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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
2章

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第16話−2 蒼魔鉄と焼き鳥と ― 鳥じゃないか、これ

◆ 新しい装備で



 宿の入口で、ヨーヘイは一度だけ鞘に手を当てた。


 重さが腰にある。昨日とは違う重さだ。支給品の短剣ではない。ドワーフが作った蒼魔鉄の中剣が、今日初めてここにある。


ヨーヘイ:「今日、使います」


ヨーヘイ:(中剣を差した。ドワーフが作った中剣を差して、異世界の東縁に行く。44歳の元会社員が。人生で一番意味の分からない朝だ)


 リリアが扉の前に立っていた。槍を右手に、穂先を上に向けて持っている。昨日、村の外れで構えていた時と同じ姿勢だ。でも今日は出発の顔をしている。


リリア:「……おはようございます」


ヨーヘイ:「おはようございます。行きましょうか」


 フィンが2人を交互に見た。ヨーヘイを見て、リリアを見て、また戻ってくる。それから前を向いた。


フィン:「キュッ」


 出発の合図だ。


 サーラが台所から声だけ飛ばしてきた。


サーラ(女将):「気をつけな」


 それだけだった。振り向かなかった。でも声の方向が、見ていた。



◆ 東縁



 東縁に入る前に索敵を頼んだ。


ヨーヘイ:(追っ手の気配は)


解析の声:「北東方向に人間の反応が1つ。昨日より遠ざかっています。東縁への影響は低いと判断します」


ヨーヘイ:(今日も東縁のチャンスだ)


 依頼は討伐2件。Gグレード上位の魔物を1体ずつ仕留めた。フィンが察知して、解析さんが「単体です」と確認した。蒼魔鉄の中剣を使うほどの相手ではなかったので、慣れた支給品の短剣で処理した。


 薬草を採取しながら奥に進んだ。カイフクソウを数束。フィンが先導した。


 その時だった。


 フィンの耳が両方立った。鼻が止まる。採取の時とは違う、警戒の止まり方だ。


フィン:「キュウッ!」


 ヨーヘイも足を止めた。リリアが無言で槍の柄を両手で持ち直した。


解析の声:「Eグレード下位の反応。……未登録種です」


ヨーヘイ:(未登録。俺もフィンも解析さんも初めて見る魔物だ)


 草の向こうから音がした。重い。でも足音の間隔が速い。2足歩行だ。


 姿が見えた。


 ヨーヘイの目が止まった。


 鶏冠だ。ただし普通の鶏冠ではない。鹿の角のような形に広がっている。全身が暗緑色の羽毛に覆われていて、前腕は翼の名残で短い。体高はヨーヘイとほぼ同じだ。


ヨーヘイ:(……鳥だ。でかい鳥だ。鹿の角が頭にある鳥だ。どういうことだ)


 その時、解析さんが口を開いた。


解析の声:「未登録種です。……」


 間があった。長い間だった。


解析の声:「……食用可能かどうか、確認します」


ヨーヘイ:(戦う前に食えるか確認するのか——!! いや確認してくれ——!! でも順番が——!!)


 鶏冠が広がった。威嚇だ。低い声で鳴く。フィンが後退した。リリアが槍を正面に向けた。ヨーヘイは蒼魔鉄の中剣を抜いた。


ヨーヘイ:(初実戦。ドワーフが作ったものの、初実戦だ)


ヨーヘイ:(解析さん——弱点は)


解析の声:「首の付け根から鎖骨相当にかけて、骨格が薄い。右側からの刺突か斬撃が有効です」


ヨーヘイ:(右側。覚えた)



◆ 戦闘



 相手が跳んだ。


 上から来る。蹴り足が視界に入った瞬間——体が先に動いていた。


ヨーヘイ:「うわっ」


 声が出た。止める間もなかった。《瞬歩》が発動した瞬間、景色が横にずれた。蹴りが空を切る。草が揺れた。自分がいた場所に、足が着地した。


ヨーヘイ:(抜けた。横に抜けた。《瞬歩》が機能した——!)


 相手が着地して振り向く。くちばしが来た。連撃だ。速い。ヨーヘイは中剣を横に流して弾いた。


 金属の音がした。


 支給品では出なかった音だ。鉄が鉄を弾く、芯のある音だ。手首に振動が来たが、弾かれていない。受け止めている。


ヨーヘイ:(感触が違う。支給品とまるで違う。これがドワーフの蒼魔鉄だ)


 2撃目が来た。3撃目が来た。中剣を流しながら下がる。間合いを測った。


解析の声:「首の付け根、右側です」


ヨーヘイ:(今だ)


 一歩踏み込んだ。体重を乗せて、右から一閃した。


 切れた。


ヨーヘイ:「……切れた」


 声に出た。思ったより素直に出た。


 相手が倒れた。鶏冠がゆっくり閉じていく。


 ヨーヘイは息を吐いた。肩の力が抜ける。


ヨーヘイ:(右足で踏み込んだ。あの足で。ちゃんと踏んで、ちゃんと切れた)


