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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第47話 溶けた、それだけ。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 朝・解体場


紫紺のウロコは、朝の光の中でも鈍く光った。


ヨーヘイが袋を置いた。まだ依頼に出る前の時間帯で、解体場には人が少ない。


ボルド:「……なんだ」


ヨーヘイ:「シロバラです。昨日のぶん」


ボルドが袋を開けた。紫紺のウロコが数枚、岩塩で軽く洗ってある。


少し間があった。


ボルド:「……昨日か」


ヨーヘイ:「はい」


ボルドがウロコを一枚取り上げた。光に当てた。紫紺の発色が均一で、端が欠けていない。解体の手際が悪いと端から割れる。


ボルド:「……綺麗に剥いだな」


ヨーヘイ:「ルカさんの魔法で仕留めたので、焦げがなかったです」


ボルドが一度だけうなずいた。それから魔石を確認して、台帳に何か書いた。


ボルド:「……シロバラのウロコは今季から値が上がってる。装飾師がまとめ買いに来てる」


ヨーヘイ:「いくらですか」


ボルドが枚数を書いた紙を出した。


ヨーヘイ内心:(思ったより多い)


袋の中の尾肉を、ボルドがちらりと見た。


ボルド:「……肉は」


ヨーヘイ:「今日使います」


ボルドの目が一度だけこちらに向いた。「……そうか」それだけだった。



◆ 炊事場・午前


鍋を火にかけた。


シロバラの尾肉。昨夜の炭火焼きで余った分を、今朝まで収納に入れておいた。塊のまま水に入れる。岩塩をひとつまみ。それから香草を数枚。


ルカ:「なにしてるん」


ヨーヘイ:「煮込みます。昨夜言っていたやつです」


ルカ:「あ、コラーゲン溶けるやつ。昨日言うてたやつやな。……どれくらいかかる?」


ヨーヘイ:「2時間です」


ルカ:「2時間!?」


ヨーヘイ:「コラーゲンがゼラチンに変わるのに時間がかかります。急いでも変わりません」


ルカ:「なんで急いだらあかんの」


ヨーヘイ:「急いだら固くなります。待てば溶けます。それだけです」


ルカが炊事場の椅子に座った。尻尾が揺れている。


リリア:「……待てます」


ルカ:「リリちゃんは待てるんや。えらい」


リリア:「……待つのは、嫌いではないです」


フィンがすでに炊事場の隅に座っていた。鍋の方を向いて、動かない。


ヨーヘイ:「フィン、2時間かかるぞ」


フィン:「キュッ」


了解した、という鳴き方だった。


ヨーヘイ内心:(分かってるのか)



◆ 待機・炊事場


鍋から最初の泡が出てきた頃、リリアが立ち上がった。


リリア:「……少し、出てきます」


ルカ:「どこ行くん?」


リリア:「……ギルドに、少し確認したいことがあって」


ルカ:「何を?」


リリアが少し止まった。


リリア:「……古い装備品の取引記録が、掲示板に残っていることがあります。盾の流通について、調べたいことがあって」


ルカ:「盾? リリちゃん、盾を探してるん?」


リリア:「……以前から。少し」


ルカ:「そっか。行ってき」


リリアが出ていった。


ヨーヘイ内心:(リリさんが、自分から動いた)


言及ではなかった。「まだ先になりそう」でもなかった。

炊事場で鍋を前にして、突然思い立ったように。でも突然ではなかったはずだ。ずっと、そこにあったものが、今日動いた。


鍋からまた泡が出た。弱火のまま、変えない。


フィンが「キュッ」と鳴いた。鍋の方を向いたまま、耳だけがこちらを向いた。


ヨーヘイ:「まだだ」


フィン:「キューン」


ヨーヘイ内心:(分かっているんだよな、こいつ)



◆ 待機・内心


弱火にして、30分が経った。

鍋の表面に薄い膜が出てきた。アクだ。掬う。


その時、手元で何かが跳ねた。熟練度の感触だ。


ヨーヘイ:(解析さん、また《料理》が上がりましたか)


解析:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(《解体》も同時に上がってます。なんでですか)


解析:「……気のせいです」


ヨーヘイ:(昨日の試食後も同じことを言ってましたよね)


解析:「……」


ヨーヘイ:(前回も。前々回も。食べるたびに上がっている気がするんですが)


解析:「……」


沈黙だった。


「業務の範囲内です」が来なかった。「気のせいです」も来なかった。

ただ静かなままだった。


ヨーヘイ内心:(これは絶対なんかある)


アクを掬う手を止めないまま、そう思った。

解析さんが誤魔化す時は必ず何かある。誤魔化せない時に黙るのは、もっと何かある。


鍋の中で肉が静かに動いた。


ヨーヘイ:(いつか教えてもらえますか)


解析:「……業務の範囲を超えた質問には回答できません」


ヨーヘイ内心:(業務の範囲内に戻ってきた。戻ってくる前に一回黙ったのが、全部だ)



