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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
3章

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第31話 ブロンズのカード

◆ ギルド・朝



 今日が、その日だ。


 ミナさんが窓口の奥から名前を呼んだ。


 昨日と同じ場所に立った。


ミナ(受付):「審査、通りました」


 封筒から取り出したカードが、カウンターに置かれた。


 青みがかった色だ。スチールカードとは光の拾い方が違う。スチールは白っぽい銀色で、蛍光灯の下だと少し光って見えた。こっちは落ち着いた色だ。光を受けても跳ね返さない。吸い込むような色だ。


ミナ(受付):「お受け取りください」


 手を伸ばした。指先がカードの縁に触れた瞬間、重さが来た。


 思っていたより、ずっと重かった。


 スチールカードより一回り厚い。指先に乗せた瞬間、重心がずっと下にある感触がした。そして冷たい。宿の部屋の温度に馴染んでいたスチールカードと違う。もっと芯のある冷たさだ。朝の金属の冷たさだ。


ヨーヘイ:(重い。全然違う。これが次のカードか)


 カードを指先で挟んだまま、少しだけ傾けた。青みの奥に、細かい鍛造の跡が見えた。スチールカードにはなかった模様だ。等間隔に刻まれた細い線が、カードの表面に走っている。


 ミナさんが書き物に戻ろうとして、止まった。


 視線がカードに落ちた。一拍だけ。


 それからまた書き物に戻った。何も言わなかった。


ヨーヘイ:(また止まった。でも今日は何も言わなかった。あの目は、何を数えているんだ)


 隣でリリアが小さく息を吐いた。


リリア:「……おめでとうございます」


 静かな一言だった。余計なものが何も入っていなかった。


ヨーヘイ:「ありがとう」


 ギルドの外に出た。


 朝の空気が来た。昨日と同じ空気だ。でも手の中のものが違う。カードを握ったまま、少し歩いた。


 ギルドと宿の中間あたりで、息が止まった——


ヨーヘイ:(いや、止まっていない。止まってない。ちょっと待て)


 歩いた。


 カードが手の中にある。冷たい。重い。


 なんとなく、カードを閉じた手のひらを見た。


ヨーヘイ:(蓮)


 返事はない。でも言いたくなった。


ヨーヘイ:「パパ、ブロンズのカードになった」


 気づいたら声に出ていた。止められなかった。


ヨーヘイ:「あと何枚分だろうな」


 答えは来なかった。でも空気が少しだけ柔らかかった気がした。気のせいかもしれない。でも今日はそれでよかった。


 少し歩いた。


 フィンが横に来た。いつの間にかいた。


ヨーヘイ:「お前に言ってたわけじゃないけど、ありがとう」


フィン:「キューン」


 意味は分からない。でも尾が一度揺れた。


 ひとしきり歩いて、宿の方角に向き直した頃に。


 解析の声が来た。


解析の声:「……おめでとうございます」


ヨーヘイ:(え、言ってくれるのか)


 間があった。


解析の声:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(自分で締めた。おめでとうと言って、自分で業務の範囲内で締めた。なんでそうなる)


 でも笑えた。今日はそれでよかった。



◆ ラルフの工房・昼



 工房の扉を叩いた。


ラルフ:「はい——あ、ヨーヘイさん」


ヨーヘイ:「ラルフさん、Eランクになりました」


 ラルフが止まった。


 カウンターの上で手が止まった。目が止まった。それから——


ラルフ:「本当ですか、あの、えっ、本当に! ぼく、ぼくが紹介したんですよね、あの、ギルドに、最初に、それで、Eランクって、すごいですよ本当に、ヨーヘイさんがFランクの時から、あのっ、リリアさんもいて、フィンもいて、あの、ぼく、ぼく嬉しくて——」


 止まった。


 自分で止まった。


ラルフ:「……すみません、つい」


ヨーヘイ:(止まった。自分で止まった。自分でブレーキかけた。偉い)


 ラルフが深呼吸した。それから顔を上げた。今度は落ち着いた目だった。


ラルフ:「……焼肉屋、楽しみにしています」


 小声だった。でも本気の声だった。


 ヨーヘイは何も言えなかった。


ヨーヘイ:(この人、ずっとそれを待ってる)


 ラルフは照れたのか、道具の整理を始めた。その横でリリアがカウンターの脇に近づいた。


リリア:「ラルフさんは……ノックスの盾、聞いたことありますか」


 ラルフの手が止まった。


ラルフ:「ノックスの……盾、ですか」


 顎に手を当てて考えた。


ラルフ:「名前は……聞いたことがあります。でも詳しくは、ぼくには。工具の仕入れで寄る武具商の方がいるんですが、その方の方が詳しいかもしれないです」


リリア:「……そうですか」


 リリアはそれ以上聞かなかった。でも頷いた。メモを取るわけでも、食い下がるわけでもなかった。ただ、聞いた。


ヨーヘイ:(あ、自分から動いた。俺じゃなくて、リリさんが。「またいつか」じゃなくて、今日聞いた)


 ラルフが「その人が来たら聞いておきます」と言った。リリアが「ありがとうございます」と言った。


 それで終わった。大きな話じゃなかった。でも動いた。



◆ 宿・昼すぎ



 ラルフの工房を出た頃には、日が少し高くなっていた。


 サーラさんが炊事場から顔を出した。


ヨーヘイ:「Eランクになりました」


サーラ:「そうかい。飯でも食いな」


 それだけだった。


 大事な顔で聞かれるより、いつも通りの方が落ち着く。今日はそれがよく分かった。


 テーブルに座った。フィンが隣で床に伏せた。


 定食が来た。今日は肉が厚かった。


 食べながら、ブロンズカードをテーブルに出した。


 フィンが気づいた。立ち上がって近づいてきた。鼻をカードに近づけた。鼻孔が細かく動いている。尾が高速で揺れ始めた。昨日の腹肉の時と同じ動き方だ。


 クンクン嗅いだ。


 止まった。


 尾が止まった。鼻孔が止まった。


 それから「キュッ」と鳴いて、戻った。


ヨーヘイ:(食えないと判定した。そうか。これは食えない。お前は本当に正直だな)


