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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第51話 盾が、あった。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 出張所・申請窓口



 受付の男が、紙を広げた。


 二枚目だった。最初の書類とは別の束から引き抜かれた紙で、端が茶色く変色していた。古い記録だった。インクが薄くなっている部分があった。出張所の奥は静かだった。外の市街の音が遠く聞こえた。


受付:「五年前の流通記録に加えて、こちらに転売台帳の写しが残っています。武具商が仕入れた商品の転売先を記録するための台帳です」


 リリアが動かなかった。ヨーヘイは一歩後ろで、リリアの肩の高さを見ていた。上がっていない。背筋が伸びていた。


受付:「ノックス家の大型盾は、ベルネ経由で武具商に渡ったあと、修理品として別の台帳へ移されています。受取先の屋号が残っていますが——」


 男が紙をリリアの方へ向けた。


受付:「読める部分だけです。『鉄鳶』とあります。通り名か屋号か、現在の所在は記録にありません」


リリア:「……鉄鳶」


受付:「はい。それ以上はこちらの台帳では追えません」


 少し間を置いてから、男が付け加えた。


受付:「……五年前の転売台帳が残っているのは、珍しいことです。通常は三年で廃棄されます。たまたま残っていた」


 ヨーヘイは、その言葉の意味を考えた。


 男が引き下がった。書類を元の棚に戻す音がした。紙をめくる音。引き出しが閉まる音。


 リリアは紙を受け取っていた。


ヨーヘイ内心:(たまたま残っていた。五年間、誰にも捨てられずに残っていた)


 ヨーヘイには、リリアが紙を持ったまま動かないのが見えた。指先が白かった。紙をつかむ力が強かった。何かをこらえているのか、ただ読んでいるのかは分からなかった。ヨーヘイには分からなくてよかった。


ヨーヘイ内心:(消えていなかった。でも今すぐ取れるわけじゃない)


 解析が静かに来た。


ヨーヘイ:(解析さん、鉄鳶というのは)


解析:「……古い武具商の通称に近い形式です。ベルネの武具商組合、または市場の質屋に記録がある可能性があります」


ヨーヘイ:(次に当たれる、ということですか)


解析:「……はい」


ヨーヘイ内心:(今日は断言してくれましたね)


 壁際でルカが腕を組んでいた。表情は見えなかった。ただ耳が少し下がっていた。


 リリアが、もう一度紙を見た。文字を指でなぞった。「鉄鳶」という二文字だけが、薄いインクで残っていた。


 リリアは「鉄鳶」の二文字から目を離さなかった。


 見つかった、とは言えない。戻った、とはもっと言えない。それでも、消えてはいなかった。その事実だけが、指先に力を入れさせていた。


 指先に、熱が集まった。


 白かった。


 一瞬だった。紙の端が光った。リリアが「あっ」と小さく声を出して、すぐ手を引いた。光は消えていた。


 ヨーヘイは見ていた。ルカも見えていた。ルカは何も言わなかった。


ヨーヘイ内心:(ルカは、騒がない。それが分かってきた)


ヨーヘイ内心:(練習じゃない。気持ちが先に出た)


 リリアが手を確認していた。指先を見て、それから紙を見た。紙は焦げていない。光だけが出て、消えた。リリアが深く息を吐いた。震えてはいなかった。ただ、少し長い息だった。


リリア:「……すみません」


ヨーヘイ:「いいです」


 それだけ言った。他に言葉が出なかった。説明する必要もなかった。


解析:「……感情補正の、出力です」


ヨーヘイ内心:(言いかけて、止めましたね)


 ルカが壁から体を起こした。何も言わなかった。


 リリアが紙を折りたたんだ。胸元に入れた。


リリア:「……行きましょう」


 出張所を出た。



◆ 出張所の外



 フィンが扉の前で待っていた。


 リリアが出てきた瞬間、「キュウッ!」と鳴いた。


ルカ:「喜んどるやん」


 フィンはリリアの足元を回り始めた。円を描くように、ぐるぐると回っていた。食欲で動いている時の一直線ではなかった。警戒でも興奮でもなかった。ただ、リリアの周りだけを回っていた。


