第26話 塩ダレ、できた
◆ ギルド前・朝
ギルドに向かう途中で、バルドさんたちに会った。
3人ともすでに装備を整えていた。ウラベダンに向かう足だ。バルドさんが先頭で、ミラさんがその後ろ、ガンツさんが最後尾。いつもの並びだ。
ミラさんが先に気づいた。
ミラ:「あ、昨日のおっさん。また食わせろよ」
ヨーヘイ:「昨日より旨いやつを用意します」
言ってから、気づいた。
ヨーヘイ:(今、何を言った)
ミラ:「マジか。いつ?」
ヨーヘイ:「……昼までに」
口が先に動いた。塩ダレはまだ試作もしていない。比率も決まっていない。昼までに完成する保証は何もない。
バルドさんが無言で頷いた。それだけで踵を返した。ガンツさんが続く。ミラさんが「楽しみにしてるよ」と言いながらついていく。
3人の背中が、ウラベダンの方向へ消えた。
フィンがその背中を見送って、ヨーヘイを見上げた。
フィン:「キュッ」
ヨーヘイ:(分かってる。急ぐ)
解析の声が届いた。
解析の声:「……昼まで、間に合いますか」
ヨーヘイ:(今それを言うか)
解析の声:「……業務の範囲内です」
ヨーヘイ:(お前が心配するのは業務の範囲なのか。それは俺が心配する話じゃないのか)
走った。
◆ 炊事場
サーラさんに声をかけた。
ヨーヘイ:「試作があります。今日中に」
サーラ(女将):「急かされてる顔してるね」
ヨーヘイ:「昼までと言ってしまいました」
サーラさんが一拍だけ止まった。それから「どうぞ」と炊事場を顎で示した。
収納を開く。発酵液の小瓶、ミツノミ、辛根。全部出した。リリアが隣に立った。
ヨーヘイ:「リリさん、ひとつお願いがあります」
リリア:「……はい」
ヨーヘイ:「これをミナさんに」
収納からガルドモグラの素材を出した。E(小)魔石×1、爪×4、厚毛皮×1。昨日の討伐分だ。
ヨーヘイ:「換金をお願いできますか。俺はここから離れられないので」
リリア:「……分かりました」
受け取って、出ていった。フィンが後を追おうとして、ヨーヘイに目で制された。フィンが渋々戻った。
小皿を三枚並べた。
一枚目。発酵液を多めに取る。ミツノミを半分に割って、断面を押し当てて絞る。辛根を少量擦り込む。腰肉を一切れ、薄く切って漬けた。
鉄板を火にかけた。油を薄く引いて、肉を置く。
音が来た。じゅっ、という水分の逃げる音。発酵液の甘い匂いが煙と一緒に上がる。表面がすぐに色づいた。
十五秒で引き上げた。断面が均一に焼けている。見た目は悪くない。
口に入れた。噛んだ瞬間に分かった。
ヨーヘイ:(重い)
発酵液が全体を覆っている。噛むたびに甘みと塩気が一緒に出てくるが、腰肉自身の味が見えない。香ばしさの下に何かあるはずなのに、発酵液がその上に蓋をしている。塩の仕事がどこにもない。これでは脂の多い肉向けだ。赤身に使うと素材の上に乗るだけになる。
二枚目。発酵液を大幅に減らした。ミツノミを多めに絞る。辛根は同量。腰肉を漬けた。
鉄板に置く。
音が変わった。前回の「じゅっ」より薄い、乾いた音だ。水分が少ない。煙が細くなった。焼き上がりの色が淡い。表面の艶も控えめだ。
口に入れた。噛んだ瞬間、鼻の奥に酸が突いてきた。
ヨーヘイ:(出すぎる)
ミツノミの酸が先頭に立って走っている。肉の旨みが後ろに押し込まれて出てこない。腰肉の赤身には淡い甘みがある。その甘みがあってこそ塩が映えるはずなのに、酸がその前で仁王立ちしている。飲み込んだ後も、口の中に酸の後味だけが残った。塩が見えない。
ヨーヘイ:(時間がない。次で決める)
三枚目。発酵液は最初の半分以下。ミツノミは絞り汁だけを数滴。辛根は本当に微量——爪の先に引っかかる程度に擦り込む。腰肉を漬けた。今度は少し長く置いた。
鉄板に置く。
今度の音は静かだった。「さっ」という薄い音。煙がほとんど出ない。前の2回と違って、肉が鉄板に吸いつくような感触がある。
ヨーヘイ:(速い。火の入りが均一だ)
引き上げた。断面が薄く光っている。閉じている。
口に入れた。
噛んだ。
