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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
6章 「連れて、帰る。」

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第87話 旅が、続いた。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 朝が、明けた。



 薬房の朝は、煮詰めた薬草の匂いがした。


 その匂いの中で、ヨーヘイは荷を背負い直していた。竈の灰はもう冷えている。昨日まで火が入っていた場所が、今日はただの石になっていた。出ていく者の背中には、いつも、この少しの寒さがついてくる。


 ルカが、戸口で待っていた。懐に手を当てている。布に包んだ小瓶が、そこにある。冷えていた指先は、もう、白くない。血の色が、ちゃんと、通っていた。


ルカ:「ヨーヘイ。うち、もう、いつでも歩けるで」


 その声に、張りが戻っていた。前は、しゃべるだけで息が切れていた。今は、足の先まで、力が満ちている。それが、ルカの立ち方で、わかる。


ヨーヘイ:「ああ。無理は、しなくていいけどな」


ルカ:「無理ちゃうって。ほんまに、軽いねん。体が」


 奥から、乾いた足音がした。ヴェルナだった。腕を組んで、戸枠に寄りかかっている。


ヴェルナ:「もう行くのかい。せっかちな客だね」


ヨーヘイ:「世話になりました。薬のことも、宿のことも」


ヴェルナ:「礼はいらないよ。あんたの焼いた肉のほうが、よっぽど高くついてる。あれを毎日食わされたら、私の処方が要らなくなる。商売あがったりさ」


 毒のある言い方だった。だが、その目は、笑っていた。この人は、優しい言葉を、まっすぐには言えない。薬の苦さで、甘さをくるんで渡す。そういう人だった。


ヴェルナ:「その子に、一つだけ言っておく。──薄める割合は、急ぐんじゃないよ。薬は、濃けりゃ効くってもんじゃない。濃すぎる薬は、毒になる。あんたが治ったのは、量が、ちょうどだったからさ」


ルカ:「……うん。覚えとく」


ヴェルナ:「いい子だ。さっさとお行き。──また、肉を焼きに来な。今度は、代金を取るよ」


 ニナが、駆けてきた。息を切らして、両手に布包みを抱えている。


ニナ:「ヨーヘイさん! これ、姉さんが、持ってけって。道中の、塩漬けと、干した実」


ヨーヘイ:「ありがとう。助かる」


ニナ:「……ルカちゃん。元気に、なって、よかった」


ルカ:「ニナ。あんたも、達者でな。うちが店持ったら、一番に呼んだるわ」


ニナ:「ほんと? 絶対だよ。約束」


 フィンが、ヨーヘイの足元で、鼻を上げた。外の通りには、もう、人が出始めている。市の立つ刻だった。ヨーヘイは、外套の前を、そっと開いて、フィンを内側へ促した。


ヨーヘイ:(……人の多いところでは、隠しておけ。誰の言葉だったか)


 森の境で、別れ際に言われた言葉だった。意味は、まだ、わからない。この子の、何が、人目を引くのか。それでも、言われたとおりに、しておく。フィンは、素直に、外套の合わせの奥へ潜り込んだ。


フィン:「キュッ」


 門を出ると、空が、広がった。


 薬房の細い路地から、王都の大通りへ。そして大通りを抜ければ、城壁の門。門の向こうには、麦の畑と、その先の街道が、まっすぐに伸びている。


 厩から、カゼが、引き出されてきた。栗色の馬は、ヨーヘイを見つけると、低く鼻を鳴らした。馬車の軛に、自分から、首を入れていく。長く待たされた割に、機嫌は悪くないらしい。


ヨーヘイ:「待たせたな。行くぞ」


 御者台に座り、手綱を握る。リリアが隣に乗り、ルカは荷台の縁に腰かけた。フィンは、外套の中から、もう顔だけ出している。


 門をくぐる、その一瞬。ヨーヘイは、背中に、薄い気配を感じた。人混みの中の、どこか一点。視線のような、匂いのような、何か。振り返っても、市の雑踏があるだけだった。人が、多すぎる。誰の目も、ここでは、埋もれてしまう。


ヨーヘイ:(……気のせいか。いや)


