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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
3章

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48/52

第26話 塩ダレ、できた

◆ ギルド前・朝



 ギルドに向かう途中で、バルドさんたちに会った。


 3人ともすでに装備を整えていた。ウラベダンに向かう足だ。バルドさんが先頭で、ミラさんがその後ろ、ガンツさんが最後尾。いつもの並びだ。


 ミラさんが先に気づいた。


ミラ:「あ、昨日のおっさん。また食わせろよ」


ヨーヘイ:「昨日より旨いやつを用意します」


 言ってから、気づいた。


ヨーヘイ:(今、何を言った)


ミラ:「マジか。いつ?」


ヨーヘイ:「……昼までに」


 口が先に動いた。塩ダレはまだ試作もしていない。比率も決まっていない。昼までに完成する保証は何もない。


 バルドさんが無言で頷いた。それだけで踵を返した。ガンツさんが続く。ミラさんが「楽しみにしてるよ」と言いながらついていく。


 3人の背中が、ウラベダンの方向へ消えた。


 フィンがその背中を見送って、ヨーヘイを見上げた。


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ:(分かってる。急ぐ)


 解析の声が届いた。


解析の声:「……昼まで、間に合いますか」


ヨーヘイ:(今それを言うか)


解析の声:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(お前が心配するのは業務の範囲なのか。それは俺が心配する話じゃないのか)


 走った。



◆ 炊事場



 サーラさんに声をかけた。


ヨーヘイ:「試作があります。今日中に」


サーラ(女将):「急かされてる顔してるね」


ヨーヘイ:「昼までと言ってしまいました」


 サーラさんが一拍だけ止まった。それから「どうぞ」と炊事場を顎で示した。


 収納を開く。発酵液の小瓶、ミツノミ、辛根。全部出した。リリアが隣に立った。


ヨーヘイ:「リリさん、ひとつお願いがあります」


リリア:「……はい」


ヨーヘイ:「これをミナさんに」


 収納からガルドモグラの素材を出した。E(小)魔石×1、爪×4、厚毛皮×1。昨日の討伐分だ。


ヨーヘイ:「換金をお願いできますか。俺はここから離れられないので」


リリア:「……分かりました」


 受け取って、出ていった。フィンが後を追おうとして、ヨーヘイに目で制された。フィンが渋々戻った。


 小皿を三枚並べた。


 一枚目。発酵液を多めに取る。ミツノミを半分に割って、断面を押し当てて絞る。辛根を少量擦り込む。腰肉を一切れ、薄く切って漬けた。


 鉄板を火にかけた。油を薄く引いて、肉を置く。


 音が来た。じゅっ、という水分の逃げる音。発酵液の甘い匂いが煙と一緒に上がる。表面がすぐに色づいた。


 十五秒で引き上げた。断面が均一に焼けている。見た目は悪くない。


 口に入れた。噛んだ瞬間に分かった。


ヨーヘイ:(重い)


 発酵液が全体を覆っている。噛むたびに甘みと塩気が一緒に出てくるが、腰肉自身の味が見えない。香ばしさの下に何かあるはずなのに、発酵液がその上に蓋をしている。塩の仕事がどこにもない。これでは脂の多い肉向けだ。赤身に使うと素材の上に乗るだけになる。


 二枚目。発酵液を大幅に減らした。ミツノミを多めに絞る。辛根は同量。腰肉を漬けた。


 鉄板に置く。


 音が変わった。前回の「じゅっ」より薄い、乾いた音だ。水分が少ない。煙が細くなった。焼き上がりの色が淡い。表面の艶も控えめだ。


 口に入れた。噛んだ瞬間、鼻の奥に酸が突いてきた。


ヨーヘイ:(出すぎる)


 ミツノミの酸が先頭に立って走っている。肉の旨みが後ろに押し込まれて出てこない。腰肉の赤身には淡い甘みがある。その甘みがあってこそ塩が映えるはずなのに、酸がその前で仁王立ちしている。飲み込んだ後も、口の中に酸の後味だけが残った。塩が見えない。


ヨーヘイ:(時間がない。次で決める)


 三枚目。発酵液は最初の半分以下。ミツノミは絞り汁だけを数滴。辛根は本当に微量——爪の先に引っかかる程度に擦り込む。腰肉を漬けた。今度は少し長く置いた。


 鉄板に置く。


 今度の音は静かだった。「さっ」という薄い音。煙がほとんど出ない。前の2回と違って、肉が鉄板に吸いつくような感触がある。


ヨーヘイ:(速い。火の入りが均一だ)


