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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
7章「里に、火を入れる。」

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第96話 蓮が、追った。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

 夜の、子ども部屋は、暗かった。


 蓮は、目を、覚ましていた。おとなりの布団で、結衣が、すう、すう、と、寝息を立てている。ママは、まだ、起きているらしい。台所の方から、水の音が、小さく、聞こえた。


 パパは、いない。


 さっき、げんかんで、いってきます、を、した。パパは、しゃがんで、蓮の、あたまに、手を、のせて、ちょっと、行ってくる、と、言った。蓮は、いってらっしゃい、と、言った。いい子で、言えた。


 でも。


 蓮は、布団の中で、目を、ぱっちり、開けていた。ちょっと、って、どれくらいだろう。この前の、ちょっと、は、すごく、長かった。パパは、ずっと、ずっと、帰ってこなかった。ママが、夜に、泣くくらい、長かった。


 蓮は、そっと、布団から、抜け出した。


 廊下は、ひんやり、していた。裸足の足の裏に、床の、つめたさが、はりつく。蓮は、忍び足で、寝室の方へ、歩いた。ドアを、細く、開ける。


 クローゼットが、あった。


 いつもの、木の、扉。下のところに、結衣が、青いクレヨンで、描いた、まるが、ある。ぐるぐるの、へたくそな、まる。蓮は、それを、知っている。この扉の、向こうから、パパは、来た。この前、まっしろの、部屋に、行った。フィンっていう、ふわふわが、いる、ところに。


 蓮は、扉に、手を、かけた。


 把手は、つめたかった。ぐ、と、引く。かたい。両手で、体ごと、引っぱると、ぎい、と、きしんで、開いた。中は、まっくら。パパのふくが、ぶら下がっている。ハンガーの、鉄の匂い。しまってある、毛布の、匂い。


 でも、くらやみの、いちばん、おくだけ、ほんのり、しろかった。さっきまで、ひかっていた、みたいな、よわい、ひかりの、のこりが、ゆらゆら、していた。


 おく。もっと、おく。


 蓮は、くらやみに、手を、のばした。



   ◆



 ――ふっ、と、足元が、なくなった。


 まっしろ、だった。


 目を、開けているのに、まっしろで、何も、見えない。上も、下も、わからない。蓮は、ひとつ、まばたきを、した。だんだん、白い、部屋が、見えてきた。ゆかも、かべも、てんじょうも、ぜんぶ、白い。かげが、ない。この前、パパと、来た、へやだ。


 だれかが、いた。


 白い、髪の、おねえさん。うすい、ぬのを、着ている。蓮を、見て、目を、まんまるに、して、固まった。


解析:「――えっ。えっ、あなた、また、どうして、一人で。だめ、です、今は、扉が、あちら側に、開いて、いて、そこを、通ると、あなたは」


 おねえさんは、両手を、ばたばた、させた。困っている顔だった。ゆびを、おって、何か、かぞえて、それから、蓮を、見て、また、こまった。


解析:「聞いて、ください。ここから先は、あなたの、パパの、いる、ところですが、とても、あぶ――」


 でも、蓮は、もう、白いゆかの、むこうを、見ていた。


 白い部屋の、はしっこに、四角い、あかりの、切れ目が、あった。その、むこうに、草っぱらが、見えた。星が、いっぱい。そして――ほんの、かすかに。


 お肉の、におい。


 こげた、パパの、におい。


蓮:「……パパ」


 蓮は、走った。おねえさんの、のばした手を、すり抜けて、あかりの、切れ目へ、飛び込んだ。うしろで、あっ、だめ、出口が、いま、ずれて――という、声が、した。声は、とちゅうで、ぷつん、と、切れた。



   ◆



 草の、匂いが、鼻を、ついた。


 つめたい、風。足の裏に、しめった、草。蓮は、草っぱらに、立っていた。


 まっくら、だった。


 空に、お月さまが、ふたつ、あった。大きいのと、小さいの。おうちの、空とは、ちがう。星が、こわいくらい、いっぱいで、遠くの、山が、黒い、大きな、けものみたいに、うずくまっている。


 蓮は、ぐるっと、まわりを、見た。


 パパは、いなかった。フィンも、いない。まっしろの、おねえさんも、いない。だれも、いない。草と、風と、黒い山と、ふたつの、お月さま、だけ。


蓮:「……パパ?」


 こえが、小さく、なった。


蓮:「パパ。ぱぱ。どこ」


 だれも、こたえない。風が、草を、ざわ、と、鳴らした。うしろで、がさ、と、音が、して、蓮は、びくっと、して、ふりむいた。何も、いなかった。でも、こわかった。目の、おくが、あつく、なって、じわ、と、にじんだ。


 ないちゃ、だめだ。


 蓮は、ぐいっと、うでで、目を、こすった。パパは、いってくる、って、言った。ここに、パパは、いる。おうちに、帰るには、パパを、見つけないと、いけない。ないてたら、見つからない。


