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西側にある通用口から屋敷を出ようとすると、ちょうどその門から二人の制服姿の高校生が入ってくるのが見えた。
「おや、噂をすれば……ですね」
と伽音がそっと囁く。
「あれはーー」
その姿に響は見覚えがあった。
一人は二宮瑠樺、そして、もう一人が同じく3年生の音無雅緋だ。
二人は仲が良いのか、一緒にいることが多かった。多くの人が、いつも雅緋の傍には瑠樺がいると見ているかもしれないが、響の目にはそれが逆に見えていた。
二人をこの屋敷で見るのは初めてのことだ。
「草薙さん、あなた、運が良いですねえ」
と言って伽音が二人に近づいていく。「おやおや、珍しいですね。もうすっかりここには来ないものかと思っていましたよ」
驚くことに伽音が気軽に声をかける。
さっき二人が一条家に関係があるという話は聞いたが、まさか、こんなふうに伽音が話しかけるような関係とは想像していなかった。
「短期留学で離れていただけですよ」と瑠樺が答える。
「おや、高校生らしい生活をされているのですねえ」
「あなたは相変わらず人を食ったような物言いをするのね」
と冷たく雅緋が言う。それを伽音はいつものような笑顔でかわす。
「今日はどうされたのですか?」
「春影さまにお話があったもので」
そう言いながら、瑠樺は伽音の後ろに立つ響のほうへと視線を向けた。
響は思わず瑠樺に向かって会釈した。
「草薙さん、今の生活には慣れましたか?」
瑠樺が響に声をかける。
「ボクのことを知っているんですか?」
「ええ、私も一条家にお世話になっている一人ですから」
すると伽音がすぐに横から口を挟んだ。
「草薙さんは知らなかったのですか? 二宮さんは一条家の中でも特殊な立場なのですよ。彼女の持つ力は全ての真実を暴き出すのです」
「真実を?」
「伽音さん、あまりそういう話はーー」
瑠樺は少し困ったような顔をした。それですぐに理解出来た。彼女もまた一条家とつながりのある特殊な力のある人なのだ。
「おやおや? 話してはいけないのですか? 草薙さんに話すくらい良いじゃありませんか」
その伽音の口ぶりに、響はすぐに彼女が何を言おうとしているのかを感じ取った。
「二宮さんにお願いがあるんですがーー」
「何ですか?」
「ボクの知り合いに妖かしとなった人がいます。彼女が真実の姿を知るためには、あなたの力を借りるのが一番だと聞きました。力を貸してもらえませんか?」
「ずいぶんいきなりなのね」
雅緋が驚いたように、そして少し咎めるかのようにつぶやく。その冷たい口ぶりに、響は思わず身を竦めた。
だが、瑠樺のほうは、決して不快に感じてはいないようだ。
「それって御厨ミラノさんのこと?」
「知っているんですか?」
その名前が瑠樺から出てきたことに響は驚いていた。それはつまり、彼女の力のことを瑠樺たちが把握しているということだ。
「誰?」
と雅緋が瑠樺に問いかける。
「1年生ですよ」
「知らないわね」
「雅緋さんはクラスメイトでさえ憶えようとしないでしょ」
「そうでもないわよ。六角さんのバカ息子がクラスにいることは知っているわ」
「名前は?」
「そんなもの記憶したって何の役にもたたないわ」
「お願いだから周防君の名前くらい憶えてあげて」
「バカ息子で通じるなら必要ないでしょ」
「まったく……」
と呆れたように瑠樺はうなだれた。
「あの……ミラノさんのことですがーー」と響が声をかける。
「あ、ごめんなさい。いいですよ。私も以前から彼女のことは気になっていたんです」
そう言うと瑠樺は右手を響へ差し出した。いつの間にどこから取り出したのか、その手には白い羽が握られている。
「これは?」
「この羽を翳せば、彼女の真実を知ることが出来るはずです」
「ありがとうございます」
「一つでいいんですか?」
一瞬、ドキリとした。
「え? ええ……もちろんです。ありがとうございます」
そう言って、響は瑠樺に頭を下げた。
* * *
二宮瑠樺と別れて屋敷を出る。
「伽音さんは、どうして二宮瑠樺さんを知っているの?」
「それはあなたも同じですよ。ただ、私はあなたと違って記憶がありますから」
「親しそうだったよね」
「親しい?」
何がおかしいのか、伽音は小さく笑った。「そうですねえ。しかし、そんなことを言ったら音無雅緋は怒るかもしれませんね」
「あの人もやっぱり特別な存在?」
「ええ、とびきりね」
伽音と瑠樺たちの間には何か事情があるのかもしれない。
「その羽、どうするのですか? 彼女に使うのですか?」
「他にどう使えるの?」
「あなた自身に使うという方法もあるのではありませんか?」
「ボク?」
「あなただって、自分が何者なのか知りたいのではありませんか? それをまるで考えていなかったというわけではないでしょう?」
「そう……だね」
図星だった。「でも、これは彼女のものだ。ミラノさんのために使うよ」




