物理法則も何も… ちょっと残念
「思い出しました、そう言えば祈るような人がいましたよ」
「うん?何か祈るようなことあったっけ?」
トローリング中に恵里香さんが急に何か言い出しだけど…何か祈るような事があったっけ…?
「いやほら、少し前に言ったじゃないですか、釣りをする時に祈るのは何にーって、それでですね、昔に針のついてない糸だけとか、真っ直ぐな針で魚を釣る仙人がいたとか何とかで、祈るならそれかなー?って」
「なるほど?」
「まあ、餌が付いていないとは別に言ってないので、糸に餌を結んでおいて飲み込ませたら釣れると言えば釣れるんですよね、実際は釣っていたわけじゃなくて考え事をするために何もつけてない状態で糸を垂らしていた、そんな感じらしいですけどね。
真っ直ぐな針とか何も付いていない糸で釣ったとかは良くある持ったお話し、と言う奴ですね。
ザリガニとかカエルなら針は要らないですけどね、ザリガニならスルメ、カエルは丸めた糸の部分を虫として視認するので食いついて来て釣れます」
「それで…その人に祈ってご利益は有りそう?」
「多分無いですね、絶対ーとか、確実に釣るーってわけじゃないですし、話しが盛られた結果真っ直ぐな針とか糸だけで釣ったってなってるだけですからねぇ…後大きさがそもそも不明確なので…
実際に糸だけで魚を釣るなら、タナゴであれば丸めた糸を飲みこませれば釣れる可能性はあるのでは…と言った感じではないでしょうか?」
「祈るような人がいたとは一体何だったのか…」
「やっぱり祈るなら逸話とかそんなので盛られた昔の人物ではなく、今現在も活躍している人でしょうか…?」
「適当に行きつけのお店にいる店長さんにでも祈っておけばいいんじゃないかな?」
「それもそうですね、多分今も何処かで釣りをしているでしょうしねぇ、店をほっぽり出して」
そう言えばスプーンの感想を聞く前にここに飛ばされたから感想をまだ聞いてないや、帰ったら感想を聞かないとねぇ…
「さて、本日3回目のチャレンジは無事に上がってくるでしょうか…」
「糸は切れてないから針が持つかどうかだね」
「市販品の限界に挑戦しているような気分ですねぇ…糸は特別仕様のテストラインでジグは自作ですけど、針と竿とリールに関しては普通に買える物ですしね」
「竿をセットするからそろそろ椅子に座って準備してねー」
「はいはい、それじゃあ頑張りましょうかね、ドラグも多分さっきより少し弱い位の方が…多分いいですね、1回目と2回目は折れるか伸びきるかしてましたしね、イシダイ用とは言え折れたり伸びたりするのは相当ですよ…」
「30グラムのジグとイシダイ用の針がちょうどいいくらいの大きさっぽいのに、本格的なトローリングの道具を使うってどんな魚なんだろうねぇ?」
「さぁ…?苦労に見合うだけの魚であることを願うしかないですね…よし、ドラグの調整も終わったし、それじゃ始めますよー」
恵里香さんはそう言うとフリーだった状態から戻し、フッキングをしてファイト開始、1回目と2回目はドラグを締めすぎててすぐ針が折れたり伸びたりして終わったけど、今度はどうなるかな?
今の所は程々に糸が出て行き、出て行った分を巻いては巻いた分より少し持って行かれたり、少し多く巻いたりを順調に繰り返し中、この様子ならドラグの調整はばっちり、無理をしなければ針が伸びる事も折れる事も無いはず。
熱で糸が切れない様にリールやガイドに水を掛けて冷却し、2時間経過した所で残り200メーターくらい、最初に800メーターくらい走られたのを考えるとかなりペースは早い、恵里香さんも大分疲れているが、魚も大分疲れているのか、持って行かれる量より巻き戻す量の方は遥かに多くなっている、疲労回復の為に緩やかな動きになっているのならまだ走られる可能性はあるが、後30分もしない間に取り込み…かな?
恵里香さんにドリンクをストローで飲ませつつ冷却作業も継続、隙を見てギャフも近くに寄せて何時でも取り込みが可能な様に、さてさて…今の今まで手こずらせてくれたお魚ちゃんはどんなやつかなー?