 考えても、像は結ばなかった。馬車は、門を抜けた。畑の匂いが、薬草の匂いを、押し流していった。


リリア:「……ひさしぶり、ですね。こうして、外を、走るのは」


ヨーヘイ:「ああ。ずっと、屋根の下だったからな」


 六日ぶり、いや、もっとか。エルフの森を出てから、王都で、調合を待って、薬を飲ませて。動かない時間が、続いていた。今、車輪が回り、風が頬を切っていく。それだけのことが、妙に、新しかった。


ルカ:「うわ……空、ひっろ。うち、こんな景色、息切らさんと見れる日が来るとは思わんかったわ」


 ルカが、荷台の上で、立ち上がっていた。風に、尻尾が揺れている。その顔は、感心しているのではなかった。ただ、生きて、ここに立っている。それを、確かめている顔だった。


ヨーヘイ:「座ってろ。落ちるぞ」


ルカ:「平気やって。──なあ、ヨーヘイ。うちの村、ここから、どんくらいや」


ヨーヘイ:「さあな。解析さん、わかるか」


解析:「街道を、西へ。途中、いくつかの宿場を経ます。詳しい日数は、進みながら、お伝えします」


ルカ:「西、か」


 ルカの声から、軽さが、少しだけ抜けた。懐の小瓶に、また、手が触れている。治ったのは、ルカ一人だ。村には、まだ、同じ病を抱えた子らがいる。薄めて、間に合うかどうか。それを、確かめに行く。喜んでいる場合では、ないのだと、ルカ自身が、一番、わかっていた。


ヨーヘイ:「急ごう。けど、焦って、馬を潰したら、かえって遅くなる。一日ずつ、確実に、進む」


ルカ:「……うん。せやな」



◆ 草原を、駆けた。



 昼を過ぎて、麦の畑は、背の低い草原に変わった。


 風が、草の海を、波立たせている。遠くに、疎らな林。その手前を、何かが、横切った。


 フィンが、外套の中で、ぴくりと、体を硬くした。鼻先が、草原の一点へ向く。


フィン:「キュウッ」


 低い、警告の声だった。ヨーヘイは、手綱を引いて、馬を止めた。


解析:「前方、草の中。大型の、生き物が、います。──鳥型です。ただし、飛びません。脚で、駆けます」


ヨーヘイ:(鳥が、飛ばずに、駆ける……?)


 草が、二つに割れた。


 飛び出してきたのは、馬ほどもある、巨大な鳥だった。翼は、小さく、退化している。その代わり、脚が、異様に太い。鱗に覆われた二本の脚が、地を蹴るたびに、土が、跳ねた。首は長く、嘴は、鉤のように曲がっている。


ルカ:「で、でか……っ。なんやあれ、走る鳥かいな」


解析:「鑑定します。──走り鳥。Eグレード、上位。草原を駆ける狩りの獣です。羽毛の下に、厚い脂の層。脚の肉は、強く締まっています。可食。むしろ、上等な部類です」


ヨーヘイ:(また、解析さんは、戦う前から、品定めか)


 だが、その品定てを、聞いている暇は、なかった。走り鳥が、こちらを、敵と見た。長い首を低く沈め、嘴を、槍のように構える。そして──消えた。


 いや、消えてはいない。速すぎて、目が、追えなかった。次の瞬間には、馬車の真横にいた。嘴が、ヨーヘイの肩を、狙ってくる。


ヨーヘイ:「っ、速い……!」


 《瞬歩》で、辛うじて、後ろへ跳んだ。嘴が、御者台の木を、抉った。あと半拍遅ければ、肩を貫かれていた。


 地に降りて、二本の剣を抜く。だが、構えたところで、走り鳥は、もう、間合いの外だった。一度、大きく回り込み、また、駆けてくる。直線では、ない。右へ、左へ、軌道を、ぶらしながら。


ヨーヘイ:(駄目だ。これは、踏み込んで、急所を斬る相手じゃない。間合いが、取れない。一瞬で、すり抜けられる)


 今までの獣とは、違った。地に根を張った大物なら、回り込んで、延髄を断てた。だが、これは、止まらない。速さそのものが、鎧だった。正面から斬りかかれば、空を切って、こちらの背中を、嘴が抜いていく。