◆ 1時間後


ルカが戻ってきた。リリアも一緒だった。


ルカ:「フィン、まだおるやん」


フィン:「キュッ」


ルカ:「……すごいな。1時間、動かへんかったん?」


リリア:「……ずっとです」


ルカがフィンの頭に手を乗せた。フィンが「キュウッ!」と鳴いた。


ルカ:「怒った」


ヨーヘイ:「触られたくない時があります」


ルカ:「いつがええの?」


ヨーヘイ:「食べた後です」


ルカ:「計算してるやん」


フィン:「キューン」


ルカが笑った。


リリアがヨーヘイの隣に立った。


リリア:「……掲示板には、5年以上前の記録しかなかったです。でも、窓口の方が商業の出張所ならもっと古い取引が残っているかもしれないと言っていました」


ヨーヘイ:「次は出張所ですね」


リリア:「……そうします」


小さいことだった。でも確かに一歩だった。


鍋から匂いが変わってきた。最初の澄んだ匂いから、重みのある、ゆっくりとした匂いに。コラーゲンが溶けてきた時の匂いだ。


ヨーヘイ内心:(あと1時間)



◆ 2時間後


フィンが立ち上がった。


それだけで分かった。


ヨーヘイ:「できました」


鍋の中が変わっていた。透明だった汁が、少しだけとろみを持っている。肉の断面がほぐれている。木串で触ると、力を入れなくても崩れた。


ルカ:「……なんか匂いが変わった」


ヨーヘイ:「ゼラチンが溶けた匂いです」


ルカ:「なに、ゼラチン」


ヨーヘイ:「食べれば分かります」


椀に取った。汁ごと。岩塩で少し整えて、香草を1枚浮かせる。


ルカの前に置いた。


ルカが匂いを嗅いだ。鼻が一度動いた。


一口、飲んだ。


ルカ:「……」


もう一口。肉を一切れ。


ルカ:「……」


フィン:「キューン」


ルカが言葉を出さなかった。


ヨーヘイ:(解析さん)


解析:「……コラーゲンのゼラチン化が完了しました。記録します」


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


解析:「……業務の範囲内です」


ルカ:「……なんで急に喋ってんの」


ヨーヘイ:「習慣です」


ルカ:「……昨日と全然ちゃう。昨日のも旨かったのに」


ヨーヘイ:「別の旨さです」


ルカ:「どっちがええとかじゃないやん。これ、別もんや」


ヨーヘイ:「そうです」


ルカが椀を両手で持ったまま、少し黙った。


ルカ:「……約束、守ってくれた」


ヨーヘイ:「昨夜言ったことは言います」


ルカ:「……ありがとう」


リリアに椀を渡すと、静かに受け取って一口飲み、目を閉じた。言葉はなかったが、表情が少しだけ動いた。十分だ。


フィンが鼻先で椀を押した。


ヨーヘイ:「順番がある。待て」


フィン:「キュッ」


ルカ:「今日は聞き分けがええな」


ヨーヘイ:「2時間待ったんです。もう慣れています」


フィン:「キューン」


ルカが吹き出した。



◆ 炊事場・昼


4人で食べた。


炊事場に汁の匂いが残った。昨日の炭火の匂いとは違う、ゆっくりした匂いだ。


ヨーヘイ内心:(蓮は、こういう煮込みを食べたことがない)


焼いたものは食べていた。串に刺したものも。でも時間をかけて煮込んだものを一緒に食べたことはなかった。


蓮が大きくなったら、食べさせたいと思った。


ヨーヘイ内心:(焼肉屋に煮込みを置くかどうか、考えていなかった。これは置ける。単価も取れる)


そこから「でも」とは続かなかった。


何かが、ゆっくりと満ちてきた。熟練度ではなく、もっと深いところから来る重みだった。


ヨーヘイ:(解析さん)


解析:「……Lv21です。おめでとうございます」


ヨーヘイ:(食べた後に来ますね、いつも)


解析:「……」


返事は来なかった。


今日も、帰らなかった。

作れるものが一つ増えた。それだけだった。


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【第47話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:21 HP:365/365 MP:173/173


スキル熟練度(本話で動いたもの):

◆《料理》Lv2 48/100(+3)

◆《解体》Lv2 38/100(+3)

◆その他:変動なし


★レベルアップ:Lv20→21(煮込み試食後・炊事場・昼)

 HP:350→365(+15) MP:165→173(+8)


▼ 本話の収支

◆収入:シロバラ換金 紫紺ウロコ×4枚(銅貨90枚×4=360枚)+E(中)魔石×1(銅貨60枚)=計420枚

◆支出:なし

◆本話終了時手持ち:1,453枚(銅貨)(1,033枚+420枚)


▼ 収納アイテム(本話の変動分)

◆消費:シロバラ尾肉(煮込みに使用)・岩塩(少量)・香草(少量)

◆変動なし:その他前話からの持ち物


▼ 本話の出来事

◆シロバラ素材(紫紺ウロコ・魔石)をボルドに換金。ウロコが今季値上がり中と判明。

◆尾肉を2時間煮込み。コラーゲンのゼラチン化完了。「次の機会に」の約束を果たした。ルカが「約束、守ってくれた」と言った。

◆リリアがギルド掲示板へ自分から赴き、盾の取引記録を調べた。窓口から商業出張所の情報を得た。

◆解析さんが《料理》《解体》同時上昇への質問に対して一度沈黙した。



▼ ヨーヘイの考察


解析さん、記録します。


シロバラの尾肉を煮込みました。2時間かかりました。フィンが2時間動きませんでした。分かっているようです。


コラーゲンが溶けました。ルカさんが言葉を出しませんでした。そういう時が一番伝わっていると思います。


リリさんがギルドに出かけました。自分から、盾の取引記録を調べに行きました。「調べます」と言っていました。次は商業の出張所だと言っていました。


解析さんに《解体》と《料理》が同時に上がる理由を聞きました。一度、間がありました。その後「回答できません」に戻ってきましたが、戻ってくる前に黙っていました。これは、記録します。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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