それから20分した所で最後の抵抗という様に一気に走り始め、おまけと言わんばかりに一気に水面まで上がってきて派手に飛び回り、30分好き放題に走り、暴れ回った所で沈黙、後は疲れ切った魚を寄せるだけになり、船の近くまで寄った所で取り込み、ギャフは役に立ちそうになかったのでエラに腕を突っ込んで強引に…これは流石にギャフ打ってもギャフが折れちゃう…
「あー…疲れた…もう腕が上がらなーい…椅子から立ち上がる気力もなーい…」
「お疲れ様、色からすると多分雌だねこれ、お腹はパンパンに膨れているわけでもないから見た目だとわからないけど、触った感じだと多分卵を抱えてる?」
「おー、それだとトラウトのいくらを食べれる可能性はありますねー」
「軽くなっちゃうけど絞めて血と神経を抜いて、帰ってから計測と計量だね」
クルーザーに乗せたままだとちょっと辛いので、尾の部分をロープで縛り、クルーザーに結び付けてそのまま引っ張って桟橋まで戻り、いざトラウトの計量…する道具が無いので計量はお預け、計測も一緒にやりたいので収納して鮮度が落ちないように。
マグロやカジキを計量する計りをルシフに持ってきて貰わないとねぇ…
「というわけでよろしく、まあ急ぎではないけど、出来れば夕方までには?」
「もう夕方なので明日の夕方で良いですね?」
「そだね、お楽しみは明日という事で、取りあえず恵里香さんが動けそうにないから部屋に放り込んでマッサージでもしてあげておいてー、私はクルーザーの掃除をしてくる」
「はいはい、それじゃ恵里香ちゃんはまずお風呂ねー、軽く温まってからしっかりとマッサージ、その後に疲労回復用のドリンクね、ムッキムキになりたい場合はドリンク無しで」
「ムキムキは嫌なのでドリンク有でお願いします…」
翌日、4日間にわたる戦いの末、ようやく釣り上げたトラウトの計量と計測を開始、まずは長さから…
「口をしっかり閉じて真っ直ぐにしてー…ひのふの…3メーター…51センチ、どんなトラウトですな…」
「こんなトラウト、私が釣りました」
「はいはーい、吊り上げるからちょっと離れてねー」
尾の部分にしっかりとロープを縛り直し、計測するためのフックに結び付け、吊り上げて計量の開始、幼魚でも大きさの割に身がかなり重かったから…多分かなりの重量のはず…
「こういう時アナログだと辛いですね、デジタルならポンッと出てくれるんですけど」
「裏がデジタルだから裏に回れば直ぐ分るよ、面白そうだったからアナログとデジタル一体型の奴を選んできた」
「どちらかが壊れてもどちらかで計測できるというメリットは有りますけど…なんというか…それなら予備で良いってなるような代物ですね…」
「ははは、だよね」
「そろそろ針の動きが止まるよー」
「はいはい、えーと…裏に回った方が早いですね、重さがー…683キロ…物理法則もくそもない重さしてますねこの魚…」
「そもそもこんな大きさのトラウトは普通居ませんから…」
計量に計測、記念撮影を終えた所で調理開始、まずはお腹を開いて内臓の処理から、胃袋は後で開いて食性の確認、そして一番大事なのは卵を持っているかどうか、これが一番大事、食生活向上の為に…
「卵巣あったよー、かなり大粒だけど、それでもウズラの卵くらいの大きさかな?」
「魚卵にしてはかなり大きいですね、でも推定稚魚や幼魚がアレであるならば少し小さいか妥当な位?」
「稚魚で20から30だからそんな物じゃない?、虫も全くついてないから後で醤油漬けだね、色はヤマメ寄りで黄金色、使うなら白醤油の方が色が綺麗でいいね」
「ですねぇ、大きいのも有って味が想像できませんけど」
「よし、内臓の処理はお終い、では胃袋をいざオープン、何が出るかなぁ…」
メタルジグに食いついて来ていたという事は、小さい小魚を主に食していると思われるのだが、実際の所目にしてみるまでは分からないのよねぇ…胃袋を切り開いて中身を取り出し、ついでにどんな魚がいるかを確認。
「見た目的には…ワカサギ?色が金だったり銀だったりですが、大きさ自体は普通のワカサギと大差ないですね」
「という事は湖の何処かにこれがいるという事、他には…」
「残骸なのでわかりませんけど、この殻はエビかカニですかね?」
「浅瀬では見たことが無いから深い所にいるのかなぁ?もしくは広い湖の何処か…?」
「エビやカニがいるならまた今度探した方が良いでしょうね、料理のバリエーションが増えます、サカサギっぽいこの魚も見つける事が出来れば天ぷらにできますね」
「後はもうはいってないね、主に食べてるのはエビかカニとこの金銀のワカサギっぽいやつ、虫は食べてないみたいだね」
「洗浄用の食塩水出来ましたよー」
「はいはい、でもその前に身を切り分けてからだね、下し方はマグロと同じ、5枚下しで」
「取り分けるためのバッターも用意は出来てます」
