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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第55話 火が、ついた。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

 ヨーヘイは閉じた戸の前に立っていた。鼓動が、さっきまで聞こえていた鍛冶の音と同じ拍子で胸を打っていた。明日。たった一言だ。だが、あの目が試作品を最後まで見ていた。


 「明日」という言葉が、足の裏から地面に入っていくみたいな重さを持っていた。


フィン:「キュッ」


 足元でフィンが鳴いた。


ヨーヘイ:「ああ。帰るか」


 村の灯りの方へ歩き出しながら、ヨーヘイは明日のことだけを考えていた。素材の話をする。作り直す。次が、ある。


 それだけで、足が前に出た。



◆ 翌朝・ドンネの工房


 工房の前に着いた時、ドンネはすでに外に出ていた。


 手の中に、試作品があった。焼け焦げた底。歪んだ縁。昨日と同じ場所に、同じ角度で持っている。一晩、手の中にあったような痕跡が、持ち方の迷いのなさに出ていた。


 ドンネが試作品を作業台に置いた。指で底を叩く。一度、二度。


ドンネ:「……設計は悪くない」


ヨーヘイ:「はい」


ドンネ:「素材が問題だ。これでは焼き切れる」


 短い言葉だった。批判ではなく、診断だった。職人が材料を見る目で、ドンネは試作品を見ていた。


ドンネ:「蒼魔鉄で作り直す。魔石の固定も変える」


 ドンネが数字を言った。素材代と工賃。合わせて銀貨八枚。


 ルカが隣でわずかに息を飲んだ。


解析:「……現在の手持ちの、14.1%です」


ヨーヘイ内心:(分かってます)


ヨーヘイ:「お願いします」


 迷いはなかった。ドンネが一瞬だけ目を細めた。それだけで返事になった。


ドンネ:「五日後に来い」


ヨーヘイ:「分かりました」


 ドンネが試作品を抱えて工房に戻っていく。扉が閉まる前に、ルカが小声でヨーヘイの袖を引いた。


ルカ:「……銀貨八枚って、すごい額じゃないの」


ヨーヘイ:「そうですね」


ルカ:「そうですね、って」


ヨーヘイ内心:(そうですね、以外に言いようがない)


 フィンがヨーヘイの足元で一度鳴いた。


フィン:「キュッ」


 ヨーヘイは工房の閉まった扉を見た。あの目が、一晩、試作品を見ていた。それで十分だった。



◆ 五日後・ドンネの工房前


 朝の光の中に、ドンネが立っていた。


 両手で抱えているものが、五日前の試作品とは違っていた。小さい。だが、重そうだった。ずっしりとした質感が、距離を置いても伝わってくる。蒼みがかった金属の色が、朝の光の中で鈍く光っていた。


 ドンネが無言で作業台に置いた。


 七輪だった。


 試作品の面影はあった。丸い形、三本の脚、上面の格子。だが、全部が違った。縁が厚い。底が均一だ。魔石が三か所、対称に埋め込まれている。格子の間隔が、計算されている。


ドンネ:「……試せ」


 ヨーヘイは収納から肉を出した。保管していたツチネムの各部位——腹のバラと、背中の赤身。道中で解体して、部位ごとに分けておいたものだ。


 七輪に手をかざした。魔石に触れる。


 低い音が鳴った。


 熱が、来た。


 試作品の熱とは違う。均一だ。中心だけが熱くなるのではなく、格子全体から同じ温度で上がってくる。脂を落とすと、煙が出た。匂いが広がった。


解析:「……炭火との差、0.01割です」


ヨーヘイ内心:(0.01割。ほぼ炭火だ)


 ドンネを見た。何も言わなかった。


 肉を格子に並べた。脂が落ちる音がした。じわっ、じわっ、と規則正しく。焼ける匂いが立ち上がる。ヨーヘイは目を閉じた。一秒だけ。


 これだ。


 これが欲しかった。


 肉が焼けた。ヨーヘイは一枚取って、ドンネに差し出した。ドンネは受け取った。見た。匂いを確かめた。一口、食べた。


 長い沈黙だった。


 ドンネが工房の方に向き直った。戻るつもりだと分かった。


ヨーヘイ:「……仮オープンに、来ますか」


 ドンネが止まった。


 振り返らなかった。


ドンネ:「……考える」


 扉が閉まった。


 ルカがヨーヘイの隣で腕を組んだ。


ルカ:「『考える』って言う人ほど来るよね」


ヨーヘイ:「来ると思います」


ルカ:「なんで分かるの」


ヨーヘイ:「二枚目を食べてましたから」


 ルカが「え」という顔をした。ヨーヘイは七輪をそっと収納に入れた。



◆ 仮オープン・ドンネ工房前の広場


 昼前から、匂いが出た。


 七輪に火を入れた瞬間から、熱と脂の匂いが広場に広がっていった。風が村の方に吹いていた。ラルフが最初に走ってきた。次にサーラが来た。リリアが来た。ルカはずっとそこにいた。