 引き上げた。断面が薄く光っている。閉じている。


 口に入れた。


 噛んだ。


 すっと切れた。隠し包丁が繊維を断ち切っている。抵抗がない。次の瞬間、旨みが出てきた——発酵液の甘みではなく、腰肉そのものの味だ。肉汁と一緒に、塩の輪郭がはっきり来る。ミツノミの酸がその後ろで薄く支えている。酸ではなく、丸みだ。辛根は最後に鼻の奥を一瞬通って、消えた。引き際が早い。邪魔をしない。ただ、締める。


ヨーヘイ:(……来た)


 飲み込んでから、口の中に何かが残った。旨みの余韻ではなく、「次が欲しい」という感覚だ。


 手が止まらなかった。もう一枚切って、同じ手順で焼く。


ヨーヘイ:(タレは脂と旨みを繋ぐ。塩は素材を剥く。塩ダレは——その中間にいる。素材を剥きながら、少しだけ持ち上げる。それだけの仕事をする)


 フィンが鉄板の方に一直線で来た。辛根微量ならセーフらしい。


フィン:「キュウッ!」


ヨーヘイ:(順番がある。待て)


 炊事場の入口に、サーラさんがいた。いつから来ていたか分からない。腕を組んで、壁に背を預けている。


ヨーヘイ:「サーラさん」


 小皿に腰肉を一切れ乗せて、差し出した。


 サーラさんが受け取った。箸でつまんで、ゆっくり口に入れる。一度だけ噛んで、止まった。それからゆっくり噛み続けた。炊事場が静かになった。サーラさんが嚥下して、一拍あった。


サーラ(女将):「……うん。これ、出せる」


ヨーヘイ:(サーラさんが言った)


 それだけ言って、また腕を組んだ。説明しない。補足しない。この人が「出せる」と言う時の重さを、ヨーヘイは知っていた。


サーラ(女将):「うちの客に出す時は、先に言いな」


ヨーヘイ:「はい」


 そこでリリアが戻ってきた。


リリア:「換金、83枚でした」


 そう言いながら、受け取った銅貨をヨーヘイの手のひらに返した。


 その瞬間だった。


 リリアの手から、白い光が一瞬滲んだ。


 リリア自身が気づいた。自分の手を見た。


リリア:「……すみません、勝手に」


ヨーヘイ:「いいことだと思います」


 それだけで終わりにした。サーラさんが何も言わずに炊事場を出ていくのが見えた。



◆ ギルド前広場・昼



 岩底の三人が戻ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。ウラベダンから出てきたばかりで、3人とも埃っぽい。ガンツさんの盾に新しい傷が入っていた。


 ヨーヘイは腰肉を切って並べた。塩ダレで漬けたやつだ。鉄板を出して、火をおこす。


 肉を置いた瞬間に音が来た。


 「さっ」という、薄くて静かな音。炊事場で聞いた音と同じだ。外の空気の中でも変わらない。


 煙が細く上がった。塩とミツノミの酸が混じった匂いが、風に乗って流れた。


 ミラさんが鼻を動かした。


ミラ:「なんか昨日と違う」


ヨーヘイ:「タレが変わりました」


 焼き上がりを皿に乗せた。表面が薄く光っている。脂ではなく、塩ダレの膜だ。3人の前に置いた。


 バルドさんが箸でつまんだ。一口、口に入れた。


 止まった。


 咀嚼が止まったのではない。考えている。口の中で何かを確かめている。それから、ゆっくり噛み続けた。


 ミラさんが食べた。最初は軽い感じで口に入れて、次の瞬間に眉が動いた。


ミラ:「……なんか違う」


 昨日と同じ言葉だった。でも声の質が違った。昨日は驚きだった。今日は確認だ。


 ガンツさんが黙って手を出した。ヨーヘイが追加で2枚乗せた。ガンツさんが1枚目を食べた。顎の動きが一定だ。2枚目に手が伸びた。それも食べた。口元が動かない。でも皿の方を見ている。


 バルドさんが最後に言った。


バルド:「タレが変わった」


ヨーヘイ:(この人が「楽しみにしてる、本当に」と言ったのは昨日だ。そして今日「変わった」と言った。2日で変わった、と言っている)


