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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第50話 記録が、あった。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 三日目の朝・炊事場



 タレ漬けにしてから、一日置いた。


 昨日の朝に漬け込んで、今朝が二日目になる。発酵液と岩塩と、試しにガルニク草の刻んだものを少量加えた。ツチネムの赤身は締まっている。脂がないぶん、漬け込みが深く入る。鹿肉に近い感触だと初日に思った。二日置けば、もっと変わるかもしれない。でも今日は出張所がある。今朝、焼く。


 収納からツチネムのもも肉を取り出した。表面が少し変わっていた。タレの色が肉の内側に入り込んでいる。触ってみると、弾力が変わっていた。繊維が少し緩んだ感触がある。発酵液が仕事をしていた。


 フィンが台の横に座った。鼻が動いていた。


ヨーヘイ:「まだだ」


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ:「分かってる。待て」


 石板に火を入れた。油は引かない。タレが焦げる前に、弱火で表面から固めていく。


 煙が出た。甘い匂いがした。発酵液の匂いではなく、タレが肉に絡んで変質している匂いだった。現代で言えば焼肉屋のロースターの前に立っている感覚に近い。炭の熱と肉の脂と、タレが合わさった瞬間の匂いだ。今は石板で、炭ではない。でも近いものがある。


ヨーヘイ内心:(炭火で焼いたら、もっと出る。ドンネさんへの話を早く持って行かないといけない)


 裏返した。断面が赤かった。レアではない。でも中まで火を通しすぎてもいけない。


ヨーヘイ:(解析さん、中の温度、分かりますか)


解析:「……測定には対応していません」


ヨーヘイ:(では目安を)


解析:「……表面の色と煙の質で判断するしかありません。ただし、現在の状態は」


ヨーヘイ:(ただし?)


解析:「……よい状態です」


ヨーヘイ:(言い切れるんですね)


解析:「……業務の範囲内です」


 声に何もなかった。でも何かが乗っていた。ヨーヘイは黙って石板を見た。


 もう一度裏返した。表面に焼き色がついていた。タレが焦げて、少し香ばしい匂いが立った。火から遠ざけた。余熱で仕上げる。三十秒待った。


 切った。断面から汁が出た。透明だった。


 一切れ、口に入れた。


 止まった。


 噛んだ。繊維が解けた。発酵液の酸味が最初に来て、それからガルニク草の青みが抜けて、最後に赤身の旨みが残った。漬け込みが正しく機能した。一日置いたことで、臭みが消えて旨みだけが残っていた。脂がない赤身なのに、薄くない。タレが旨みを足している。


ヨーヘイ内心:(蓮に食べさせたい。この味を、蓮は絶対に好きだ。あいつは肉が好きだから)


 その考えが来て、すぐに別の何かに変わった。蓮はまだこっちにいない。持って帰る方法も、まだない。でも今ここで焼いたものが旨かった。旨いものが作れた。それは確かだった。今日それだけでいい、とは思わない。でも今日それが確かだということは、持っていられる。


フィン:「キューン」


ヨーヘイ:「分かった。今出す」


 一切れ切って、台に置いた。フィンが嗅いで、食べた。「キュッ」と鳴いた。


 リリアとルカが炊事場に入ってきた。ルカが煙の匂いで鼻をひくつかせた。


ルカ:「……なんか昨日と匂い違う」


ヨーヘイ:「漬け込みました。一日おきました」


ルカ:「漬け込むと変わるん?」


ヨーヘイ:「変わります」


ルカ:「……食べてええ?」


ヨーヘイ:「どうぞ」


 ルカが一切れ取った。一口食べて、止まった。ヨーヘイには分かった。ああいう止まり方は、旨い時だ。


ルカ:「……なんでこんな変わるん。昨日と同じ肉やろ。タレのせいか」


ヨーヘイ:「同じ肉です」


ルカ:「……意味分からん」


リリア:「……いただきます」


 リリアが一切れ取った。口に入れた。目が少し細くなった。


リリア:「……おいしいです」


 おいしいです、だけだった。でもリリアの「おいしいです」は言葉が少ないぶん、全部が入っている。ヨーヘイにはそれが分かるようになっていた。


ヨーヘイ内心:(三人と一匹で食べている。これが焼肉屋になる。まだ形はないが、これが元になる)


