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響たちがやって来たのは市民体育館だった。
体育館前の駐車場には何台かの車が停まっているが、裏の駐車場はスカスカだった。
だが、3月のイベントの時にはきっと停めきれないほどの車でいっぱいになっていたに違いない。
その人気のない駐車場にミラノの姿があった。ミラノは響たちに気づくと驚き、そして、なぜか少しだけ嫌な顔をした。
「あなた、こんなところに出てきても大丈夫なのですか?」
少しからかうような口ぶりで伽音がミラノに声をかける。
「何よ、護衛にでもきたの? でも、その必要はないわよ」
「あなたこそ、どうしてこんなところに来たのですか? 何を見たかは思い出したのですか?」
「何も見てないわよ」
ミラノはすぐに答えた。
「何も? それならどうしてここに?」
「ただの偶然。ここがどうかしたの?」
「3月15日にここで亡くなった人がいるんだよ」
「そ、そう……それなら、ここで私が何か見た可能性があるということね。それで? わかったのはそれだけ?」
様子を伺うように、ミラノは響たちを見る。
「今のところはね」
「それで? もうひとつのほうはどうなったの?」
「もう一つ?」
「あっちの話よ」
周囲に人がいないにも関わらず、ミラノは人の目の気にしているようだった。
「それならーー」
「ここで話すつもり?」
響の話を、すぐにミラノは遮った。「いいわ、ウチに来てくれる?」
* * *
ミラノの住む家は、学校からそう遠くない古い住宅街の一画にあった。
古いながらも大きな家で、最近になって改築されているらしく和風ながらもモダンなイメージがった。
響たちはミラノの部屋に通された。
「わりと古いお家ですね」
「祖父の家なの」
「そうでしたか。ご両親はいないのですか?」
「父は私が子供の頃に死んでいるの。べつに同情なんてしないでね」
「しませんよ。私も親はいませんから。草薙さんの場合はどうなってましたっけ?」
「ボクの両親は京都に……」
そう答えながらも、どこか自分が嘘をついている気持ちになる。それは事故によって記憶を失っているからだ。しかも、京都に両親がいるという話を聞いているにも関わらず、半年以上の間、まだ一度も会っていない。
「どうしたの? 妙な言い方するじゃないの」
ミラノは不思議な顔で響のことを見た。
「この人のことは気にしないでください。この人にはいろいろと複雑な設定というものがあるのですよ」
「設定? 何のゲームキャラよ」
「複雑な事情を抱えているのはあなただけじゃないということです。ちなみにご両親はどうしたんです?」
「だから同情してほしいわけじゃないんですけど」
「同情してないから訊いているんですよ」
平気な顔で伽音が言う。「あなた、クォーターらしいですね」
「私の母は、ロシア人の父親と日本人の母親の間に生まれたハーフなの。そして、私はその娘だからクォーターってわけ」
「なるほど。それでご両親がいないというのはどういう事情ですか?」
「いくら同情してほしくないと言っても、そこまでズケズケ訊いていいとは言ってないつもりなのだけど」
「話したくありませんか?」
「べつに……そんなこともないけど。父は私が生まれて間もなく飛行機事故で亡くなったわ」。
「お母さんは?」
「いるわよ。音楽家なの。世界を飛び回っているものだから、滅多に帰ってくることはないわ」
「では、さほど特別な家庭とは言えませんね」
「そうよ」
「あなたも音楽家になるのですか?」
「さあ、そんなことわからないわ」
「楽器はやられるんですか?」
「ピアノは子供の頃から。あとはヴァイオリンくらいよ」
「持っているのですか?」
「どうしてそんなことを?」
「興味があるからですよ」
ミラノは二段ベッドの上の段に手を伸ばした。そして、そこに置かれていた二つのヴァイオリンケースの一つを手にした。そして、中からヴァイオリンを取り出してみせる。
「これよ。まさか弾けとは言わないわよね」
「ええ、もう結構ですよ。ちなみにお母さんもヴァイオリンを?」
「いえ、母はピアニストだから」
「この家はお母さんのご実家ですか?」
「そうよ」
慣れた手付きでミラノはヴァイオリンをケースへとしまう。
「お母さんにご兄弟は?」
「いいえ、母も私と同じように一人っ子よ」
「この服はあなたの趣味ですか?」
いつの間にか伽音が部屋の隅に置かれたクローゼットの扉を開けて、中を覗いている。
「いいえ、前からあるのよ。母のお古」
「お母さんのものにしては新しいものですよ」
「じゃあ、誰かからもらってきたんでしょ。良い加減にしてくれないかな。そんなに母に興味があるの?」
ミラノは伽音に近づいていくと、クローゼットの扉を閉じた。
「ところで、あなたの持つ妖かしの力ですが、何か考えられる理由はないのですか?」
「ないわ」
「あの写真は何です?」
伽音は棚に置かれた写真を指さした。そこには4人の男女が写っている。それは普通に見て、家族写真のようだった。
「私の家族よ。私が10才の時に撮ったもの」
「では、もっとも小さいのがあなた、こちらはご両親ですね。もう一人は誰です? 中学生くらいでしょうか?」
「わからないわ」
「わからない? ご家族ではないのですか?」
「私は一人っ子よ……戸籍だって調べたこともあるわ。その子については私も訊いていたことがあるけど、祖父母も母も知らないらしいの。そもそも私自身、その子について何も記憶していないのよ」
「面白いお話ですね。写真を撮ったご記憶は?」
「それも無いわ。いつ、誰が撮った写真なのか、そして、誰が飾ったのかもわからない」
「合成写真のようにも見えませんね」
「そうね。これで何かわかった?」
「さあ……あなたにはいろいろわからないことがあるということがわかりましたよ」
伽音がチラリと響のほうへ意味深な視線を向ける。響はポケットの中から、二宮瑠樺から受け取ったあの羽根を取り出した。
「これを」
「これは何?」
「真実を暴き出す羽だそうです」
「真実?」
「これを使えば、ミラノさんの中にある妖かしの力が何なのか、なぜそんな力を身につけたのかわかるんじゃないかな?」
「そう、これが……」
少し躊躇いながらも、ミラノはその羽を受け取った。そして、何かを考えるような青い瞳で、その羽をジッと見つめる。
まるでずっとそれを待ち望んでいたかのようだ。
「そういえば事件のことだけど」
響が声をかけても、ミラノはまるで上の空だ。
「え? 何? なんか言った?」
「事件のこと」
「事件って?」
「ミラノさんが見たかもしれない事件だよ」
「あぁ……アレ」
意外なまでにミラノは素っ気なかった。まるで興味がないように見えた。それでも、響は持ってきた新聞記事をミラノへ渡した。
「これがその事件だと思う。事件現場はさっき、君がいた駐車場」
「これって亡くなった人?」
「見たの?」
「ええ……見たような気がするわ」
「相手は誰だったかわかる?」
「さあ、どっかで見たことがあったかも」
「見た?」
「ああ、思い出した。アレよ」
ミラノは誰もいない方向を指さした。そのテーブルの上に置かれていたのは、次の市議会選挙の広報誌だった。
時間設定でアップしようとしたら、直にアップしてしまい、一度、削除させてもらいました。
「あれ? なんか消えた」と思われた方、申し訳ありませんでした。