 フィンが皿の端をじっと見ている。


フィン:「キューン」


ヨーヘイ:(お前の分もある。待て)


 帰り際だった。バルドさんが歩き出してから、ふと足を止めた。振り返らずに言った。


バルド:「……最近、ベルネの方が少し騒がしい。それだけだ」


 それだけ言って、歩いた。ミラさんとガンツさんがついていく。


 ヨーヘイは聞き返せなかった。


ヨーヘイ:(解析さん)


解析の声:「……」


ヨーヘイ:(何も言わないんですか)


解析の声:「……」


 無言が続いた。


ヨーヘイ:(まあ、いい)


 フィンに腰肉を一切れ渡した。フィンが受け取って、その場で食べた。尾の動きが速い。


 手持ちが485枚になった。塩ダレが2種類になった。明日はウラベダンに入る。2層の空気を、一度嗅いでおきたい。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第26話 リザルト&ステータス】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:5 HP:150/150 MP:72/72


スキル熟練度:

・《解析》Lv1 熟練度 100/100(+13)

・《収納》Lv1 熟練度 42/100(+1)

・《採取》Lv1 熟練度 57/100(±0)

・《解体》Lv2 熟練度 17/100(±0)

・《料理》Lv2 熟練度 26/100(+8)

・《従魔契約》Lv1 熟練度 23/100(+1)

・《瞬歩》Lv1 熟練度 18/100(±0)

・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100


▼ 本話の収支

・ガルドモグラ素材換金:+83枚(E魔石×1:11枚・爪×4:18枚・厚毛皮×1:54枚)

・本話終了時手持ち:485枚


▼ 収納アイテム(本話終了時)

・蒼魔鉄中剣×1 ・短剣×1(予備) ・包丁×1 ・採取へら×1

・冒険者証(Fランク)

・ポーション×1

・解毒薬×1

・タレ完成品(辛根入り・発酵液ベース):少量

・塩ダレ完成品(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):少量

・ガルドモグラ肉(調理済み残量)

・ドウクモグラ肉(調理済み残量)

・クロアシイタチ肉(残量)

・ミツノミ:残量

・アマリュ酒:残量

・辛根:残量

・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1


▼ 本話の出来事

・ガルドモグラ素材換金:リリア代行・+83枚(手持ち485枚)

・塩ダレ試作(本格):3回の比率調整を経て完成。発酵液薄め+ミツノミ絞り汁数滴+辛根微量

・サーラ(女将):試食して「これ、出せる」と断言。「うちの客に出す時は先に言いな」

・岩底の三人に提供:全員無言で食べ、バルド「タレが変わった」(25-2「楽しみにしてる、本当に」の回収)

・リリア魔法:感情から光が滲む(意思より先に出た・新フェーズ)

・バルド:帰り際に「ベルネの方が少し騒がしい」と一言落とした

・《解析》熟練度100/100到達


▼ タレ開発記録(本話時点)

・発酵液タレ(辛根入り):完成・保管済み

・塩ダレ(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):本話で完成・保管済み

・使い分け:脂多め部位=発酵液タレ、赤身部位=塩ダレ


▼ リリア魔法記録(本話時点)

・本話:感情から光が滲む(意思より先に出た・初)

・進捗:シールド(24-1・咄嗟)→ヒール(24-1・意思あり)→練習発現(25-2・意思先行)→感情先行(本話)

・次の目標:意図的に繰り返せるか


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 朝、岩底の三人に「昼までに」と言いました。口が先に動きました。


 塩ダレができました。3回試して、3回目に来ました。発酵液薄め、ミツノミ数滴、辛根微量です。サーラさんが「出せる」と言いました。バルドさんが「タレが変わった」と言いました。2人が言うなら、変わっています。


 リリさんが銅貨を返す時に光が出ました。本人も驚いていました。


 バルドさんが「ベルネの方が少し騒がしい」と言いました。解析さんに聞いたら無言でした。今日は追いません。


 明日、2層に入ります。


 記録、ここまで。


 ギルドに向かう途中で、バルドさんたちに会った。


 3人ともすでに装備を整えていた。ウラベダンに向かう足だ。バルドさんが先頭で、ミラさんがその後ろ、ガンツさんが最後尾。いつもの並びだ。


 ミラさんが先に気づいた。


ミラ:「あ、昨日のおっさん。また食わせろよ」


ヨーヘイ:「昨日より旨いやつを用意します」


 言ってから、気づいた。


ヨーヘイ:(今、何を言った)