ヨーヘイ:「解析さん。こいつの、走る癖を、読めるか。次に、どっちへ曲がる」


解析:「……試みます。脚の、踏み込みの向き、首の傾き。先に、お伝えします。──次、右。その次、左へ切り返します」


ヨーヘイ:「ルカ! リリア! あいつを、止める。俺は、追わない。追い込む」


ルカ:「追い込むって、どこへや!」


ヨーヘイ:「林だ。木の間へ、追い込めば、あの速さは、出せない。──リリアさん、目を。ルカ、脚を頼む」


 ヨーヘイは、フィニッシャーには、ならなかった。


 代わりに、《瞬歩》で、走り鳥の脇へ、回り込んだ。斬るためでは、ない。進路を、塞ぐためだ。剣を、ただ、突き出して、壁を作る。走り鳥が、それを嫌って、左へ、切り返す。解析の読み、どおりだった。その先に、林がある。


 リリアが、両手を、前へ突き出した。


リリア:「……っ、光よ」


 聖なる光が、走り鳥の、目の前で、弾けた。攻撃では、ない。ただ、まばゆい、白い光。暗がりを狩る獣ではなくとも、急な閃光は、目を、眩ませる。走り鳥が、たたらを踏んだ。長い首が、泳いだ。


 その一瞬を、ルカが、待っていた。


ルカ:「もらった……!」


 ルカの手の先に、炎が、生まれた。細く、鋭い、一筋。出力を、絞り込んだ炎だった。それを、走り鳥の、太い脚の、関節へ、叩き込む。狙いは、正確だった。治った体は、もう、震えない。腱の、焼ける匂い。走り鳥が、脚を、もつれさせて、林の手前で、地に、転がった。


ヨーヘイ:「今だ」


 倒れた巨体に、ヨーヘイが、上から、乗りかかる。暴れる首を、片腕で、押さえつけ、剣の柄頭で、頭の後ろを、一度、強く打った。走り鳥の、長い首から、力が、抜けた。


 しん、と、草原が、静かになった。風の音だけが、戻ってくる。


ルカ:「……はあ、はあ。し、しんど。けど──効いた。うちの炎、ちゃんと、効いたわ」


 ルカが、自分の手のひらを、見つめていた。息は、上がっている。だが、それは、病の息切れでは、ない。動いた者の、健やかな、息切れだった。


ヨーヘイ:「助かった。お前の炎が、なけりゃ、止められなかった」


ルカ:「……ふん。当たり前やろ。うちを、誰や思てんねん」


 そう言って、ルカは、笑った。耳が、ぴんと、立っていた。


フィン:「キューン」


 フィンが、外套から、するりと抜け出して、倒れた走り鳥の周りを、ぐるぐると、回った。最初に、こいつを見つけたのは、フィンの鼻だ。その尾が、得意げに、揺れていた。



◆ 皮が、鳴った。



 日が傾く前に、林の縁で、火を熾した。


 走り鳥の解体は、これまでの獣とは、勝手が違った。何より、羽毛だった。厚い羽毛が、全身を覆っている。これを、丁寧に、むしらなければ、肉に、たどり着けない。


ヨーヘイ:「リリアさん、湯を。羽の根を、緩めて、抜く。引きちぎると、皮が、破れる」


リリア:「……はい。これくらい、で、いいですか」


 湯を、羽の根元に、かけていく。蒸らして、毛穴を、開かせる。そうしてから、向きに沿って、抜くと、面白いほど、すっと、抜けた。地道な作業だった。だが、ここを、雑にやると、後が、台無しになる。


 羽を、すっかり落とすと、その下から、皮が、現れた。


ヨーヘイ:「……これは」


 皮の下に、黄金色の、厚い脂の層が、敷き詰められていた。鶏のような、薄い皮では、ない。もっと、ずっと、分厚い。指で押すと、ぷりっと、跳ね返ってくる。


解析:「その皮と、脂が、この獣の、最も上等な部分です。脚の肉は、締まって、噛むほどに味が出ます。──ですが、その皮を、活かせるかどうかで、一皿の、格が変わります」


ヨーヘイ:(皮を、活かす……。これだけ厚い脂だ。普通に焼いたら、脂で、べたつく。だが──)