すっと切れた。隠し包丁が繊維を断ち切っている。抵抗がない。次の瞬間、旨みが出てきた——発酵液の甘みではなく、腰肉そのものの味だ。肉汁と一緒に、塩の輪郭がはっきり来る。ミツノミの酸がその後ろで薄く支えている。酸ではなく、丸みだ。辛根は最後に鼻の奥を一瞬通って、消えた。引き際が早い。邪魔をしない。ただ、締める。
ヨーヘイ:(……来た)
飲み込んでから、口の中に何かが残った。旨みの余韻ではなく、「次が欲しい」という感覚だ。
手が止まらなかった。もう一枚切って、同じ手順で焼く。
ヨーヘイ:(タレは脂と旨みを繋ぐ。塩は素材を剥く。塩ダレは——その中間にいる。素材を剥きながら、少しだけ持ち上げる。それだけの仕事をする)
フィンが鉄板の方に一直線で来た。辛根微量ならセーフらしい。
フィン:「キュウッ!」
ヨーヘイ:(順番がある。待て)
炊事場の入口に、サーラさんがいた。いつから来ていたか分からない。腕を組んで、壁に背を預けている。
ヨーヘイ:「サーラさん」
小皿に腰肉を一切れ乗せて、差し出した。
サーラさんが受け取った。箸でつまんで、ゆっくり口に入れる。一度だけ噛んで、止まった。それからゆっくり噛み続けた。炊事場が静かになった。サーラさんが嚥下して、一拍あった。
サーラ(女将):「……うん。これ、出せる」
ヨーヘイ:(サーラさんが言った)
それだけ言って、また腕を組んだ。説明しない。補足しない。この人が「出せる」と言う時の重さを、ヨーヘイは知っていた。
サーラ(女将):「うちの客に出す時は、先に言いな」
ヨーヘイ:「はい」
そこでリリアが戻ってきた。
リリア:「換金、83枚でした」
そう言いながら、受け取った銅貨をヨーヘイの手のひらに返した。
その瞬間だった。
リリアの手から、白い光が一瞬滲んだ。
リリア自身が気づいた。自分の手を見た。
リリア:「……すみません、勝手に」
ヨーヘイ:「いいことだと思います」
それだけで終わりにした。サーラさんが何も言わずに炊事場を出ていくのが見えた。
◆ ギルド前広場・昼
岩底の三人が戻ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。ウラベダンから出てきたばかりで、3人とも埃っぽい。ガンツさんの盾に新しい傷が入っていた。
ヨーヘイは腰肉を切って並べた。塩ダレで漬けたやつだ。鉄板を出して、火をおこす。
肉を置いた瞬間に音が来た。
「さっ」という、薄くて静かな音。炊事場で聞いた音と同じだ。外の空気の中でも変わらない。
煙が細く上がった。塩とミツノミの酸が混じった匂いが、風に乗って流れた。
ミラさんが鼻を動かした。
ミラ:「なんか昨日と違う」
ヨーヘイ:「タレが変わりました」
焼き上がりを皿に乗せた。表面が薄く光っている。脂ではなく、塩ダレの膜だ。3人の前に置いた。
バルドさんが箸でつまんだ。一口、口に入れた。
止まった。
咀嚼が止まったのではない。考えている。口の中で何かを確かめている。それから、ゆっくり噛み続けた。
ミラさんが食べた。最初は軽い感じで口に入れて、次の瞬間に眉が動いた。
ミラ:「……なんか違う」
昨日と同じ言葉だった。でも声の質が違った。昨日は驚きだった。今日は確認だ。
ガンツさんが黙って手を出した。ヨーヘイが追加で2枚乗せた。ガンツさんが1枚目を食べた。顎の動きが一定だ。2枚目に手が伸びた。それも食べた。口元が動かない。でも皿の方を見ている。
バルドさんが最後に言った。
バルド:「タレが変わった」
ヨーヘイ:(この人が「楽しみにしてる、本当に」と言ったのは昨日だ。そして今日「変わった」と言った。2日で変わった、と言っている)
フィンが皿の端をじっと見ている。
フィン:「キューン」
ヨーヘイ:(お前の分もある。待て)
帰り際だった。バルドさんが歩き出してから、ふと足を止めた。振り返らずに言った。
バルド:「……最近、ベルネの方が少し騒がしい。それだけだ」
それだけ言って、歩いた。ミラさんとガンツさんがついていく。
ヨーヘイは聞き返せなかった。
ヨーヘイ:(解析さん)
解析の声:「……」
ヨーヘイ:(何も言わないんですか)
解析の声:「……」
無言が続いた。
ヨーヘイ:(まあ、いい)
