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御厨ミラノと別れて、伽音と共に一条家へと帰ることにした。
響の引く自転車の荷台に、伽音は後ろを向いて腰掛けている。
「どうするつもり?」
響は伽音に声をかけた。
「実は私、あまり興味はないのです。ですが、あなたが関わってしまいました。そして、一応、調べると言ってしまいました。言ってしまったからは調べなければいけないでしょうね。彼女は望んでいなかったかもしれませんが」
伽音はそのまま自転車の上に仰向けに倒れて、響に答えた。
「望んでいない? 彼女は調べてほしいと言っていたじゃないか」
「それは、あなたに対してですよ。私に対してではありません」
「考え過ぎじゃないの? でも、伽音さんが来てくれて良かったよ。ボクだけならどう対処していいかわからなかった」
「そのくらいでちょうどよかったのですよ」
「どういう意味?」
「いえいえ、ゴキブリ一匹倒すのにバズーカは必要ないということでしょう。スリッパ一つあれば足りるのです」
「……言っている意味はよくわからないんだけど、ボクがバカにされている気がする」
「気にする必要はありません。それよりも本題に入りましょう」
伽音は上体を起こすと、抜群のバランス感覚でそのままクルリと反転してから荷台の上に膝をついた。
「本題? ああ、彼女を狙った犯人についてか」
「――というよりも、彼女が関わった事件についてです」
「関わった事件?」
「あなたは彼女が妖かしの力に目覚めたから狙われるようになったと思いますか?」
「いや……」
「彼女が突然、狙われるようになったと仮定するならば、それは何らかの事件に関わったのが原因と考えるのが自然です。ならば、それがどんな事件かを調べる必要があります」
伽音が妙に回りくどい言い方をしているような気がした。
「どうやって?」
「彼女が最初に狙われたのは春休みに入ったばかり、2回目はその一週間後です。犯人はそう気の長い人間ではないでしょう。おそらくその一回目の殺人の少し前に、彼女の行動を追っていけばわかるのではありませんか?」
「それってーー」
「ええ、彼女が中学の卒業式のあたりから振り返ってみれば大丈夫ということですよ」
それについては、既に彼女から話を聞いていた。意外なことに彼女が外出した日はそう多くはなかった。しかも、一日を除いては図書館など、人の少ない場所でほとんど誰かと接するようなことはないように思われた。
そして、残る一日こそが3月15日。
それは街の市民団体主催の小さなチャリティーイベントだった。体育館の舞台では学生による演劇やダンス。外ではフリーマーケットなどが開催された。
響は見に行ってはいないが、多くの来場者で賑わったとニュースで報じられていた。
「可能性があるとすれば、あの日のイベントでしょうね。その時、彼女に何かがあったのですよ。いえ、何かを見たのかもしれません」
「でも、それをどうやって調べるの?」
「彼女がずっと狙われ続けているというのであれば、殺しに来る者を捕まえるというのがもっとも簡単かもしれません。しかし、それではあのずる賢い彼女と一緒にいなければいけませんね」
「ずる賢い? 彼女が? どうして?」
「なるほど。あなたにはそうは見えないのですか」
「伽音さん、女の子に対しての評価が厳しすぎない?」
「あなたが甘すぎるのですよ。いえ、あなたの場合は誰に対しても素直過ぎるといったところでしょうか。生まれて間もないのだから仕方ないですかね」
「生まれて間もない?」
「昔の記憶がないのだから、それと同じようなものだと言っているのですよ」
伽音はスックと荷台の上に立ち上がった。
「それなら昔のことを教えてくれないかな。少なくても伽音さんは知っているんじゃないの?」
「いつの時代が知りたいですか? 我々の祖が生まれた頃? この地が大和朝廷に統一された頃?」
「からかわないでよ」
「おやおや、私は結構本気で話しているつもりなのですけどね。でもね、草薙さん、未来のことを無理に知ろうとすることは、私は無意味なことだと思うのです。どんなことでも無理をすれば歪みが生じる。自然に受け入れるしかないのです。そして、それは過去も同じなのだと思います。それをあなたがどうしても知らなければいけない時、それは自然にあなたに近づいていきますよ」
いつも笑みを浮かべているような伽音の表情が、この時だけは真剣なものに見えた。