 料理人の頭が、回り始めた。前の世界で、鴨を焼いた時のことを、思い出していた。脂の多い皮は、皮目から、じっくり焼く。脂を、皮の側から、溶かし出す。そうすれば、皮は、薄く、固く、はぜるように、香ばしくなる。中の肉は、脂で、蒸されて、しっとりと、火が通る。


ヨーヘイ:「皮を、傷つけずに、剥ぐ。一枚の、布みたいに」


 肉から、脂のついた皮を、慎重に、剥ぎ取っていく。脂の層を、肉の側に、半分、残す。皮は、皮で、別に、扱う。普段の解体では、捨ててしまうことも多い部分だった。だが、この獣では、ここが、主役だった。


 脚の肉は、塊のまま、外した。赤黒い、締まった肉だ。筋が、しっかりしている。これは、薄く切って、焼くより、塊で、ゆっくり、火を入れたほうがいい。


 まず、皮を、焼いた。


 鉄板を、熱する。脂を、引かない。皮そのものから、脂が、出る。皮目を、下にして、置いた。


 じゅっ、と、低い音がした。それから、ぱちぱちと、脂の弾ける音に、変わっていく。皮の下から、黄金色の脂が、にじみ出て、鉄板に、広がっていった。香ばしい、煙が、立ち上る。


ルカ:「うわ、なんや、その音。聞いとるだけで、腹、鳴るやん」


 皮が、だんだんと、縮んで、固くなっていく。色が、飴色に、変わる。指で、押すと、こり、と、固い手応え。もう、いい。引き上げて、塩を、ぱらりと、振った。


 割ると、ぱりっ、と、音が、鳴った。


 ヨーヘイは、その一切れを、まず、ルカに、渡した。


ルカ:「……いただきます」


 ルカが、噛んだ。ぱりっ、と、また、音がした。次の瞬間、ルカの、耳が、ぴんと、跳ねた。


ルカ:「──んんっ。なにこれ、なにこれっ。外、ぱっりぱりやのに、内側に、脂の、甘いのが、じゅわって。うっま……ほんまに、うっま」


 ルカは、味が、わかる。それを、見ているだけで、ヨーヘイの、胸の奥が、温かくなった。少し前まで、この子は、何を食べても、味が、遠かった。今は、こうして、美味い、と、全身で、言う。


 脚の肉も、焼けた。塊で、火を入れ、休ませてから、厚く、切る。断面は、薄紅色。噛むと、じわりと、肉の汁が、滲んだ。皮の、はじける軽さと、肉の、噛みごたえ。二つが、一つの皿で、出会っていた。


リリア:「……おいしい、です。皮の、この、軽さ。お肉の、重さ。両方、あるのが、こんなに、楽しいなんて」


フィン:「キュッ」


 フィンにも、脂を落とした皮の、欠片を、一つ。フィンは、それを、大事そうに、何度も、噛んでいた。


 炭の上で、脂が、また、一滴、落ちて、小さく、爆ぜた。その匂いに、ヨーヘイは、ふと、遠いものを、思い出した。


 蓮の、好きだった、皮のぱりっとした、あれ。あの子は、いつも、焼ける前から、覗き込んできた。もう焼けてる、と、何度も、聞いてきた。まだだ、と、言うたびに、頬を、膨らませて。あの顔を、また、見られる日が、来るだろうか。


 ──いや。今は、それは、しまっておく。目の前に、味のわかる口で、笑っている子が、いる。その子の、村には、まだ、待っている子らが、いる。帰り道のことは、その先で、いい。