ミラ:「マジか。いつ?」


ヨーヘイ:「……昼までに」


 口が先に動いた。塩ダレはまだ試作もしていない。比率も決まっていない。昼までに完成する保証は何もない。


 バルドさんが無言で頷いた。それだけで踵を返した。ガンツさんが続く。ミラさんが「楽しみにしてるよ」と言いながらついていく。


 3人の背中が、ウラベダンの方向へ消えた。


 フィンがその背中を見送って、ヨーヘイを見上げた。


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ:(分かってる。急ぐ)


 解析の声が届いた。


解析の声:「……昼まで、間に合いますか」


ヨーヘイ:(今それを言うか)


解析の声:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(お前が心配するのは業務の範囲なのか。それは俺が心配する話じゃないのか)


 走った。



◆ 炊事場



 サーラさんに声をかけた。


ヨーヘイ:「試作があります。今日中に」


サーラ(女将):「急かされてる顔してるね」


ヨーヘイ:「昼までと言ってしまいました」


 サーラさんが一拍だけ止まった。それから「どうぞ」と炊事場を顎で示した。


 収納を開く。発酵液の小瓶、ミツノミ、辛根。全部出した。リリアが隣に立った。


ヨーヘイ:「リリさん、ひとつお願いがあります」


リリア:「……はい」


ヨーヘイ:「これをミナさんに」


 収納からガルドモグラの素材を出した。E(小)魔石×1、爪×4、厚毛皮×1。昨日の討伐分だ。


ヨーヘイ:「換金をお願いできますか。俺はここから離れられないので」


リリア:「……分かりました」


 受け取って、出ていった。フィンが後を追おうとして、ヨーヘイに目で制された。フィンが渋々戻った。


 小皿を三枚並べた。


 一枚目。発酵液を多めに取る。ミツノミを半分に割って、断面を押し当てて絞る。辛根を少量擦り込む。腰肉を一切れ、薄く切って漬けた。


 鉄板を火にかけた。油を薄く引いて、肉を置く。


 音が来た。じゅっ、という水分の逃げる音。発酵液の甘い匂いが煙と一緒に上がる。表面がすぐに色づいた。


 十五秒で引き上げた。断面が均一に焼けている。見た目は悪くない。


 口に入れた。噛んだ瞬間に分かった。


ヨーヘイ:(重い)


 発酵液が全体を覆っている。噛むたびに甘みと塩気が一緒に出てくるが、腰肉自身の味が見えない。香ばしさの下に何かあるはずなのに、発酵液がその上に蓋をしている。塩の仕事がどこにもない。これでは脂の多い肉向けだ。赤身に使うと素材の上に乗るだけになる。


 二枚目。発酵液を大幅に減らした。ミツノミを多めに絞る。辛根は同量。腰肉を漬けた。


 鉄板に置く。


 音が変わった。前回の「じゅっ」より薄い、乾いた音だ。水分が少ない。煙が細くなった。焼き上がりの色が淡い。表面の艶も控えめだ。


 口に入れた。噛んだ瞬間、鼻の奥に酸が突いてきた。


ヨーヘイ:(出すぎる)


 ミツノミの酸が先頭に立って走っている。肉の旨みが後ろに押し込まれて出てこない。腰肉の赤身には淡い甘みがある。その甘みがあってこそ塩が映えるはずなのに、酸がその前で仁王立ちしている。飲み込んだ後も、口の中に酸の後味だけが残った。塩が見えない。


ヨーヘイ:(時間がない。次で決める)


 三枚目。発酵液は最初の半分以下。ミツノミは絞り汁だけを数滴。辛根は本当に微量——爪の先に引っかかる程度に擦り込む。腰肉を漬けた。今度は少し長く置いた。


 鉄板に置く。


 今度の音は静かだった。「さっ」という薄い音。煙がほとんど出ない。前の2回と違って、肉が鉄板に吸いつくような感触がある。


ヨーヘイ:(速い。火の入りが均一だ)