フィンに腰肉を一切れ渡した。フィンが受け取って、その場で食べた。尾の動きが速い。
手持ちが485枚になった。塩ダレが2種類になった。明日はウラベダンに入る。2層の空気を、一度嗅いでおきたい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第26話 リザルト&ステータス】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)
Lv:5 HP:150/150 MP:72/72
スキル熟練度:
・《解析》Lv1 熟練度 100/100(+13)
・《収納》Lv1 熟練度 42/100(+1)
・《採取》Lv1 熟練度 57/100(±0)
・《解体》Lv2 熟練度 17/100(±0)
・《料理》Lv2 熟練度 26/100(+8)
・《従魔契約》Lv1 熟練度 23/100(+1)
・《瞬歩》Lv1 熟練度 18/100(±0)
・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100
▼ 本話の収支
・ガルドモグラ素材換金:+83枚(E魔石×1:11枚・爪×4:18枚・厚毛皮×1:54枚)
・本話終了時手持ち:485枚
▼ 収納アイテム(本話終了時)
・蒼魔鉄中剣×1 ・短剣×1(予備) ・包丁×1 ・採取へら×1
・冒険者証(Fランク)
・ポーション×1
・解毒薬×1
・タレ完成品(辛根入り・発酵液ベース):少量
・塩ダレ完成品(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):少量
・ガルドモグラ肉(調理済み残量)
・ドウクモグラ肉(調理済み残量)
・クロアシイタチ肉(残量)
・ミツノミ:残量
・アマリュ酒:残量
・辛根:残量
・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1
▼ 本話の出来事
・ガルドモグラ素材換金:リリア代行・+83枚(手持ち485枚)
・塩ダレ試作(本格):3回の比率調整を経て完成。発酵液薄め+ミツノミ絞り汁数滴+辛根微量
・サーラ(女将):試食して「これ、出せる」と断言。「うちの客に出す時は先に言いな」
・岩底の三人に提供:全員無言で食べ、バルド「タレが変わった」(25-2「楽しみにしてる、本当に」の回収)
・リリア魔法:感情から光が滲む(意思より先に出た・新フェーズ)
・バルド:帰り際に「ベルネの方が少し騒がしい」と一言落とした
・《解析》熟練度100/100到達
▼ タレ開発記録(本話時点)
・発酵液タレ(辛根入り):完成・保管済み
・塩ダレ(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):本話で完成・保管済み
・使い分け:脂多め部位=発酵液タレ、赤身部位=塩ダレ
▼ リリア魔法記録(本話時点)
・本話:感情から光が滲む(意思より先に出た・初)
・進捗:シールド(24-1・咄嗟)→ヒール(24-1・意思あり)→練習発現(25-2・意思先行)→感情先行(本話)
・次の目標:意図的に繰り返せるか
▼ ヨーヘイの考察
解析さん、記録します。
朝、岩底の三人に「昼までに」と言いました。口が先に動きました。
塩ダレができました。3回試して、3回目に来ました。発酵液薄め、ミツノミ数滴、辛根微量です。サーラさんが「出せる」と言いました。バルドさんが「タレが変わった」と言いました。2人が言うなら、変わっています。
リリさんが銅貨を返す時に光が出ました。本人も驚いていました。
バルドさんが「ベルネの方が少し騒がしい」と言いました。解析さんに聞いたら無言でした。今日は追いません。
明日、2層に入ります。
記録、ここまで。
ギルドに向かう途中で、バルドさんたちに会った。
3人ともすでに装備を整えていた。ウラベダンに向かう足だ。バルドさんが先頭で、ミラさんがその後ろ、ガンツさんが最後尾。いつもの並びだ。
ミラさんが先に気づいた。