「それじゃあ解体していきましょうかね」
卵巣の洗浄はルシフとダイヤに任せ、こっちは身を5枚下しに、身がかなり重く、背の部分でも150キロ、腹の部分でも100キロを超えるくらいあるので更に小分け、骨は意外と軽いんだよねぇ…なのに頑丈、後で使い道を探るために綺麗に骨だけにしてとっておこうっと。
お腹の部分の片側だけを残し、残りは鮮度が落ちないように収納して保存、今日は骨から丁寧に取り除いた身とお腹の身、それと頬肉を使って昼食、卵は時間がかかりそうなので早くても明日明後日くらい…かな?でも少し使いたいので真空状態にして時間短縮。
まずはシンプルに脂のたっぷり乗ったお刺身と炙りの大盛り、頬肉は多めに塩を振り、炙って冷水で冷やしてたたき風、お腹から少し外れている脂少な目の所はしゃぶしゃぶ用に、ネギと味付けポン酢もたっぷり用意、出汁は味が喧嘩をしない様にトラウトのアラでしっかりと、ただ頭も結構大きいので細かく切り分けてからお鍋に、出汁が取れたら漉して野菜を似て野菜からも出汁を取ればしゃぶしゃぶ用のお鍋の出来上がり。
お刺身にせよ炙りにせよしゃぶしゃぶにせよ、量がかなり多いので幾らか流用してお寿司に、まあ釣り上げたお祝いみたいなものだし、ちょっと贅沢な位で丁度いい、最後に大粒の卵を一粒乗せたミニ軍艦巻きを作ればお昼の準備完了。
さ、食べましょ。
「切り分けてた時もそうでしたが、舌の上に乗せてもずっしりと来る重さですよねぇ…」
「稚魚とか幼魚に比べると身も更にしっかりしていてちょっと硬めだね、でも筋張っているわけでもなく、好みの問題という程度だけど、1日位寝かせれば大分柔らかくなりそう」
「熟成させたのはまた後日で、釣ったばかりの物は今しか味わえませんしね、普通は」
「量が量だから収納して鮮度を保っているから、何時でも釣ったばかりの物だね」
「後で背中の部分の一部を冷蔵庫に移して熟成させて、そこからお刺身にするかバター焼きにするか考えましょう、多分どうやっても美味しいと思いますけど」
「塩鮭ならぬ塩トラウトにしても良さそうだよね、ちゃんちゃん焼きも良さそう」
「ですねぇ…あ、いくらうまっ、身と同じくずっしり来ますけど、味も身と同じ様に元がかなり濃いですね、かといって生臭さは全く無いですし、これ結構好きかも」
「どれどれ…んー…確かに結構濃いね、元の味が分かり易いように薄めにして漬けておいたんだけど、この位で十分かもしれないね」
「問題は粒が大きすぎて丼物などには向いていないという事ですね、これみたいに一粒に合わせた大きさの軍艦に乗せるのが良い…のでしょうかねぇ?」
「大きいからプチプチとした食感も楽しめないしね、一回プチっとしたらそこまで、いくらの食感が楽しみたい場合はちょっと微妙な所だね、美味しいだけに惜しい感じ?」
「ですねぇ…」
お刺身と炙り、たたき風とお寿司を一通り摘まんだらしゃぶしゃぶに手を伸ばし、表面に火が通ったら野菜やネギを巻いてポン酢に付けて食べる、出汁が煮詰まって来たら出汁をさらに足し、野菜がなくなった所で白ご飯を入れて暫し煮込んで雑炊、特に味付けをする必要も無くこれだけで十分美味しい…
お昼に用意した分を全て食べきった所で昼食はお終い、恵里香さんはまだ疲れが抜けきっていないので湖上のロッジでお休み、葵さんも同じく湖上のロッジに、透さんに春香さんは浜辺でフライフィッシング、アイナ達はボートで幼魚を釣りにと、皆それぞれ散って行ったので片づけは私一人、手伝ってくれてもいいような気はするんだけどなぁ…ロザリアもロザリアで食べ過ぎて動けなくなったのでロッジに搬送されて行ってたし…でもまあ何時もの事か。
片付けが終わったら釣りとは関係なく湖に繰り出して調査、何処かにいると思われるワカサギっぽい魚とエビやカニを探さないとね。
糸と真っ直ぐな針
糸を丸めただけの物でも場所によってはフナやタナゴは突いてくるので、飲みこませれば釣れない事も無い
カエルは虫と勘違いして食ってくるので釣れる、スルメ結べば針が無くてもザリガニも釣れる、適当な木の板を真っ黒に塗って草むらに投げたらバッタも釣れる、針が無くても釣れる物は結構いる、魚かどうかは別として…
物理法則
そもそも持ち出す時点でそんな物は存在していない、もしくは無視している
少なくとも今いる場所は環境的には近いけどまったく別の星なので色々と違う
胃袋オープン
魚が何を食べているのかを調べるための必須行為、何を食べているかを知っているか知らないかで釣果は大分変る
場所が変われば食べるものも変わるので、同じ魚狙いで同じ釣り方をしても場所によっては釣れなくなる事もある
大粒のいくら
ウズラの卵を一回り、少しだけ大きくしたくらいの大きさ
大きいので丼には向かない、プチプチとした食感を楽しむのにも向かない、美味しいけど何処か残念な感じが漂う




