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異世界の魔物肉、全部うまい。帰れないアラフォーパパ、冒険者しながら焼肉屋はじめました  作者: きりざく
5章 「治してもらう、はずだった。」

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第79話 エルフの国への、道。

異世界に落ちた。帰れないアラフォーパパが、異世界で戦う。

とりあえず、腹が減ったので魔物を焼いた。


面白いと思ったら、評価やブックマークをもらえると

ヨーヘイより先に作者が泣きます。

◆ 門を、出る



 翌朝、王都エルディアの西門は、薄い朝靄に濡れていた。


 ヨーヘイたちは、その門を、くぐった。昨日まで、あれほど人で詰まっていた大路も、夜明け前は、まだ眠っている。荷馬車が一台、軋みながら追い越していくだけだった。


 ヴェルナの薬房の竈には、火が戻った。差し押さえの貼り紙は、剥がされた。やるべきことは、終わった。あとは、ただ一つ、足りない素材を、遠い国まで、取りに行くだけだ。


ヨーヘイ:(……リリアが、即答したな)


 昨日のことが、まだ、頭の隅に残っていた。エルフの国への道は険しい、とヴェルナは言った。ほんまに行くんか、とルカは迷った。だが、リリアだけは、迷わなかった。行きます、と。あの子が、あんなに早く、何かを決めるのは、珍しい。


 そのリリアは、門を出るとき、一度も、振り返らなかった。


 石畳が尽きて、踏み固められた土の道に変わったところで、リリアは、ようやく、フードを少しだけ緩めた。そして、深く、息を吸った。胸の奥まで、外の空気を入れるような、長い呼吸だった。


リリア:「……外は、風の匂いが、違いますね」


 それだけ言って、また、口を閉じた。なぜ、あの王都を、そこまで早く離れたかったのか。それを、リリアは語らない。ヨーヘイも、訊かなかった。


ルカ:「なあ、エルフの国って、どんなとこなん? 行ったことある?」


ヨーヘイ:「ない。おれも、初めてだ」


ルカ:「ふうん。森の中、らしいで。木が、でかいんやって」


 ルカは、このごろ、すぐに足が重くなる。少し歩いただけで、疲れが、抜けない。それでも、声は、弾んでいた。自分の病を治す薬の、最後の一片が、その先にある。前を向くだけの理由が、ようやく、はっきりした顔だった。


 とっ、と先を歩いていたフィンが、急に、足を止めた。


 半拍、伏せる。背の毛が、わずかに逆立つ。来た道のほう、王都の門の方向を、じっと、見ている。


ヨーヘイ:(……解析さん)


解析:「……はい。雑踏で、いったん途切れていました。街道に出た途端、また、たどれます。王都に入る前と、同じ気配です」


 ヨーヘイは、表情を変えなかった。誰が、何のために。それは、まだ、わからない。わからないまま、ただ、ついてくる。フィンの背に手を置いて、軽く、撫でた。


ヨーヘイ:(……行くぞ。気にしても、始まらん)


 フィンが、鼻を鳴らして、また、前を向いた。



◆ 緑が、濃くなる



 西へ、西へと、道は続いた。


 日が、いくつか巡った。野営の火を、何度か、焚いた。進むほどに、世界の色が、変わっていった。


 王都を囲んでいた乾いた麦畑は、いつのまにか、背の高い草の原になった。その原も、やがて、木立に呑まれた。道の両脇の木が、一本ごとに、太くなっていく。空を覆う葉が、厚くなる。日の光が、緑の天井で濾されて、足元は、昼でも薄暗い。


 空気が、湿り始めた。


 土が、ぬかるむ。見たこともない、人の背丈ほどもある大きなシダが、道の縁に、繁っていた。倒れた巨木に、分厚い苔が、びっしりと生している。どこからか、たえず、水の滴る音がする。霧が、木々の根元を、白く這っていた。


