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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
4章 「帰れるのに、帰らない。」

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第48話 光が、出た。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

 シロバラを、また二体狩った。



◆ 朝・フィールド



 朝のベルネ近郊フィールドは霧が薄かった。


 東の木立の向こうに光が差し込んでいて、下草が白っぽく湿っている。昨日と同じルートを歩いた。岩場の手前で、フィンが耳を立てた。


解析:「……二体です。昨日と同一エリア。同一グレード」


ヨーヘイ:「ルカさん、左を頼みます。リリさんは右サイドで」


リリア:「……はい」


ルカ:「任せて」


 フィン:「キュッ」


 戦闘は短かった。


 シロバラは逃げない。岩場を背にして向かってくる性質が昨日と変わらなかった。ルカの火柱が左のシロバラの足を一瞬止めた。


ルカ:「行って」


 その一言でヨーヘイが踏み込んだ。石を蹴る音がした。左手の短剣、腹の継ぎ目に刃が入った瞬間、手に重さが来た。倒れた。


 右の個体はリリアが誘導した。槍の穂先を細かく動かして、シロバラの注意を引き続けた。


リリア:「こちらです」


 ヨーヘイが背後から回り込んだ。首の付け根に一撃。短剣の先が届いた瞬間、「ぐ」という低い声が魔物から出た。そこで止まった。


 血を吸った草の匂いがした。足元が少し滑った。朝露が残っていた。


ヨーヘイ:(四分、かかっていない)


解析:「……解体精度が昨日より上がっています。廃棄部位が四パーセント減少しました」


ヨーヘイ:「まだ四パーセントも捨ててたんですか」


解析:「……昨日は八パーセントでした」


ヨーヘイ内心:(改善している。でも、まだ捨てている)


 二体目の解体は流した。手順は昨日のうちに体に入っている。皮を剥いで、血を抜いて、部位を分ける。尾肉は昨日の煮込みで使ったから、今日は腹肉を中心に取った。解析が鑑定を流した。確認作業に近い。


ルカ:「早なったな」


リリア:「……はい。昨日より」


ルカ:「昨日、最初に見た時は正直引いた。でも慣れるな、これ」


ヨーヘイ:「慣れるものです」


ルカ:「……せやな」


 ルカが首を動かした。本人は何も言わなかったが、耳が少しだけ下を向いた。疫病のことを考えているのか、解体を見て里の誰かを思い出したのか、ヨーヘイには分からなかった。


ヨーヘイ内心:(聞けない。今は聞くべきではない)


 素材をボルドのところへ持ち込んだ。ウロコが八枚、魔石が二個。


ボルド:「……七百八十」


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


ボルド:「今日は早い時間だな」


ヨーヘイ:「用事があって」


 ボルドはそれ以上聞かなかった。素材を棚に置いて、記録台帳に何かを書き込んだ。ヨーヘイは枚数を数えて、腰の巾着に仕舞った。


ヨーヘイ内心:(二千二百三十三枚。換金が終わった)


 外に出ると、リリアとルカが待っていた。フィンがルカの足元で「キューン」と鳴いた。ルカが焼き菓子のようなものを持っていた。


ルカ:「買った。朝から一個も食べてへんかったんで」


リリア:「……おいしそうですね」


ルカ:「リリちゃんも食べる?」


リリア:「……少しだけ」


 フィン:「キューン」


ルカ:「あかん。これは二人の分しかない」


 フィン:「キュウッ!」


ヨーヘイ:「落ち着け」


 フィンがヨーヘイを見上げた。「キュッ」と鳴いた。


ヨーヘイ:「後で出す」


 フィン:「キュッ」


ヨーヘイ内心:(今朝も昨日と同じ声だ。昨日も同じことを言った。そういう時間が積み重なっている)



◆ 商業出張所



 商業出張所は、ギルドから二本北の通りにある。


 道を歩きながら、リリアが少しだけ前を行った。昨日の夜に場所を調べたと言っていた。自分で地図を見て、担当部署の名前まで書き留めていた。ヨーヘイがそれを知ったのは今朝で、「場所、確認しました」という一言だった。


ヨーヘイ内心:(昨日の夜に動いた。自分で調べた)


ルカ:「あの建物かな」


リリア:「……そうだと思います」


 石造りの建物で、扉が重い。ルカが先に押し開けた。中は薄暗くて、棚に書類が並んでいた。インクと古い紙の匂いがした。受付の男が顔を上げた。年嵩で、淡々とした目をしていた。


