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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第60話 大きいのが、来た。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 退く



 地鳴りが、近づいてくる。


 昼間に捌いた一群の震えとは、まるで重さが違った。土が、足の裏で波打っている。焚き火の灰がかたかたと跳ね、カゼが耳を伏せて低くいなないた。闇の向こう、地平の際に、面としての影が広がっている。その先頭に、ひとつだけ、群れのどれとも違う大きな影。


ヨーヘイ:(解析さん。あの、大きいのは)


解析:「……照合を更新しました。Dグレード相当の大型獣。鉱山の深部に生息する個体かと」


ヨーヘイ内心:(Dグレード。一度しか勝ってない相手だ)


 その一度も、リリアの聖属性と運と地形が噛み合って、ようやくだった。正面から殴り合える格ではない。ヨーヘイは野営地をぐるりと見た。開けた草地だ。四方から来られたら、数に飲まれて終わる。


ヨーヘイ:「畳みます。荷台はそのまま。西の切り通しまで退く」


ルカ:「逃げるん!? 大きいの来てんのに!?」


ヨーヘイ:「退いて、挟みます。あそこなら道が細い。一度に来られる数が減る」


ルカ:「……かっこつけたな、今」


ヨーヘイ:「褒めてます?」


ルカ:「半分や」


 カゼに荷台を引かせ、街道を西へ走った。背の暗がりで、群れの本流が二つに割れるのが分かる。大きいほうは街道の細道へ――こちらへ。残りは、東の最初の街の灯りへ向かっていく。


解析:「……群れの主力、最初の街へ。ドレン氏ら、応戦態勢に入りました」


ヨーヘイ:「街は」


解析:「……持ちこたえる見込み。城壁と冒険者で対応可能な規模です」


ヨーヘイ内心:(なら、こっちは大きいのを通さない。それだけだ)



◆ 切り通し



 切り通しは、両側を高い岩壁に挟まれた細道だった。


 荷台を奥に寄せ、カゼを岩陰に繋ぐ。フィンが先に立って、道の入口へ鼻先を向けた。リリアが槍を構え、ルカが両手を軽く開く。狭い。岩壁が群れを細く絞ってくれる。一度に来られるのは、せいぜい二、三体だ。


ヨーヘイ:(解析さん。正面からやって、勝てるか)


解析:「……正面戦闘での勝率、低。推奨は地形と連携。業務の範囲内です」


ヨーヘイ内心:(範囲内の顔して、勝率低って言ったな)


 大型獣が、来た。


 岩壁の幅いっぱいに、鉄灰色の巨体が押し込んでくる。肩までヨーヘイの背丈ほど。上顎から、湾曲した一対の大牙が突き出している。岩のように硬い厚皮。鼻面で岩肌を削りながら、低く唸って突進してきた。


ヨーヘイ:「リリさん、足を止めて!」


リリア:「……はい」


 リリアの槍に白い光が走り、踏み込みざまに大型獣の前脚を薙いだ。聖属性が、突進の勢いを削ぐ。完全には止まらない。だが速度が落ちた。その隙に、ルカの炎が群れの後続――細道で詰まったゴブリンの列を、線になって貫く。


ルカ:「後ろは抜いた! 大きいのに集中して!」


 厚皮は、正面から斬れない。ヨーヘイは二振りの中剣で受け流しながら、皮の薄い場所を探した。関節。腹。口の中。解析が部位を読み上げてくる前に、体が先に動いている。


 大型獣が、ふいに頭を低くした。


 地面に、牙を突き立てる。


ヨーヘイ内心:(潜るのか――)


 巨体が土の中へ消えた。鉱山の獣だ。掘る。地面の下から、牙で突き上げてくる。どこから来る。足元の土が、震えている。広い。読めない。


フィン:「キュウッ!」


 フィンが地面に鼻をつけ、一点を見て鳴いた。ヨーヘイの右斜め前。


 考えるより先に、体がそこを避けた。


 次の瞬間、避けた場所の土が爆ぜて、大牙が突き上がってきた。狙いどおりなら、ヨーヘイの胴を貫いていた位置だ。フィンの一声が、半歩を作った。


ルカ:「……今、また聞こえた。『今だ』って。……なんやのこれ、ほんま」


 ルカが一瞬、自分の耳のあたりに手をやって怯んだ。ヨーヘイは答えない。答える間も、認めるつもりもない。半分だけ土から出た大型獣の、開いた口――その内側の柔らかい肉へ、《瞬歩》で潜り込んだ。


ヨーヘイ:「ここだ」


 二刀を、口の奥へ突き込んだ。


 大型獣が、痙攣した。岩を削る咆哮が、切り通しに反響する。それから、ゆっくりと崩れ落ちた。土埃が舞い上がって、静かになっていく。残ったゴブリンは、主を失って後ずさり、闇へ散っていった。