 引き上げた。断面が薄く光っている。閉じている。


 口に入れた。


 噛んだ。


 すっと切れた。隠し包丁が繊維を断ち切っている。抵抗がない。次の瞬間、旨みが出てきた——発酵液の甘みではなく、腰肉そのものの味だ。肉汁と一緒に、塩の輪郭がはっきり来る。ミツノミの酸がその後ろで薄く支えている。酸ではなく、丸みだ。辛根は最後に鼻の奥を一瞬通って、消えた。引き際が早い。邪魔をしない。ただ、締める。


ヨーヘイ:(……来た)


 飲み込んでから、口の中に何かが残った。旨みの余韻ではなく、「次が欲しい」という感覚だ。


 手が止まらなかった。もう一枚切って、同じ手順で焼く。


ヨーヘイ:(タレは脂と旨みを繋ぐ。塩は素材を剥く。塩ダレは——その中間にいる。素材を剥きながら、少しだけ持ち上げる。それだけの仕事をする)


 フィンが鉄板の方に一直線で来た。辛根微量ならセーフらしい。


フィン:「キュウッ!」


ヨーヘイ:(順番がある。待て)


 炊事場の入口に、サーラさんがいた。いつから来ていたか分からない。腕を組んで、壁に背を預けている。


ヨーヘイ:「サーラさん」


 小皿に腰肉を一切れ乗せて、差し出した。


 サーラさんが受け取った。箸でつまんで、ゆっくり口に入れる。一度だけ噛んで、止まった。それからゆっくり噛み続けた。炊事場が静かになった。サーラさんが嚥下して、一拍あった。


サーラ(女将):「……うん。これ、出せる」


ヨーヘイ:(サーラさんが言った)


 それだけ言って、また腕を組んだ。説明しない。補足しない。この人が「出せる」と言う時の重さを、ヨーヘイは知っていた。


サーラ(女将):「うちの客に出す時は、先に言いな」


ヨーヘイ:「はい」


 そこでリリアが戻ってきた。


リリア:「換金、83枚でした」


 そう言いながら、受け取った銅貨をヨーヘイの手のひらに返した。


 その瞬間だった。


 リリアの手から、白い光が一瞬滲んだ。


 リリア自身が気づいた。自分の手を見た。


リリア:「……すみません、勝手に」


ヨーヘイ:「いいことだと思います」


 それだけで終わりにした。サーラさんが何も言わずに炊事場を出ていくのが見えた。



◆ ギルド前広場・昼



 岩底の三人が戻ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。ウラベダンから出てきたばかりで、3人とも埃っぽい。ガンツさんの盾に新しい傷が入っていた。


 ヨーヘイは腰肉を切って並べた。塩ダレで漬けたやつだ。鉄板を出して、火をおこす。


 肉を置いた瞬間に音が来た。


 「さっ」という、薄くて静かな音。炊事場で聞いた音と同じだ。外の空気の中でも変わらない。


 煙が細く上がった。塩とミツノミの酸が混じった匂いが、風に乗って流れた。


 ミラさんが鼻を動かした。


ミラ:「なんか昨日と違う」


ヨーヘイ:「タレが変わりました」


 焼き上がりを皿に乗せた。表面が薄く光っている。脂ではなく、塩ダレの膜だ。3人の前に置いた。


 バルドさんが箸でつまんだ。一口、口に入れた。


 止まった。


 咀嚼が止まったのではない。考えている。口の中で何かを確かめている。それから、ゆっくり噛み続けた。


 ミラさんが食べた。最初は軽い感じで口に入れて、次の瞬間に眉が動いた。


ミラ:「……なんか違う」


 昨日と同じ言葉だった。でも声の質が違った。昨日は驚きだった。今日は確認だ。


 ガンツさんが黙って手を出した。ヨーヘイが追加で2枚乗せた。ガンツさんが1枚目を食べた。顎の動きが一定だ。2枚目に手が伸びた。それも食べた。口元が動かない。でも皿の方を見ている。


 バルドさんが最後に言った。


バルド:「タレが変わった」


ヨーヘイ:(この人が「楽しみにしてる、本当に」と言ったのは昨日だ。そして今日「変わった」と言った。2日で変わった、と言っている)


 フィンが皿の端をじっと見ている。


フィン:「キューン」


ヨーヘイ:(お前の分もある。待て)


