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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
2章

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第17話−1 ひとつ目の頂上 ― スチールのカード、もらいました

◆ 審査の朝



 目が覚めた瞬間、窓の外を確認した。


 通りは静かだ。人影はない。追っ手の気配もない。今日の天気は曇りで、光が薄い。


 ヨーヘイは窓から離れた。


 今日、審査の結果が出る。


ヨーヘイ:「……今日だ」


 声に出した。頭の中で数えると曖昧になる。声に出すと地面に落ちる。


 フィンが毛布の端から顔を出した。「キュッ」と鳴く。


ヨーヘイ:「起きてたのか」


フィン:「キュッ」


 分かってる、という声だ。



◆ 食堂



 サーラが台所から顔を出した。


サーラ(女将):「今日、審査の結果だったかい」


ヨーヘイ:「はい。朝一番でギルドに行きます」


 サーラが少し間を置いた。


サーラ(女将):「……朝ごはん、多めにしとくね」


 それだけだった。でも声の温度が違った。


 リリアがすでにテーブルについていた。槍を壁に立てかけて、両手でコップを持っている。


リリア:「……今日ですね」


ヨーヘイ:「はい」


リリア:「……緊張しますか」


ヨーヘイ:「します」


 正直に言った。リリアが少し目を細めた。


リリア:「……きっと、大丈夫です」


ヨーヘイ:(リリさんに「大丈夫」と言われた。根拠はない。でも不思議と信じられる気がした)


 フィンがテーブルに飛び乗って、ヨーヘイの前に座った。「キュッ」と鳴いた。


ヨーヘイ:(フィンまで言ってる。……行くか)


 朝食を食べた。サーラが多めに盛ってくれたパンは、今日は少し温かかった。


 食べながら、ヨーヘイは手のひらを見た。アイアン(鉄)のカードが今もそこにある。今日、これが変わるかもしれない。変わらないかもしれない。


ヨーヘイ:(審査が落ちることもある。依頼数と魔石は揃えた。でも審査員の判断がどこにあるかは分からない)


ヨーヘイ:(解析さん。審査が落ちる可能性は)


解析の声:「現時点の情報では判断できません。審査基準の詳細データが不足しています」


ヨーヘイ:(そうですよね。聞いて損はなかったけど)


 フィンがヨーヘイのパンを一口だけ食べた。気づいたら消えていた。


ヨーヘイ:「……お前、今食ったな」


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ:(開き直った。今日は特別だから許す)



◆ ギルド・審査結果



 ギルドに入ると、朝の依頼取り合いの時間が終わりかけていた。冒険者が数人、思い思いの方向に散っていく時間だ。


ヨーヘイ:(解析さん。追っ手の気配は)


解析の声:「周囲1キロメートル以内に対象の反応はありません」


ヨーヘイ:(今日は来ていない。ならいい)


 ミナはカウンターで別の冒険者の対応をしていた。


 ヨーヘイは少し離れた場所で待った。


 待つ間、手のひらのアイアン(鉄)のカードを見た。見慣れた灰色だ。これが今日変わるかもしれない。変わらないかもしれない。待っている間に分かることは何もない。


ヨーヘイ:(落ち着け。落ち着いてる。落ち着いてるが、胃のあたりが少し変だ)


 フィンが足元で「キュッ」と鳴いた。


ヨーヘイ:(分かった。落ち着いてる。……落ち着いてないかもしれない)


 別の冒険者がカウンターを離れた。ミナが台帳を閉じた。


 顔を上げた。


 その目が少し違った。いつもの「いらっしゃいませ」ではない目だ。


ヨーヘイ:(分かる。顔に出てる。でも口に出すまで待つ。あと数秒だ)


 カウンターに近づいた。足音が少し速くなっているのを感じた。気づいていたが、止めなかった。


ミナ(受付):「ヨーヘイさん、昨日の昇格審査の件です」


 少し間があった。


ヨーヘイ:(ここだ)


ミナ(受付):「審査、通りました。おめでとうございます」


 少し間があった。


ヨーヘイ:「……通りました、か」


 声に出た。確認するように出た。


ミナ(受付):「はい。依頼達成数・F魔石の提出・これまでの実績、すべて審査基準を満たしています。本日付でFランク冒険者への昇格が確定です」


 ヨーヘイは息を吐いた。肩の力が抜ける。


ヨーヘイ:(……なった。なったんだ。Gから始めて、Fになった)