ヨーヘイ:「ほら、ルカ。脚のほうも、食え。お前、もっと、肉が、要る。これから、歩くんだから」


ルカ:「言われんでも、食うわ。──あー、生きてるって、こういうことやねんな」



◆ 串が、売れた。



 次の日の夕方、街道の、辻に出た。


 古い井戸と、何本かの木が、目印の、休み場だった。西へ向かう者、東へ帰る者。荷を積んだ隊商が、何組か、馬を休ませている。ちょうど、夕餉の刻だった。


 ヨーヘイは、走り鳥の肉が、まだ、たっぷり、あるのを、思い出した。


ヨーヘイ:「ルカ。久しぶりに、やるか。串」


ルカ:「お、屋台か。ええな。うち、声、張るで」


 七輪を、二つ、並べた。脚の肉を、一口大に切って、串に刺す。皮も、刻んで、間に、挟む。塩を振って、炭に、かざす。


 じゅう、と、脂が、滴り、煙が、立つ。


 その匂いが、辻に、流れた。


 最初に、近づいてきたのは、痩せた、行商の男だった。鼻を、ひくつかせている。


行商:「兄さん、それ、売りもんかい。一本、いくらだ」


ヨーヘイ:「銅貨、三枚」


 男が、一本、買って、齧った。皮の、ぱりっという音が、辻に、響いた。男の、噛む手が、止まった。


行商:「……うまい。なんだ、この、皮は。兄さん、あんた、ただの旅人じゃないな。──おい、みんな、ここの串、食ってみろ」


 一人が、立ち止まると、二人、三人と、人が、集まってきた。隊商の、護衛らしい男たち。子連れの、旅の女。荷馬の世話をしていた、老人。皆、煙に、引かれて、来る。


ルカ:「へい、らっしゃい! 走る鳥の、串やで。外ぱりぱり、中じゅわじゅわ。一本、銅貨三枚!」


 ルカの、よく通る声に、笑いが、起きた。串は、面白いように、売れていった。焼いては、出し、焼いては、出し。気がつけば、辻の、半分の人が、串を、手にしていた。


ヨーヘイ:(……これだ。この、顔だ)


 串を頬張って、目を、丸くする顔。隣の連れと、何か言い合って、笑う顔。その顔が、見たくて、俺は、肉を、焼いている。いつか、腰を据えた、店で。毎日、この顔を、見られたら。──まだ、遠い話だ。だが、その先に、それは、ある。


 日が、暮れていく。客が、引いて、最後に、一人、年かさの、隊商の頭が、残った。串を、二本、買って、ゆっくりと、噛んでいる。西から、来た、と言った。


頭:「いやあ、うまかった。久々に、いい肉を、食った。──兄さんたち、これから、西へ行くのかい」


ヨーヘイ:「ええ。西の、村のほうへ」


 すると、頭の、顔から、笑みが、少しだけ、引いた。串を持つ手を、止めて、声を、低くする。


頭:「……西の、どのあたりだ。いや、余計な、世話かもしれんがね。西の、山際の村のほうは、今、あまり、よくないと、聞くよ」


 ヨーヘイの、隣で、ルカの、耳が、ぴくり、と、動いた。


ヨーヘイ:「……よくない、とは」


頭:「はっきりは、わからん。又聞きさ。だがね、この、ひと月ほどで、あのあたりの、若いのが、何人も、立てなくなった、と。畑にも、出られず、寝ついたまま、起きてこない者が、増えてる、と。流行り病か、何かじゃないか、と、皆、言ってる。──近づかんほうが、いいかもしれんよ」


 ルカが、串を焼く手を、止めていた。


 火に、照らされた、その横顔から、さっきまでの、明るさが、消えていた。立てなくなる。寝ついて、起きてこない。それが、何の、ことなのか。ルカは、誰よりも、知っている。自分の、体で、それを、味わってきた。


ルカ:「……それ、どの、村か、わかる? 名前。村の、名前」


頭:「さあて。山際、としか。──お嬢さん、知り合いでも、いるのかい」


 ルカは、答えなかった。懐の、布包みを、強く、握りしめた。その手が、わずかに、震えている。さっき、走り鳥の脚を、撃ち抜いた、あの、まっすぐな手が。


ルカ:「ヨーヘイ」


 振り向いた、ルカの目は、もう、笑っていなかった。



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【第87話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:31(連携での撃破・力押しではないため据え置き) HP:504/504 MP:244/244


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・解体:17 → 18(初めて捌く走り鳥・羽の蒸らし抜きと、厚い脂の皮を傷つけず剥ぐ処理)

・料理:0 → 2(進化したての手で、皮目から脂を出してはぜさせる新しい焼き)

・瞬歩:27 → 28(俊足の獣の脇へ回り込み、進路を塞ぐ足運び)