解析:「……討伐確認。負傷、軽微です」


 ヨーヘイは肩で息をしながら、剣を下ろした。背後で足音。最初の街のほうから、ドレンが数人の冒険者を連れて駆けてくる。街の群れも退けたらしい。ドレンは崩れた巨体を見上げて、口を半分開けた。


ドレン:「……岩牙を、四人で。あんたら、本当に何者だ」


ヨーヘイ:「料理人です」


ドレン:「料理人が、岩牙を倒すか」


ヨーヘイ:「倒したら、肉です」


 ドレンが、今度こそ言葉を失った。



◆ 牛だ



 夜が明ける前から、解体にかかった。


 岩牙――この街では、岩を砕く牙からそう呼ぶらしい――の体は、これまでのどの獲物より大きく、重かった。ヨーヘイは巨体の前に立って、一度だけ手を止めた。人型ではない。獣だ。なら、捌く。線はそこにある。


 まず、皮を剥いだ。


 厚皮は、ノゲジカやオークの比ではなかった。刃を入れても、すぐには通らない。岩肌のような硬さの下に、分厚い脂の層がある。肩から背へ、体重をかけて少しずつ剥いでいく。剥がれた皮が、湯気を立てた。外の冷気と、体内に残った熱の差だ。匂いは、獣のそれだった。血と脂の、濃く重い匂い。


 次に、血を抜いた。


 大型ゆえ、量が多い。傷口を下にして、地面の傾きへ流す。黒く近い赤が、土に吸われていく。なまなましい。だがヨーヘイの手は、止まらなかった。血を抜き切れば、臭みは抜ける。それは現代の厨房でも、この世界の野営地でも、変わらない理屈だった。


解析:「……血の処理、適切です。臭みの主因は除去されます」


 部位を、塊で取り分けた。


 大きすぎて、細かくは分けられない。背の長い筋肉――ロースの塊。腹の、脂の重なったバラ。後ろ脚の、もも。舌は、付け根からそっくり外した。タンだ。重い。両手でやっと持ち上がる。


ヨーヘイ内心:(これは、牛だ)


 豚でも、鹿でもない。脂の乗りも、肉の繊維の太さも、手の中の重さも、牛に近い。ヤキボアの旨い脂とも、ノゲジカの淡い赤身とも違う。大きく、重い肉だった。


 最後に、内臓を出した。


 太い骨を割ると、中に髄が詰まっている。捨てるところだと思って、刃を止めた。


解析:「……骨髄。脂と旨みの含有量が高い。煮出しに適します」


ヨーヘイ内心:(骨まで、使えるのか)


ルカ:「うち、骨まで食うで」


ヨーヘイ:「骨は、出汁です」


ルカ:「出汁にしても、食うわ」


 ルカの耳が、立っていた。血だらけの解体を、まったく厭わない。獲物の前では、この狐獣人はいつも食欲のほうが勝つ。リリアは少し離れて、それでも目を逸らさずに見ていた。フィンは血の匂いに鼻を鳴らし、カゼは岩陰でまだ少し震えている。



◆ 分けて、食う



 日が高くなる頃には、切り通しの脇から、煮込みの匂いが立ち上っていた。


 骨髄とスネ肉を、銅の深皿に放り込んで、ぐつぐつと炊いた。時間のかかる料理だ。だが大きな肉には、それだけの時間をかける価値がある。脂が溶け、髄が出て、汁が白く濁っていく。湯気が、岩壁に沿って高く昇った。傍らでは、ロースの塊を厚めに切って、七輪で焼いた。落ちる脂が炭で爆ぜ、甘く重い匂いが、煮込みの匂いと混ざる。


 街を守った礼にと、ドレンが住民や冒険者を連れて戻ってきた。


 ヨーヘイは焼いた肉を皿に乗せ、煮込みを椀によそって、次々に渡した。広場の屋台では、見知らぬ誰かが初めて一枚に銅貨を払った。今日は違う。一緒に群れと戦った相手に、その肉を分けている。狭い切り通しが、いつのまにか小さな食卓になっていた。


ドレン:「……うまいな、これは。煮たほうも、焼いたほうも」


ヨーヘイ:「岩牙です」


ドレン:「さっきまで俺たちを殺しに来てたやつが、うまいとはな」


 ルカが煮込みの椀を抱えて、リリアの隣に座った。


ルカ:「リリちゃん、さっきの光、助かったわ。あれで足止まったし」


リリア:「……おたがいさまです。ルカっちさんの炎が、後ろを抜いてくれたので」


解析:「……喫食を確認。経験値補正、二倍適用」


ルカ:「うちらレベル、上がった? 上がったやろ?」


解析:「……レベル26から27へ。《解体》、レベル3へ進化。……解体が、上がっています」


ヨーヘイ内心:(戦ったのに、上がったのは解体か)


 ルカが「なんでやねん」と笑った。リリアの口の端も、わずかに動いた。


 ヨーヘイは煮込みを一口すすった。骨の髄から出た脂が、唇に重く残る。焼いたロースの、噛むほどに出る旨み。赤身でも、脂でもなく、その両方が大きな塊として口の中にある。