ルカ:「……うわ。なんか、空気が、重いな」


リリア:「森が、深くなっています。……この奥に、エルフの国が」


 エルフは、森の民だと聞く。森の植物のことなら、誰よりも詳しいのだという。土地そのものが、その国が近いことを、告げているようだった。


解析:「湿度が、上がっています。地形は、緩い下りです。低地の、湿地帯に、入りつつあります」


 ヨーヘイは、料理人の鼻で、この土地を測った。湿った土と、苔と、腐りかけた葉の匂い。その下に、かすかに、生臭い、水の匂いが混じる。沼が、近い。


 先を行くフィンが、また、足を止めた。


 今度は、伏せない。低く、身を縮めて、すぐ右手の、霧に沈んだ水際を、見つめている。喉の奥で、警告の音を、鳴らした。


 水面が、不自然に、張っていた。風もないのに、その一画だけ、油を流したように、ぬらりと、盛り上がっている。



◆ 舌が、伸びた



 その水面が、爆ぜた。


 白い、長いものが、霧を裂いて、ヨーヘイめがけて、伸びてきた。舌だ。粘ついた、太い舌が、鞭のように、しなって、絡め取ろうとする。


ヨーヘイ:「っ、――上ッ」


 声を出しながら、《瞬歩》で、横へ抜けた。舌が、さっきまで立っていた地面を、ぬめりと、舐めていく。水際から、ぬうっと、巨大な影が、這い上がってきた。


 蛙だった。だが、ただの蛙ではない。体長は、優に、人の背丈を超える。ぬめった、苔色の肌。落ち窪んだ眼が、左右で、ばらばらに、こちらを捉えていた。


解析:「大型の、両生類です。鑑定例が、ありません。……舌が、本体の射程です。着地のあと、数えて二つ分、顎が、開きません」


ヨーヘイ:(着地後に、二拍の隙か)


ルカ:「で、でか……っ、ヨーヘイ、足場ぬるぬるやで!」


 ルカの言うとおりだった。沼の縁は、ぬかるんで、踏み込むたびに、足が、滑る。これでは、踏み込みの力が、乗らない。


リリア:「――聖よ」


 リリアの杖から、淡い光が、地を這った。ぬかるんだ泥に、淀んでいた、よどんだ水の気が、すっと、晴れる。光の触れたところだけ、土が締まって、踏ん張りの利く、足場になった。リリアの聖属性は、魔を祓うだけではない。土地の、淀みそのものを、祓う。


リリア:「ヨーヘイさん、ここを、踏んでください!」


ヨーヘイ:「――助かる!」


 締まった足場を蹴って、ヨーヘイは、懐へ、飛び込んだ。蛙が、跳ねる。重い体が、宙に浮き、体当たりで、潰しにくる。だが、その着地の、一瞬。解析の言ったとおり、顎が、固まった。


 二拍。


 その隙に、フィンが、横から、蛙の眼の前を、駆け抜けた。ばらばらに動いていた眼が、一瞬、フィンを追って、逸れる。


 ヨーヘイは、踏み込んだ。


ヨーヘイ:「――ふッ」


 《二刀流》。二本の刃が、ぬめった喉元を、交差して、断った。


 巨体が、どう、と、泥の上に、崩れ落ちた。最後に、長い舌が、力なく、地を打って、止まった。


ルカ:「……勝った、んか」


ヨーヘイ:「ああ。……でかかったな」


解析:「討伐を、確認。……分類には、迷います。記録は、しておきます」



◆ 捨てる物が、皿になる



 問題は、ここからだった。


 ヨーヘイは、倒した蛙の脇に、しゃがみ込んだ。腕まくりをして、ナイフを抜く。それを見て、ルカが、露骨に、顔をしかめた。


ルカ:「……え。ヨーヘイ、まさか、それ、食うんか?」


リリア:「……かえる、ですよね。これ」


 二人とも、一歩、引いていた。この世界では、蛙は、食わない。気味が悪い。誰もが、そう思っている。沼の獲物は、魔石だけ抜いて、肉は捨てるのが、当たり前なのだろう。


 だが、ヨーヘイは、知っていた。前の世界で、これを、捌いたことがある。


ヨーヘイ:「食える。やりようが、あるんだ。……まあ、見てろ」


 まず、ぬめった皮に、刃を入れる。指が、つるつると、滑る。力任せでは、いけない。皮の端を、布でつかんで、引く。ぴり、ぴり、と、薄い手袋を裏返すように、皮が、剥けていく。


