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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
3章

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第25話-1 地下で、焼いた — 奥に、入った

◆ ウラベダン・入口広場



 日が出始めた頃に村を出た。


 東縁を抜けて、岩が増える道を三十分。道が細くなって木が低くなる頃に、地面に口が開いている。人工的な掘り口。石を組んだ枠。脇の小屋。二軒の露店はまだ準備中で、布が被さったままだ。


 番兵が小屋の前に立っていた。ギルドの腕章。昨日と同じ顔で、こちらを見た。


番兵:「早いな。昨日のFランクか」


ヨーヘイ:「今日も入ります。申請書です」


番兵:「……奥には行かないでくれよ」


ヨーヘイ:「行きます」


 番兵の手が止まった。


番兵:「……昨日岩底の三人が引くって言ってたやつがいる。あの三人が今日は、って言ったら普通は明日にするもんだが」


ヨーヘイ:「準備はあります」


 番兵が記録を取る。何も言わなかった。でも判を押す手が、少しだけ遅かった。


ヨーヘイ:(心配してくれている。ありがたい。でも今日入らない理由が、もうない)


 解析の声が静かに届いた。


解析の声:「……昨夜から位置は変わっていません。同一個体です」


ヨーヘイ:(いる。待っているわけじゃないが、いる)


 フィンが掘り口に向かって首を伸ばした。耳の角度が昨日とは違う。食欲の「キュウッ!」ではない。もっと静かな、何かを測るような向き方だ。


リリア:「……行きますか」


ヨーヘイ:「行きます」



◆ ウラベダン・一層



 中に入った瞬間、昨日と同じ空気が来た。湿っていて冷たい。発光苔の薄緑が天井を照らしている。


 でも今日は昨日とは少し違う入り方だ。初めてではない。足元の感触を知っている。どこで段差が来るか、どのタイミングで天井が低くなるかを体が覚えている。足が自然に動く。


ヨーヘイ:(慣れというのは、こういうことだ)


 通路を進む。五分で最初の反応が来た。


解析の声:「……左前方。2体。振動型Fグレード」


ヨーヘイ:(ドウクモグラだ。昨日と同じ相手)


 フィンが先に止まった。耳が左に向く。


フィン:「キュウッ!」


 地面が盛り上がった。一体。《瞬歩》で右に抜けて、蒼魔鉄中剣を横から入れる。手応えがある。回転させて引く。二体目がリリアの方に向かっていた。リリアが槍を構えて待つ。出てきたところを首の付け根に穂先を入れた。短く、迷いなく。


 静かになった。


ヨーヘイ:(昨日の自分より、少し速かった)


 解析の声は何も言わなかった。言わなくていい。


 素材と魔石を収納に入れて、奥へ進む。もう一組と遭遇した。三体。解析の位置読みで誘導して各個撃破。《瞬歩》の足運びが少しずつ体に染み込んでいく感触がある。


 そして通路が広がった。


 一層の、奥だ。


 空気が変わった。湿度が上がる。土の匂いではなく、岩の匂いになった。天井が少し高くなる。発光苔の密度が薄くなって、影が増える。


フィン:「キュウッ!」


 今度は警戒だ。食欲ではない。体が低くなって、尾が水平になった。全身で何かを測っている。


解析の声:「……います。地中。ドウクモグラとは段違いの質量です。今は静止していますが——」


 地面が揺れた。


 遠くから来る振動ではなかった。足元の、すぐ下だ。



◆ ウラベダン・一層奥(ガルドモグラ戦)



 地面が盛り上がった。


 ドウクモグラの三倍はある。黒褐色の短毛に覆われた丸い頭が石畳を割るように出てきて、肩が出て、全身が地上に現れる。前脚の爪が長い。二十センチは超えているだろう。湾曲した爪が石床に触れると、甲高い音が鳴った。


ヨーヘイ:(でかい)


 体高が七十センチ近い。横幅がある。首が短くて頭部が胴体に直結しているように見える。目がほぼない。でも鼻面の割れた部分が細かく動いている。こちらを認識している。


解析の声:「……ガルドモグラです。振動感知型。爪の一振りの範囲は広い。直線的な正面戦は避けてください」


ヨーヘイ:(分かった)


ヨーヘイ:「リリさん、左を取ってください。俺が右から」


リリア:「……はい」


 ガルドモグラが動いた。


 前脚を振り上げる。予備動作がほぼなかった。爪が空気を裂く音がして、ヨーヘイは《瞬歩》で後ろに跳んだ。間一髪だ。爪が石床を抉る。削れた岩の破片が飛んでくる。


ヨーヘイ:(速い。そして重い。当たったら終わる)


 リリアが左から槍を突いた。側面の脂肪層に穂先が入る——深く入らない。弾かれた。槍がリリアの手の中でしびれたように揺れる。


リリア:「……弾かれました」


ヨーヘイ:(脂肪の層が厚い。刺突では通らない。どこが薄い?)