 鼻を、すすって、蓮は、においを、かいだ。


 さっきの、お肉の、におい。あれが、パパの、におい。かすかに、風の、むこうから、こげたにおいが、流れてきた――ような、こないような。でも、蓮は、その、におう方へ、歩き出した。ほかに、行くところが、なかった。


 あるきだして、すぐ、しめった、つちの上に、大きい、くつのあとが、あった。パパのだ、と、おもった。むねが、すこし、あつくなる。でも、くつのあとは、じきに、かたい、じめんの上で、見えなく、なった。かわりに、ほそい、みぞが、二本、ならんで、とおくへ、つづいていた。くるまの、タイヤのあとみたいな、やつ。蓮は、それを、たどった。けれど、よるの、くらさの中で、その、みぞも、いつのまにか、どこかへ、いってしまった。



   ◆



 どれくらい、歩いたか、わからない。


 足の裏が、いたかった。石を、ふんで、いたっ、と、なった。とげとげの、草で、すねを、ひっかいた。おなかが、ぺこぺこ、だった。パジャマだけだと、さむくて、蓮は、じぶんの、うでを、ぎゅっと、かかえた。


 こわく、なると、蓮は、小さいこえで、うたった。ママが、寝るまえに、うたってくれる、うただ。うたっていると、少しだけ、こわくなかった。でも、うたが、おわると、また、しずかで、こわかった。


蓮:「……パパ、ハツ、やくって、いった。やくって、やくそく、した」


 だから、行かないと、いけない。パパは、やくそくを、やぶらない。ぼくが、行けば、パパは、ハツを、やいてくれる。こげるくらい、いっぱい。蓮は、じぶんに、そう、言いきかせて、いっぽ、いっぽ、あるいた。ころんだ。手を、ついた。てのひらに、つめたい、つちが、ついた。立ちあがった。また、あるいた。


 草の、あいだに、みずの、ながれる、音が、した。蓮は、そこで、手を、すくって、みずを、のんだ。つめたくて、あまい、みずだった。おなかが、きゅう、と、鳴った。それでも、みずを、のんだら、すこし、げんきが、出た。


 途中で、木の、あいだから、赤い、目が、二つ、こっちを、見ていた。


 蓮は、息を、のんで、止まった。目は、じっと、動かない。蓮も、動かない。しんぞうが、どきどき、うるさい。長い、あいだ、そうしていたら、赤い目は、ふい、と、消えた。やぶの、おくへ、行って、しまった。蓮は、はあ、と、大きく、息を、はいた。腰が、ぬけて、その場に、ぺたん、と、すわりこんだ。


 もう、歩けない、かも、しれない。


 空が、すこし、白んで、きた。朝が、近い。蓮は、ひざを、かかえて、その、あいだに、顔を、うずめた。パパの、におい、なんて、もう、わからない。ほんとうは、さいしょから、なかったのかも、しれない。ぼくは、まいごだ。おうちにも、帰れないし、パパにも、会えない。


蓮:「……ぱぱ」


 その時、だった。


 草を、かき分ける、音が、した。


 どた、どた、と、四本の、足で、走ってくる、音。蓮は、顔を、上げた。白い、朝の、もやの中から、まるくて、ふわふわの、ものが、まっすぐ、こっちへ、走ってくる。


 見おぼえが、あった。


蓮:「……フィン?」


 ふわふわが、蓮に、飛びついた。あたたかい。もふもふの、毛が、蓮の、ほっぺに、当たる。ぺろぺろ、と、蓮の、顔を、なめた。


フィン:「キューン!」


蓮:「フィン。フィンだ。ふわふわ。パパの、フィン」


 蓮は、フィンに、しがみついた。あったかい。生きてる。ひとりじゃ、ない。目から、こらえていたものが、いっぺんに、あふれた。



   ◆



 フィンが、キュンキュン、鳴きながら、来た方へ、走る。少し行っては、ふりむいて、蓮を、待つ。ついておいで、と、言っている。蓮は、ふらふらの、足で、それを、追った。


 もやの、むこうに、人の、かげが、見えた。


 馬車。焚き火の、けむり。そして、その、まん中に、背の高い、かげが、一つ。ふりむいた。無精ひげ。日に焼けた、顔。背中に、二本の、剣。


 パパ、だった。


 パパの、顔が、蓮を、見て、ぐにゃっと、こわれた。あんなに、こわれた、パパの、顔を、蓮は、見たことが、なかった。


ヨーヘイ:「……蓮」


 声が、かすれていた。パパが、剣を、放り出して、こっちへ、走ってくる。地面に、膝を、ついて、両手を、広げる。蓮は、その、胸に、飛び込んだ。この前と、同じ、においがした。こげた、お肉の、におい。パパの、におい。


蓮:「ぱぱ……ぱぱ……ぼく、ぼく、パパのとこ、来た」


ヨーヘイ:「なんで……なんで、来たんだ。危ないだろ。あんな、とこ、一人で……っ」


 パパの、うでが、いたいくらい、蓮を、抱きしめた。ふるえていた。おこっている、のとも、ちがう。パパは、蓮の、あたまに、ほおを、押しつけて、ぎゅう、と、した。ひげが、ちくちく、した。それが、うれしかった。パパの、うでの中は、あたたかくて、蓮は、やっと、さむくなくなった。


