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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第57話 街道が、始まった。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 街道の上



 街道に出て、どのくらい経っただろう。振り返っても、もうファスト村は、どこにも見えなかった。


 御者台に座っていた。地面より高い視点で、街道が前に伸びている。ヨーヘイにとって、馬車の御者台に乗るのはこれが初めてだった。思ったより、風が通った。


 フィンが馬車の十歩ほど先を歩いていた。一定の速さで前を行く。立ち止まらない。カゼがそれを追うように、歩調を合わせていた。


解析:「……フィンが先導すると、カゼの歩行リズムが安定します」


ヨーヘイ内心:(フィンが道を作っているのか)


 草の匂いがした。炊事場の匂いでも、土の匂いでもなく、風がそのまま通ってくる匂いだ。草地が続いて、空がそのまま地平まで続いている。町や村の中にいた頃には、分からなかった匂いだった。


 リリアが荷台の前寄りに座って、流れていく景色を見ていた。横顔が静かだった。ただ見ている。


 ルカが御者台の端に座って、耳を少し後ろに向けていた。


ヨーヘイ:「……揺れますか」


ルカ:「全然揺れない」


 即答だった。耳がさらに後ろに向いた。



◆ 馬車の上



 少し経ってから、ルカが御者台の縁を握っていた。


リリア:「……大丈夫ですか」


ルカ:「全然大丈夫」


 耳が後ろのままだった。


 もう少し経った。


ルカ:「……なんか、揺れる。なんで馬車ってこんなに揺れるん」


ヨーヘイ:「ドンネさんの留め具があるので、以前より減っています」


ルカ:「以前より……これで減ってるの??」


ヨーヘイ:「たぶん」


ルカ:「…………ドンネさん、ありがとうな」


 小声だった。



 前を見ると、フィンがいなかった。


 荷台の上を確認する。フィンが馬車の屋根の縁に前脚をかけていた。


解析:「……危険です」


ヨーヘイ:(降りません)


解析:「……そうですね」


 フィンが乗り切った。屋根の上に座って、前を向いた。


ルカ:「……うちのフィンちゃうわ」


 声が少し弱かった。でも耳が少し戻っていた。


リリア:「……上が好きなんですね」


ヨーヘイ:「普段は地面を歩きます」


リリア:「……旅だから、かもしれません」


 ヨーヘイは前を向いた。フィンが屋根から街道の先を見ていた。一度だけ耳を立てる。三秒ほどそのままいた。また前を向いた。食欲の反応ではなかった。


ヨーヘイ内心:(何かある方向か、それとも広すぎて落ち着かないだけか)


解析:「……現時点では反応なしです」


ヨーヘイ内心:(分かった)


 街道が続き、草地が続き、空が続いていた。



◆ ノゲジカ



 フィンが屋根の上で止まった。前脚が伸びる。耳が前を向く。


ルカ:「なに?」


解析:「……前方、草地の縁。Eグレード正規。ノゲジカです。草食中型獣。逃げ足が速い。追い詰められると蹄で反撃します」


ルカ:「……食えるん?」


解析:「……赤身主体。焼肉向きです」


 ルカの耳がぴんと立った。


 フィンが屋根から飛び降りた。


 カゼを街道脇の木の根元に繋いだ。フィンが草地の右側に向かって歩いていく。ヨーヘイが正面に立った。リリアが左。ルカが右。誰も何も言わなかった。


 ノゲジカは草地の縁にいた。灰褐色の短い剛毛が全身を覆っている。体高はヨーヘイの腰あたりまで。小さな角が、額の上に短く伸びていた。枝分かれはしていない。黒くて大きい目がこちらを見ていた。逃げなかった。


ヨーヘイ内心:(足が速いなら、間合いを詰めた瞬間に動く)


解析:「……フィンが右奥に出ます」


 ヨーヘイは動かなかった。近づかない。相手が動くのを待った。


 ルカが右から半歩踏み込んだ。それだけでノゲジカの目が動く。フィンが草地の奥から姿を見せた。ノゲジカが振り向いた。フィンに向かっては逃げられない。正面にヨーヘイがいる。ノゲジカが右に逃げようとした。ルカが先にいた。


 ノゲジカが向きを変えた。後ろ脚に力が入った。


《瞬歩》。


 踏み込んだ。蹄が空を切った。肩の上から刃が入る。草地が静かになった。


 フィンが鼻先を近づけた。一度嗅ぐ。「キュッ」と鳴いた。


解析:「……討伐完了。《瞬歩》熟練度、93/100」



◆ 解体と初めての野外焼肉



 ノゲジカを草地の端まで引いてから、腰を下ろして解体した。


 まず皮を剥いだ。下の肉は思ったよりきれいだった。


ヨーヘイ内心:(鹿肉に近い。脂で食わせる肉じゃない、赤身の旨みで食わせる肉だ)


