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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
5章 「治してもらう、はずだった。」

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第83話 世界樹の前で、焼いた。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 木の、根元で



 根が、壁だった。


 一本ずつが、家ほどの太さで、地面から盛り上がり、左右へ立ちはだかっている。その根の谷間を、ヨーヘイたちは歩いていた。頭の上で、太い幹が空へ伸びていく。首を、どこまで反らせても、梢は見えなかった。


 高台から遠くに見たときは、ただ、ほかより大きいだけの木に見えた。違った。近づくほど、桁が、外れていく。幹に手を当てると、樹皮の一枚一枚が、ヨーヘイの背丈ほどあった。木の内側で、水が動いている音が、低く、響いている。生きている。それも、けた違いに、長く。


 空気が、違った。森のほかの場所より、澄んでいて、少し、冷たい。吸い込むと、胸の奥まで、洗われるようだった。


ティル:「この奥に、長老がおられる」


 ティルが、足を止めずに言った。声を、いつもより、低く落としている。


(……最後に、世界樹の露を求めた者がいたのは、百年前)


 ヨーヘイの胸の中で、その数字が、まだ、消えていなかった。高台で、ティルにそう告げられてから、ずっと、背骨のあたりに、重しのように残っている。軽い気持ちで来たわけではない。それでも、百年という長さは、覚悟の上を、もう一段、越えていた。


 根の谷間を抜けると、ひらけた。


 二本の巨大な根が、左右から囲うようにせり上がり、その間に、苔むした広い空間ができている。淡い金の光が、梢の遥か上から、雨のように降っていた。


 その中心に、一人、座っていた。


 年老いた、エルフだった。


 長い耳の先まで、白い。背は曲がり、膝の上で組んだ手は、枯れ枝のように細い。けれど、その目だけが、若い木の葉のように、濡れて、光っていた。こちらを、見ている。一行が根の谷間に現れたときから、ずっと、見ていたのだと、わかった。


ティル:「長老、オルン様。お連れしました」


 オルンと呼ばれた長老は、すぐには、口を開かなかった。


 ヨーヘイたちを、一人ずつ、順に見ていく。ルカを見て、リリアを見て、ヨーヘイを見た。そして、最後に、ヨーヘイの足元にいるフィンに、目を、止めた。


 長い、沈黙だった。



◆ 老いた、声



 ルカが、ヨーヘイの袖を、そっと、つかんだ。


 言葉は、なかった。けれど、その指の力で、ルカが何を思っているのか、ヨーヘイには、伝わってきた。この奥に、自分の薬の、最後の一つがある。それを持っているのが、この、目の前の老人だ。ルカは、いつもの軽口を、今だけは、呑み込んでいた。


 リリアは、長老の前に立った瞬間から、様子が、おかしかった。


 胸の前で、手を、組んでいる。その指先が、はっきりと、光っていた。森の卓で灯りかけていたものが、ここでは、抑えようとしても、抑えきれない。リリアは、唇を噛んで、必死に、それを、内へ押し込めていた。世界樹に近いほど、彼女の中の何かが、応えてしまうらしかった。なぜ、とは、誰も、訊かなかった。


