過ぎ来し方Ⅰ
深夜。
高い木々の生い茂る森に、フード付きの黒いローブを目深く羽織った姿が3つ。
その中でも一際大きく、ガタイの良い姿が上に向かって低い声を投げかけた。
「どうだ、アインス」
すると、その呼びかけに応じるように、枝で覆われた空から1つの影がふわりと降りてきた。
3人と同じように黒いローブを纏ったその姿は、そこにいる誰よりも小さい。
「こっちに気付いてるような気配はなさそうだな。ま、俺らが情報掴んでるなんて、思ってないんだろ」
アインス、と呼ばれた小さな姿から発せられる声は、まだ声変わりを迎えていない少年のものだ。しかし、横柄な態度と語る内容は、そこらの平凡な少年とは一線を画している。
「まぁ、かなり慎重に動いていたみたいだからねぇ。おかげで見つけるのに苦労したわよ。ツヴァイ。作戦が終わったらお給金はずんでよね?」
「それは俺ではなく補佐官殿に言ってくれ。俺の一存で決められることではない」
「え~。その補佐官殿と一番仲がいいのあなたじゃない。進言くらいしてくれてもいいんじゃないの?」
「自分で言え」
「やめろ、フィーア、ツヴァイ。任務中だ」
ガタイの良い男が2人を諫める。
フィーア、と呼ばれた女性は品の良い仕草で、手を頬に添え首を傾げた。
「あら?任務に関わる大事なお話よ、ゼクス。今回の目標を発見したのは、果たして誰だったかしら?」
金に目がないらしいフィーアは、ガタイの良い男―――ゼクスに抗議する。
「はぁ。相変わらずだな、お前は。――—いい。帰ったら俺が打診してやる。だから、今は任務に集中しろ」
「まぁ!今の言葉、忘れないでよね?」
ゼクスの言葉に、フィーアは上機嫌になった。
「……守銭奴ばばぁ」
「何か言ったかしら?アインス」
その様子を見ていたアインスの口からぼそっと漏れた一言を聞き逃さなかったフィーアは、すぐにアインスを問い詰めるが、アインスは「別に」とはぐらかす。
緊張感のない現場にはぁと溜め息を吐いたゼクスは、言い合いの発端になっていたツヴァイが静かになっていることに気が付いた。
元々寡黙な彼のことなので、不毛な争いにこれ以上関わらないようにしようとしているのだろうと思っていたのだが。
「ツヴァイ、どうかしたか?」
ツヴァイは、目を眇めてジッと森の奥を睨んでいた。
「……」
しかし、ゼクスには応えず尚も森の奥を睨んでいる。
まだ距離があるため、今のこの場から視界に入れることは叶わないが、ツヴァイの視線の先には、今回の任務の目的地がある。
何かあるのか?とゼクスも森の奥に集中するが、特に気配などを感じることはできない。
二人の異様な雰囲気に、アインスとフィーアも口を閉ざし、森の奥を注視する。
少ししてから、アインスがあることに気が付いた。
「……魔力が、膨張している?」
「ああ。僅かに、だがな」
既にアインスと同じものを感知していたツヴァイが肯定する。
それは、突出して高い魔力を持つアインスとツヴァイが辛うじて感じ取れる微々たるものだった。
魔法を使う時は必然的に魔力を放出する必要がある。その為、今感知できる魔力膨張は、普段であれば気にしない些細なものだ。
「それはおかしいわよ。事前調査の報告でも言ったけど、あそこには、幻影魔法と一緒に魔力が外部に漏れないように結界も張られていたわ。かなり頑丈なものだったから、そんじょそこらの魔法士の魔力じゃそうそう外に漏れださないわよ」
「分かっている。だが、確かに魔力が少しずつ膨張している」
「気のせいではないの?」
「俺とツヴァイの二人とも感知できてんだ。間違いねぇって……っ!?」
確かに感知できる魔力に、アインスがフィーアの見解を否定した時。
「「「!!?」」」
緩やかに膨張していたはずの魔力が、突如大きく膨れ上がった。それも、ゼクスとフィーアですらもありありと感じ取れるほどに。
そして、次の瞬間。
―――どおおおぉぉぉぉん!!
突如、辺り一帯に轟音が鳴り響いた。
轟音の発生源は、探すまでもない。
4人の目的地だ。
振り仰いだ木々の隙間からは、赤く揺らぐ灯りと黒い煙が垣間見える。
「行くぞ!」
ゼクスの号令を合図に、4人は目的地に向かって走り出した。




