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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
3章

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第25話-2 地下で、焼いた — 塩は、正直だ

◆ 入口広場・解体後



 平らな岩に腰を下ろした。


 ガルドモグラの肉が収納の中にある。部位別に仕分けてある。腰肉・肩肉・腹肉・ハツ・レバー相当。担当者が解体しながら「こんな部位まで取るのか」という顔をしていた。言葉にはしない。でも視線がそう言っていた。


ヨーヘイ:(言わなくていい。俺が食う)


 携帯用の小型鉄板を出す。火打ち石で火を起こして鉄板を温める。


 まず腰肉を出した。


 赤い。締まっている。ドウクモグラより色が濃い。包丁で断面を確かめると、繊維の目が細かい。脂はほぼない。完全な赤身だ。


ヨーヘイ:(どう攻める)


 昨日の経験がある。ドウクモグラの赤身は塩が合った。ガルドモグラはドウクモグラより柔らかそうだ。脂がない分、素材の味がそのまま出てくる。誤魔化せない構造だ。


 隠し包丁を入れる。繊維に垂直に、格子状に。それから薄く切る。厚さを三ミリ以下にした。


 切り終えた肉に、塩だけを振る。


 鉄板に置いた瞬間、昨日と音が違った。「じゅっ」ではなく「さっ」という、水分の少ない薄い音だ。煙がほぼ出ない。


ヨーヘイ:(速い。薄い分、火の入りが早い)


 十五秒ほどで表面の色が変わる。引き上げた。


 一切れ、口に入れた。


 噛んだ。


 切れた。隠し包丁が効いている。繊維が主張しない。噛むたびに旨みが出てくる。ドウクモグラの臭みとは違う、もっと淡くて深い匂いが鼻の後ろを通る。塩が素材の奥にあるものを引き出している。派手ではない。でも噛むほどに出てくる。


ヨーヘイ:(旨い。これは、旨い)


 考える前に手が動いていた。もう一枚切って、塩を振って、鉄板に置く。


ヨーヘイ:(塩は正直だ。素材に余計なものが何もない分、嘘がつけない。素材が悪ければそのまま出る。素材が良ければ、それもそのまま出る。発酵液タレは脂と旨みを繋ぐ。塩は素材を剥く。全然違う仕事をしている)


解析の声:「……塩化ナトリウムが赤身のグルタミン酸を引き出す効果は、脂質含有量の低い部位において」


ヨーヘイ:(今じゃないです)


解析の声:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(業務の範囲に「今じゃない時に言う」も含まれていますか)


解析の声:「……」


ヨーヘイ:(無言で認めた)


 フィンが鼻をひくつかせていた。昨日のドウクモグラと違う。辛根が入っていない。今度は迷わずに鉄板に向かってくる。


フィン:「キュウッ!」


ヨーヘイ:(辛根なしだから来た。正直な奴だ)


 一切れ渡した。フィンがその場で食べる。止まらない。もう一度鼻を向けてくる。


ヨーヘイ:(駄目だ。俺の分がなくなる)


 次に肩肉を出した。


 断面が違う。白い筋が入っている。脂の層だ。触ると弾力がある。腰肉より柔らかく見える。


 一枚そのまま焼いてみる。脂が滲み出してきた。甘い香りが乗る。


ヨーヘイ:(この脂には、タレが合う。塩では引き出せない何かが、タレとなら合わさる)


 収納から発酵液タレを少量出す。肩肉を一枚漬けて、鉄板に置いた。発酵液が熱で飛ぶ音が高くなった。辛根が少量入っているから香りが立ち上がってくる。フィンがすぐに後退した。


ヨーヘイ:(辛根のせいで退散した。これはこれで正直だな)


 焼き上がった肩肉を口に入れた。


 脂が旨みになっている。タレの発酵液が脂を包んで、辛根のアクセントが後から来る。腰肉の塩焼きとは全然違う方向の旨さだ。どちらが上ではなく、どちらが向いているか、の話だ。


ヨーヘイ:(同じ一頭から出た肉なのに、部位で全然使うものが変わる。これが焼肉だ)


 リリアが少し離れた岩に座ってこちらを見ていた。


ヨーヘイ:「食べますか」


リリア:「……いいんですか」


ヨーヘイ:「どちらがいいですか。塩のやつと、タレのやつと」


リリア:「……両方、食べていいですか」


ヨーヘイ:(正解だ)


 腰肉の塩焼きを一枚と、肩肉の発酵液タレを一枚。リリアが受け取った。


 腰肉から食べる。噛んで、少し目が細くなった。


リリア:「……これ、昨日のと違いますね」


ヨーヘイ:「別の部位です。こっちは脂が少ない」


リリア:「……でも、旨みがしっかりしている気がします」


ヨーヘイ:(いい舌をしている)