 その下に、臭みの腺がある。これを、潰さずに、外す。ここを破ると、肉に、泥の臭いが、移ってしまう。指の腹で、そっと探って、薄皮ごと、慎重に、切り離した。


 血と、泥を、冷たい沢の水で、抜く。何度も、すすぐ。水が、濁らなくなるまで。


 むき出しになったのは、後ろ脚の、肉だった。


 白い。鶏の、ささみよりも、なお白く、きめが、細かい。締まって、つやがある。さっきまでの、ぬめった苔色の化け物が、嘘のようだった。


ヨーヘイ:(……ここまで来れば、もう、ただの、いい白身だ)


 野営の火を、熾す。塩を、軽く。森で摘んだ、香りの強い草を、何本か、添える。脂の少ない肉だから、強い火で、さっと焼く。


 肉が、ちりちりと、音を立てた。香草の青い匂いと、焼けた肉の匂いが、湿った森の空気に、ふわりと、立ちのぼる。


ヨーヘイ:(……どこへ行っても、やることは、同じだな。火を熾して、腹を空かせたやつに、温かいものを、一皿)


 焼けた一切れを、串に刺して、ルカに、差し出した。ルカは、まだ、半信半疑の顔で、それを、受け取った。おそるおそる、口に運ぶ。


 噛んだ。


ルカ:「……あ。……あれ。……うっま」


 目を、丸くした。


ルカ:「なんで……? あんな、気持ち悪かったのに……。淡白やのに、なんか、こう、じわっと、味が来る……」


ヨーヘイ:「だろ」


ルカ:「……さっき、気持ち悪い言うて、ごめん」


 ヨーヘイは、笑った。リリアも、おずおずと、ひと口、食べて、こくり、と、頷いた。言葉は、少ないが、その頬が、ほどけていた。


 とっ、とフィンが、焼けた脚の、いちばん大きいのを狙って、一目散に、駆けてきた。


ヨーヘイ:「こら。お前のは、こっちだ」


 誰も、食わずに捨てる獲物だった。それを、皿に、変える。ヨーヘイに、できること。場所が、王都だろうが、森の奥だろうが、それだけは、変わらない。


ヨーヘイ:(……蓮なら、気味悪がる前に、「これ、食えんの?」って、訊いてきそうだな)



◆ 底に、何かがいる



 腹が、満ちた。


 だが、まっすぐ、エルフの国へ向かう前に、ヨーヘイには、一つ、寄りたい場所があった。解析が、この街道沿いの地下に、要りそうなものがある、と告げていた。


 森の中に、ぽっかりと、口を開けた、古い縦穴。崩れかけた石組みが、その縁に、残っている。誰かが、ずっと昔に、掘った、地下の遺構らしい。


ルカ:「……また、潜るんか」


ヨーヘイ:「ちょっとだけだ。すぐ、戻る」


 カゼと荷馬車を、穴のほとりの木につないで、地上に残す。縄を頼りに、慎重に、降りていく。すると、世界が、もう一度、変わった。


 湿った、緑の森は、上に置いてきた。ここは、乾いている。空気が、ひやりと、冷たい。岩肌に、鉱脈が、走っていて、その筋が、淡く、燐光を放っていた。青白い光が、地下の通路を、ぼんやりと、照らしている。苔も、虫も、いない。ただ、石と、光だけの、静かな空洞だった。


ルカ:「……きれいやな。なんか、別の世界みたいや」


リリア:「……静かすぎます。生き物の、気配がない」


 降りるほどに、解析の声に、ムラが出始めた。


解析:「……感知が、途切れます。この、岩の、鉱脈が……邪魔を、して……」


 フィンの様子が、おかしかった。


 尾を、低く垂らして、ヨーヘイの足に、ぴたりと、寄り添っている。さっきまでの、獲物を狙う野生の顔ではない。もっと、奥の、もっと、深いところを、警戒している。


 通路が、大きく、下へ、折れた。その先の、暗がりを、フィンは、見つめた。そして、喉も、鳴らさずに、ぴたりと、固まった。


 ヨーヘイは、足を、止めた。


ヨーヘイ:(……解析さん。何か、いるのか)


 しばらく、声が、なかった。途切れがちだった解析が、その一点にだけ、像を結ぶように、低く、告げた。


解析:「……深層に、目的の魔物が、います」


ヨーヘイ:(いた)