解析の声:「……鼻面の割れ目に神経が集中しています。衝撃を与えると一時的に潜行を阻害できます。ただし正面から近づく必要があります」


ヨーヘイ:(正面から。爪の範囲の中に入る、ということだ)


 また爪が来た。今度は横に薙ぐ動きで、範囲が広い。《瞬歩》で天井側に跳んで腹の下に入ろうとする——ガルドモグラの体が低くなって腹を地面に着けた。下には入れない。


 代わりに首の側面に中剣を叩きつけた。骨に当たる感触がある。でも傷になっていない。硬い音だけが響いて、掌がしびれた。


ヨーヘイ:(硬い。どこを削れる?)


 ガルドモグラが動きを止めた。


 そのまま地面に潜り始める。一秒で地面に消えた。振動だけが床を伝ってくる。左から来るのか、右から来るのか——


ヨーヘイ:(解析さん、どこから来る?)


解析の声:「……振動の方向を特定するには精度が足りません。フィンに聞いてください」


ヨーヘイ:(解析さん、今それを言いますか)


 でも振り返った。フィンがいた。四肢を広げて床に腹をつけている。体全体で振動を拾っている。耳が動いた。左に向いた。また動いた。今度は右前方に定まった。


フィン:「キュウッ!」


ヨーヘイ:(右前方だ)


 リリアを見た。目が合った。頷いた。二人が左右に分かれる。リリアが左に、ヨーヘイが右に。ガルドモグラが出てきた場所の、前から外れた位置に立った。


 地面が盛り上がった。右前方。フィンが示した通りだ。


 黒褐色の頭が地上に出た瞬間、空を掻く。誰もいない方向に爪が振られた。


 その一瞬、ガルドモグラが地上に出ながら身体の向きを変えようとしていた。首の横が、ヨーヘイの目に入った。


ヨーヘイ:(今じゃない。もう少し——鼻面を先に)


リリア:「……ヨーヘイさん」


 リリアが動いた。槍を鼻先ではなく鼻面の割れ目の真横に向けて、突く。穂先が割れ目の縁に入った。


 ガルドモグラが止まった。


 頭が、下がった。


解析の声:「……今です。腹部の前脚付け根、脂肪層が薄い」


 《瞬歩》で踏み込んだ。一歩で間合いを詰めて、腹の前脚付け根に蒼魔鉄中剣を深く押し込む。手が止まるまで入れた。そのまま引いた。


 ガルドモグラが倒れた。


 でかい音がした。石床に黒褐色の体が横たわる。


 ヨーヘイは息を整えた。脇腹の傷跡が少し熱を持っている。《瞬歩》を繰り返した膝に乳酸が溜まっている。リリアが槍を引いて、壁に背を預けた。肩で息をしていた。


フィン:「キュッ」


 確認の声だ。大丈夫か、という声だ。


ヨーヘイ:「大丈夫です。ありがとう」


 フィンがヨーヘイの足元に来て、鼻を手に押し当てた。


解析の声:「……討伐確認です。ガルドモグラ。E(小)魔石×1。爪素材×4。厚毛皮×1。肉——食用可能です」


ヨーヘイ:(食える。食えるやつだ)


 その時、音が鳴った。


 RPGで何度も聞いた音に似ていた。現代の、ゲームの。でも今は耳の中ではなく、空気の中で鳴った気がした。骨の奥に響くような、乾いた音だった。


 ステータス画面が開く。


```

Lv:4 → 5

HP:77/135 → 150/150(全快)

MP:52/60 → 72/72(全快)

ちから:+1

たいりょく:+1

すばやさ:+3

きようさ:+2

ちょっかん:+1

```


 体が、軽くなった。


 脇腹の熱が引く。膝の乳酸が溶ける。息の苦しさが一瞬でなくなった。昨日まで感じていた疲労の底の部分が、すっと上がったような感覚だった。


ヨーヘイ:「……Lv5になりました」


 リリアが振り返った。


リリア:「……おめでとうございます」


 静かな声だった。派手なことは何もない。でも目が少し細くなっていた。嬉しそうに、というより、安心したように。


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ:(ありがとう、お前にも)


 声には出さなかった。フィンの耳がヨーヘイの方を向いて、それからまたガルドモグラの大きな体を確認するように向き直った。本当に倒れているか、もう一度確かめているような向き方だった。


ヨーヘイ:(Lv5か。数字が一つ増えた。でも今日の俺は、昨日の俺より確かに速かった)