 オルンが、ようやく、口を開いた。


オルン:「遠くから、来たな」


 枯れた、しかし、よく通る声だった。


オルン:「人間と、獣人と、聖を宿す娘。そして——一匹の、子」


 最後の一語で、オルンの視線が、また、フィンへ流れた。フィンは、長老から、目を、そらさなかった。鳴きもしない。ただ、まっすぐに、見返している。


オルン:「世界樹の露を、求めて来たと聞いた」


ヨーヘイ:「はい」


 ヨーヘイは、隠さなかった。


ヨーヘイ:「連れの、薬に、要るんです。最後の、一つで」


 オルンは、頷きも、首を振りもしなかった。ただ、しばらく、ヨーヘイの顔を、見ていた。値踏みするような目では、なかった。もっと、奥まで、覗き込むような目だった。


オルン:「露は、軽くは、渡せぬ。あれは、この森が、百年に一度、零すかどうかの、雫だ」


 やはり、百年か、とヨーヘイは思った。


オルン:「だが」


 長老が、組んでいた手を、ほどいた。


オルン:「お前からは、知らぬ匂いがする。森の外の、火と、煙の匂いだ。我らが、決して食わぬものの、匂いだ」


 ヨーヘイは、息を、止めた。


 料理人だ、と見抜かれている。それも、何を扱う料理人か、まで。


オルン:「一つ、頼みがある」


 オルンの、葉のような目が、まっすぐに、ヨーヘイを、捉えた。


オルン:「……お前の料理を、我々に、食わせてほしい」


 ティルが、わずかに、目を見開いた。それが、どれほど、異例の言葉なのか、その横顔が、語っていた。


 魔物の肉を、口にしない種族。その長老が、よその者の、それも、獣を焼く料理を、食べさせてくれと、言っている。


ヨーヘイ:「……いいんですか」


オルン:「わしは、長く、生きすぎた」


 オルンが、ふっと、息を、吐いた。笑ったのかもしれなかった。


オルン:「百年、変わらぬものばかり、見てきた。死ぬ前に、一つくらい、知らぬものを、口にしてみたい。それだけだ」


 風が、根の谷間を、抜けていった。


 ヨーヘイは、しばらく、長老の目を、見返していた。それから、ゆっくりと、腰の荷を、下ろした。


ヨーヘイ:「……わかりました。少し、待っていてください」


 火を、熾す。


 この、聖なる木の、足元で。



◆ 煙が、立った



 魔石の七輪を、苔の上に、据えた。


 炭を組み、火を入れる。最初は、小さな赤い点だった。やがて、それが、じわりと広がって、炭の縁が、白く、灰をかぶり始める。ヨーヘイは、その色を、見ていた。何度、見てきても、火が育つ瞬間は、いい。


 手元には、二つの世界が、並んでいた。


 一つは、深い穴の底で獲った、獣の肉。脂の甘い、厚い肉だ。氷の魔石でくるんで、ここまで運んできた、最後の塊。もう一つは、この森の、恵み。卓で見た、青い木の実、白い根菜、深い緑の香草、そして、琥珀色の蜜。


 誰も、組み合わせたことのない、二つだった。森の外の獣と、森の内の実り。それを、一つの皿の上で、出会わせる。


 ヨーヘイは、まず、白い根菜を、皮ごと、炭の脇へ、転がした。じっくり、灰の熱で、芯まで火を通す。急がない。甘くなるまで、ただ、待つ。


 次に、肉を、切り分けた。


 厚すぎず、薄すぎず。脂と、赤身の境目を、見ながら、刃を入れていく。冷えて締まった脂が、刃の先で、つやりと光った。一切れ、手のひらに乗せ、塩を、軽く、振る。


 網に、置いた。


 じゅう、と、音がした。


 その瞬間だった。


 森が、息を、呑んだ。


 梢の上、根の陰、橋の上。気づけば、無数のエルフが、遠巻きに、この場を、見ていた。ティルに連れられて、いつの間にか、集まっていたのだ。彼らの目が、いっせいに、網の上の、一切れの肉に、注がれていた。


 肉を焼く煙が、聖なる森に、初めて、立ち上っていく。


 白い煙が、金色の光の中を、ゆっくりと、昇っていった。脂が、炭に落ちて、ぱちりと爆ぜる。香ばしい匂いが、澄んだ空気に、混じっていく。場違いなはずの、その匂いが、けれど、不思議と、この森に、馴染んでいくようだった。


 どこかで、誰かの喉が、こくり、と鳴った。


 ヨーヘイは、構わず、手を、動かした。


 肉の表面が、きつね色に、変わってくる。ふちが、縮れて、立ち上がる。脂が、滲んで、玉になる。そのいちばん、いい瞬間を、ヨーヘイは、逃さなかった。網から、上げる。


 灰の中の根菜を、引き出して、二つに、割った。湯気が、立ちのぼる。白かった中身が、ほっくりと、黄金色に、甘く焼けていた。そこへ、琥珀の蜜を、ひとさじ、垂らす。


 焼けた肉に、青い木の実を、絞った。つんとした、青い香りが、脂の甘さの上に、ぱっと、弾ける。最後に、深い緑の香草を、手のひらで揉んで、散らした。


 木の皿に、盛る。


(……これだ)