受付:「ご用件は」


 リリアが一歩、前に出た。


リリア:「……ノックス侯爵家の、盾についての流通記録を確認したいのですが」


 受付の男が少し目を細めた。


受付:「ノックス家……かなり前になりますか」


リリア:「……五年以上前です。盾、大型のものが一点です」


受付:「五年以上前でしたら古文書庫になります。閲覧には申請が必要ですね」


リリア:「……申請します」


 迷いがなかった。


 書類が出てきた。リリアが一度だけ、深く息を吸った。ヨーヘイには聞こえた。それからペンを取った。手が落ち着いていた。名前を書いて、日付を書いた。受付の男が書類を受け取って、印を押した。


受付:「確認に三日かかります。三日後にまたいらしてください」


リリア:「……はい。ありがとうございます」


 ヨーヘイはその間、ずっと隣に立っていた。ルカは少し後ろで棚に並ぶ書類の背表紙を目で追っていた。フィンは外で待っていた。


 扉を出ると、外の光が白かった。


ルカ:「終わったな。あっさりやったな」


リリア:「……はい」


ルカ:「……リリちゃん、声、ブレへんかったな」


リリア:「……そうでしたか」


ルカ:「うん。ちゃんと聞こえてた」


 リリアは何も言わなかった。少し前を向いた。


ルカ:「三日後か。記録が残ってたらええな」


リリア:「……はい。あると思っています」


 思っています、という言葉がヨーヘイには少し意外だった。確かだという話ではない。でも「あると思っている」と言った。不安がなかった、ということではないはずだ。それでも「あると思っている」と口にした。


ヨーヘイ内心:(信じている。リリさんは信じている。だから申請できた)


ヨーヘイ:「三日後、また来ましょう」


リリア:「……はい」


 ルカがフィンを迎えに扉の外へ出た。リリアもそれに続いた。ヨーヘイは少し遅れて、出た。


ヨーヘイ内心:(動いた。本当に動いた)



◆ 帰り道



 帰り道は来た道を戻った。


 出張所の重い扉を出て、ルカが先を歩いた。リリアがその後ろ、ヨーヘイはフィンを連れて最後尾を歩いた。


 夕方の石畳が、西日でオレンジに染まっていた。影が長くなっていた。ルカが東通りの屋台を覗いて、焼き菓子をもう一つ買った。匂いが漂ってきた。


フィン:「キューン」


ルカ:「分かる。でもあかん。今日はもう買わへん」


 フィン:「キューン」


ルカ:「あかんて言うてるやろ」


 ヨーヘイはその二人を眺めながら、少し後ろを歩いていた。リリアは三人の中で一番静かだった。石畳を踏む音が、他の二人より規則正しかった。


 そのときだった。


 リリアが、止まった。


 ルカも気づいた。振り返った。フィンの尾が揺れた。


ヨーヘイ:「リリさん?」


 振り向くと、リリアが自分の右手を見ていた。左手でそっと右手首を握っていた。動いていなかった。


リリア:「……本当に、動いてしまった、と思って」


 ルカも立ち止まった。声が低かった。


リリア:「……動いたら、終わるかもしれない、と思っていたのだと思います」


 ヨーヘイは一歩、近づいた。


リリア:「……見つからないかもしれない、と思っていた方が。怖くなかった、のだと思います」


 ルカが何も言わなかった。珍しいことだった。いつも何かを言う人間が、黙っていた。耳が少し後ろに傾いていた。


 少し間があった。石畳の上に、三人の影が伸びていた。フィンが耳を少し寝かせた。どこかで鳥の声がした。西日が傾いていた。


リリア:「……でも、動きました」


 その瞬間だった。


 右手のひらから、光が出た。


 指先ではなかった。手のひら全体から白い光が溢れた。止めようとしていない。リリアが自分の手を見ていた。ヨーヘイには見えた。ルカが息を飲む音がした。


 光がヨーヘイの腕に届いた。


 今朝の解体でできた擦り傷があった。左腕の内側の、浅い傷だ。そこに光が触れた。傷が、ふっと閉じていく。皮膚が、元通りになっていく。


 なくなった。痛みどころか、跡すら残っていなかった。


ヨーヘイ内心:(ヒールが、出た。意図していない。でも出た)