 ヨーヘイはフィンの鼻がずっとリリアの方を向いていることに気づいた。においを嗅いでいた。出張所に入る前と出てきた後の、何かの違いを嗅いでいるようだった。


 フィンには、出張所の中が分からない。何があったかも分からない。ただ、リリアの匂いが変わったことだけは分かる。それで、回っていた。


ルカ:「なんか分かる顔してるな、フィン」


ヨーヘイ:「たぶん」


ルカ:「何が分かってんのか聞けたらええのに」


ヨーヘイ:「それはこっちも同じです」


 リリアがしゃがんだ。フィンの頭に手を伸ばした。


フィン:「キュッ」


 一回だけ鳴いた。それで終わった。フィンはリリアの手の下で、少しだけ目を細めた。リリアがしばらくそのままでいた。フィンも動かなかった。


 リリアが手を離した。フィンはその場に座った。リリアが歩き始めるまで、動かなかった。


 ルカが黙って見ていた。耳が横を向いていた。横に向く時は、何かを考えている時だ。


 リリアが立ち上がった。フィンがその隣に並んだ。



◆ ベルネ市街・移動



 石畳を歩いた。人通りがあった。商いの声が届いた。昼前の市街だった。


ルカ:「盾、つながったん?」


 声を落としていた。


リリア:「……少し、だと思います」


ルカ:「少し」


リリア:「鉄鳶、という名前だけ残っていました。武具商の通り名だと思います。次に当たる場所は、見えました」


ルカ:「……そっか」


 それ以上聞かなかった。ルカが深追いしない時は、察している時だとヨーヘイは最近分かってきた。


 リリアが前を向いて歩いていた。足の運びは変わっていなかった。落ち込んでいる様子でもなかった。ただ、視線が少し遠かった。どこかを見ていた。あるいは、何かを確かめていた。


ヨーヘイ内心:(消えていなかったことが分かった。それだけで、今日は十分だ)


 それから、別のことを思った。


 まだ店にもなっていない。蓮に持って帰るには、形が足りなかった。だから探す。道具を、武器を、火を扱える職人を。


 フィンが隣を歩いていた。たまにリリアの方を向いた。



◆ ベルネ市街・武具商通り



 武具商通りは、宿から北に十分ほどの場所にある。石造りの建物が続く通りで、金属を打つ音があちこちから聞こえた。


 ルカが横に並んだ。


ルカ:「どこ行くん?」


ヨーヘイ:「武具商通りがあると聞きました。道具を探したい」


ルカ:「屋台の?」


ヨーヘイ:「それと、武器も。左手のサブを戦闘用に変えたい」


ルカ:「ああ——あの支給品のやつ。確かに」


 リリアが一歩後ろで歩いていた。胸元に折りたたんだ紙がある。鉄鳶という二文字が、今もそこにあるはずだった。


 鍛冶の匂いがした。鉄と炭と熱の匂い。


ヨーヘイ内心:(ファスト村で嗅いだことがある匂いだ)


 フィンが耳を立てた。食べ物の匂いはしないらしく、すぐに耳を戻した。


 道具を見て回った。


 最初の店は大型の鉄板を扱っていた。厚みがあってしっかりしている。ただ重すぎた。持ち上げてみると、馬車の荷台に乗せたら他の道具が入らない。


ヨーヘイ:「重量は、どのくらいですか」


店員:「大人二人で運ぶ重さですね。馬車に載せるなら、他の荷はかなり削ることになります」


ヨーヘイ:「馬車に乗せて料理をしたい」


店員:「……それは難しいですね」


 二軒目は折りたたみ式の小型台があった。軽くて形も悪くない。ただ魔石を固定する溝がなかった。魔石の火力を使うには、後付けで加工が必要になる。


ヨーヘイ内心:(惜しい。これに溝さえあれば)


 三軒目で銅の深皿を見つけた。タレや出汁を入れるのに向いた形をしている。解析を走らせると「熱伝導が高い。煮込み用途に適しています」と出た。


ヨーヘイ内心:(業務用のタレ鍋だ。現代なら鍋料理の卓上鍋に近い。馬車の上でタレを温めながら提供できる)


ヨーヘイ:「これ、一つもらいます」


 銅貨8枚で購入した。


ヨーヘイ内心:(屋台の道具が、一つ決まった。まだ一つだけだが、始まった)


 フィンが「キュッ」と鳴いた。


ヨーヘイ:「食べ物じゃない」


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ内心:(分かってて鳴いたのか、分からなくて鳴いたのか)