 帰り際だった。バルドさんが歩き出してから、ふと足を止めた。振り返らずに言った。


バルド:「……最近、ベルネの方が少し騒がしい。それだけだ」


 それだけ言って、歩いた。ミラさんとガンツさんがついていく。


 ヨーヘイは聞き返せなかった。


ヨーヘイ:(解析さん)


解析の声:「……」


ヨーヘイ:(何も言わないんですか)


解析の声:「……」


 無言が続いた。


ヨーヘイ:(まあ、いい)


 フィンに腰肉を一切れ渡した。フィンが受け取って、その場で食べた。尾の動きが速い。


 手持ちが485枚になった。塩ダレが2種類になった。明日はウラベダンに入る。2層の空気を、一度嗅いでおきたい。



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【第26話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:5 HP:150/150 MP:72/72


スキル熟練度:

・《解析》Lv1 熟練度 100/100(+13)

・《収納》Lv1 熟練度 42/100(+1)

・《採取》Lv1 熟練度 57/100(±0)

・《解体》Lv2 熟練度 17/100(±0)

・《料理》Lv2 熟練度 26/100(+8)

・《従魔契約》Lv1 熟練度 23/100(+1)

・《瞬歩》Lv1 熟練度 18/100(±0)

・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100


▼ 本話の収支

・ガルドモグラ素材換金:+83枚(E魔石×1:11枚・爪×4:18枚・厚毛皮×1:54枚)

・本話終了時手持ち:485枚


▼ 収納アイテム(本話終了時)

・蒼魔鉄中剣×1 ・短剣×1(予備) ・包丁×1 ・採取へら×1

・冒険者証(Fランク)

・ポーション×1

・解毒薬×1

・タレ完成品(辛根入り・発酵液ベース):少量

・塩ダレ完成品(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):少量

・ガルドモグラ肉(調理済み残量)

・ドウクモグラ肉(調理済み残量)

・クロアシイタチ肉(残量)

・ミツノミ:残量

・アマリュ酒:残量

・辛根:残量

・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1


▼ 本話の出来事

・ガルドモグラ素材換金:リリア代行・+83枚(手持ち485枚)

・塩ダレ試作(本格):3回の比率調整を経て完成。発酵液薄め+ミツノミ絞り汁数滴+辛根微量

・サーラ(女将):試食して「これ、出せる」と断言。「うちの客に出す時は先に言いな」

・岩底の三人に提供:全員無言で食べ、バルド「タレが変わった」(25-2「楽しみにしてる、本当に」の回収)

・リリア魔法:感情から光が滲む(意思より先に出た・新フェーズ)

・バルド:帰り際に「ベルネの方が少し騒がしい」と一言落とす(ガロン仕込み)

・《解析》熟練度100/100到達


▼ タレ開発記録(本話時点)

・発酵液タレ(辛根入り):完成・保管済み

・塩ダレ(発酵液薄め+ミツノミ+辛根微量):本話で完成・保管済み

・使い分け:脂多め部位=発酵液タレ、赤身部位=塩ダレ


▼ リリア魔法記録(本話時点)

・本話:感情から光が滲む(意思より先に出た・初)

・進捗:シールド(24-1・咄嗟)→ヒール(24-1・意思あり)→練習発現(25-2・意思先行)→感情先行(本話)

・次の目標:意図的に繰り返せるか


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 朝、岩底の三人に「昼までに」と言いました。口が先に動きました。


 塩ダレができました。3回試して、3回目に来ました。発酵液薄め、ミツノミ数滴、辛根微量です。サーラさんが「出せる」と言いました。バルドさんが「タレが変わった」と言いました。2人が言うなら、変わっています。


 リリさんが銅貨を返す時に光が出ました。本人も驚いていました。


 バルドさんが「ベルネの方が少し騒がしい」と言いました。解析さんに聞いたら無言でした。今日は追いません。


 明日、2層に入ります。


 記録、ここまで。

【第26話】塩ダレ、できた

「……昼まで、間に合いますか」


朝、口が先に動きました。


「昼までに用意します」——言ってから気づいた時には、バルドさんたちはもうウラベダンの方向へ歩いていました。解析さんが珍しく心配してきました。業務の範囲内だそうです。


3回試しました。1回目は重かった。2回目は酸が出すぎた。3回目で来ました。サーラさんが「これ、出せる」と言いました。バルドさんが「タレが変わった」と言いました。2人が言うなら、変わっています。

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