 リリアが槍を構えたまま、動いていなかった。一度も突かなかった。でも目が離れていなかった。ずっと見ていた。


リリア:「……倒しましたね」


ヨーヘイ:「はい」


リリア:「……かっこよかったです」


 少し間があった。


ヨーヘイ:(かっこよかった。リリさんに言われた。44歳の元会社員が異世界でかっこよかったと言われた。……どう返せばいい)


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


 フィンがすぐに近づいた。鼻を死体に向けてしきりに嗅ぐ。尾が小さく揺れている。


ヨーヘイ:(お前、今の戦闘をずっと見てたよな。見てたのに一番に嗅ぎに行くのか)


フィン:「キュウッ!」


 興奮した鳴き声だ。食欲の方向の興奮だ。


ヨーヘイ:(解体したら食える。解析さんが戦う前に確認してた。正解だ)


 蒼魔鉄の中剣を鞘に収めた。手のひらに感触が残っている。支給品では残らなかった感触だ。


ヨーヘイ:(ドワーフが作ったものが違う。これが、違うということだ)



◆ ギルド



 ミナが顔を上げた。今日は少し忙しそうな顔だった。でも目が合うと、いつもの表情に戻った。


ミナ(受付):「お疲れさまです。依頼の報告ですか」


ヨーヘイ:「はい。討伐2件と採取。それから——」


 少し間を置いた。


ヨーヘイ:「昇格審査の申請もお願いできますか。今日、15件になったので」


 ミナが台帳を確認した。指が止まった。


ミナ(受付):「……13件プラス、今日の依頼2件。合計15件、達成です」


 少し間があった。ミナが顔を上げた。


ミナ(受付):「おめでとうございます。昇格審査の申請、受け付けます」


 書類を出してもらった。必要事項を書いた。F魔石3個を提出した。ミナが確認して台帳に記録した。


ミナ(受付):「審査は明日になります。結果が出次第お知らせします」


ヨーヘイ:「ありがとうございます」


ヨーヘイ:(13件から始まって、15件になった。明日、審査がある)


 続けてトリアシの素材を取り出した。E魔石(小)、羽、骨、嘴を並べた。ミナが一つずつ確認していく。


ミナ(受付):「……この魔物、登録がないのですが。どちらで討伐されましたか」


ヨーヘイ:「東縁の奥です。今日初めて遭遇しました」


ミナ(受付):「初報告になります。魔物の名前は何かありますか」


 少し迷った。


ヨーヘイ:「トリアシ、でお願いします」


 ミナが台帳に書き込んだ。几帳面な字で、丁寧に書いている。


ミナ(受付):「……ヨーヘイさんが、名付け親ですね」


ヨーヘイ:(俺が名付けた。異世界の魔物に、俺が名前をつけた。……トリアシで良かったのか。もっといい名前があったかもしれない。でも言ってしまった。取り消せない。ミナさんが台帳に書いてしまった)


解析の声:「適切な名称です」


ヨーヘイ:(フォローが来た。ありがとう解析さん)


解析の声:「……業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(フォローで終わらなかった)


 素材の査定が終わった。E魔石(小)が30枚、羽が12枚、骨が8枚、嘴が10枚。合計60枚。依頼報酬と合わせて手持ちが増えた。


 フィンがカウンターの縁で「キュッ」と鳴いた。ミナが一度だけフィンを見た。口元が少し動いた。



◆ 炊事場



 炊事場の台の上に、部位を丁寧に並べた。


 胸肉。もも肉。砂肝。ぼんじり。せせり。ヤゲン軟骨。レバー。ハツ。


 全部で8種類だ。


ヨーヘイ:(……完全に鳥だ。鶏の解体をしている。異世界で)


 胸肉を手に取った。きれいな白身だ。


ヨーヘイ:(解析さん。この胸肉、生で食べられますか)


解析の声:「確認します。……寄生虫、病原菌の反応、ゼロです。可食です」


ヨーヘイ:(言い切った。いつものように)


 薄く切った。包丁の入り方がいい。繊維の向きに沿って切ると、するりと刃が入る。


 一口、食べた。


 冷たい。柔らかい。少し甘みがある。後から旨味が来た。


ヨーヘイ:「……うまい」


解析の声:「……」


 長い間だった。


ヨーヘイ:(何か言いたそうだ)


解析の声:「業務の範囲内です」


ヨーヘイ:(お前も食いたかったのか。料理のたびに「業務の範囲内」が出るのはそういうことだと思う。根拠はない。でもそう思う)