 ルカが壁際の照明器具を指した。魔石入りで、馬車の夜営業に使えそうな形をしていた。


ルカ:「これとかどうなん、夜の屋台に」


ヨーヘイ:「いいと思います。ただ高い」


ルカ:「何枚?」


ヨーヘイ:「銀貨3枚」


ルカ:「……まあ、後回しやな」


 中剣を探して何軒か回った。そこそこのものはある。重さはそれなりだが、握った感触が違う。蒼魔鉄ではない。どれも、ドンネが作ったものとは重さが違った。


ヨーヘイ内心:(ドンネさんのレベルには、遠い)


ルカ:「欲しいのが見つからへん?」


ヨーヘイ:「蒼魔鉄がないんです。ドンネさんの中剣に慣れすぎて、基準がおかしくなっているかもしれませんが」


ルカ:「ドンネさんのがよかったんやろな。本物に触れると、そうなる」


ヨーヘイ内心:(今日は無理かもしれない)


 そう思った時、リリアが剣の棚の前で立ち止まった。一本を手に取った。穂先を確かめる動作をした。それだけで、槍使いの目線だと分かった。


リリア:「……これは、悪くないと思います」


ヨーヘイ:「中剣はそこそこだと思うんですが——」


リリア:「……握り方の角度が、合ってる気がします。ヨーヘイさんの手の大きさなら」


 ヨーヘイが握ってみた。確かに、悪くなかった。蒼魔鉄ではないが、バランスが手に合っている。


ヨーヘイ内心:(リリさん、槍だけじゃなくて剣も分かるのか)


リリア:「……槍と中剣は、重心の取り方が近いです。だから、分かります」


 値段を確認した。手頃だった。ただ決断できなかった。もう少し通りを見てからにしようと思った。


 武具屋の一軒で、店員に七輪の話を出してみた。


ヨーヘイ:「熱を散らすような構造の魔道具は、ここでは作れますか。七輪に近い形で——肉を焼くための台なんですが」


店員:「七輪……ですか。そういった設計は、うちでは難しいですね。構造の発想が通常の武具とはだいぶ違う」


ヨーヘイ:「そうですか」


店員:「ただ——」


 男が通りの奥を指した。


店員:「あちらに、ちょっと変わった鍛冶師がいます。面白いものを作る人で。設計の話なら、乗ってくれるかもしれません」


 ヨーヘイはその方向を見た。小さな工房が見えた。看板が小さい。目立たない。


ルカ:「行ってみる?」


ヨーヘイ内心:(七輪の話を聞いてくれる職人が、ここにいる。行かない理由はない)


 リリアが胸元の紙に触れた。


リリア:「……鉄鳶も、当たってみます。武具商組合を探します」


ヨーヘイ:「一緒に行きましょうか」


リリア:「……いいえ。これは、自分でやります」


 ヨーヘイは頷いた。それでいい、と思った。


ヨーヘイ:「じゃあ、俺はあっちへ」


 通りの奥を指した。


ルカ:「一緒に行くわ」


フィン:「キュッ」


 三人と一匹で、奥へ歩いた。


 看板が見えてきた。文字が小さくて読みにくい。工房の中から、何かをブツブツ言う声が聞こえた。



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【第51話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:21 HP:365/365 MP:173/173


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・その他:変動なし


▼ 本話の収支

・収入:なし

・支出:銅の深皿×1(銅貨8枚)

・本話終了時手持ち:5,675枚


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・追加:銅の深皿×1(タレ・出汁用)


▼ 仲間の変化

・リリア:盾の記録を読んだ直後、感情に反応して指先に白い光がにじんだ。練習ではなく、気持ちが先に出た反応と考えられる。


▼ 本話の出来事

・出張所で盾の転売台帳の写しが見つかった。「鉄鳶」という屋号のみ残っており、現在の所在は不明。武具商組合または市場の質屋に記録がある可能性がある。

・台帳を読んだ瞬間、リリアの指先に白い光がにじんだ。本人がすぐ消したが、ヨーヘイには見えた。

・午後にベルネ武具商通りを歩き、道具と武器を探した。通りの奥に変わった鍛冶師がいると聞き、その足で向かった。


▼ ヨーヘイの考察


解析さん、記録します。


盾は消えていませんでした。鉄鳶という名前だけが残っています。武具商組合か質屋に当たれば次が見えると、解析さんが教えてくれました。


リリアさんが指先に光を出しました。練習ではなかったと思います。気持ちが先に出た。そういう光の出方でした。


午後、武具商通りを歩きました。道具を探しました。中剣も探しました。通りの奥に変わった鍛冶師がいると聞いて、今日のうちに向かいました。工房の中から声が聞こえています。

最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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