 ミナが台帳を開いて記録した。それから小さな金属板を取り出した。


 昨日まで持っていたアイアン(鉄)のカードより、少し色が違う。青みがかった銀色だ。


ミナ(受付):「新しいギルドカードです。スチール(鋼)になります。Fランクの証明です」


 受け取った。


 冷たい。アイアン(鉄)より、少し重い。手のひらの上で、鈍く光っている。


ヨーヘイ:(スチール(鋼)だ。鋼のカードだ。ドワーフが作った蒼魔鉄の中剣を差して、鋼のカードを持った。審査を申し込んだあの日から……いや、もっと前だ。初めてギルドに来た日から、ここまで来た)


 リリアがヨーヘイのカードを見た。


リリア:「……色が、変わりましたね」


ヨーヘイ:「はい。スチール(鋼)です」


 リリアが小さく頷いた。目が少し潤んでいる。


ヨーヘイ:(リリさん、泣きそうになってる。……俺もそうかもしれない。44歳が泣いたらまずい。まずくはないか。でも今は堪えておこう)


 リリアがヨーヘイのカードに手を伸ばしかけて、止めた。


リリア:「……触っても、いいですか」


ヨーヘイ:「どうぞ」


 リリアが両手でカードを受け取った。表を見て、裏を見た。少し間があった。


リリア:「……重さが、違いますね」


ヨーヘイ:「アイアン(鉄)より少し重い。スチール(鋼)なので」


リリア:「……スチール(鋼)」


 繰り返した。言葉の形を確かめるように言った。それからカードをヨーヘイに返した。


リリア:「……おめでとうございます」


 小さい声だった。でもちゃんと届いた。


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


 フィンがカウンターの縁で「キュウッ!」と鳴いた。興奮した時の声だ。


 ミナが口元を少し動かした。


ミナ(受付):「これから、FランクとEランクの依頼が受けられます。……ここまで、早かったですね」


ヨーヘイ:「ありがとうございます。ミナさんに最初から教えてもらったので」


 ミナが少し間を置いた。


ミナ(受付):「……私はただ受付をしていただけです」


ヨーヘイ:(そうじゃない。最初の日に「初めての方ですか?」と声をかけてくれた。ギルドカードの素材の説明をしてくれた。依頼の受け方を丁寧に教えてくれた。「ただ受付をしていただけ」じゃない。でも今は言わない。心に仕舞っておく)


 解析さんに声をかけた。


ヨーヘイ:(解析さん。Fランクになりました)


解析の声:「……確認しました。ギルドカードの金属グレードが更新されました」


 少し間があった。


解析の声:「……おめでとうございます」


ヨーヘイ:(言った。「業務の範囲内です」じゃなかった。初めて言ってくれた)


ヨーヘイ:(ありがとうございます)


解析の声:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(やっぱり来た。でも今日は後からだったから許す)



◆ 掲示板



 ミナが「少しお待ちください」と言って奥に引っ込んだ。


 その間、ヨーヘイは掲示板の前に立った。


 Gランクの欄は右端にある。ここは何度も見た。どの依頼がいくらで、どこに行けばいいか。フィンが欄外で「キュッ」を鳴かせる前から、目で確認する癖がついていた。


 その欄より、一段上に新しい紙がある。Fランク欄だ。


 今日初めて、この欄を見る権利ができた。


ヨーヘイ:(ここを見られるようになった。昨日まで見えなかった欄だ。同じ掲示板なのに、昨日と今日で見える場所が変わっている)


 Fランク欄の依頼を読んだ。Gランクの依頼より、報酬が高い。討伐対象の魔物のグレードが上がっている。1件1件の難度が、昨日まで受けていた依頼とは違う段階にある。


ヨーヘイ:(解析さん。《解体》を上げたいんだが、今受けられる依頼でどれがいいか)


解析の声:「《解体》Lv2まであと66上げる必要があります。トリアシは弱点も動きも把握済み。相性が良いと見ています」


ヨーヘイ:(《解体》Lv2か。弱点発見・クリティカル発生率上昇。取れるなら早めに取りたい)


 他の冒険者が2人、掲示板の前を通り過ぎた。1人がちらりとヨーヘイを見て、また歩いていった。


ヨーヘイ:(Fランクの欄を見ている。……そういう目で見られるようになったのか。昨日まではGランクだったのに。今日から違う)


 フィンが掲示板の前で止まった。鼻が動いている。


ヨーヘイ:(何の匂いを嗅いでるんだ。依頼票に肉の匂いはしないぞ)