 次に肩肉のタレを食べる。今度は少し驚いた顔になった。


リリア:「……全然、違います」


ヨーヘイ:「同じ一頭の肉です」


リリア:「……同じ肉で、こんなに変わるんですか」


ヨーヘイ:「変わります。だから面白い」


 リリアが二枚目の肩肉を見た。見ていた。ヨーヘイが黙って渡す。リリアが受け取って食べた。フィンが腰肉の塩焼きに向かって来て、ヨーヘイの手で止められた。


フィン:「キューン」


ヨーヘイ:(お前の分もある。待て)


 一切れ渡した。フィンが食べる。尾が揺れた。



◆ リリアの練習



 帰る前に、リリアが言った。


リリア:「……ヨーヘイさん。1回だけ試していいですか」


 ヨーヘイが振り返った。リリアが自分の手を見ていた。手のひらを開いて、閉じて、また開く。昨日ではなく今日試したい、という顔だった。


ヨーヘイ:「手を貸します」


リリア:「……ありがとうございます」


 ヨーヘイが手のひらを上に向けて差し出した。


 リリアが向かいに座って、その手のひらに自分の手を翳す。触れていない。少しだけ浮かせた位置で、手を止めた。


 目を閉じた。


 何秒か経つ。フィンが後ろで丸まっていた。風が一度、入口広場を通り抜けていった。


 リリアの手のひらが、光った。


 白い光が滲んで、広がって——一瞬で消えた。半秒もない。


リリア:「……」


ヨーヘイ:「出ました」


リリア:「……今日は、出そうとして、出た気がします」


ヨーヘイ:(「出た」ではなく「出そうとして」が先に来た。この言い方が大事だ)


ヨーヘイ:「それで十分です」


リリア:「……また明日、やっていいですか」


ヨーヘイ:「明日もやります」


 リリアが頷いた。手を引いて、槍を持ち直す。それだけで立った。大げさなことは何もない。確認した、という顔で前を向いた。


ヨーヘイ:(昨日は「気がついたら出た」だった。今日は「出そうとして出た」になった。順番が変わっている。それが積み上がっていく)



◆ ギルド



 ファスト村に戻ってミナさんに報告した。


 ドウクモグラ素材(F魔石×5・爪×5)の換金を先に済ませた。魔石五個が五十五枚、爪五本が二十枚。合わせて七十五枚。手持ちが四百二枚になる。


ヨーヘイ:(四百枚を超えた。馬車代にはまだ遠い。でも確かに積み上がっている)


 次にガルドモグラの討伐報告を出した。


 ミナさんが報告書を開く。名称を聞いた。ガルドモグラ。グレードを確認した。Eグレード下位。それから少し止まった。


ミナ(受付):「……ウラベダン一層奥の個体、ですね」


ヨーヘイ:「はい」


 羽ペンが、一度止まった。


ミナ(受付):「……岩底の三人が今日は引くと言っていた個体です」


ヨーヘイ:「そうです」


 ミナが書き始めた。顔は下を向いている。でも少し間があって、言った。


ミナ(受付):「……また、ベルネのギルドマスターに報告が入ります」


ヨーヘイ:(ガロンさんか。あの人がまた俺の記録を見る)


解析の声:「……そういうことになります」


ヨーヘイ:(お前が気にするな)


解析の声:「……鑑定の範囲内です」


ヨーヘイ:(業務の範囲じゃないのか)


 ガルドモグラの素材換金は今日は出さなかった。解体したばかりで状態確認が必要だ。翌日に持ち越す。


 ミナが書き終えて顔を上げた。


ミナ(受付):「……お怪我は」


ヨーヘイ:「Lvアップで全快しました」


 ミナが少し間を置いた。


ミナ(受付):「……そうですか」


 それだけだった。でもペンを置いた後、少し長くこちらを見ていた。何かを言いかけて、やめた、という間があった。



◆ 部屋・夜



 窓を閉めた。


解析の声:「……反応はありません。今夜は離れています」


 フィンが毛布に潜り込んで、くるっと回った。耳が窓の方ではなく天井を向いている。今夜は静かだ、という耳の向きだ。


 塩ダレの構想を整理した。


ヨーヘイ:(解析さん。塩ダレを作るとしたら、最小構成は何だ)


解析の声:「……塩・旨み・酸味の三軸です。辛根を微量加えると後引きになります」


ヨーヘイ:(塩はある。旨みは発酵液を薄めれば出る。酸味が足りない)


解析の声:「……ミツノミの絞り汁が酸味として機能します。ベルネで入手済みです」


ヨーヘイ:(そうか。あったか)


 手持ちの素材を頭の中で並べた。発酵液。ミツノミ。辛根。塩。全部ある。


ヨーヘイ:(明日試す)


解析の声:「……試す価値はあります」


ヨーヘイ:(今日二度目の素直な答えだ)


