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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第58話 屋台、最初の客。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 野営明け



 夜が明ける前に目が覚めた。


 焚き火は落ちていて、灰になった跡から、かすかに熱が残っている。草地の向こう、空の端が薄く白み始めていた。


 フィンを探す。


 いつもの場所にいた。焚き火の跡のすぐ手前、昨夜から場所を変えていない。横になっていたはずが、体を起こして四肢で立っていた。


 一度だけ、昨夜と同じ方向を向いた。


 耳が立つ。三秒ほど、そのままでいた。それから普通に動き始めた。周囲を確認する、いつもの一周だ。


ヨーヘイ内心:(昨夜のあれは何だったのか)


 解析は何も言わなかった。


 問いかけようとして、止めた。昨夜も聞いた。「把握できません」と返ってきた。もう一度尋ねて答えが変わる理由がない。


 フィンが幕の周りを回って戻ってきた。食欲の声も警戒の声も出さない。脅威はないということだ。


ヨーヘイ内心:(今は、ということか)


 そう思うことにした。


 カゼが足元で草を踏んだ。ドンネの留め具が一度、低く鳴る。荷台の中身は揺れていない。フィンがヨーヘイの手の甲に鼻先を当てて、先導のために前へ出た。いつもの朝だった。



◆ 街道・二日目



 昼前に、丘の向こうから屋根が見え始めた。


 最初は尖塔の先だけだった。馬車が進むにつれて壁が現れ、門の輪郭が出てくる。


ルカ:「……あれが最初の街?」


ヨーヘイ:「たぶん。街道の中継地点のはず」


ルカ:「デカいな。ファスト村の三倍はあるで」


リリア:「……四倍ほどかと」


ルカ:「リリア詳しいやん。来たことあんの?」


リリア:「……ありません。地図で」


 ルカが感心した顔をした。尻尾がゆっくりと揺れる。一日目より体の前後の揺れが小さくなっていた。馬車に体が慣れてきたのだろう。


 道が広くなった。荷馬車とすれ違う回数が増える。街が近づくほど石畳の継ぎ目が見えてきて、カゼが少し首を上げた。土を踏む音から、石を打つ音へ変わる手前だった。


ヨーヘイ内心:(最初の街だ)


 声には出なかった。馬車の後輪が、石畳に乗り始めた。



◆ 最初の街



 門で名前と目的を告げると、問題なく通してもらえた。


 冒険者ギルドで魔石を換金した。E中魔石が二つで八十枚。想定通りだった。収納にしまう。


 屋台を出す場所を歩いて探した。広場と市場通りの間に、軒が張り出した石の段差がある。人の動線が複数交差して、匂いがどちら向きにも届く場所だった。


ヨーヘイ内心:(ここでいい)


 リリアに聞いた。「……問題ありません」。ルカに聞いた。「ええんちゃう、立ち止まりやすそう」。


 カゼを近くの柱に繋いだ。七輪を荷台から下ろす。魔石に触れると、炭の目がじわりと赤くなった。



◆ 屋台



 ノゲジカのもも肉を取り出す。岩塩を振って、七輪の上に乗せた。


 脂が落ちる音がした。煙が立つ。匂いが、四方に広がり始めた。


 炭の目が安定している。ドンネの七輪は、炭火との差が一割を切る。表面が縮んで、肉の縁がわずかに反り返った。返すと、焼き色が均一に乗っていた。岩塩の粒が脂を吸って、白から透き通った色に変わっている。ヨーヘイは火加減を確かめながら、もう一枚を端に並べた。匂いの密度が、一枚のときと変わる。


 通行人が一人、素通りした。


 また一人、足を止めずに行く。


 三人目は少しこちらを見たが、同じように去った。


ルカ:「呼び込みしましょか」


ヨーヘイ:「……お願いします」


 ルカが幌から出た。耳が立つ。尻尾がまっすぐ上を向いた。


ルカ:「おいでおいでー。焼肉ですよ焼肉。魔物の肉なんやけど、めっちゃうまいで。一枚食べてみてください」


 通行人が足を速めた。


ヨーヘイ内心:(逆効果だ)


解析:「……ルカさんに対し、複数名が回避行動を取っています」


ヨーヘイ内心:(分かってる)


解析:「……接近率、低下中。業務の範囲内です」


ヨーヘイ内心:(なぜ数値化してくる)