 フィンがルカの足元に来た。ルカが小さく「こら」と言った。フィンは動かなかった。


ルカ:「……強情な従魔やな」


ヨーヘイ:「誰かに似ています」


ルカ:「……うちちゃうで」


 三人分を皿に分けた。炊事場に煙の匂いが残っていた。



◆ 三日間のこと



 出張所の三日前に、何があったかを整理しておく。


 初日は再び同じフィールドへ行った。フィンが同じ方向に耳を向けた。低木帯でツチネムを四体。岩場でカゲコウモリを十体。初日より手際がよかった。ルカの精密射が、二日目には狙いを変える必要がなかった。リリアの槍の振りが一回り早くなっていた。


 帰り道にルカがリリアに話しかけた。


ルカ:「リリちゃん、魔法って練習してるん?」


リリア:「……はい。ただ、出し方が分かっていません」


ルカ:「感情で出すんやろ、あれ」


リリア:「……そう思います。でも、どの感情で出るのかが」


ルカ:「…うちの火魔法も最初はそうやったで。どの感情か分からんかった。でも焦ったとき一番出た」


リリア:「……焦った、とき」


ルカ:「守りたいとか、止めたいとか。そういうときに出た。綺麗に出したいとか、上手くやりたいとかじゃなくて」


 リリアが少し黙った。


リリア:「……誰かのために、というときですか」


ルカ:「そう。そういうこと」


 その夜、炊事場でヨーヘイが片付けをしていた。リリアが隣にいた。ルカは先に宿に戻っていた。


 静かな炊事場だった。リリアが一度、手を見た。


リリア:「……少し、試してもいいですか」


ヨーヘイ:「どうぞ」


 リリアが手のひらを上に向けた。目を閉じた。閉じてから、少し開いた。開けたまま、手を見た。


 光が出た。


 指先ではなく、手のひらから。この前の帰り道と同じ場所だった。でも今回は消えなかった。揺れていた。炎のように揺れるのではなく、息をするように揺れていた。


 五秒、あった。


リリア:「……消えました」


ヨーヘイ:「見えていました」


リリア:「……出そうとして、出ました。初めてです」


 声が静かだった。驚きより先に、確認が来た顔だった。


ヨーヘイ内心:(出そうとして、出た。それが今日初めてできた。リリさんが今、一段上がった)


ヨーヘイ:「ルカさんに聞いたんですか」


リリア:「……はい。今日、聞きました」


 ヨーヘイは特に何も言わなかった。言う必要がなかった。


 二日目は別のルートを試した。フィンが南側に耳を向けた。草地の奥に、ツチネムが五体いた。カゲコウモリは出なかった。その代わり、帰り道に換金ができた。ボルドが台帳に素材を記録しながら、短く言った。


ボルド:「……慣れてきたか」


ヨーヘイ:「少しだけ」


ボルド:「……フィンが選んだ素材は品質が高い。続けろ」


 それだけだった。ボルドはそれ以上話さなかった。でも台帳に丁寧に記録していた。


 消耗品を補充した。岩塩とコガネ草油と、ポーションをもう一本。手持ちが動いた。


 三日間の収支を頭の中で整理した。初日の換金が千二百枚ほど、二日目が五百枚ほど、消耗品の補充で八十枚出た。四千六十三枚から始まって、三日目の朝には五千六百八十三枚になっていた。


 夜、ルカが手をポケットに入れたまま戻ってきた。指先が少し白かった。冷えたのかと思ったが、外は寒くなかった。ヨーヘイは何も言わなかった。ルカも何も言わなかった。



◆ 三日後・ベルネ市街



 出張所は、ギルドから二本北の通りにある。


 三日前と同じ道を歩いた。リリアが少しだけ前を歩いていた。三日前と同じだった。でも、足の置き方が違った。視線が地面へ落ちず、出張所の扉を正面から見ている。肩も、前ほど小さく丸まっていない。歩き方が、少しだけ速くなっていた。


ヨーヘイ:(解析さん。出張所の周辺、気配はありますか)


解析:「……感知範囲内に、一つあります。ただし、出張所への接近は確認できません」


ヨーヘイ:(追っ手は建物の外にいる?)


