第83話 世界樹の前で、焼いた。
異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。
とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。
面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると
ヨーヘイより先に作者が泣きます。
◆ 木の、根元で
根が、壁だった。
一本ずつが、家ほどの太さで、地面から盛り上がり、左右へ立ちはだかっている。その根の谷間を、ヨーヘイたちは歩いていた。頭の上で、太い幹が空へ伸びていく。首を、どこまで反らせても、梢は見えなかった。
高台から遠くに見たときは、ただ、ほかより大きいだけの木に見えた。違った。近づくほど、桁が、外れていく。幹に手を当てると、樹皮の一枚一枚が、ヨーヘイの背丈ほどあった。木の内側で、水が動いている音が、低く、響いている。生きている。それも、けた違いに、長く。
空気が、違った。森のほかの場所より、澄んでいて、少し、冷たい。吸い込むと、胸の奥まで、洗われるようだった。
ティル:「この奥に、長老がおられる」
ティルが、足を止めずに言った。声を、いつもより、低く落としている。
(……最後に、世界樹の露を求めた者がいたのは、百年前)
ヨーヘイの胸の中で、その数字が、まだ、消えていなかった。高台で、ティルにそう告げられてから、ずっと、背骨のあたりに、重しのように残っている。軽い気持ちで来たわけではない。それでも、百年という長さは、覚悟の上を、もう一段、越えていた。
根の谷間を抜けると、ひらけた。
二本の巨大な根が、左右から囲うようにせり上がり、その間に、苔むした広い空間ができている。淡い金の光が、梢の遥か上から、雨のように降っていた。
その中心に、一人、座っていた。
年老いた、エルフだった。
長い耳の先まで、白い。背は曲がり、膝の上で組んだ手は、枯れ枝のように細い。けれど、その目だけが、若い木の葉のように、濡れて、光っていた。こちらを、見ている。一行が根の谷間に現れたときから、ずっと、見ていたのだと、わかった。
ティル:「長老、オルン様。お連れしました」
オルンと呼ばれた長老は、すぐには、口を開かなかった。
ヨーヘイたちを、一人ずつ、順に見ていく。ルカを見て、リリアを見て、ヨーヘイを見た。そして、最後に、ヨーヘイの足元にいるフィンに、目を、止めた。
長い、沈黙だった。
◆ 老いた、声
ルカが、ヨーヘイの袖を、そっと、つかんだ。
言葉は、なかった。けれど、その指の力で、ルカが何を思っているのか、ヨーヘイには、伝わってきた。この奥に、自分の薬の、最後の一つがある。それを持っているのが、この、目の前の老人だ。ルカは、いつもの軽口を、今だけは、呑み込んでいた。
リリアは、長老の前に立った瞬間から、様子が、おかしかった。
胸の前で、手を、組んでいる。その指先が、はっきりと、光っていた。森の卓で灯りかけていたものが、ここでは、抑えようとしても、抑えきれない。リリアは、唇を噛んで、必死に、それを、内へ押し込めていた。世界樹に近いほど、彼女の中の何かが、応えてしまうらしかった。なぜ、とは、誰も、訊かなかった。
オルンが、ようやく、口を開いた。
オルン:「遠くから、来たな」
枯れた、しかし、よく通る声だった。
オルン:「人間と、獣人と、聖を宿す娘。そして——一匹の、子」
最後の一語で、オルンの視線が、また、フィンへ流れた。フィンは、長老から、目を、そらさなかった。鳴きもしない。ただ、まっすぐに、見返している。
オルン:「世界樹の露を、求めて来たと聞いた」
ヨーヘイ:「はい」
ヨーヘイは、隠さなかった。
ヨーヘイ:「連れの、薬に、要るんです。最後の、一つで」