ミラ:「あ、昨日のおっさん。また食わせろよ」
ヨーヘイ:「昨日より旨いやつを用意します」
言ってから、気づいた。
ヨーヘイ:(今、何を言った)
ミラ:「マジか。いつ?」
ヨーヘイ:「……昼までに」
口が先に動いた。塩ダレはまだ試作もしていない。比率も決まっていない。昼までに完成する保証は何もない。
バルドさんが無言で頷いた。それだけで踵を返した。ガンツさんが続く。ミラさんが「楽しみにしてるよ」と言いながらついていく。
3人の背中が、ウラベダンの方向へ消えた。
フィンがその背中を見送って、ヨーヘイを見上げた。
フィン:「キュッ」
ヨーヘイ:(分かってる。急ぐ)
解析の声が届いた。
解析の声:「……昼まで、間に合いますか」
ヨーヘイ:(今それを言うか)
解析の声:「……業務の範囲内です」
ヨーヘイ:(お前が心配するのは業務の範囲なのか。それは俺が心配する話じゃないのか)
走った。
◆ 炊事場
サーラさんに声をかけた。
ヨーヘイ:「試作があります。今日中に」
サーラ(女将):「急かされてる顔してるね」
ヨーヘイ:「昼までと言ってしまいました」
サーラさんが一拍だけ止まった。それから「どうぞ」と炊事場を顎で示した。
収納を開く。発酵液の小瓶、ミツノミ、辛根。全部出した。リリアが隣に立った。
ヨーヘイ:「リリさん、ひとつお願いがあります」
リリア:「……はい」
ヨーヘイ:「これをミナさんに」
収納からガルドモグラの素材を出した。E(小)魔石×1、爪×4、厚毛皮×1。昨日の討伐分だ。
ヨーヘイ:「換金をお願いできますか。俺はここから離れられないので」
リリア:「……分かりました」
受け取って、出ていった。フィンが後を追おうとして、ヨーヘイに目で制された。フィンが渋々戻った。
小皿を三枚並べた。
一枚目。発酵液を多めに取る。ミツノミを半分に割って、断面を押し当てて絞る。辛根を少量擦り込む。腰肉を一切れ、薄く切って漬けた。
鉄板を火にかけた。油を薄く引いて、肉を置く。
音が来た。じゅっ、という水分の逃げる音。発酵液の甘い匂いが煙と一緒に上がる。表面がすぐに色づいた。
十五秒で引き上げた。断面が均一に焼けている。見た目は悪くない。
口に入れた。噛んだ瞬間に分かった。
ヨーヘイ:(重い)
発酵液が全体を覆っている。噛むたびに甘みと塩気が一緒に出てくるが、腰肉自身の味が見えない。香ばしさの下に何かあるはずなのに、発酵液がその上に蓋をしている。塩の仕事がどこにもない。これでは脂の多い肉向けだ。赤身に使うと素材の上に乗るだけになる。
二枚目。発酵液を大幅に減らした。ミツノミを多めに絞る。辛根は同量。腰肉を漬けた。
鉄板に置く。
音が変わった。前回の「じゅっ」より薄い、乾いた音だ。水分が少ない。煙が細くなった。焼き上がりの色が淡い。表面の艶も控えめだ。
口に入れた。噛んだ瞬間、鼻の奥に酸が突いてきた。
ヨーヘイ:(出すぎる)
ミツノミの酸が先頭に立って走っている。肉の旨みが後ろに押し込まれて出てこない。腰肉の赤身には淡い甘みがある。その甘みがあってこそ塩が映えるはずなのに、酸がその前で仁王立ちしている。飲み込んだ後も、口の中に酸の後味だけが残った。塩が見えない。
ヨーヘイ:(時間がない。次で決める)
三枚目。発酵液は最初の半分以下。ミツノミは絞り汁だけを数滴。辛根は本当に微量——爪の先に引っかかる程度に擦り込む。腰肉を漬けた。今度は少し長く置いた。
鉄板に置く。
今度の音は静かだった。「さっ」という薄い音。煙がほとんど出ない。前の2回と違って、肉が鉄板に吸いつくような感触がある。
ヨーヘイ:(速い。火の入りが均一だ)
引き上げた。断面が薄く光っている。閉じている。
口に入れた。
噛んだ。
すっと切れた。隠し包丁が繊維を断ち切っている。抵抗がない。次の瞬間、旨みが出てきた——発酵液の甘みではなく、腰肉そのものの味だ。肉汁と一緒に、塩の輪郭がはっきり来る。ミツノミの酸がその後ろで薄く支えている。酸ではなく、丸みだ。辛根は最後に鼻の奥を一瞬通って、消えた。引き際が早い。邪魔をしない。ただ、締める。
ヨーヘイ:(……来た)