フィン:「キュッ」


ヨーヘイ:(分かって嗅いでるのか。……お前の鼻は「食えるかどうか」の方向にしか働かないのか)


 依頼の内容を確認した。Fランク依頼①:東縁奥のトリアシ討伐・2体。報酬は手数料前で40枚。Fランク依頼②:薬草採取・深部エリア指定。報酬は手数料前で30枚。


ヨーヘイ:(トリアシか。俺が名前をつけた魔物が依頼票に載っている。名付け親が討伐依頼を受ける。おかしなことになってきた。でも受ける。受けない理由がない。解析さんも「相性が良い」と言っていた)


 ミナが戻ってきた。


ミナ(受付):「Fランクの依頼が2件、新しく貼り出されています。よろしければご覧ください。Eランクも1件あります。難度は上がりますが、受けることができます」


ヨーヘイ:「Fランクの2件、両方受けます」


ミナ(受付):「初めてのFランク依頼ですね。……無理はしないでください」


ヨーヘイ:「はい。解析さんがいるので大丈夫です」


 ミナが依頼票を渡した。手に取った。昨日まで受け取れなかった紙だ。


ミナ(受付):「いってらっしゃいませ、Fランク冒険者」


 その一言が、また胸に来た。


 リリアが隣で小さく頷いた。フィンが「キュッ」と鳴いた。2人と1匹で、ギルドを出た。



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【第17話−1 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(17-1終了時点)

Lv:4 HP:135/135 MP:60/60


スキル熟練度:

・《解析》Lv1 熟練度 70/100(+1)

・《収納》Lv1 熟練度 28/100

・《採取》Lv1 熟練度 46/100

・《解体》Lv1 熟練度 34/100

・《料理》Lv1 熟練度 19/100

・《従魔契約》Lv1 熟練度 13/100(+1)

・《瞬歩》Lv1 熟練度 5/100

・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100


▼ 本話の収支

・収支なし(依頼受注のみ・換金・報酬受け取りは次話)

・17-1終了時手持ち 約87枚(16-3から変わらず)


▼ ギルドカード更新

・旧:アイアン(鉄)・Gランク

・新:スチール(鋼)・Fランク

・本日付で昇格確定・ミナに記録済み


▼ 依頼受注(17-2で達成予定)

・Fランク依頼①:東縁奥のトリアシ討伐×2体(報酬40枚・手数料前)

・Fランク依頼②:深部エリア薬草採取(報酬30枚・手数料前)


▼ 本話の出来事

・Fランク昇格審査・合格

・ギルドカード更新:アイアン(鉄)→スチール(鋼)

・解析さんが初めて「おめでとうございます」を言う(その後「業務の範囲内です」)

・初Fランク依頼受注(トリアシ討伐×2・深部薬草採取)

・「トリアシ」の名付け親が討伐依頼を受けるという発見

・スクショシーン:「スチール(鋼)だ。鋼のカードだ」

・スクショシーン:解析さん「おめでとうございます」→「業務の範囲内です」

・スクショシーン:ミナ「いってらっしゃいませ、Fランク冒険者」


▼ 収納アイテム(17-1終了時)

・蒼魔鉄中剣×1

・短剣×1(予備)

・包丁×1

・採取へら×1

・冒険者証(Fランク・新)

・ポーション×1

・解毒薬×1

・トリアシ肉:残分

・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 Fランクになりました。ギルドカードがスチール(鋼)になりました。受け取った瞬間に、アイアン(鉄)より重くて冷たいと分かりました。ドワーフが作った蒼魔鉄の中剣と同じで、持った瞬間に分かるものがあります。


 解析さんが「おめでとうございます」と言ってくれました。初めて言ってもらいました。その後に「業務の範囲内です」が来ましたが、今日は許します。おめでとうが先でした。


 ミナさんが「いってらっしゃいませ、Fランク冒険者」と言いました。最初に声をかけてもらった日から、ここまで来ました。


 トリアシの討伐依頼が掲示板に載っていました。俺が名前をつけた魔物です。受けました。名付け親が討伐依頼を受けるのは、異世界では普通のことなのかもしれません。


 以上、記録終わり。


【第17話-1】ひとつ目の頂上 ― スチールのカード、もらいました

「……朝ごはん、多めにしとくね」

審査の朝、サーラさんはそれだけ言いました。激励でも、励ましでもない。この人はいつも、言葉ではなく量で気持ちを出す。

スチール(鋼)のカード。依頼15件、Fグレード魔石、審査。全部通った日です。Gランクだった頃の掲示板の前を、少しだけ思い出していました。

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