◆ 入口広場・帰還後



 外に出た。


 番兵が小屋の前に立っていた。こちらを見て、少し目を見開いた。


番兵:「……帰ってきたか」


ヨーヘイ:「帰ってきました。退場の記録をお願いします」


番兵:「奥に行ったんだろ。どうだった」


ヨーヘイ:「討伐しました。ガルドモグラです」


 番兵がゆっくりと記録帳に書く。判を押した。何も言わなかった。でも判を押した後、少しだけこちらを見た。何かを言いかけて、やめた。


 解体チケットの手配をしてもらいながら、露店でポーションを補充した。一本十二枚。ポーチに入れながら、脇腹の傷跡を手のひらで確かめる。Lvアップで体は全快している。でも傷があった場所は覚えている。


ヨーヘイ:(次は割らない。今度こそ)


 解体はウラベダン脇の解体場で行った。ギルド管理ダンジョンは専用の解体場が併設されている、とミナさんに聞いていた。


 担当者がガルドモグラの体を見て、一拍止まった。


解体担当:「……でかいな。Fランクが仕留めたのか」


ヨーヘイ:「2人と1匹です」


 担当者が視線をリリアとフィンに向けて、また戻した。それだけで何か理解したような顔をして、作業に入った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第25話-1 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:5(本話でLvアップ) HP:150/150(Lvアップ全快) MP:72/72(Lvアップ全快)


スキル熟練度:

・《解析》Lv1 熟練度 87/100(+2)★Eグレード戦闘・連続鑑定

・《収納》Lv1 熟練度 40/100(+1)

・《採取》Lv1 熟練度 57/100(±0)

・《解体》Lv2 熟練度 17/100(+5)★ガルドモグラ解体(大型)

・《料理》Lv2 熟練度 13/100(±0)

・《従魔契約》Lv1 熟練度 22/100(+1)

・《瞬歩》Lv1 熟練度 18/100(+4)★Eグレード戦闘・実戦多用

・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100


▼ 本話の収支

・ポーション×1購入:▲12枚

・本話終了時手持ち:327枚


▼ 収納アイテム(本話終了時)

・蒼魔鉄中剣×1 ・短剣×1(予備) ・包丁×1 ・採取へら×1

・冒険者証(Fランク)

・ポーション×1(補充済み)

・解毒薬×1

・タレ完成品(辛根入り・本完成版):少量

・各種食材・素材(収納保管)

・ガルドモグラ肉(解体済み・部位別):腰肉・肩肉・腹肉・ハツ・レバー相当

・ガルドモグラ素材:E(小)魔石×1・爪×4・厚毛皮×1

・ドウクモグラ素材:F魔石(小)×5・爪×5(換金は次パート)

・クロアシイタチ肉(残量)

・ドウクモグラ肉(調理済み残量)

・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1


▼ 本話の出来事

・ウラベダン1層:ドウクモグラ5体追加討伐

・ウラベダン1層奥:ガルドモグラ討伐(Eグレード下位)

・「フィンに聞いてください」——解析が戦闘中にフィンに丸投げ。フィンが正確に位置を示す

・Lv5到達(すばやさ+3・きようさ+2・ちから・たいりょく・ちょっかん各+1)

・HP/MP全快・脇腹の傷痕も完全回復

・番兵「……帰ってきたか」(口数少なく、驚いていた)

・ガルドモグラ解体完了(部位別)


▼ 新規モンスター記録(本話初討伐)

ガルドモグラ(Eグレード下位)

・体長120〜140cm・全身黒褐色短毛・前脚爪20cm超

・振動感知型。潜行→別角度再出現が主戦法

・弱点:鼻面の割れ目(神経集中)・腹部前脚付け根(脂肪層薄)

・討伐法:鼻面への衝撃で潜行阻害→隙に腹部を刺す

・食用可(部位別に料理法が異なる)


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 ガルドモグラを倒しました。岩底の三人が引いたやつです。でかかったです。爪が長くて、脂肪層が厚くて、普通に刺しても通りませんでした。


 リリさんが鼻面を突いてくれました。動きが止まった瞬間に腹の付け根に入れました。倒れました。


 解析さんがフィンに丸投げしました。「振動の方向を特定するには精度が足りません、フィンに聞いてください」と言いました。フィンが正確に右前方を示しました。役に立ちました。記録します。


 Lv5になりました。体が全快しました。脇腹の熱が引きました。数字が一つ増えました。


 肉は食えます。今日の続きで試します。


 記録、ここまで。

【第25話-1】地下で、焼いた ― 奥に、入った

「……おめでとうございます」


「振動の方向を特定するには精度が足りません。フィンに聞いてください」


解析さんが戦闘中に丸投げました。フィンが正確に右前方を示しました。岩底の三人が今日は引いたやつを、2人と1匹で仕留めました。


「……おめでとうございます」——リリアが静かにそれだけ言いました。派手なことは何もない。でも目が、少し細くなっていました。


Lv5になりました。

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