飲み込んでから、口の中に何かが残った。旨みの余韻ではなく、「次が欲しい」という感覚だ。
手が止まらなかった。もう一枚切って、同じ手順で焼く。
ヨーヘイ:(タレは脂と旨みを繋ぐ。塩は素材を剥く。塩ダレは——その中間にいる。素材を剥きながら、少しだけ持ち上げる。それだけの仕事をする)
フィンが鉄板の方に一直線で来た。辛根微量ならセーフらしい。
フィン:「キュウッ!」
ヨーヘイ:(順番がある。待て)
炊事場の入口に、サーラさんがいた。いつから来ていたか分からない。腕を組んで、壁に背を預けている。
ヨーヘイ:「サーラさん」
小皿に腰肉を一切れ乗せて、差し出した。
サーラさんが受け取った。箸でつまんで、ゆっくり口に入れる。一度だけ噛んで、止まった。それからゆっくり噛み続けた。炊事場が静かになった。サーラさんが嚥下して、一拍あった。
サーラ(女将):「……うん。これ、出せる」
ヨーヘイ:(サーラさんが言った)
それだけ言って、また腕を組んだ。説明しない。補足しない。この人が「出せる」と言う時の重さを、ヨーヘイは知っていた。
サーラ(女将):「うちの客に出す時は、先に言いな」
ヨーヘイ:「はい」
そこでリリアが戻ってきた。
リリア:「換金、83枚でした」
そう言いながら、受け取った銅貨をヨーヘイの手のひらに返した。
その瞬間だった。
リリアの手から、白い光が一瞬滲んだ。
リリア自身が気づいた。自分の手を見た。
リリア:「……すみません、勝手に」
ヨーヘイ:「いいことだと思います」
それだけで終わりにした。サーラさんが何も言わずに炊事場を出ていくのが見えた。
◆ ギルド前広場・昼
岩底の三人が戻ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。ウラベダンから出てきたばかりで、3人とも埃っぽい。ガンツさんの盾に新しい傷が入っていた。
ヨーヘイは腰肉を切って並べた。塩ダレで漬けたやつだ。鉄板を出して、火をおこす。
肉を置いた瞬間に音が来た。
「さっ」という、薄くて静かな音。炊事場で聞いた音と同じだ。外の空気の中でも変わらない。
煙が細く上がった。塩とミツノミの酸が混じった匂いが、風に乗って流れた。
ミラさんが鼻を動かした。
ミラ:「なんか昨日と違う」
ヨーヘイ:「タレが変わりました」
焼き上がりを皿に乗せた。表面が薄く光っている。脂ではなく、塩ダレの膜だ。3人の前に置いた。
バルドさんが箸でつまんだ。一口、口に入れた。
止まった。
咀嚼が止まったのではない。考えている。口の中で何かを確かめている。それから、ゆっくり噛み続けた。
ミラさんが食べた。最初は軽い感じで口に入れて、次の瞬間に眉が動いた。
ミラ:「……なんか違う」
昨日と同じ言葉だった。でも声の質が違った。昨日は驚きだった。今日は確認だ。
ガンツさんが黙って手を出した。ヨーヘイが追加で2枚乗せた。ガンツさんが1枚目を食べた。顎の動きが一定だ。2枚目に手が伸びた。それも食べた。口元が動かない。でも皿の方を見ている。
バルドさんが最後に言った。
バルド:「タレが変わった」
ヨーヘイ:(この人が「楽しみにしてる、本当に」と言ったのは昨日だ。そして今日「変わった」と言った。2日で変わった、と言っている)
フィンが皿の端をじっと見ている。
フィン:「キューン」
ヨーヘイ:(お前の分もある。待て)
帰り際だった。バルドさんが歩き出してから、ふと足を止めた。振り返らずに言った。
バルド:「……最近、ベルネの方が少し騒がしい。それだけだ」
それだけ言って、歩いた。ミラさんとガンツさんがついていく。
ヨーヘイは聞き返せなかった。
ヨーヘイ:(解析さん)
解析の声:「……」
ヨーヘイ:(何も言わないんですか)
解析の声:「……」
無言が続いた。
ヨーヘイ:(まあ、いい)
フィンに腰肉を一切れ渡した。フィンが受け取って、その場で食べた。尾の動きが速い。