オルンは、頷きも、首を振りもしなかった。ただ、しばらく、ヨーヘイの顔を、見ていた。値踏みするような目では、なかった。もっと、奥まで、覗き込むような目だった。
オルン:「露は、軽くは、渡せぬ。あれは、この森が、百年に一度、零すかどうかの、雫だ」
やはり、百年か、とヨーヘイは思った。
オルン:「だが」
長老が、組んでいた手を、ほどいた。
オルン:「お前からは、知らぬ匂いがする。森の外の、火と、煙の匂いだ。我らが、決して食わぬものの、匂いだ」
ヨーヘイは、息を、止めた。
料理人だ、と見抜かれている。それも、何を扱う料理人か、まで。
オルン:「一つ、頼みがある」
オルンの、葉のような目が、まっすぐに、ヨーヘイを、捉えた。
オルン:「……お前の料理を、我々に、食わせてほしい」
ティルが、わずかに、目を見開いた。それが、どれほど、異例の言葉なのか、その横顔が、語っていた。
魔物の肉を、口にしない種族。その長老が、よその者の、それも、獣を焼く料理を、食べさせてくれと、言っている。
ヨーヘイ:「……いいんですか」
オルン:「わしは、長く、生きすぎた」
オルンが、ふっと、息を、吐いた。笑ったのかもしれなかった。
オルン:「百年、変わらぬものばかり、見てきた。死ぬ前に、一つくらい、知らぬものを、口にしてみたい。それだけだ」
風が、根の谷間を、抜けていった。
ヨーヘイは、しばらく、長老の目を、見返していた。それから、ゆっくりと、腰の荷を、下ろした。
ヨーヘイ:「……わかりました。少し、待っていてください」
火を、熾す。
この、聖なる木の、足元で。
◆ 煙が、立った
魔石の七輪を、苔の上に、据えた。
炭を組み、火を入れる。最初は、小さな赤い点だった。やがて、それが、じわりと広がって、炭の縁が、白く、灰をかぶり始める。ヨーヘイは、その色を、見ていた。何度、見てきても、火が育つ瞬間は、いい。
手元には、二つの世界が、並んでいた。
一つは、深い穴の底で獲った、獣の肉。脂の甘い、厚い肉だ。氷の魔石でくるんで、ここまで運んできた、最後の塊。もう一つは、この森の、恵み。卓で見た、青い木の実、白い根菜、深い緑の香草、そして、琥珀色の蜜。
誰も、組み合わせたことのない、二つだった。森の外の獣と、森の内の実り。それを、一つの皿の上で、出会わせる。
ヨーヘイは、まず、白い根菜を、皮ごと、炭の脇へ、転がした。じっくり、灰の熱で、芯まで火を通す。急がない。甘くなるまで、ただ、待つ。
次に、肉を、切り分けた。
厚すぎず、薄すぎず。脂と、赤身の境目を、見ながら、刃を入れていく。冷えて締まった脂が、刃の先で、つやりと光った。一切れ、手のひらに乗せ、塩を、軽く、振る。
網に、置いた。
じゅう、と、音がした。
その瞬間だった。
森が、息を、呑んだ。
梢の上、根の陰、橋の上。気づけば、無数のエルフが、遠巻きに、この場を、見ていた。ティルに連れられて、いつの間にか、集まっていたのだ。彼らの目が、いっせいに、網の上の、一切れの肉に、注がれていた。
肉を焼く煙が、聖なる森に、初めて、立ち上っていく。
白い煙が、金色の光の中を、ゆっくりと、昇っていった。脂が、炭に落ちて、ぱちりと爆ぜる。香ばしい匂いが、澄んだ空気に、混じっていく。場違いなはずの、その匂いが、けれど、不思議と、この森に、馴染んでいくようだった。
どこかで、誰かの喉が、こくり、と鳴った。
ヨーヘイは、構わず、手を、動かした。
肉の表面が、きつね色に、変わってくる。ふちが、縮れて、立ち上がる。脂が、滲んで、玉になる。そのいちばん、いい瞬間を、ヨーヘイは、逃さなかった。網から、上げる。
灰の中の根菜を、引き出して、二つに、割った。湯気が、立ちのぼる。白かった中身が、ほっくりと、黄金色に、甘く焼けていた。そこへ、琥珀の蜜を、ひとさじ、垂らす。
焼けた肉に、青い木の実を、絞った。つんとした、青い香りが、脂の甘さの上に、ぱっと、弾ける。最後に、深い緑の香草を、手のひらで揉んで、散らした。