 ヨーヘイには、わかった。手応えが、あった。指の先まで、いつもより、はっきりと、火の通り具合が、見えていた。何切れ目で、肉が、いちばん旨くなるか。蜜を、何滴で止めるか。考えるより先に、手が、知っていた。


(……この一皿を、いつか、あの子にも、食わせてやりたいな)


 炭の前に立つと、いつも、息子の顔が、よぎる。蓮なら、この煙の匂いだけで、走ってくるだろう。


 ヨーヘイは、その皿を、両手で、長老の前へ、差し出した。


ヨーヘイ:「……どうぞ。熱いうちに」



◆ はじめての、ひと口



 オルンは、皿を、受け取った。


 枯れた指で、焼けた肉を、一切れ、つまむ。鼻先へ、近づける。長い、長い、間があった。百年、口にしてこなかったものを、今、口へ運ぼうとしている。その重さが、長老の、ゆっくりした動きに、にじんでいた。


 オルンが、それを、口に、入れた。


 森が、静まり返った。


 風の音も、水の音も、消えていた。誰も、何も、言わなかった。ただ、長老の、白い眉の下の、目だけを、見ていた。


 オルンの、目が、見開かれた。


 そして、ゆっくりと、閉じられた。


 長老は、噛みしめていた。一度、二度。頬が、わずかに、動く。喉が、上下した。皺だらけの目尻に、ひとすじ、光るものが、伝った。


オルン:「……ああ」


 それは、言葉に、なっていなかった。声に、ならない声だった。


オルン:「……知らなかった。世界に、こんな、味が……」


 長老の、声が、震えていた。百年、変わらぬものばかり見てきたと言った、その目に、今、知らなかったものが、映っていた。


 その一言が、合図になった。


 遠巻きにしていたエルフたちが、おずおずと、近づいてくる。一人が、皿に手を伸ばし、肉を口にする。目を、丸くする。隣の者が、それを見て、自分も、手を伸ばす。ヨーヘイは、次の肉を、焼いた。また、焼いた。木の皿が、いくつも、根の谷間を、回っていく。


 最初の、沈黙が、ほどけていく。


 あちこちで、小さな、どよめきが、起きた。驚きの声。ためいき。隣の者と、顔を見合わせて、頷き合う者。一人の若いエルフが、肉を頬張ったまま、ぽろぽろと、泣いていた。なぜ泣いているのか、本人も、わかっていない様子だった。


 フィンは、いつの間にか、エルフの子どもたちに、囲まれていた。


 小さな手が、おそるおそる、その背を撫でる。フィンは、いやがるどころか、得意げに、胸を張っている。一人の子が、自分の皿の肉を、ひとかけら、そっと差し出した。フィンは、ふん、と鼻を鳴らしてから、ぱくり、と平らげた。子どもたちが、わっと沸いた。フィンは、まんざらでもなさそうに、尾を、ぱたぱたと振った。


 ルカが、その光景を、見ていた。


ルカ:「……なあ」


 ルカが、ぽつりと、言った。


ルカ:「あいつら、みんな、ヨーヘイの飯で、あんな顔、しとるで」


 ルカの声は、いつもの、からかうような調子では、なかった。少し、誇らしげで、少し、泣きそうだった。自分を治す薬を持つ、近寄りがたい種族が、ヨーヘイの一皿の前で、ただの、腹を空かせた者の顔に、なっていた。


 ヨーヘイは、網の前で、その光景を、見渡した。


 人間も、獣人も、エルフも、いない。今、ここにいるのは、ただ、旨いものを食って、いい顔をしている、生き物だけだった。種族も、国も、食ってはいけない掟も、一皿の前で、溶けていた。


(……これだ。おれが、やりたかったのは)