手持ちが485枚になった。塩ダレが2種類になった。明日はウラベダンに入る。2層の空気を、一度嗅いでおきたい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【第26話 リザルト&ステータス】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)
Lv:5 HP:150/150 MP:72/72
スキル熟練度:
・《解析》Lv1 熟練度 100/100(+13)
・《収納》Lv1 熟練度 42/100(+1)
・《採取》Lv1 熟練度 57/100(±0)
・《解体》Lv2 熟練度 17/100(±0)
・《料理》Lv2 熟練度 26/100(+8)
・《従魔契約》Lv1 熟練度 23/100(+1)
・《瞬歩》Lv1 熟練度 18/100(±0)
・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100
▼ 本話の収支
・ガルドモグラ素材換金:+83枚(E魔石×1:11枚・爪×4:18枚・厚毛皮×1:54枚)
・本話終了時手持ち:485枚
▼ 収納アイテム(本話終了時)
・蒼魔鉄中剣×1 ・短剣×1(予備) ・包丁×1 ・採取へら×1
・冒険者証(Fランク)
・ポーション×1
・解毒薬×1
・タレ完成品(辛根入り・発酵液ベース):少量
・塩ダレ完成品(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):少量
・ガルドモグラ肉(調理済み残量)
・ドウクモグラ肉(調理済み残量)
・クロアシイタチ肉(残量)
・ミツノミ:残量
・アマリュ酒:残量
・辛根:残量
・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1
▼ 本話の出来事
・ガルドモグラ素材換金:リリア代行・+83枚(手持ち485枚)
・塩ダレ試作(本格):3回の比率調整を経て完成。発酵液薄め+ミツノミ絞り汁数滴+辛根微量
・サーラ(女将):試食して「これ、出せる」と断言。「うちの客に出す時は先に言いな」
・岩底の三人に提供:全員無言で食べ、バルド「タレが変わった」(25-2「楽しみにしてる、本当に」の回収)
・リリア魔法:感情から光が滲む(意思より先に出た・新フェーズ)
・バルド:帰り際に「ベルネの方が少し騒がしい」と一言落とす(ガロン仕込み)
・《解析》熟練度100/100到達
▼ タレ開発記録(本話時点)
・発酵液タレ(辛根入り):完成・保管済み
・塩ダレ(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):本話で完成・保管済み
・使い分け:脂多め部位=発酵液タレ、赤身部位=塩ダレ
▼ リリア魔法記録(本話時点)
・本話:感情から光が滲む(意思より先に出た・初)
・進捗:シールド(24-1・咄嗟)→ヒール(24-1・意思あり)→練習発現(25-2・意思先行)→感情先行(本話)
・次の目標:意図的に繰り返せるか
▼ ヨーヘイの考察
解析さん、記録します。
朝、岩底の三人に「昼までに」と言いました。口が先に動きました。
塩ダレができました。3回試して、3回目に来ました。発酵液薄め、ミツノミ数滴、辛根微量です。サーラさんが「出せる」と言いました。バルドさんが「タレが変わった」と言いました。2人が言うなら、変わっています。
リリさんが銅貨を返す時に光が出ました。本人も驚いていました。
バルドさんが「ベルネの方が少し騒がしい」と言いました。解析さんに聞いたら無言でした。今日は追いません。
明日、2層に入ります。
記録、ここまで。
【第26話】塩ダレ、できた
「……昼まで、間に合いますか」
朝、口が先に動きました。
「昼までに用意します」——言ってから気づいた時には、バルドさんたちはもうウラベダンの方向へ歩いていました。解析さんが珍しく心配してきました。業務の範囲内だそうです。
3回試しました。1回目は重かった。2回目は酸が出すぎた。3回目で来ました。サーラさんが「これ、出せる」と言いました。バルドさんが「タレが変わった」と言いました。2人が言うなら、変わっています。