解析:「……ただし、条件を満たさないと、出現しません」


ルカ:「条件って、何?」


解析:「……まだ、把握中です」



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【第79話 リザルト&ステータス】

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▼ ヨーヘイのステータス(本話終了時点)

Lv:31(道中の格下討伐・据え置き) HP:504/504 MP:244/244


スキル熟練度(本話で動いたものだけ記載):

・解体:15 → 16(初めて捌く大型両生類)

・料理:97 → 98(後ろ脚の白身の香草焼き・新しい食材の一皿)

・瞬歩:25 → 26(沼の縁での回避)


▼ 本話の収支

・収入:なし(街道・野営につき屋台売上なし)

・支出:なし(野営につき宿代なし)

・本話終了時手持ち:15,821枚(銅貨)


▼ 収納アイテム(前話からの変動分のみ)

・大型両生類の魔石(E)・防水に使えそうな厚い皮を新たに確保(換金/活用待ち)

・後ろ脚の肉の一部を野営の一皿に使用(残りの各部位は保持)

・ツノヒツジの各部位・羊毛・C魔石・装甲・各換金待ちの品は継続保持。レア鉱石はドンネ預かり


▼ 本話の出来事

・薬房に火が戻った翌朝、一行は王都エルディアの西門を発ち、世界樹の露を求めてエルフの国(森の国)へ向けて西へ向かう

・王都を出るとき、リリアは一度も振り返らなかった。街道に出て初めてフードを緩め、深く息を吸う

・街道に戻った途端、王都の雑踏で見失っていた気配が再びたどれるようになる(正体・目的は不明のまま)

・西へ進むほど地形と植生が変わる。乾いた麦畑が深い森に、やがて霧の立つ湿地帯の樹海の縁へ

・湿地で大型の両生類(人の背丈を超える蛙)に襲われる。長い舌と跳躍を、ヨーヘイが《瞬歩》と《二刀流》で、リリアが聖属性でぬかるみを締めた足場づくりで捌き、撃破

・冒険者なら捨てる獲物を、ヨーヘイが前の世界の知識で捌く。皮を剥ぎ、臭みの腺を外し、血と泥を抜くと、後ろ脚は締まった白身に。香草焼きにすると、気味悪がっていたルカとリリアの顔が変わる

・解析が「この先で要る」と告げた貴重なもの(用途はヨーヘイには判然としない)を確かめるため、街道沿いの古い地下遺構(深層ダンジョン)に寄り道し、上層を潜る。地上の湿った森から、鉱脈が燐光を放つ乾いた地下空洞へ

・末尾:深層でフィンが固まる。解析「深層に、目的の魔物がいます」→ヨーヘイ(いた)→解析「ただし、条件を満たさないと出現しません」→ルカ「条件って何?」→解析「まだ把握中です」


▼ ヨーヘイの考察


 解析さん、記録します。


 王都を、出ました。エルフの国まで、行きます。ルカの薬の、最後の一つが、その森にあるそうです。遠い道です。険しいって、ヴェルナさんも言っていました。それでも、進むしかない。


 道々、世界が、変わっていきました。麦畑が、森になって、森が、湿地になって。見たことのない、でかいシダや、苔だらけの倒木が、ありました。土地が、エルフの国は近いぞ、と言っているみたいでした。


 沼で、でかい蛙に、襲われました。気味の悪い見た目でしたが、捌けば、いい白身です。ルカもリリアも、最初は引いていましたが、焼いたら、顔が変わりました。……どこへ行っても、おれのやることは、同じです。火を熾して、腹の減ったやつに、一皿出す。それだけです。


 地下に、寄り道しました。鉱脈が、ぼうっと光る、不思議な場所でした。その、もっと奥に、何か、いるそうです。ただ、条件を満たさないと、出てこない、と。条件が、何なのかは、まだ、わからない。


 あと、王都を出てから、また、後ろの気配が、たどれるようになりました。誰が、何のために、ついてくるのか。それも、まだ、わからないままです。わからないことばかりですが、一つずつ、片付けていきます。記録、お願いします。


最後まで読んでくれてありがとうございます。


感想・評価・ブックマーク、どれでも嬉しいです。

星ひとつでも、ヨーヘイの飯がうまくなります。


また次話でお会いしましょう。

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