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ゼロの夜明け  作者: 藍森なつ
序章
2/3

過ぎ来し方Ⅱ

 今回与えられた任務は、とある研究所の制圧だった。

 近年、子どもの行方不明事件が国内で多発しており、その足掛かりを辿った末に見つけた研究所。

そこでは、誘拐した子どもを被験者とした非合法な魔法実験が行われていた。潜入捜査の報告書にはとても人間の所業とは思えないような内容が記されており、本作戦に携わった全員の腸が煮えくり返ったのは記憶に新しい。

対象に逃げられないよう慎重に事を運び、ようやく作戦実行となった。

速やかに研究所を制圧し、囚われている子供を保護するはずったのだが。

「これは……」

 研究所に到着した4人は、あまりの惨状に言葉を失った。

施設を隠す幻影魔法を森に馴染ませる為に、木々の隙間を縫うように建てられた研究所は、丸い2階建ての中央棟があり、そこから細く長い建物が等間隔に6棟伸びた、まるで蜘蛛の巣のような建造物だった。

 しかし、そんな姿は見る影もなく、白かったであろう壁は煤に塗れた瓦礫の山と化している。あちこちから火の手が上がり、幻影魔法と結界も解けおり、まるで戦争が勃発したかのような有様だ。

(なんてことだ……。この状況では制圧どころか、果たして生存者がいるのかどうかすら……)

 最悪の結果を想定したゼクスだったが、軽く首を振って後ろの3人に指示を投げかけた。

「取りあえず、生存者の有無を確認が最優先だ。アインスとフィーアは森に火が燃え移らないように消火を頼む。消火が終わったのち、すぐに中央棟の捜索に移行してくれ。中央棟以外の各棟を俺が西側、ツヴァイが子どもたちのいる東側の3棟ずつ確認する。いいな?」

 ゼクスの指示に頷いた3人は、すぐさまそれぞれの持ち場へと散っていった。

「さて、俺も行くか」

 ゼクスも自分の持ち場を確認するべく、フードの下の瞳をより一層険しいものにして西へ走り出した。



 ゼクスの担当する西側の建物は、研究者の宿泊や研究資料が保管されている、云わば研究者の為の施設となっていた。

 簡単な身体強化と応急処置程度の魔法の才しか持ち合わせていないゼクスは、動かせそうな瓦礫を退かしながら生存者の有無を確認していく。しかし、そこから現れるのは、破損した機材や研究資料だったであろう書類、そして事切れた大人ばかりだった。

 残酷な現状に、眉間に皺を寄せながら捜索していると、ポツリポツリと水が降ってきた。アインスとフィーアによる魔法だ。これで森に火が燃え移る心配はなくなった。

 火を気に掛ける必要がなくなり、より一層捜索に集中していたとき、ガラリと瓦礫の崩れる音がゼクスの耳に届く。

 生存者か、と音のした方へ駆け寄ると、瓦礫に埋もれながらも微かにうめき声を上げる白衣の男性がそこにいた。

 ゼクスは急いで瓦礫を寄せ、男性を救出する。

「おい!しっかりしろ!」

 ゼクスが男性に声を掛けるも、うめき声をあげるのみで返事はない。足があらぬ方向に折れ、あちこちから血が流れているものの、確かに息はある。

 重要参考人として絶対に死なせるわけにいかない、とゼクスは男性を背負い、ツヴァイの居る東側へと向かった。

 常人ならざる速さで東側エリアに辿り着いたゼクスは、屈んでいる後ろ姿を見つけ、大声を投げかける。

「ツヴァイ!」

 その声に応じてツヴァイが振り返った。

「……生存者か」

「ああ。重要参考人だ。絶対に生かせ」

「わかった。子どもたちの奥に寝かせてくれ」

 そう言って指差した先には、質素な白い服を着た3人の小さな子供が寝かされていた。

 ツヴァイに言われたように、子どもの奥に男性をゆっくりと横たえる。

「よくこの中で3人見つけられたな」

「探索魔法を使用したまでだ。魔法で検知できた子供は、ここにいる3人だけだった」

「そうか……」

 人を探すための探索魔法で検知できるのは、生きている生物のみ。偵察時に確認できた子供は20人。その子供たちの中で生き残っていたのは3人だけ、ということだ。しかし、助け出された3人も怪我や実験による消耗で予断を許さない状況だ。

 非情な現実に目を背けたくなった二人だったが、今は目の前の4人とまだいるかもしれない生存者を助けることに尽力しなければならない。

「ツヴァイ、ここは任せるぞ。俺は捜索に戻る」

「ああ。もしまだ生存者がいるようなら、またこちらへ連れてこい」

「分かった」

 この場をツヴァイに任せ、ゼクスはまだ全ての探索を終えていない自身の持ち場へ戻るべく立ちあがる。

 するとその時、脳内に聞き覚えのある声が響いた。

『ゼクス!』

「?アインスか。どうした」

 ゼクスは右耳に手を当て、その声に集中する。それは、アインスによる伝達魔法だった。

『悪いんだけど、ちょっと中央棟にきてくんねぇ?ちょっと、俺らじゃあ、これ、どう判断していいかわかんなくて……』

 アインスの声には戸惑いと動揺が滲んでいる。

 あまり動揺を面に出すことはないアインスに、ゼクスはただならぬ予感がした。

「分かった。今行く」

『頼む』

 そう言い残して、アインスは伝達魔法を遮断した。

 伝達魔法が途切れたのを見計らって、ツヴァイが「どうした?」と問う。

「アインスに呼ばれた。どうやら不測の事態が発生したみたいだな。緊迫した様子ではなかったから、襲撃に遭ったわけではなさそうだが……取り敢えず、そっちに行ってくる」

「了解した。応急処置が終わったら、西側は俺が確認しておくから、そっちに集中してくれ」

「助かる」

 短く礼をし、ゼクスはアインスとフィーアのいる中央棟へと急いだ。

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