 いつか、店を、持つ。炭の前に、肉を並べて。腹を空かせた奴が、誰だろうと、隣に座って、同じものを、焼いて、食う。今、目の前で、起きていることが、その、いちばん、純粋なかたちだった。


 その時だった。


解析:「《料理》の熟練度が、上限に達しました」


 解析の声が、視界の隅で、静かに、告げた。


解析:「位階が、ひとつ、上がります。……おめでとうございます」


 最後の一言だけ、いつもの業務口調から、ほんの少し、外れていた。


 ヨーヘイの中で、何かが、ことり、と、嵌まる感覚が、あった。火を見る目が、また一段、深くなる。肉のどこに、いつ、刃を入れるか。火を、どこで止めるか。これまで、勘でやっていたことの、ひとつ奥にある、確かな理屈が、すっと、手の内に、降りてきた。


 派手なことは、何も、起きなかった。ただ、料理人として、また一歩、前へ、進んだ。それだけの、けれど、確かな、手応えだった。



◆ この子は



 エルフたちが、満ち足りて、散っていったあと。


 オルンが、ゆっくりと、立ち上がった。


 杖をつき、一歩ずつ、ヨーヘイの足元へ、近づいてくる。そして、しゃがみ込んだ。フィンの、すぐ前に。


 フィンは、逃げなかった。


 長老の、枯れた手が、フィンの頭の上で、止まる。触れるか、触れないか、の高さで、しばらく、留まっていた。オルンは、目を、閉じていた。何かを、聞いているような、確かめているような、そんな、横顔だった。


 やがて、オルンが、目を、開けた。


オルン:「……この子は」


 長老の声が、低く、沈んだ。


オルン:「知っている。我らが、忘れたものを」


 ヨーヘイは、その言葉の意味を、掴みかねた。


ヨーヘイ:「……どういう、ことですか」


 オルンは、答えなかった。


 ただ、もう一度、フィンの頭を、今度は、そっと、撫でた。フィンは、目を、細めて、それを、受けていた。叱られた子どもが、許されたときのような、静かな、顔だった。


オルン:「いずれ、わかる。お前たちが、知るべき時が来れば」


 長老は、それ以上は、語らなかった。


 ティルが、少し、離れたところで、その様子を、見つめていた。国境で、衛兵がフィンに向けた、あの、目。森の卓で、すれ違うエルフたちが、フィンに向けた、あの、目。それらの、いちばん、奥にあるものを、今、長老が、口にしかけて、留めた。ヨーヘイには、そう、思えた。



◆ なぜ、ここに



 オルンが、立ち上がった。


 杖を、つき直し、ヨーヘイのほうへ、向き直る。長老の目に、もう、迷いは、なかった。


オルン:「露を、渡そう」


 ルカが、息を、呑むのが、わかった。リリアの、組んだ手が、わずかに、震えた。


オルン:「お前の料理は、我らの掟を、一度だけ、越えさせた。それだけの、価値があった。世界樹の雫は、それに、応える」


 ヨーヘイは、頭を、下げた。喉の奥が、熱くなった。ここまでの、長い道のりが、この一皿で、一本に、つながった。


 だが、オルンは、続けた。


オルン:「ただし、もう一つ、聞かせてほしい」


ヨーヘイ:「……なんでしょう」


 長老の、葉のような目が、ヨーヘイを、まっすぐに、射た。


オルン:「お前は、なぜ、ここにいる」


 ヨーヘイは、その意味を、測りかねた。


オルン:「お前の料理には、帰る場所の、匂いがする。お前は、本当は、帰りたいのだろう。帰るべき場所が、どこかに、あるのだろう」


 心臓を、ぐ、とつかまれた。


オルン:「それなのに、お前は、ここにいる。こんな、遠い、森の果てに。……なぜだ」


 ヨーヘイは、口を、開きかけた。


 連れの薬のため。それは、本当だ。けれど、長老が訊いているのは、それより、もっと、奥のことだと、わかった。薬が要るのは、ルカだ。では、ヨーヘイ自身は——なぜ、帰らないのか。帰れる道が、もし、あるとしたら。