木の皿に、盛る。
(……これだ)
ヨーヘイには、わかった。手応えが、あった。指の先まで、いつもより、はっきりと、火の通り具合が、見えていた。何切れ目で、肉が、いちばん旨くなるか。蜜を、何滴で止めるか。考えるより先に、手が、知っていた。
(……この一皿を、いつか、あの子にも、食わせてやりたいな)
炭の前に立つと、いつも、息子の顔が、よぎる。蓮なら、この煙の匂いだけで、走ってくるだろう。
ヨーヘイは、その皿を、両手で、長老の前へ、差し出した。
ヨーヘイ:「……どうぞ。熱いうちに」
◆ はじめての、ひと口
オルンは、皿を、受け取った。
枯れた指で、焼けた肉を、一切れ、つまむ。鼻先へ、近づける。長い、長い、間があった。百年、口にしてこなかったものを、今、口へ運ぼうとしている。その重さが、長老の、ゆっくりした動きに、にじんでいた。
オルンが、それを、口に、入れた。
森が、静まり返った。
風の音も、水の音も、消えていた。誰も、何も、言わなかった。ただ、長老の、白い眉の下の、目だけを、見ていた。
オルンの、目が、見開かれた。
そして、ゆっくりと、閉じられた。
長老は、噛みしめていた。一度、二度。頬が、わずかに、動く。喉が、上下した。皺だらけの目尻に、ひとすじ、光るものが、伝った。
オルン:「……ああ」
それは、言葉に、なっていなかった。声に、ならない声だった。
オルン:「……知らなかった。世界に、こんな、味が……」
長老の、声が、震えていた。百年、変わらぬものばかり見てきたと言った、その目に、今、知らなかったものが、映っていた。
その一言が、合図になった。
遠巻きにしていたエルフたちが、おずおずと、近づいてくる。一人が、皿に手を伸ばし、肉を口にする。目を、丸くする。隣の者が、それを見て、自分も、手を伸ばす。ヨーヘイは、次の肉を、焼いた。また、焼いた。木の皿が、いくつも、根の谷間を、回っていく。
最初の、沈黙が、ほどけていく。
あちこちで、小さな、どよめきが、起きた。驚きの声。ためいき。隣の者と、顔を見合わせて、頷き合う者。一人の若いエルフが、肉を頬張ったまま、ぽろぽろと、泣いていた。なぜ泣いているのか、本人も、わかっていない様子だった。
フィンは、いつの間にか、エルフの子どもたちに、囲まれていた。
小さな手が、おそるおそる、その背を撫でる。フィンは、いやがるどころか、得意げに、胸を張っている。一人の子が、自分の皿の肉を、ひとかけら、そっと差し出した。フィンは、ふん、と鼻を鳴らしてから、ぱくり、と平らげた。子どもたちが、わっと沸いた。フィンは、まんざらでもなさそうに、尾を、ぱたぱたと振った。
ルカが、その光景を、見ていた。
ルカ:「……なあ」
ルカが、ぽつりと、言った。
ルカ:「あいつら、みんな、ヨーヘイの飯で、あんな顔、しとるで」
ルカの声は、いつもの、からかうような調子では、なかった。少し、誇らしげで、少し、泣きそうだった。自分を治す薬を持つ、近寄りがたい種族が、ヨーヘイの一皿の前で、ただの、腹を空かせた者の顔に、なっていた。
ヨーヘイは、網の前で、その光景を、見渡した。
人間も、獣人も、エルフも、いない。今、ここにいるのは、ただ、旨いものを食って、いい顔をしている、生き物だけだった。種族も、国も、食ってはいけない掟も、一皿の前で、溶けていた。
(……これだ。おれが、やりたかったのは)
いつか、店を、持つ。炭の前に、肉を並べて。腹を空かせた奴が、誰だろうと、隣に座って、同じものを、焼いて、食う。今、目の前で、起きていることが、その、いちばん、純粋なかたちだった。
その時だった。
解析:「《料理》の熟練度が、上限に達しました」
解析の声が、視界の隅で、静かに、告げた。
解析:「位階が、ひとつ、上がります。……おめでとうございます」
最後の一言だけ、いつもの業務口調から、ほんの少し、外れていた。
