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伽音が現れたことに、ミラノは驚いたような顔をした。
「確か……あなたはーー」
「双葉伽音です。私もあなたのクラスメイトの一人ですよ。憶えていないのですか? その力は既に消えているはずですが」
「そんなこと知っているわ。どうしてこんなところにあなたがいるのってこと」
「草薙さんのいるところ、常に私はいるのですよ」
「そういう誤解されるような言い方止めてくれるかな」
響は思わず口を挟んだ。
「そうか。そうなのね」
納得したかのようにミラノは頷いた。「あなたも草薙君と同じように一条家で暮らしているという話だったわね」
「よくご存知ですね」
「つまり、あなたが私を殺すために動いていたのね」
「おやおや、何を言い出すかと思えば。そんな安直な理解をしないでください。ただの思いこみでモノを言うのは止めてもらいたいものですね」
「思い込みですって? 違うというの?」
「違うに決まっているでしょう。そもそも草薙君は一条家で暮らしてはいますが、仕事などはしていませんよ。もちろん私も。二人とも一条家の親戚として普通に暮らしているだけです」
「普通? あなたたちのどこが普通だというの?」
「心外ですねえ。あなたと私たちと何が違うというのですか? そもそも、あなた、一条家の仕事のことなどなぜ知っているのですか?」
その問いかけに、ミラノは一瞬眉をひそめた。
「調べたのよ」
「調べた? どうしてですか?」
伽音がさらに問い詰める。
「自分が生命を狙われていると思ったのだから、その相手を調べるのなんて当然でしょう」
「なるほど。それはそうでしょうね。いったいどうやって?」
「そんな細かいことどうでもいいでしょう」
「細かいですか? 私はとても興味がありますね」
「あなたが興味があるからといって、全てを私が教える必要はないわ」
「ふぅん、いいでしょう。お話を聞かせてもらいましょうか」
「話?」
「あなたがいったい何をどう誤解しているのかという話ですよ。それともいつまでも不毛な言い合いを続けたいですか?」
「いいわ」
「とりあえず場所を変えましょうか。こんな道路の真ん中では落ち着きませんからね」
* * *
響たちは城趾公園にあるベンチへと移動した。
桜は咲き始めたばかりで、今日はまだ空気が肌寒いこともあって、公園にいる人の姿はほとんど見えない。
なぜだかミラノは少し緊張しているように見えた。そういえば彼女はクラスでも目立つほうではあったが、これまではさっきのように当てずっぽうを繰り返すような印象はなかった。どちらかといえば物静かに冷静で物事を客観的に見るタイプだと思っていた。
「まずは……それはいつ頃からのことですか?」
「え? それって?」
伽音に訊かれ、ミラノは一瞬、どう答えていいかわからないという顔をした。
「生命を狙われだしたことですよ。何の話をしていると思っているのですか」
「ああ、そうね、そうだったわね」
伽音を前にして、ミラノはすっかり大人しくなっているように見える。
「3月末……20日くらいだったかしら」
「殺されたのは何回ですか?」
「一度目は階段から突き落とされた。二度目は車で轢き殺された。今のところ2回よ」
「たった2回ですか」
ガッカリするかのように伽音が言う。
「2回も殺されかけたのよ。十分でしょう」
少しムキになってミラノは答えた。
「殺されかけた? 『殺された』の間違いではないんですか?」
「そ、そうよ……殺されたのよ」
「言い間違いが多いですねぇ。あなた、意外と脳みそちっちゃいですか?」
「ちっちゃくないわ。ちゃんとわかってる」
「本当ですか? 自分の力についてだってどのくらいわかっていることか」
「あなたは私をバカにしているの? いくら年上だからって、そこまであなたにバカにされる必要はないわ」
「年上? 何のことです?」
「あなたたちって、事故のために去年一年治療のために費やしたのでしょ?」
「よく知っていますね? 私たちの去年のことなど」
「だから調べたのよ」
「ずいぶんいろいろと調べたのですねぇ。しかも、そういう個人情報、今の世の中じゃ調べにくかったでしょう。結構、時間がかかったんじゃありませんか」
「そ、そうでもないわ」
「ところで、どっちのことを知りたいですか?」
「どっちって?」
「あなたが狙われる理由ですか? それとも殺されても死なない理由ですか?」
「お願いすれば、そのどっちも調べてくれるというの?」
ミラノは期待のこもった目で伽音を見つめた。
「いいでしょう。このまま草薙さんに因縁をつけ続けるよりはずっといい」
「何よそれ、いかにも私が彼に迷惑をかけたみたいじゃないの」
「私はあなたのために言っているのですよ。これ以上、草薙さんに根拠のないことで因縁をつけると、あなたを敵と見なす怖い人たちが出てくるかもしれませんよ」
「何よ、それ。脅すつもりなの?」
「いいえ、最近、私は少しだけ平和主義になっているのです。あなたのことだ。私たち二人のことも調べたのでしょう? さっき私たちが一条家で暮らしていることも知っていましたしね」
「まあね」
「では、草薙さんにあまり負担はかけずにいてあげてください。記憶のこともご存知なのでしょう? 事故については無理に思い出さないように気をつけているのですから」
「事故? ああ、あれね。わかったわ。でも、事故がどのようなものかなんて、外部の私にはわからなかったわ」
「では、こちらからの質問に素直に答えてもらいましょう」
伽音の言葉に、ミラノは少し警戒するように身構えた。