ヨーヘイ内心:(煮込みも、品書きに要る。焼くだけじゃ足りない)


 看板が、また一行伸びた。大きく重い肉を、時間をかけて炊く。そういう一品が、店に要る。


ヨーヘイ内心:(蓮なら、この骨を齧り尽くしただろうな)


 声には出さなかった。出したら、また少し崩れそうだった。あの子は、肉に齧りつくとき、骨の周りが一番うまいと言っていた。


 西へ、また進む。街道に屋台を出しながら、まだしばらく行く。帰り方は、今日も探さなかった。代わりに、知らない街の人間と肉を分けて、笑った。それでいいと、今は思っている。


 誰もが、椀を空にしていた。これで一段落だ、という空気が、切り通しに流れた。



◆ 下がっていない



 その空気を、解析の声が、静かに断ち切った。


解析:「……一点、報告します」


 漫才のときの軽さが、その声にはなかった。


解析:「……周辺の魔物密度、低下していません。撃退後も、です。発生源は――東の、鉱山の奥と推定します」


ヨーヘイ:(下がってない、というのは)


解析:「……付記します。先の岩牙は、鉱山の奥から“追われて”地上に出た個体です。あれは、逃げてきた側でした」


 ヨーヘイの手が、椀の上で止まった。


ヨーヘイ内心:(Dグレードのあれが、追われて出てきた。なら、奥に――何がいる)


 あれは、答えではなかった。大きいのが来て、討って、食って、一段落したと思った。違う。あの巨体ですら、何かから逃げて、地上に押し出されてきただけだ。


 フィンが、立ち上がった。


 耳が、東を向いている。喉の奥から、また、あの低い唸りが漏れた。


フィン:「キュウウッ……」


 切り通しの食卓の温かさが、すっと引いていく。ドレンが、東の空を見た。


ドレン:「……炉の火の話、覚えてるか。誰もいないはずの坑道の奥で、鍛冶の炉が燃えてたって」


ヨーヘイ:「聞かせてください」


ドレン:「いや。今度こそ、また今度だ。だが――あんたら、西へ抜けるつもりなら、急いだほうがいい。それか」


 ドレンは、そこで言葉を切った。東を見たまま、続きを言わなかった。


 鉱山の奥に、何かがいる。岩牙を追い出すほどの、何かが。


 ヨーヘイは、空になった煮込みの皿を見た。



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【第60話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:27 HP:455/455 MP:220/220


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《解体》Lv3 0/100(Lv2 100到達→進化)

・《料理》Lv2 90/100(+6)

・《瞬歩》Lv1 99/100(+1)

・《二刀流》Lv1 14/100(+8)

・その他:変動なし


▼ 本話の収支

・収入:D(中)魔石換金 +190枚

・本話終了時手持ち:5,211枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・追加:岩牙の各部位(ロース塊・バラ・もも・タン)※野営で一部消費・残量あり

・追加:岩牙の大牙・厚皮(素材・換金待ち)

・消費:岩牙のロース・スネ・骨髄(切り通しで提供した分)

・変動なし:前話からの持ち物は変わらず


▼ 本話の出来事

・迫っていた大型の影は「岩牙」(Dグレードの大型獣)と判明。開けた野営地を捨て、街道の切り通しで足止め戦

・地形と連携、フィンの探知、《瞬歩》で岩牙を撃破。街の群れもドレンたちが退け、街は持ちこたえた

・人型は食べないが、獣の岩牙は捌く。骨髄まで使える大型獣=「大きく重い肉」「煮込み」という新しい一品

・倒した相手の肉を、共に戦った街の人々と分け合った。Lv27へ、《解体》はLv3へ進化

・撃退後も魔物密度は下がらず。岩牙ですら鉱山の奥から“追われて”出てきた個体だった――奥に、何がいる


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 大きいのが来ました。岩牙という名前でした。Dグレードです。前に一度だけ勝った格と同じです。今回は、開けた場所を捨てて、細い切り通しまで退きました。正面では勝てません。地形と、みんなの連携と、フィンの鼻で、倒せる形に持っていきました。倒したら、肉でした。


 牛に近い肉です。脂も、繊維も、重さも。骨の中の髄まで使えました。煮込みにすると、いい出汁が出ます。焼くだけでは足りないと思いました。店の品書きに、煮込みを足します。


 倒した相手の肉を、一緒に戦った人たちと分けて食べました。屋台で知らない人に売った日とは、また違う気持ちでした。蓮なら、あの骨を齧り尽くしたと思います。


 ただ、終わっていませんでした。撃退しても、密度が下がっていないとあなたは言いました。岩牙ですら、奥から追われて出てきたと。あれは逃げてきた側でした。フィンが、また東を見ています。確かめなければいけないことが、また増えました。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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