解析:「……断言できません。建物の中の人間は、現在の感知精度では区別できません」


ヨーヘイ:(分かりました)


 フィンが横を歩いていた。耳が少し前を向いていた。食べ物を探す時のように鼻は動いていない。敵を拾う時ほど耳も立っていない。ただ、耳の先だけが、出張所の扉の方へ小さく揺れていた。


ルカ:「……うちも行っていい?」


ヨーヘイ:「どうぞ」


ルカ:「……追っ手が中にいたら、どうするん」


ヨーヘイ:「出張所は公的な場所です。いきなりは動かないと思います」


ルカ:「……思います、って」


ヨーヘイ:「断言はできません」


ルカ:「……正直な人やな」


 石造りの建物が見えた。扉が重い。三日前にルカが開けた扉だった。



◆ 出張所・申請窓口



 受付の男が顔を上げた。三日前と同じ人間だった。淡々とした目をしていた。


受付:「三日前にいらっしゃいましたね」


リリア:「……はい。確認をお願いしていました」


受付:「お名前は」


リリア:「リリア・ノックスです」


 男が奥へ引っ込んだ。棚から書類を取り出す音がした。しばらくかかった。引き出しを開ける音、紙をめくる音。ヨーヘイには音だけが届いた。


 インクと古い紙の匂いがした。ルカが壁際で腕を組んでいた。フィンは外で待っている。ヨーヘイはリリアの一歩後ろに立っていた。


 リリアは動かなかった。背筋が伸びていた。三日前と同じ立ち方だった。ただ、息を吸う間が少し長かった。指先は震えていない。肩も前ほど上がっていない。緊張しているのに、逃げる形ではなかった。


 受付の男が戻ってきた。書類を一枚持っていた。


受付:「ノックス家の大型盾一点、確認できました」


 リリアが動かなかった。


受付:「五年前に、一度流通記録に入っています」


リリア:「……五年前」


受付:「はい。ベルネを経由しています」


 ルカが壁際から少し体を起こした。ヨーヘイには見えた。


 リリアが、小さく息を吸った。


リリア:「……現在の所在は、分かりますか」


受付:「そこまでは記録にありません。ただ」


 男が書類をもう一度見た。それから、手を伸ばした。


 棚の、少し奥にある束から、もう一枚、紙を抜いた。三日前に出てきた書類とは別のものだった。


 ヨーヘイは視線で追った。男の手が動いていた。


 紙が、台の上に置かれた。



◆ リザルト



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【第50話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:21 HP:365/365 MP:173/173


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

◆《解体》Lv2 95/100(+15)※三日間の継続討伐・新食材複数体

◆《瞬歩》Lv1 88/100(+6)

◆《料理》Lv2 60/100(+8)※タレ漬け焼き・一日漬け初成功


▼ 経済

◆収入:ツチネム四体分+カゲコウモリ十体分(初日)約1,200枚

    ツチネム五体分(二日目)約500枚

◆支出:ポーション×1・岩塩・コガネ草油(補充)約80枚

◆本話終了時手持ち:5,683枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

◆追加:ツチネムもも肉(タレ漬け済み・残量)・ツチネム各部位(生)・カゲコウモリ内臓串(残)

◆消費:ツチネムもも肉(試食・三人分)・コガネ草油(少量)・岩塩(少量)


▼ 本話の出来事

◆ツチネムのタレ漬け焼き(発酵液+岩塩+ガルニク草・一日漬け)を初めて焼いた。旨かった。

◆三日間でフィールド再討伐二回・換金二回・消耗品補充。

◆リリアが「出そうとして出た」魔法を初めて確認(炊事場・五秒・系統②意図練習型の前進)。ルカのアドバイスがきっかけ。

◆三日後、出張所で盾の流通記録を確認。記録はあった。ベルネ経由・五年前。担当者がもう一枚紙を取り出した。


▼ ヨーヘイの考察


解析さん、記録します。


ツチネムのタレ漬け、成功しました。一日置くだけで、臭みが消えて旨みだけが残りました。ガルニク草が正解だったかどうかはまだ分かりません。次は量を変えて試します。


リリアさんが「出そうとして出た」と言いました。今まではどうしたら出るか分からなかった。それが今日、一回できました。五秒ありました。ヨーヘイには十分すぎる五秒でした。ルカさんの言葉がきっかけだったと言っていました。ルカさんが「誰かのために、というときに出た」と教えた。それがリリさんに届いた。そういうことだと思います。


出張所に行きました。記録はありました。五年前、ベルネを経由しています。リリさんが動かないままで聞いていました。担当者がもう一枚紙を取り出しました。紙の中身は、次に確認します。記録します。



最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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