 岩底の三人が来た。バルドが先頭で、何も言わずに七輪の前に立った。ミラとガンツがその後ろに並んだ。


 少し遅れて、四天王が来た。近くの依頼帰りにファスト村へ寄ったらしく、匂いに釣られたのだとガドが胸を張っていた。その当人が広場に入ってきた瞬間に、もう食べていた。


 ギルダは、朝の乗合馬車でファスト村まで来ていた。試作品がどうなったのか、どうしても見たかったのだと、本人は小声で言っていた。


 フィンが広場の真ん中で座っていた。


 全員が七輪の前に集まった、その瞬間——


フィン:「キュウッ!」


 誰より先に鳴いた。


 それが合図になった。


ガド:「うまい!!」


 口の中にまだ肉がある。もう手が格子の二枚目に伸びている。ガドの隣にクレイがいた。クレイは黙って食べていた。


ピナ:「これなに?」


 ピナが七輪を覗き込んでいた。小さい体で、格子のすぐ上まで顔を近づけている。一枚取った。食べた。耳がぴんと立った。尻尾が三回振れた。本人が気づいて、耳を伏せた。


ピナ:「……おかわり」


 広場の端に、シアがいた。袖で口元を覆いながら、少し離れて立っていた。


バルド:「……エルフも食うのか」


シア:「……エルフは、そういうものは——」


 フィンがシアの方に走っていった。シアの足元でくるりと一周した。


フィン:「キュッ」


 シアの手が、そっと伸びた。


シア:「……一枚だけです」


 ミラが隣でニヤッとした。


ミラ:「マジかよこれ、なんで魔物の肉がこんな——」


 もう手が二枚目に向かっていた。


 ガンツが無言で三枚取った。


クレイ:「……おかわり、ある?」


ヨーヘイ:「あります」


クレイ:「そうか」


 ラルフが七輪の前に立った。一枚取った。食べた。


ラルフ:「これが、もう、何というか、本当に、ファスト村に来たばかりの頃から思っていたんですが、ヨーヘイさんの料理というのはどうしてこんなに——」


 ラルフの口が急に止まった。


ラルフ:「……焼肉屋、本当にやるんですね(小声)」


ヨーヘイ:「やります」


 ラルフが小さくうなずいた。何度も。


 サーラが七輪の前に来た。黙って一枚取った。食べた。黙った。もう一枚取った。食べた。


サーラ:「……もう一枚」


 三枚目だった。


 ヨーヘイが肉を渡した。サーラが受け取った。一言も言わなかった。それ以上の返事は、いらなかった。


 ギルダが広場の入り口に立っていた。大きいメガネの奥で、目が七輪を見ていた。


ギルダ:「わたしの試作品が……あれになったんだ」


 小声でブツブツ言っていた。周りには聞こえていたが、本人は気づいていなかった。


ギルダ:「素材が変わって、魔石の配置が変わって……そっか、固定位置を対称にしたんだ、だから熱が——」


 一枚、差し出した。ギルダが受け取った。食べた。止まった。


ギルダ:「……おいしい」


 珍しく、それだけだった。


 ドンネが来た。


 広場の端から歩いてきた。「考える」と言っていた男が来た。何も言わずに七輪の前に立った。一枚取った。食べた。


 誰も口を挟まなかった。


 ドンネが二枚目に手を伸ばした。


 その前に、三秒の沈黙があった。誰かが息を飲んだ。ドンネの指が格子の上の肉に触れた。


ドンネ:「……悪くない」


 最大級の評価だった。それを知っている者と知らない者がいたが、ドンネの顔を見れば、なんとなく分かった。


ギルダ:「師匠によく言われた」


ドンネ:「……俺も言われた」


 二人の間に、短い沈黙があった。それ以上の言葉は、必要なかった。


 リリアが、広場の少し外れで静かに食べていた。一枚食べ終わって、次を持った瞬間。手のひらに、白い光がにじんだ。一秒も経たないうちに消えた。


リリア:「……これが、焼肉屋ですか」


ヨーヘイ:「仮、ですけど」


リリア:「……本番が、楽しみです」


 ルカが七輪の前で、耳と尻尾を全力にしながら四枚目を食べていた。


ルカ:「めっちゃうまいやん、反則ちゃう? ヨーヘイ、これ絶対売れるって。絶対」


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


ルカ:「ありがとうじゃなくて、自信持ちなよ。これはほんまに——」


 ルカの耳がまたぴんと立った。


ルカ:「……うまい」


 全員が食べ終わった後、広場に静かな間があった。そこで、解析が言った。


解析:「……今回の差は、0.008割でした」


ヨーヘイ内心:(さらに縮んでいる)


ヨーヘイ内心:(また、上がった)


 静かに、Lvが上がった。音もなく、誰にも見えない場所で。



◆ 夜・広場


 サーラが酒を持ってきた。


 アマリュワインが二本。それとガレン麦酒が四本。広場の石畳に、どんと置いた。


サーラ:「飲め」


 説明はいらなかった。


 ラルフが「え、いいんですか」と言う前に、ガドが一本つかんでいた。


ガド:「うまい肉には酒だろ!!」


ミラ:「それが正解」


 広場に火が起こった。ラルフが薪を組んで、ルカが火をつけた。七輪の熱と焚き火の熱が混ざって、夜の広場が昼より明るくなった。


 ガレン麦酒は苦かった。泡が多くて、冷えていなくて、大ぶりのカップになみなみと注がれた。ヨーヘイは一口飲んで、少しだけ目を細めた。


ヨーヘイ内心:(ビールだ。ビールじゃないけど、ビールだ)


解析:「……アルコール度数は現代のビールより低いです。ただし苦味成分は——」


ヨーヘイ内心:(今は黙っててください)