 腹を開くと、ヤキボアほど強い臭いはなかった。草を食う獣らしい青い匂いはあるが、内臓の状態は悪くない。血を抜き、胃袋を避けて、食える部位を順に分けていく。ヤキボアの解体よりも早く終わる。もも肉を切り出す。ロース。肩も取る。レバーも確保する。


解析:「……もも肉・ロース・肩・レバー、食用可です。脂は少ない。赤身主体の食材です」


解析:「……角、素材価値があります。回収を推奨します」


 捨てようとした角を、確保した。草食系で角が素材になると思っていなかった。


 フィンが隣で解体を見ていた。尻尾がゆっくり揺れていた。


 ルカが最初は少し距離を置いていたのに、気づけば隣まで来ていた。


ルカ:「……どこが一番うまいん、これ」


ヨーヘイ:「焼いてみないと分かりません」


ルカ:「焼く気満々やな」


ヨーヘイ:「焼くつもりで解体しています」


解析:「……E(中)魔石、2個。換算80枚程度」



 収納から七輪を取り出した。


 荷台の横、草地の縁。枯れ枝を並べて火を起こした。カゼが少し離れた場所で草を食っている。フィンが七輪の前に座った。リリアが荷台の端に腰かけて、手を膝に置いて待っていた。ルカは立ったまま七輪を見ている。


 ヨーヘイは肉を串に刺しながら、一度だけ周囲を見た。


 馬車が横にある。カゼが草を食っている。フィンが七輪の前で座っている。リリアが待っている。ルカが耳を立てたまま立っている。


ヨーヘイ内心:(ここで作れる。どこでもここになる。馬車があれば、そこが店になる)


 誰かが来ても、ここが今日の店だった。店は、建物ではなかった。火があって、肉があって、待っている顔があれば、それで始められる。


 火が安定した。串をまだ刺していない肉が手元にある。少しの間、ヨーヘイは動かなかった。もも肉を乗せた。


 低い音がした。脂が落ちて煙が上がった。草の匂いが混ざる。肉が縮んでいく。焼き色が端から広がる。岩塩を振ったら表面に小さな白い粒が乗って、すぐに溶けた。


 誰も何も言わなかった。煙が流れていく。フィンが鼻を動かす。リリアが手を膝に置いたまま、串を少し見た。ルカが一度横を向いて、また七輪を見た。


 ヨーヘイは肉を返した。裏側の焼き色を確認して、串を少し持ち上げて締まり具合を確かめた。もう少し待つ。


 煙の流れが変わった。カゼが顔をこちらに向けた。


ヨーヘイ内心:(お前には草があるだろう)


 声には出さなかった。


 一口食べた。熱かった。


 うまかった。


 脂が少ない分、後味がしつこくない。噛むたびに旨みが出てくる。ヤキボアともツチネムとも違う感触だった。別の言葉を探したが、うまかった、それしかなかった。


 もう一枚焼く。レバーも乗せた。少し長めに火を通す。全員分が揃ったところで渡した。


 ルカが受け取る。酔いが残っているはずだったが、耳はぴんと立っていた。食べた。一口で止まった。二口目も食べた。


ルカ:「……なんか、治った」


ヨーヘイ内心:(食べることに集中したから、か)


 声には出なかった。


 リリアが一枚食べた。


リリア:「……岩塩だけですか」


ヨーヘイ:「はい」


 少し間があった。リリアが手を膝に置いたまま、もう一度串を見た。


リリア:「……もう一枚、いいですか」


 渡した。


 フィンに渡した。フィンが食べた。


ヨーヘイ内心:(カゼには草がある)


 声には出さなかった。


 カゼが少し近づいてきた。七輪の煙の匂いにつられたのか、全員が集まっているからなのか、ヨーヘイには分からなかった。ヨーヘイが手を出すと、カゼの鼻先が手の甲に当たる。温かかった。


 食べ終わってしばらく経った頃。


 ルカが左手を持ち上げた。指先を、少し見た。そのまま膝の上に戻す。何も言わなかった。


 ヨーヘイの視界の端で見えた。


ヨーヘイ内心:(いつから気にしているんだろう)