ルカ:「あれ、なんで来ぇへんの。うまいのに。匂いしてるのに」


ヨーヘイ:「一回、幌の中にいてもらえますか」


ルカ:「えっ、私が原因なん?」


ヨーヘイ:「耳が立ちすぎています」


ルカ:「……耳は関係ないと思うんやけど」


リリア:「……あると思います」


 ルカが幌の内側に引っ込んだ。


 静かになった。煙だけが漂っている。匂いは出ている。立ち止まるかどうかは通行人次第だった。


 肉を返した。焼き色が均一についている。岩塩の白が脂に溶けていた。火加減を落とす。


ヨーヘイ内心:(匂いは出ている。あとは向こう次第だ)


 七輪に口出しはできない。ヨーヘイは前に座ったまま、肉の面倒だけを見た。リリアが傍で黙って立っている。フィンが荷台の影で香りの流れる先を見ていた。


 また誰かが素通りした。ちらりと視線は来た。足は来なかった。


 次の一人も同じだった。


 その次の男が、止まった。


 三十代か四十代か。防具は軽め、腰に剣がある。冒険者だろう。土埃の落ち方が、長く外を歩いてきた者のそれだった。七輪を見て、煙の行方を確かめるように鼻を一度動かす。


男:「……なんだ、この匂い」


ヨーヘイ:「魔物の肉です」


男:「魔物の」


ヨーヘイ:「ノゲジカ。もも肉です」


男:「食えるのか」


ヨーヘイ:「食えます。一枚、銅貨二枚です」


 男がしばらく七輪を見た。財布を出す。


男:「……一枚だけ」


 焼けた肉を皿に乗せた。岩塩を一振り足す。


 男が受け取った。重さを確かめるような持ち方だった。口に入れる。


 黙った。


 ヨーヘイは七輪に視線を戻した。見続けていたら崩れる。次の肉を取り出して、岩塩を振って、七輪に乗せた。脂が炭に落ちて、小さく爆ぜる音がする。


 嚙んでいる音が、届いた。ゆっくりだった。急いで飲み込む食べ方ではない。味を確かめている食べ方だった。


 また、黙った。


 フィンが男の足元に近づいた。靴先を見上げて、一声鳴く。


フィン:「キュッ」


 男が下を見た。フィンと目が合う。


 少し間があった。


男:「……もう一枚くれ」


ヨーヘイ内心:(これだ)


 声には出なかった。手が少し震えた。気づかれないようにこらえる。肉を取り出して、七輪に乗せた。岩塩を振る。ただそれだけだ。普通に焼いた。


 仮オープンのことを思い出した。ドンネの工房前の広場で、仲間たちに食べてもらった。ルカが食べた。リリアが食べた。ドンネは二枚食べた。ラルフが来て、サーラが来た。あれは本当に嬉しかったし、全部が本物だった。


 でも今日は違う。


 さっき初めて会った誰かが、自分から財布を出した。一枚試して、もう一枚頼んだ。ヨーヘイのことを何も知らない。仲間でも知人でもない。ただ街を歩いていた人間が、この肉に銅貨を払った。頼んでいない。呼び込みもしていない。匂いだけで足を止めた。それで十分だった。


ヨーヘイ内心:(蓮に言えない)


 声に出したら、少し崩れそうだった。だから言わなかった。


ヨーヘイ内心:(まだ本番じゃない。でも、これだ)


 二枚目を渡した。男が食べながら、煙の向こうの荷台を見た。馬車を、それから繋がれたカゼを見る。


男:「……あんた、これで旅してんのか。馬車で、屋台を」


ヨーヘイ:「はい」


男:「珍しいな。どこまで行く」


ヨーヘイ:「決めていません。街があれば、出します」


 男が短く笑った。何かを思い出したような笑い方だった。


 その後、客が立て続けに来た。最初の男の後ろ姿を見て近づいた人間が一人。匂いにつられて立ち止まった女性が一人。子ども連れの親が、子どもにせがまれて一枚買っていった。ヨーヘイは焼く手を止めなかった。皿を渡し、銅貨を受け取り、また肉を乗せる。手が回り始めていた。リリアが肉の並びを整えながら、通り過ぎようとした男に一言だけ言った。


リリア:「……また来ると思います」


 その男が少し振り返って、リリアを見た。何かを確かめるような間のあと、三分後に戻ってきて一枚買った。リリアに礼を言って受け取る。リリアは「……はい」とだけ返した。


ヨーヘイ内心:(何を根拠に言ったんだ)