(……帰れるのに、帰らない理由)


 答えが、出てこなかった。


 息子の顔が、よぎる。あの店の、夢が、よぎる。今日、エルフたちが見せた、あの、いい顔が、よぎる。けれど、それらが、一本の答えに、結ばれない。


 ヨーヘイは、長老の前で、立ち尽くしていた。


 風が、世界樹の梢を、撫でていった。


 金色の葉が、一枚、ヨーヘイの足元へ、ゆっくりと、舞い降りた。



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【第83話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:31(戦闘なし・据え置き) HP:504/504 MP:244/244


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・《料理》Lv2 99 → 100に達し、《料理》Lv3へ進化(世界樹の前で、獣の肉と森の恵みを合わせた、これまでにない一皿を仕上げた)

・そのほかは据え置き(解体17・瞬歩27・二刀流35・採取59・収納45・従魔契約30)


▼ 本話の収支

・収入:なし(露の譲渡を約束された/受け取りはこれから)

・支出:なし(国の客人として迎えられている)

・本話終了時手持ち:15,821枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・深い穴で獲った獣肉(残)を、本話の一皿に使用=大きく消費

・森の恵み(白い根菜・青い木の実・深い緑の香草・蜜)を、もてなしの席で分けてもらい使用

・各魔石・装甲・厚い毛皮・布に包んだ小さな品は継続保持。レア鉱石はドンネ預かり


▼ 本話の出来事

・世界樹の麓へ案内され、長老オルンと会う。露は百年に一度零れるかどうかの雫だと知らされる

・長老が「お前の料理を、我々に食わせてほしい」と願い出る。魔物の肉を食べない里の民にとって、異例の申し出

・ヨーヘイが世界樹の前で火を熾し、獣の肉と森の恵みを合わせた一皿を焼く。聖なる森に、初めて肉を焼く煙が立つ

・里の民が、初めて魔物の肉を口にする。長老が声を詰まらせ、エルフたちが驚きとともに食べ、場が一つになる

・ヨーヘイの《料理》が、Lv2からLv3へ進化する

・長老がフィンに触れ、「この子は、知っている。我らが、忘れたものを」と告げる。意味は語られない

・長老が「露を渡そう」と約束する。だが「お前は、なぜここにいる」と問われ、ヨーヘイは答えられなかった


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録、お願いします。


 今日、世界樹の前で、飯を焼きました。


 あの木は、でかいなんてもんじゃ、なかったです。根っこ一本が、家くらいある。あんなのの足元で、炭を熾して、肉を焼くなんて、罰が当たりそうでした。でも、長老さんが、食わせてくれって。百年、肉を食ったことのない人たちに、おれの飯を、出しました。


 ……食ってくれました。みんな。最初は、おっかなびっくりで。でも、一口食ったら、顔が、変わった。長老さんなんか、泣いてた。若いのも、一人、泣いてました。なんで泣くんやろ、って、自分でも、わかってない顔で。


 あれを見て、おれ、思ったんです。人間も、獣人も、エルフも、関係なかった。みんな、ただ、旨いもん食って、いい顔してた。……あれが、見たかったんですよ。おれは、ずっと。炭の前に、誰が座っても、同じ飯を、焼いて出す。腹さえ空いてりゃ、それでいい。そういう店を、やりたかった。


 料理の腕も、また一つ、上がったみたいです。実感が、ありました。手が、前より、火を、よく知ってる。


 ……でも、最後に、長老さんに、言われました。お前は、なぜここにいる、って。帰りたいんだろう、って。


 答えられませんでした。


 ルカの薬のためです。それは、本当です。でも、長老さんが訊いてたのは、たぶん、そういうことじゃ、なかった。おれ自身は、なんで、帰らないのか。……家に、帰れる道があったら、おれは、帰るんでしょうか。蓮のところへ。


 わかりません。今は、まだ。


 でも、露は、もらえます。それだけは、確かです。ルカの薬は、できる。だから、まだ、ここにいます。


 記録、お願いします。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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