ヨーヘイの中で、何かが、ことり、と、嵌まる感覚が、あった。火を見る目が、また一段、深くなる。肉のどこに、いつ、刃を入れるか。火を、どこで止めるか。これまで、勘でやっていたことの、ひとつ奥にある、確かな理屈が、すっと、手の内に、降りてきた。
派手なことは、何も、起きなかった。ただ、料理人として、また一歩、前へ、進んだ。それだけの、けれど、確かな、手応えだった。
◆ この子は
エルフたちが、満ち足りて、散っていったあと。
オルンが、ゆっくりと、立ち上がった。
杖をつき、一歩ずつ、ヨーヘイの足元へ、近づいてくる。そして、しゃがみ込んだ。フィンの、すぐ前に。
フィンは、逃げなかった。
長老の、枯れた手が、フィンの頭の上で、止まる。触れるか、触れないか、の高さで、しばらく、留まっていた。オルンは、目を、閉じていた。何かを、聞いているような、確かめているような、そんな、横顔だった。
やがて、オルンが、目を、開けた。
オルン:「……この子は」
長老の声が、低く、沈んだ。
オルン:「知っている。我らが、忘れたものを」
ヨーヘイは、その言葉の意味を、掴みかねた。
ヨーヘイ:「……どういう、ことですか」
オルンは、答えなかった。
ただ、もう一度、フィンの頭を、今度は、そっと、撫でた。フィンは、目を、細めて、それを、受けていた。叱られた子どもが、許されたときのような、静かな、顔だった。
オルン:「いずれ、わかる。お前たちが、知るべき時が来れば」
長老は、それ以上は、語らなかった。
ティルが、少し、離れたところで、その様子を、見つめていた。国境で、衛兵がフィンに向けた、あの、目。森の卓で、すれ違うエルフたちが、フィンに向けた、あの、目。それらの、いちばん、奥にあるものを、今、長老が、口にしかけて、留めた。ヨーヘイには、そう、思えた。
◆ なぜ、ここに
オルンが、立ち上がった。
杖を、つき直し、ヨーヘイのほうへ、向き直る。長老の目に、もう、迷いは、なかった。
オルン:「露を、渡そう」
ルカが、息を、呑むのが、わかった。リリアの、組んだ手が、わずかに、震えた。
オルン:「お前の料理は、我らの掟を、一度だけ、越えさせた。それだけの、価値があった。世界樹の雫は、それに、応える」
ヨーヘイは、頭を、下げた。喉の奥が、熱くなった。ここまでの、長い道のりが、この一皿で、一本に、つながった。
だが、オルンは、続けた。
オルン:「ただし、もう一つ、聞かせてほしい」
ヨーヘイ:「……なんでしょう」
長老の、葉のような目が、ヨーヘイを、まっすぐに、射た。
オルン:「お前は、なぜ、ここにいる」
ヨーヘイは、その意味を、測りかねた。
オルン:「お前の料理には、帰る場所の、匂いがする。お前は、本当は、帰りたいのだろう。帰るべき場所が、どこかに、あるのだろう」
心臓を、ぐ、とつかまれた。
オルン:「それなのに、お前は、ここにいる。こんな、遠い、森の果てに。……なぜだ」
ヨーヘイは、口を、開きかけた。
連れの薬のため。それは、本当だ。けれど、長老が訊いているのは、それより、もっと、奥のことだと、わかった。薬が要るのは、ルカだ。では、ヨーヘイ自身は——なぜ、帰らないのか。帰れる道が、もし、あるとしたら。
(……帰れるのに、帰らない理由)
答えが、出てこなかった。
息子の顔が、よぎる。あの店の、夢が、よぎる。今日、エルフたちが見せた、あの、いい顔が、よぎる。けれど、それらが、一本の答えに、結ばれない。
ヨーヘイは、長老の前で、立ち尽くしていた。
風が、世界樹の梢を、撫でていった。
金色の葉が、一枚、ヨーヘイの足元へ、ゆっくりと、舞い降りた。
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【第83話 リザルト&ステータス】