 砂肝を切り分けて串に刺した。フィンが横から手を伸ばしてきた。


ヨーヘイ:「ダメだ。焼いてから」


フィン:「キューン」


 フィンが引いた。でも目は串から離れない。


ヨーヘイ:「砂肝だ。異世界に砂肝があった」


 声に出た。誰かに言いたかったわけではない。でも言わずにいられなかった。


 ぼんじりを串に刺す。せせりを串に刺す。ヤゲン軟骨を串に刺す。一本一本、形が違う。焼き鳥屋のカウンターで見ていたものと同じ形をしている。


ヨーヘイ:(焼肉屋をやりたい。でもこれは焼き鳥だ。焼肉屋で焼き鳥も出せるか。「本日の一品:焼き鳥」。……それはありだ。十分ありだ)


 火を起こした。串を並べた。脂が落ちて煙が上がる。鶏の焼ける匂いがした。


 現代の記憶と一致した。居酒屋の匂いだ。祭りの屋台の匂いだ。


 発酵液を少し垂らした。醤油に近い。でも少し違う。


ヨーヘイ:(……近い。でも何かが足りない。甘みが足りない。コクが足りない。タレが要る。ちゃんとしたタレが要る。醤油があれば——みりんがあれば——)


 手が止まった。


ヨーヘイ:(タレを作れるか。この世界の素材で、タレを作れるか)


解析の声:「……香味野菜の採取可能エリアを確認します」


ヨーヘイ:(自分から動いた。聞いてもいないのに)


解析の声:「……そういうことにしておきます」


ヨーヘイ:(業務の範囲内、と言わなかった。語彙が増えた。……増えているのか?)


 串を火から上げた。



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【第16話−2 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(16-2終了時点)

Lv:4 HP:135/135 MP:57/60(《瞬歩》×1回使用・3消費)


スキル熟練度:

・《解析》Lv1 熟練度 68/100(+2)

・《収納》Lv1 熟練度 27/100(+1)

・《採取》Lv1 熟練度 46/100(+2)

・《解体》Lv1 熟練度 34/100(+3)★トリアシ初解体

・《料理》Lv1 熟練度 17/100(+4)★トリアシ8部位

・《従魔契約》Lv1 熟練度 11/100(+1)

・《瞬歩》Lv1 熟練度 4/100(+1)

・《二刀流》Lv1 熟練度 0/100


▼ 本話の収支

・依頼報酬(Gグレード討伐2件+薬草採取・手数料後) 約40枚

・トリアシ素材換金(E魔石・羽・骨・嘴) 約60枚

・小計 +約100枚

・宿代(1泊) ▲60枚

・16-2終了時手持ち 約87枚


▼ 依頼達成数:15件(累計) Fランク昇格審査申請済み・審査は明日


▼ 本話の出来事

・蒼魔鉄中剣・初実戦(トリアシ討伐)

・《瞬歩》実戦使用(跳び蹴り回避)

・トリアシ初討伐・初解体・初調理

・Fランク昇格審査申請(明日審査)

・トリアシをギルドに初報告・ヨーヘイが命名

・胸肉刺身・焼き鳥(砂肝・ぼんじり・せせり・ヤゲン軟骨)

・「タレが足りない」→タレ開発の動機が初めて生まれた

・解析さんが初めて「そういうことにしておきます」を使用(業務の範囲内の変化球・初出)

・スクショシーン:胸肉刺身(「食えるじゃないですか」)


▼ 収納アイテム(16-2終了時)

・蒼魔鉄中剣×1

・短剣×1(予備)

・包丁×1

・採取へら×1

・冒険者証(Gランク→昇格審査中)

・ポーション×1

・解毒薬×1

・F魔石×3個(昇格審査提出済み→審査中)

・トリアシ肉:胸肉・もも肉・砂肝・ぼんじり・せせり・ヤゲン軟骨・レバー・ハツ(残分)

・リリア所持:木製柄+鉄穂先の槍×1


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 トリアシを討伐しました。蒼魔鉄の中剣の初実戦でした。切れ味が違いました。支給品とは手応えが根本的に違います。ドワーフが作ったものが違う、ということだと思います。


 解析さんが「食用可能かどうか確認します」と言ったのは戦闘前でした。順番としてはどうかと思いましたが、確認してもらえて助かりました。


 ギルドに初報告して、名前をつけました。トリアシです。解析さんが「適切な名称です」と言ってくれました。いつもと違う言葉でした。


 胸肉を刺身で食べました。うまかったです。砂肝・ぼんじり・せせり・ヤゲン軟骨を焼きました。全部うまかったです。異世界に砂肝があったことを声に出してしまいましたが、後悔していません。


 発酵液では足りませんでした。タレが要ります。解析さんが聞いていないのに香味野菜の話を始めました。最後に「そういうことにしておきます」と言いました。語彙が増えたのかどうか、まだ分かりません。


 以上、記録終わり。


【第16話-2】蒼魔鉄と焼き鳥と ― 鳥じゃないか、これ

「……食用可能かどうか、確認します」

戦う前に言いました。解析さんが。長い間があってから。

砂肝が異世界にあったことを、声に出してしまいました。後悔していません。トリアシという名前をつけてしまったことも、後悔していません。ミナさんが台帳に書いてしまったので。

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