 次の言葉が出なかった。串の片付けを続けた。七輪が冷めるのを待つ間、三人ともほとんど何も言わない。



◆ 夜の野営



 街道から少し外れた草地に幕を張った。


 役割が自然に分かれていた。ヨーヘイが幕を張り、ルカが焚き火の場所を決めて枝を集め、リリアが周囲を確認する。誰も何も言わなかったが、誰かと誰かが重なることもなかった。


 カゼを杭に繋いだ。フィンが周囲を一周してから戻ってくる。リリアが地面を確認して、乾いた草地の上に幕の端を固定した。誰も指示しなかった。


 焚き火が安定した頃、三人が並んで火を見た。


ルカ:「……思ったより快適やな」


リリア:「……はい」


ヨーヘイ内心:(慣れるのが早い)


 声には出さなかった。


 しばらく火を見ていた。遠くで何かの虫が鳴いている。カゼが息をついた。フィンが火の前で横になった。フィンが一度カゼの方を向く。カゼも少し顔をこちらに向けた。それだけだった。


 炎が落ち着いてきた頃、フィンが一度だけ街道の方を向いた。耳が立つ。三秒ほどそのままいた。また火の前に戻った。


ヨーヘイ内心:(この方向か)


 今日は動けた。距離は短い。旅の1日目はこれで十分だった。


 空に星が出ていた。ファスト村でも見えていたはずだが、木が多くて見えにくかった。街道に出たら、こんなに広いと知る。星の数が、思ったより多かった。





 夜が深くなった頃、ヨーヘイは気づいた。


 フィンが街道の先をじっと見ていた。


 食欲でも警戒でもない目で。横になっていたはずが、いつの間にか起き上がって、夜の街道のずっと先を向いている。


 少し遅れて、カゼも鼻先を上げた。同じ方向を向いていた。


ヨーヘイ:(何が見えてる)


解析:「……把握できません」



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【第57話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:25 HP:410/410 MP:190/190


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《瞬歩》Lv1 93/100(+2)


▼ 本話の収支

・収入:E(中)魔石2個・換算80枚程度(実際の換金は次話以降)

・支出:なし

・本話終了時手持ち:4,853枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(変動分のみ)

・追加:ノゲジカ各部位(もも肉・ロース・肩・レバー)・ノゲジカの小さな角・E(中)魔石×2


▼ 本話の出来事

・ファスト村を発ち、街道へ。フィンが先導し、カゼの歩調が安定する。街道の蹄の音とドンネの留め具の音に、少しずつ耳が慣れていく

・荷台でルカが馬車酔い(揺れの三段目)。フィンが馬車の屋根によじ登って前を向く。解析「危険です」→降りない→解析「……そうですね」で、一日でいちばん静かに笑う

・街道脇でノゲジカ(Eグレード)と遭遇。フィンの先導で、ヨーヘイが正面・リリアが左・ルカが右に立って退路を塞ぎ、討伐

・草地の縁で初めての野外解体→七輪で焼く。岩塩だけで十分な味=「馬車があれば、そこが店になる」という手応え。リリア「……岩塩だけですか」「……もう一枚、いいですか」

・煙につられてカゼが近づき、鼻先がヨーヘイの手の甲に当たる(温かい)。ルカが左手の指先をそっと見て、何も言わずに膝へ戻す

・夜の野営。火を囲む静かな時間。フィンとカゼが、一度だけ視線を交わす

・夜更け、フィンが街道の先をじっと見つめる→少し遅れて、カゼも同じ方向へ鼻先を上げる(解析には感知できない何か)


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 街道に出た日のことです。


 街道に出てしばらくして、音の違いに慣れてきました。カゼの蹄の音と、ドンネさんの留め具の音です。村の中では聞こえなかった音が、馬車の下でずっと続いていました。


 ルカさんが酔いました。全然大丈夫と二回言ってから、揺れると言いました。三段です。フィンが屋根に乗りました。解析さんが危険だと言いました。降りませんでした。解析さんもそうですねと言いました。一日の中でいちばん静かに笑いました。


 ノゲジカを討伐して、焼きました。馬車の横で火を起こして、草地の縁で食べました。うまかったです。ヤキボアともツチネムとも違う感触でした。岩塩だけで十分でした。どこでも作れると分かりました。馬車があれば、そこが店になると思いました。


 リリアさんがもう一枚と言いました。カゼが近づいてきました。鼻先が手に当たりました。温かかったです。


 ルカさんが指先を見ていました。何も言いませんでした。こちらも言いませんでした。


 フィンが夜、街道の先を見ていました。少し遅れて、カゼも同じ方向を向きました。解析さんには分からないと言われました。でも、フィンとカゼは見ていました。それだけ記録しておきます。



最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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