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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)
Lv:31(戦闘なし・据え置き) HP:504/504 MP:244/244
スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):
・《料理》Lv2 99 → 100に達し、《料理》Lv3へ進化(世界樹の前で、獣の肉と森の恵みを合わせた、これまでにない一皿を仕上げた)
・そのほかは据え置き(解体17・瞬歩27・二刀流35・採取59・収納45・従魔契約30)
▼ 本話の収支
・収入:なし(露の譲渡を約束された/受け取りはこれから)
・支出:なし(国の客人として迎えられている)
・本話終了時手持ち:15,821枚(銅貨)
▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)
・深い穴で獲った獣肉(残)を、本話の一皿に使用=大きく消費
・森の恵み(白い根菜・青い木の実・深い緑の香草・蜜)を、もてなしの席で分けてもらい使用
・各魔石・装甲・厚い毛皮・布に包んだ小さな品は継続保持。レア鉱石はドンネ預かり
▼ 本話の出来事
・世界樹の麓へ案内され、長老オルンと会う。露は百年に一度零れるかどうかの雫だと知らされる
・長老が「お前の料理を、我々に食わせてほしい」と願い出る。魔物の肉を食べない里の民にとって、異例の申し出
・ヨーヘイが世界樹の前で火を熾し、獣の肉と森の恵みを合わせた一皿を焼く。聖なる森に、初めて肉を焼く煙が立つ
・里の民が、初めて魔物の肉を口にする。長老が声を詰まらせ、エルフたちが驚きとともに食べ、場が一つになる
・ヨーヘイの《料理》が、Lv2からLv3へ進化する
・長老がフィンに触れ、「この子は、知っている。我らが、忘れたものを」と告げる。意味は語られない
・長老が「露を渡そう」と約束する。だが「お前は、なぜここにいる」と問われ、ヨーヘイは答えられなかった
▼ ヨーヘイの考察
解析さん、記録、お願いします。
今日、世界樹の前で、飯を焼きました。
あの木は、でかいなんてもんじゃ、なかったです。根っこ一本が、家くらいある。あんなのの足元で、炭を熾して、肉を焼くなんて、罰が当たりそうでした。でも、長老さんが、食わせてくれって。百年、肉を食ったことのない人たちに、おれの飯を、出しました。
……食ってくれました。みんな。最初は、おっかなびっくりで。でも、一口食ったら、顔が、変わった。長老さんなんか、泣いてた。若いのも、一人、泣いてました。なんで泣くんやろ、って、自分でも、わかってない顔で。
あれを見て、おれ、思ったんです。人間も、獣人も、エルフも、関係なかった。みんな、ただ、旨いもん食って、いい顔してた。……あれが、見たかったんですよ。おれは、ずっと。炭の前に、誰が座っても、同じ飯を、焼いて出す。腹さえ空いてりゃ、それでいい。そういう店を、やりたかった。
料理の腕も、また一つ、上がったみたいです。実感が、ありました。手が、前より、火を、よく知ってる。
……でも、最後に、長老さんに、言われました。お前は、なぜここにいる、って。帰りたいんだろう、って。
答えられませんでした。
ルカの薬のためです。それは、本当です。でも、長老さんが訊いてたのは、たぶん、そういうことじゃ、なかった。おれ自身は、なんで、帰らないのか。……家に、帰れる道があったら、おれは、帰るんでしょうか。蓮のところへ。
わかりません。今は、まだ。
でも、露は、もらえます。それだけは、確かです。ルカの薬は、できる。だから、まだ、ここにいます。
記録、お願いします。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。
また次話でお会いしましょう。