 ガドがすでに二本目を開けていた。ガンツはカップを持ったまま一言も喋らず、ただ飲み続けていた。バルドが焚き火の前に座って、アマリュワインを静かに傾けていた。


 ミラがヨーヘイの隣に来た。


ミラ:「ヨーヘイ、あんた本当に焼肉屋やるの」


ヨーヘイ:「やります」


ミラ:「馬車で動くって言ってたじゃん、どこ行くの」


ヨーヘイ:「まだ決めてないです」


ミラ:「……適当だな」


ヨーヘイ:「売れるところに行こうと思って」


 ミラが少し黙った。カップの中を見た。


ミラ:「……ウラベダン、来なよ。あそこ飯がまずいから絶対売れる」


ヨーヘイ:「覚えておきます」


 ミラが「絶対来い」と言って、カップを飲み干した。


 ピナがフィンを抱えて走り回っていた。フィンは嫌がっていなかった。むしろ楽しそうに見えた。


ピナ:「フィン、かわいい!! フィン!!」


フィン:「キュウッ!」


ピナ:「返事した!!」


 ルカが笑いながらガレン麦酒を持ってヨーヘイの隣に来た。


ルカ:「ヨーヘイ、今どんな気分」


ヨーヘイ:「……なんか、実感ないです」


ルカ:「え、なんで。これだけ人が来て、これだけ食べてもらって」


ヨーヘイ:「仮だから、まだ」


ルカ:「仮でこれやで。本番どうなるの」


 ヨーヘイは焚き火を見た。炎が揺れていた。


ヨーヘイ:「……もっとうまくします」


ルカ:「うまくするって、これ以上?」


ヨーヘイ:「タレがまだです。肉の種類もまだです。七輪で焼く以外の調理法も試してないです」


 ルカが黙った。


ルカ:「……うち、なんか楽しみになってきた」


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


ルカ:「ほんまに」


 シアが焚き火から少し離れた場所に座って、アマリュワインを小さく飲んでいた。クレイがその隣に立っていた。


クレイ:「シア、飲んでるじゃないか」


シア:「……一杯だけです」


クレイ:「さっきからそれで三杯目だぞ」


 シアが答えなかった。ワインを静かに飲んだ。クレイが少し笑った。


 ドンネはいつの間にか帰っていた。


 ギルダはまだいた。焚き火の前でブツブツ言いながら、七輪の設計の何かを指でなぞっていた。空になったカップが隣に置いてあった。


 ラルフが盛大に咳き込んだ。


ラルフ:「ガレン麦酒、ちょっと苦すぎませんか!!」


ガド:「弱いな!!」


ラルフ:「弱くないです!! ただ苦いんです!!」


バルド:「……飲めないなら飲むな」


ラルフ:「飲みます!!」


 広場が笑い声になった。ガンツが初めて声を出した。低い、短い笑い声だった。


 ヨーヘイはカップを持ったまま、広場を見渡した。


 焚き火の炎。肉の残り香。飲んで騒いでいる顔、顔、顔。フィンをまだ抱えているピナ。何杯目かのアマリュワインを飲むシア。「苦い苦い」と言いながらガレン麦酒を離さないラルフ。


 ここに、全員がいる。


ヨーヘイ内心:(魔石七輪で焼いた肉を食べてもらった。全員が食べた。ドンネさんが二枚食べた)


 言葉にすれば、それだけの出来事だった。けれど胸の奥では、もっと大きなものになっていた。


 ルカがまたカップを傾けながら言った。


ルカ:「ヨーヘイ、次はどこの肉出すの」


ヨーヘイ:「まだ考え中です」


ルカ:「Cグレードの肉とか、どう」


ヨーヘイ:「倒せたら」


ルカ:「今のヨーヘイなら、そのうちいけるって」


ガド:「Cの肉!? 出すなら呼べよ!!」


クレイ:「ガド、まず依頼を選べ」