 蓮の、おなかが、きゅうう、と、大きく、鳴った。


 パパが、体を、はなして、蓮の、顔を、見た。蓮も、パパを、見た。二人とも、目が、まっかで、ぐしゃぐしゃだった。パパが、ふ、と、笑った。なきながら、笑う、へんな顔だった。


ヨーヘイ:「……腹、へってるのか」


蓮:「……うん。ぺこぺこ」


ヨーヘイ:「……そうか。焼いてやる。ハツ。約束、したもんな」


 蓮は、こくん、と、うなずいた。それから、また、パパの、むねに、顔を、うずめた。


 その、うしろで。


 きつねの、耳の、おねえさんが、口を、押さえて、立っていた。もう一人、やさしい顔の、おねえさんも。二人とも、蓮と、パパを、見て、何も、言えないでいた。きつねの、耳が、ほんとうに、あたまから、ぴん、と、生えていた。ほんものの、けものの、みたいに。蓮は、こんなときなのに、少しだけ、それに、見とれた。


 その時、きつねの耳の、おねえさんが、はっと、遠くを、見た。


ルカ:「ヨーヘイ……あかん。あれ、見て」


 蓮も、パパの、うでの、あいだから、その方を、見た。


 朝の、光の、なかで。


 森が、まっしろ、だった。木という、木が、しろい、わたみたいな、ものに、つつまれて、みどりが、ぜんぶ、かれている。その、しろい、森の、おくから、風にのって、へんな、においが、した。お肉とも、草とも、ちがう。あまくて、くさった、ような、におい。


 パパの、腕が、蓮を、抱く力が、つよく、なった。


ヨーヘイ:「……蓮。パパから、絶対、離れるな」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【第96話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:31(本話は蓮視点・ヨーヘイの戦闘なし) HP:504/504 MP:244/244


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・なし(据え置き。《料理》Lv3・熟練度5を維持)


▼ 本話の収支

・増減なし(異世界通貨20,581枚据え置き/蓮視点・無収支)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・変動なし(前話で持ち帰った現代の調味料・食材を継続保持/小瓶=エリクサー2本目はルカ携行)


▼ 本話の出来事(蓮=五歳の視点で進む回)

・ヨーヘイが単身で異世界へ渡った、その夜。現代の子ども部屋で目を覚ました蓮が、パパを追ってクローゼットへ向かう

・一度くぐった記憶を頼りに扉の奥へ。白い女神の部屋を経て越える。女神(解析さん)が慌てて止めようとするが、蓮はパパの焼いた肉の匂いを頼りに、あかりの切れ目の草地へ飛び込む。飛び込む瞬間、背後で「出口が、いま、ずれて――」の声(想定外の越境で、出口の場所と時刻がずれた示唆=ヨーヘイと出た地点・時刻が違う理由。機序は不出)

・異世界の夜の草地に一人。二つの月、見知らぬ音、恐怖、空腹、裸足。泣くのをこらえ、パパの匂いを頼りに歩く

・木の間の赤い目とにらみ合い、動かずやり過ごす。水を飲み、こらえながら歩き、夜明け前に力尽きて座り込む

・フィンが匂いを辿って先に見つけ、蓮に飛びつく。フィンに導かれ、一行のもとへ

・ヨーヘイと再会。置いてきたはずの蓮が目の前に現れ、ヨーヘイの血の気が引く(「なんで来たんだ、危ないだろ」)。ルカ・リリアは言葉を失う

・末尾=ルカが遠くの異変に気づく。里の手前の森が白い綿のようなものに覆われ、甘く腐ったにおいが漂う。ヨーヘイが蓮を抱く腕に力を込め、「パパから、絶対、離れるな」


▼ 考察(本話はヨーヘイの内心=蓮を抱いたまま)


 解析さん。……記録どころじゃ、ないのは、分かっています。それでも。


 蓮が、来ました。俺が、置いてきた、はずの、あの子が、一人で、あの扉を、くぐって、この、危ない世界を、夜通し、歩いて、ここまで、来た。裸足で。パジャマで。震えながら。守るために、遠ざけたつもりが、いちばん、危ないところの、ど真ん中に、この子を、立たせてしまった。夜の草地には、魔物がいる。それだけじゃ、ない。あの、正体の知れない追っ手も、まだ、どこかで、消えていない。最悪の絵が、いくつも、頭を、殴りました。


 俺の、匂いを、辿ってきた、と、フィンの、鼻が、教えてくれました。焼いた、肉の、匂いを。皮肉なものです。あの子に、旨いものを、食わせてやりたくて、覚えた、火の匂いが、あの子を、こんなところまで、呼び寄せた。


 ――里の森が、白い。あの、甘く腐った匂いを、俺は、知りません。でも、体が、警告しています。逃げろ、ではなく、守れ、と。この腕の中の、熱を。何があっても。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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