 カードをしまった。飯を食べた。


 今日の肉はいい火が入っていた。



◆ ウラベダン・夕方



 Eランク昇格後、初の依頼を受けた。


 2層の定点回収依頼だ。報酬が上がった。Fランクの時より依頼の幅が明らかに広い。ギルドの掲示板に並んでいる依頼の数が違う。


 ドルグが門を開けながら「昇格したそうだな」と言った。誰から聞いたのかは分からない。村は狭い。


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


ドルグ:「精が出るな」


 言葉は短かった。でも悪い顔じゃなかった。


 石段を降りた。冷たさが来た。2層の空気だ。もう慣れた空気だ。


解析の声:「……右奥、2体います」


 聞く前に来た。先に向いた。今日は2人と1匹で挟んだ。甲羅に刃が入る感触が、昨日と同じだった。イワハサミ2体、問題なかった。素材を収納して、奥に進んだ。


 回収依頼の素材を拾って、帰路に入った。


 石段が見えてきたところで。


 フィンの耳が、立った。


ヨーヘイ:(後ろか)


解析の声:「……気配は、消えました」


 一拍あった。


ヨーヘイ:(消えた。でもいた。また来てる。今日は昇格した日だ。それを知っているのか、知らないのか)


 止まらなかった。歩き続けた。リリアも何も言わなかった。でも槍の持ち方が変わっていた。右手が柄の中央から後端に移っていた。いつでも振れる位置だ。気づいていた。


ヨーヘイ:(まだ動いていない。今日は来ない。でも消えていない)


 石段を登った。外の空気が来た。


 ボルドの解体所に寄った。素材を渡した。ボルドが目方を確認しながら「2層のか」と言った。


ヨーヘイ:「はい」


ボルド:「最近、毎日来るな」


ヨーヘイ:「慣れてきました」


 ボルドが鼻を鳴らした。それで終わった。


 换金して、宿に向かった。



◆ 宿・夜



 帰りがけに岩底の三人と会った。


 ガンツがヨーヘイを見た。それから手の中の木杯を少しだけ持ち上げた。バルドとミラも続いた。何も言わなかった。


 ヨーヘイも何も言わなかった。


 でもガンツが笑った。口の端だけ、少し上がった。


 バルドが「ミソ、また頼むぞ」とだけ言った。ヨーヘイが頷いた。ミラが少し目を細めた。それだけだ。


ヨーヘイ:(この人たちに、そういう顔させることができるようになった)


 三人が先に宿の暖かい方へ消えた。


 部屋に戻った。


 フィンが先に入って、壁際に移動した。布団の端じゃなく、壁に背をつけて丸まった。いつもと違う場所だ。


 横になって天井を見た。


ヨーヘイ:(今日、Eランクになった。ブロンズのカードになった)


 手の中の重さを思い出した。


ヨーヘイ:(追っ手が、まだいる。消えていない。でも今日は動かなかった。なぜ動かなかった)


 答えが来ない。


ヨーヘイ:(リリさんが、自分でラルフさんに聞きに行った。ノックスの盾の話。俺は何も言っていないのに)


 天井のまま、目を閉じた。


 「名前は聞いたことがある」とラルフが言った。それだけだ。でも一歩、動いた。それが今日起きた。


ヨーヘイ:(「ベルネ」が誰か、まだ分からない。解析さんが知っていた。報告があると言って止まった。あの止まり方は普通じゃなかった。いつもの誤魔化し方とも違う。言いかけて、止めた)


 解析の声は来なかった。


 眠れそうだった。



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【第31話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:8 HP:190/190 MP:102/102


スキル熟練度(本話で動いたもの):

・《料理》Lv2 熟練度 38/100(変動なし)

・《解体》Lv2 熟練度 28/100(+2)

・《瞬歩》Lv1 熟練度 35/100(+2)

・その他:変動なし


▼ 本話の収支

・2層定点回収依頼報酬:+32枚

・本話終了時手持ち:582枚


▼ 収納アイテム(変動分)

・変動なし(素材は即換金済み)


▼ 本話の出来事

・Eランク昇格確定。ブロンズカードを受領した。スチールより重く、冷たい。

・ラルフに報告した。早口が止まらなくなった後、「焼肉屋、楽しみにしています」と言った。

・リリアがラルフに自分からノックスの盾の話を聞いた。「名前は聞いたことがある」まで分かった。

・帰路でフィンの耳が立った。解析さんが「気配は消えました」と言った。追っ手は、まだいる。


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 ブロンズのカードになりました。スチールより重いです。冷たかったです。何か違う金属です。ミナさんが渡す時、一拍だけカードを見ていました。あの目は、何を確認しているんでしょう。


 ラルフさんに報告しました。早口が止まりませんでした。でも自分で止まりました。「焼肉屋、楽しみにしています」と言いました。小声でした。あの人は、本気で待っています。


 リリさんが自分でラルフさんに聞いていました。ノックスの盾の話です。俺は何も言っていないのに、自分から動きました。「名前は聞いたことがある」まで分かりました。「ベルネ」が誰か、まだ分かりません。解析さんが名前を知っていて、報告があると言いかけて止まりました。誰かが動いています。何の報告か、分かっていません。


 記録、ここまで。

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