 フィンが一歩、後ずさった。


フィン:「キューン」


 低い声だった。警戒ではなかった。怖くはない。でも知らない何かが出た、という声だ。フィンはそのまま動かなかった。四秒、あるいは五秒。


 それからゆっくり、ヨーヘイの腕に鼻を近づけた。傷があった場所を、丁寧に嗅いだ。念を入れるように、もう一度嗅いだ。


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ内心:(大丈夫、と言っている)


 リリアが自分の手を、まだ見ていた。光は少しずつ薄れていく。でも手を下ろさなかった。


 誰も何も言わなかった。光が少しずつ薄れていく音がするようだった。実際には音はない。でも、そういう静けさだった。


リリア:「……出ました」


ヨーヘイ:「出ました」


 ルカが口を開いた。


ルカ:「……うっわ。ほんまに光んねんや。そして治してる」


 固まっていた。耳が立っていた。


ヨーヘイ:「(解析さん、記録した方がいいですか)」


 声が来た。


解析:「……記録済みです。ヨーヘイさんの擦り傷の深さ、光の持続時間、温度変化を含めて」


ヨーヘイ内心:(俺の擦り傷を基準に測っていた)


ヨーヘイ:「(いつから測っていたんですか)」


解析:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ内心:(擦り傷の深さまで業務だったのか)


 ルカがまだ固まっていた。ふと視線がヨーヘイに向いた。口元を見ている目だった。


ルカ:「あの……ヨーヘイさん、今なんか口、動いてた?」


ヨーヘイ:「気のせいです」


ルカ:「気のせいちゃうで。絶対に」


リリア:「……ヨーヘイさんのスキルです」


ルカ:「スキルが、しゃべるん?」


ヨーヘイ:「……探索補助に特化したタイプで」


ルカ:「そのタイプ、知らんけど」


ヨーヘイ:「あまり見かけないので」


ルカ:「……意味わからん。でもまあ、ええわ」


 耳が少し伏せた。「ええわ」の声が、少し柔らかかった。本当は気になっているが、今は聞かない、という声だった。


ヨーヘイ内心:(ルカはそういう人間だ)


 ルカとリリアが、少し目を合わせた。ルカが先に視線を外して、空を見た。


 リリアがゆっくりと手を下ろした。


ヨーヘイ:「三日後、また行きましょう」


リリア:「……はい」


 それだけで、リリアは歩き始めた。ルカがその後を追った。フィンが最後にヨーヘイの腕をもう一度嗅いで、走っていった。


 ヨーヘイは一人、石畳の上に立った。風が少し通った。


ヨーヘイ内心:(リリさんが動いた。蓮のことを、俺はまだ何もしていない)


 夕日が傾いていた。影がさらに長くなっていた。



◆ 宿・夜



 宿に戻って、部屋でシロバラの腹肉を収納から出した。今夜どう調理するかを考えていた。腹肉は昨日の尾肉より低脂肪で、弱火の石板焼きが向いている。タレを少量だけ落として仕上げるか。そんなことを整理していた時だった。


解析:「……追っ手の気配について、報告があります」


 ヨーヘイは手を止めた。腹肉を持ったまま、止まっていた。



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【第48話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:21 HP:365/365 MP:173/173


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《解体》Lv2 75/100(+4)

・《瞬歩》Lv1 79/100(+3)

・その他:変動なし


▼ 本話の収支

・収入:シロバラ素材換金(ウロコ×8・E中魔石×2)+840枚

・支出:なし

・本話終了時手持ち:2,293枚


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・追加:シロバラ腹肉×2体分(調理用)

・消費:シロバラ素材(換金済み)

・変動なし:前話からの持ち物は変わらず


▼ 本話の出来事

・シロバラ2体討伐・換金。解体精度が昨日より上がっていた。

・リリアが商業出張所で「ノックスの盾」の流通記録を自分から申請した。結果は三日後。

・帰り道、リリアの手のひらから光が溢れ、ヨーヘイの擦り傷が閉じた。

・宿に戻ったあと、解析が「追っ手の気配について報告がある」と言った。腹肉を持ったまま、ヨーヘイは動けなかった。


▼ ヨーヘイの考察

 リリさんが動いた。申請した。それだけのことに、なぜこんなに安堵しているのか、うまく説明できない。光が出た理由は、多分そこにある。気配の件が引っかかっている。次が怖い気もするし、早く聞きたい気もしている。ルカが固まっていた顔を、少し思い出している。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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