 根拠はあったらしい。


 ルカが幌から首だけ出した。「うまいやろ? めっちゃうまいやろ?」と言いながら、自分でも一枚食べている。


ヨーヘイ内心:(それは在庫だ)


解析:「……ルカさんが在庫を一枚消費しました」


ヨーヘイ内心:(見なかったことにする)


 日が傾く頃には、ノゲジカのもも肉がほとんど残っていなかった。最初の男――ドレンと名乗った――は、まだ近くにいた。皿を返しながら、火の落ち始めた七輪を見ている。


ドレン:「あんた、運がいいのか悪いのか分からんな」


ヨーヘイ:「どういう意味ですか」


ドレン:「この街、今は人が多い。鉱山から引き上げてきた連中で溢れてる。だから屋台もよく売れた」


ヨーヘイ:「鉱山」


ドレン:「東の鉱山だ。最近おかしくてな。魔物が増えすぎて、採掘どころじゃない。俺もさっき逃げ帰ってきた口だ」


 ヨーヘイの手が止まった。


 昨夜、フィンとカゼが向いていた方向。あれは、東だったか。確かめていない。


ドレン:「数が、月を追うごとに増えてる。先週は坑道の二層までだったのが、今週は入口まで出てきた。ギルドも討伐依頼を出し始めてるが、追いついてない」


ドレン:「……まあ、あんたら街道を西に抜けるなら関係ない話だ」


 ドレンが背を向けかけて、ふと足を止めた。


ドレン:「ああ、そうだ。一つだけ気になることがある。鉱山で、妙なものを見た奴がいてな」


 ヨーヘイが顔を上げた。


ドレン:「炉の火だ。誰もいないはずの坑道の奥で、鍛冶の炉が――」


 言いかけたドレンの背後で、フィンが立ち上がった。


 耳が、東を向いている。喉の奥から、聞いたことのない低い声が漏れた。


フィン:「キュウウッ……」


 いつもの三種のどれとも違う。警戒の声よりも、もっと深いところから出ている。


 ルカの耳も、同じ方向に跳ねた。尻尾が膨らむ。


ルカ:「……なに、これ。地面、揺れてへん?」


 石畳が、震えていた。皿の上の銅貨が、かたかたと鳴る。遠くから、何かが近づく音。一つではない。地を打つ足音が、いくつも、いくつも重なっている。


 広場の人々が、足を止めた。誰かが東の空を指さした。


解析:「……東より、複数の反応。数――」


 解析の声が、止まった。


解析:「……数えきれません」



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【第58話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:25 HP:410/410 MP:190/190


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《料理》Lv2 80/100(+8)


▼ 本話の収支

・収入:E(中)魔石×2換金 +80枚

・収入:屋台売上 +38枚(初日・ほぼ完売)

・本話終了時手持ち:4,971枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・消費:ノゲジカもも肉(屋台提供分・ほぼ完売)

・減少:E(中)魔石×2(換金済み)


▼ 新規設定

・ドレン:最初の街で出会った冒険者。鉱山から引き上げてきた。屋台の最初の客

・最初の街:街道の中継地点。ファスト村の四倍ほどの規模。石畳の街

・鉱山の異変:街の東にある鉱山で魔物が異常発生。月を追って増加し、坑道入口まで出てきている


▼ 本話の出来事

・街道二日目、最初の街に到着。E中魔石×2を換金(+80枚)

・広場で屋台を初出店。ルカの呼び込みは逆効果に

・最初の客が一枚試したあと、もう一枚を注文。見知らぬ相手に初めて肉が売れた

・客のドレンから鉱山の異変を聞く。炉の火の話を言いかけたところで、東から地鳴り

・解析が東の反応を「数えきれません」と告げたところで本話終了


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 今日、最初の街で屋台を出しました。最初の客は一枚だけと言いました。食べて、黙って、もう一枚と言いました。あのタイミングでフィンが鳴いたのは事実です。フィンは仕事をしたと思っています。


 一枚、銅貨二枚です。安いと思います。でも、見知らぬ誰かが初めて自分で財布を出してくれた日でした。声に出せませんでした。出したら崩れると思いました。


 その客――ドレンさんが、鉱山の話をしていました。魔物が増えていると。炉の火がどうとか、続きを言いかけていました。


 その続きは、聞けていません。昨夜フィンが向いていた方向のことを、考えています。確かめたいことが、また増えました。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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