 広場がまたうるさくなった。


 バルドが焚き火の前で、静かにカップを持ち上げた。何かを言うわけじゃなかった。ただ、持ち上げた。


 ミラが気づいた。ガンツが気づいた。一人ずつ、カップが上がっていった。


ガド:「乾杯!! 焼肉屋!!」


ルカ:「焼肉屋!!」


ピナ:「焼肉屋!!」


ラルフ:「焼肉屋——!!(咳き込む)」


ガド:「弱い!!!」


 笑い声と怒鳴り声が混ざった。フィンが「キュウッ!キュウッ!」と鳴いた。ギルダがブツブツ言いながらカップを上げた。


 騒ぎの中で、ヨーヘイは手のひらに残った七輪の熱を確かめた。


ヨーヘイ内心:(蓮。パパ、店を開けたぞ。まだ仮だけど、肉を焼いて、みんなに食べてもらった)


 声には出さなかった。出したら、たぶん少しだけ崩れる。


ヨーヘイ内心:(本番は、まだだ。今度は馬車で動く。もっと遠くまで、この匂いを持っていく)


 夜の広場に、声が続いていた。


ミラ:「……次は本番だな、ヨーヘイ」


ヨーヘイ:「本番は、馬車で動きます」


ミラ:「どこまで行くんだよ」


ヨーヘイ:「……どこまでも」


 ミラが笑った。声を出して笑った。珍しかった。


ミラ:「言うじゃん」


 笑い声と炎の音が、夜の広場に続いていた。



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【第55話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:25 HP:410/410 MP:190/190


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《料理》Lv2 72/100(+12)

・《収納》Lv1 45/100(+3)


▼ 本話の収支

・支出:魔石七輪製作費(蒼魔鉄素材代+工賃) −800枚

・収入:なし(仮オープンは無料提供)

・本話終了時手持ち:4,853枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(変動分のみ)

・追加:魔石七輪(蒼魔鉄製・完成品)

・消費:ツチネム各部位(試し焼き・仮オープン分)


▼ 本話の出来事

・魔石七輪が完成した。

・完成した魔石七輪で、炭火に近い熱を出せることが分かった。

・ドンネ工房前の広場で、焼肉屋の仮オープンを行った。

・集まった人たちに、魔石七輪で焼いた肉を食べてもらった。

・ドンネは肉を二枚食べ、「悪くない」と評価した。

・仮オープンの後、広場で宴会になった。

・ヨーヘイは、焼肉屋の本番を馬車で始めると口にした。


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 魔石七輪が、できました。炭火との差は0.01割でした。0.008割になりました。ドンネさんが作ったからです。ギルダさんが設計した形から生まれた熱です。


 仮オープンをしました。全員が食べました。ドンネさんが二枚食べました。その後、サーラさんが酒を持ってきました。広場で飲みました。ガドさんが乾杯と言いました。全員がカップを上げました。


 ミラさんに「次は本番だな」と言われました。「どこまでも」と答えました。


 本番は、馬車で動きます。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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