▼ 本話の収支

・収入:銅貨1,800枚(街道の辻で走り鳥の串を隊商・旅人へ販売)

・支出:なし(野営につき宿代なし)

・本話終了時手持ち:17,621枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・走り鳥の脚肉・皮・むね肉を確保(一部を一皿と串に使用、残りは保持)

・走り鳥の魔石(E)・羽毛を新たに確保(換金/活用待ち)

・ヴェルナとニナからの餞別(塩漬け・干した実)を受け取り保持

・小瓶一本(ルカが布に包んで継続携行=里で薄めて使う想定)に変動なし

・各魔石・装甲・厚皮・換金待ちの品は継続保持。レア鉱石はドンネ預かり


▼ 本話の出来事

・薬房の朝、王都を発つ。ヴェルナの毒舌まじりの見送り(薄める割合は急ぐな、濃すぎる薬は毒になる、という餞)とニナの別れ。フィンを外套に庇って門を出る

・門をくぐる一瞬、ヨーヘイは背に薄い気配を感じるが、市の雑踏に紛れて像は結ばない。馬車は門を抜け、街道へ

・治ったルカが、息を切らさず外を見て立つ。だが懐の小瓶に手が触れ、村に残る子らを思って明るさが翳る。急ぐが馬は潰さない、と一日ずつ進む方針

・草原で走り鳥(E上位)と遭遇。俊足で間合いが取れず、踏み込みの急所斬りが通らない。ヨーヘイは追わず追い込む側に回る

・解析が走路を先読みし、ヨーヘイが瞬歩で進路を塞いで林へ誘導。リリアの光が目を眩ませ、ルカの絞った炎が脚の関節を撃ち抜いて転倒させ、ヨーヘイが頭を打って仕留める=撃破手段を入れ替えての連携

・撃破した体で動けた実感に、ルカが自分の手を見つめる。最初に獲物を見つけたフィンの尾が揺れる

・解体は羽を蒸らして抜くところから。厚い脂の皮を一枚布のように剥ぎ、皮目から焼いて脂を出し、はぜる軽さに仕上げる新しい一皿。味の戻ったルカが「うっま」と全身で言う

・翌夕、街道の辻で久々の屋台。皮の音と煙に隊商・旅人が集まり、串が売れる。ルカの呼び声に笑いが起きる

・末尾:残った隊商の頭が「西の山際の村のほうは、今、よくない/若いのが何人も立てなくなっている」と又聞きを漏らす。ルカの手が震え、村の名を問うが頭は知らない。ルカが振り向く、その目はもう笑っていない


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録、お願いします。


 今日、王都を、出ました。屋根の下の、長い日々が、終わって、ようやく、車輪が、回りました。ルカが、息を切らさずに、空を見て、立っていました。それだけのことが、こんなに、うれしいとは、思いませんでした。


 道で、でかい鳥に、出くわしました。飛ばずに、駆けるやつです。速くて、正面からじゃ、捕まえられない。だから、追うのは、やめました。あなたが走り方を読んで、俺が、行き先を、塞いで、リリアさんが、目をくらませて、ルカが、脚を、撃ちました。俺が、一人で、倒したんじゃ、ない。皆で、追い込んで、止めた。──こういう倒し方も、あるんだと、思いました。


 皮が、うまかった。厚い脂の皮を、皮の側から、じっくり焼くと、ぱりっと、はぜる。中の肉は、しっとり、火が通る。ルカが、一口で、耳を、跳ねさせました。味が、わかるって、こういうことか、と。何度見ても、あの顔は、いい。


 串も、売れました。皆、煙に、釣られて、来る。串を齧って、目を丸くする顔。あの顔が、見たくて、俺は、焼いてる。腰を据えた店で、毎日、あれが見られたら。──まだ、遠いですけど。


 ……でも、最後に、嫌な話を、聞きました。西の村のほうで、若いのが、立てなくなってる、と。寝ついて、起きてこない、と。ルカの、顔が、変わりました。あの子は、それが、何か、知ってます。自分の体で、味わったから。


 間に合うのか。一本の薬を、薄めて、どこまで、届くのか。急がなきゃいけない。記録、お願いします。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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