ヨーヘイ:(お前は小さいころ、焼肉屋でカルビより先にサガリから食べる子供だったよな。脂が多いやつより赤身が好きだった。今日の腰肉を食わせたかった。お前なら分かる味だと思う)


 フィンがもぞもぞと毛布から顔を出した。鼻がヨーヘイの方を向いた。


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ:(寝ろ。明日もある)


 フィンが顔を引っ込めた。


 目を閉じた。


 今日の順番が頭の中で動く。入口広場の番兵の顔。フィンが示した右前方。リリアの槍が鼻面に入った瞬間。Lv5の音。塩焼きの最初の一口。リリアの「出そうとして出た」。ミナさんのペンが止まった時間。


 今日動いたものが、明日の足場になる。それだけが分かっている。



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【第25話-2 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:5 HP:150/150 MP:72/72


スキル熟練度:

・《解析》Lv1 熟練度 87/100(+2)★Eグレード戦闘・連続鑑定

・《収納》Lv1 熟練度 41/100(+1)

・《採取》Lv1 熟練度 57/100(±0)

・《解体》Lv2 熟練度 17/100(+5)★ガルドモグラ解体(大型)

・《料理》Lv2 熟練度 18/100(+5)★塩焼き研究・部位別調理・塩ダレ方向確定

・《従魔契約》Lv1 熟練度 22/100(+1)

・《瞬歩》Lv1 熟練度 18/100(+4)★Eグレード戦闘・実戦多用

・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100


▼ 本話の収支

・ドウクモグラ素材換金:+75枚(F魔石×5:55枚・爪×5:20枚)

・ポーション×1購入:▲12枚

・ガルドモグラ素材換金:翌日以降

・本話終了時手持ち:402枚


▼ 収納アイテム(本話終了時)

・蒼魔鉄中剣×1 ・短剣×1(予備) ・包丁×1 ・採取へら×1

・冒険者証(Fランク)

・ポーション×1

・解毒薬×1

・タレ完成品(辛根入り・本完成版):少量

・各種食材・素材(収納保管)

・ガルドモグラ肉(調理済み残量)

・ガルドモグラ素材(未換金):E(小)魔石×1・爪×4・厚毛皮×1

・クロアシイタチ肉(残量)

・ドウクモグラ肉(調理済み残量)

・ミツノミ:残量(塩ダレ素材として使用予定)

・アマリュ酒:残量

・辛根:残量

・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1


▼ 本話の出来事

・入口広場:ガルドモグラ肉の部位別調理(腰肉塩焼き・肩肉タレ焼き)

・発見:赤身(腰肉)=塩。脂(肩肉)=発酵液タレ。部位別使い分けが確定

・リリア練習:「出そうとして出た」(意思が先の順番が確立)

・ドウクモグラ素材換金:+75枚(手持ち402枚)

・ガルドモグラ討伐報告:ミナに提出・ベルネGMへの報告が入ることを確認

・塩ダレ方向確定:発酵液薄め+ミツノミ酸味+辛根微量。明日試作予定


▼ 塩ダレ開発記録(本話時点)

・方向確定:塩・旨み(発酵液薄め)・酸味(ミツノミ絞り汁)・辛根微量

・素材:全て収納保管済み

・次のステップ:比率の試作


▼ リリア魔法記録(本話時点)

・本話:「出そうとして出た」の確立(意思→光の順番)

・進捗:シールド(24-1・咄嗟)→ヒール(24-1・意思あり)→練習発現(本話・半秒・意思先行)

・翌日:練習継続の合意済み


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 腰肉に塩を振りました。旨かったです。肩肉に発酵液タレを使いました。こっちも旨かったです。同じ一頭の肉なのに、部位で全然違います。塩は正直だと思いました。素材がそのまま出ます。


 リリさんが「出そうとして出た」と言いました。昨日と順番が変わっています。大事なことだと思います。


 ミナさんに報告しました。ガロンさんにまた記録が届くみたいです。解析さんが「鑑定の範囲内です」と言いました。業務の範囲じゃないんですか、と思いましたが聞きませんでした。


 塩ダレを明日試します。発酵液薄め・ミツノミ・辛根微量。素材は全部あります。


 手持ちが402枚になりました。馬車代まではまだ遠いです。でも今日の腰肉は、馬車で出したい肉でした。


 記録、ここまで。


【第25話-2】地下で、焼いた ― 塩は、正直だった

「お前は小さいころ、焼肉屋でカルビより先にサガリから食べる子供だったよな」


同じ一頭の肉なのに、部位で全然違います。


腰肉に塩を振ったら、肉の味がそのまま出てきました。タレをかけた肩肉とは別の食べ物みたいでした。「塩は正直だ」——素材がそのまま出る。ごまかしがきかない。だから難しい。だから、面白い。


ガルドモグラを仕留めました。岩底の三人が引いたやつと同じやつです。バルドさんが「楽しみにしてる、本当に」と言ってくれていた肉を、今日焼きました。

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