘイ:(返ってこない?)


解析:「……はい。感知が、届きにくくなっています。……初めての状態です」


ヨーヘイ内心:(見えない、より、たちが悪い。それ、いちばん怖いやつだ)


 フィンが、縦坑の縁で底へ鼻を向けたまま、喉の奥から、聞き慣れた、けれどいつもより深い唸りを漏らした。


フィン:「キュウウッ……」


 ヨーヘイは、自分の足元に開いた穴の、その底の見えなさを、しばらく見ていた。上層は、抜けた。けれど、この先は、誰の目にも、解析の声にも、見えない。


 冷たいものが、また、下から昇ってきた。



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【第63話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:28(上層クリアの連戦で上昇) HP:468/468 MP:226/226


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《解体》Lv3 14/100(鉱山固有種イワドリの初解体で進展)

・《料理》Lv2 94/100(新食材=鉄気の赤身・砂肝で微増)

・《瞬歩》Lv2 11/100(上層連戦で微増)

・《二刀流》Lv1 21/100(連戦で微増)

・その他:変動なし


▼ 本話の収支

・収入:なし(上層クリアの報酬は、スタンピード討伐依頼の達成に合算予定)

・支出:なし

・本話終了時手持ち:5,211枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・追加:イワドリのもも・むね・砂袋(砂肝)・骨(残)

・残:岩牙のロース塊(残)/岩牙の大牙・厚皮(換金待ち)/オーク各部位(残)/粗皮・粗末な武器(換金待ち)

・変動なし:上記以外の持ち物


▼ 本話の出来事

・62話末の「下、か」を引き継ぎ、上層の魔物を連戦で捌き切って前進。ザイド先発隊との連携が噛み合い、止まらない湧きを抜ける道に変える

・湧きに混じって鉱山固有種イワドリ(飛べない鳥型)と初遭遇・初討伐。弱点は首の付け根(解析鑑定)

・横坑でイワドリを初解体。鉱物クラストの皮を剥ぎ、鉄気の濃い赤身を発見。捨てると思った砂袋(砂肝)が、石を出して洗えばこりこりの珍味になる発見=鉱山ならではの一皿。ザイドも「屑だと思っていた」と感心

・上層を踏破。「昨日まで一歩も進めなかった坑道を半日で抜けた」とザイドが外から評価

・末尾=下層への縦坑を発見。解析「下層は感知が届かない/値が返ってこない/初めての状態」。フィンが縁で底へ鼻を向け唸る


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 上層を、抜けました。62話で「下、か」と思ったあの続きを、まず目の前から片付けることで、ようやく前へ進めました。倒しても倒しても湧いてくるのは同じでしたが、捌いた数のぶんだけ、今日は道ができました。ザイドさんたちと、背中を預ける距離が、タン一切れぶん、縮まっていたおかげです。


 鉱山の鳥を、食べました。イワドリというそうです。石まじりで使いものにならない、と何年も蹴ってきた相手だと、ザイドさんは言いました。剥いでみると、皮に石の殻が張りついていて、刃が何度も鈍りました。それでも下から出てきた肉は、赤くて、血と鉄の濃い匂いがしました。脂で食わせる肉ではなく、鉄の味で食わせる肉でした。鴨の、血の濃いやつに似ています。


 砂袋は、捨てるつもりでした。石が詰まっていたからです。あなたが「洗えば食える」と言ったときは、石を食う鳥の、石の入った袋を洗って食えと言われて、少し笑いました。けれど、洗って焼いた砂肝は、こりこりと小気味よくて、たしかに、鉱山でしか出ない味でした。捨てると思ったものほど、確かめる価値があるんですね。これも、料理だと思います。


 下層への通路を、見つけました。けれど、あなたの感知が届かないと、あなたは言いました。見えないのではなく、測りに行った値が返ってこない、初めての状態だと。見えないより、たちが悪いです。引き返せる場所でしたが、引き返しませんでした。湧きの元は、まだ下にあります。怖くないと言えば、嘘になります。でも、行きます。返ってこない先に、何があるのか。確かめてから、また記録します。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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